50話 AIのデータ
用語説明w
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
「フィーナ、ありがとな」
俺はフィーナの口座に八十万ゴルドを送金する
「いいよ。でも思ったより早く返せたね」
フィーナが送金を確認して言う
「強盗被害に遭ったおかげだから、あまりいい金じゃないけどね。買い物行くから一緒に行こうよ。残った金でいいもの食べようぜ」
「行く行く! 何食べるの?」
「残った金額によるなぁ」
電車に乗って都市部に移動する
行くのはAIやPITの大手メーカー、トリガの代理店だ
「車があれば移動が楽なんだけどね」
フィーナが簡単に言ってくれる
「でも買う金や維持費、あと駐車場代で結構するからなぁ」
「まあねぇ…」
中古の軽自動車でも五十万ゴルドはかかるだろうしな
ギリギリの生活をしている以上、余計な物を買う余裕はない
電車って便利だしね
「ここみたいだね」
俺はやっと見つけた店舗を指す
「代理店って思ったより小さいね」
「個人用AI買う人なんて限られてるだろうからね。店舗は小さくてもいいんだろ」
個人用AIは高額だ
一般的には、オンライン環境でPITからメーカーのサーバー経由でAIを使う
無料のサービスとして使う換わりに、個人の嗜好情報をメーカーに提供するのだ
だが、命を懸けた戦場では、個人に特化した個人を生かすための判断をしてくれるAIが必要だ
オンライン環境を常に維持できるとも限らない
トリガ代理店に入る
「いらっしゃいませ」
店員さんが対応してくれる
「昨日連絡したラーズと言います」
「お待ちしていました」
シリントゥ整備長の電話で話が通っていたので、スムーズに購入手続きが進む
売買契約
ライセンス契約
支払い110万ゴルド
そして、いよいよPITへのインストールだ
「ついに、俺の所にもAIが来るんだな…」
「ラーズ嬉しそうだね」
フィーナが俺の顔を見て言う
もしかしてニヤニヤしてたか?
「鎧とAIはずっと揃えたかったからね。これで生存率がかなり上がる気がするよ」
ずっと欲しかったものが手に入るこのわくわく感って、分からないかなぁ
「お客様、インストールと初期設定に一時間半ほど頂きたいのですがどうされますか?」
「分かりました、その間に買い物行ってきてもいいですかね」
「大丈夫です、お戻りの際はお声かけ下さい」
俺達は店の外に出る
「フィーナ、電気屋行きたいんだけどいい?」
「何を買うの?」
「今回の事件で、隊がいろいろ対応してくれたからお礼を買おうと思ってさ。食堂の空気清浄機とサーキュレーターがいいらしいんだ」
「えー、うちにも空気清浄機欲しかったな」
「今回の金は隊のフォローがあって貰えた賠償金だからね。うちの物はちゃんと俺達の給料で買おうよ」
「うん…、ま、それはそうだね」
・・・・・・
電気屋で買い物
「隊舎の食堂は20畳位なんだ。家庭用の清浄機とサーキュレーターで充分だったから安くてよかった」
「隊舎の食堂にしては狭いんだね」
「隊員が十数人の弱小小隊だからね。広さも隊舎よりハンガーの方が広いくらいだよ」
買い物を終えた俺達はトリガの代理店に戻る
AIのインストールは終わっていた
店員から説明を受けてPITを受けとる
「…という訳で説明は以上です。とりあえず、やっていただくことはAIに名前をつけることですね」
「名前ですか、普通はメーカー名をそのまま使いますよね」
ハロー、トリガ! とか、よくCMでAIに話しかけている
「個人AIは個人で育てていくため、メーカーの管理を離れメーカー名が外れるんです。AIは会話することで主人を理解していきます。お客様が愛着を持てる名前をつけて頂き沢山会話をして頂くことがAIの成長の一番の秘訣ですよ」
な、名前か
考えてなかったな
「じ、じゃあデータで…」
「データって、確かにAIもデータの一種なんだろうけど安直過ぎない?」
フィーナが呆れてくる
「い、いいじゃん。思い付きでもかわいいじゃん!」
「お客様が自分で決めて愛着を持てるのが一番ですよ。お勧めはしませんが、後から変えることも出来ますので」
店員さんがフォローに入る
ん? フォローに入るってことは変ってことなんじゃ…、考えすぎか
「はい、大丈夫です。データでお願いします」
こうして、俺の個人用AIはデータという名前になった
へっへっへ、やったぜ
俺にもAIが…
「次はオプションの説明をさせて頂きます」
「あ、はい!」
店員さんの声に我に帰る
嬉しくてあっちの世界に行っていたらしい
「オプションとしてクラックガードが入っています。個人AIは便利な反面、クラッキングされたら非常に危険です。クラックの兆候を感知したらAIが自閉モードになり、クラックの種類を特定する機能ですね」
「クラッキングされたらどうなるんですか?」
「防衛軍での運用はAIに各種武器を扱わせると思います。これらを悪用された暴発が報告されています。更にアーマーの接骨機能を操作され、接骨のための触手を内臓に突き刺された…、なんて話も聞きますね」
「怖っ!! AIにいろいろ任せる分、AIを操られたら危ないですね…」
「はい、防御は重要です。ただ、クラックガード中は自閉モードとなり、解析中はAIが活動停止しますので注意してくださいね」
「分かりました」
「では、最後にAIのアバターをお渡しします。AIは、アバターのカメラで周囲の状況を確認しますので、慣れるまではアバターに話しかけるといいでしょう。お客様のAI、データと自己紹介をしてみてください」
俺は、サイコロに四つ足とカメラが付いたようなアバターを手に乗せる
「初めまして、ラーズです」
「初めまして、データだよ! 僕はご主人専用のAIだね、よろしく!」
…AIとの会話ってこんな感じなのか
そして思ったより砕けたしゃべり方だな
「ご主人、このしゃべり方好きじゃない? しゃべり方は変えられるよ?」
「あ、いや、これでいいよ。よろしくね」
「うん、よろしく! 僕は、ご主人がより良く生きることを最優先に設定されてるからね。いつでも話しかけて!」
「お、おう。分かった、頼むね」
こいつ、結構勢いがあるな
AIってこんなものなのかな
「かわいい…、私も買おうかな」
フィーナの心もちょっと揺れたようだ
「アバターは女性が喜ぶ可愛いタイプもありますので、いつでも見に来てくださいね」
店員さんが次のターゲットに接客を始めたようだ
「AIは自動でウイルス対策やクラックガードのアップデートをしますので、定期的にオンライン環境に接続するようにお願いします」
店員さんに見送られ、店を出る
「さ、ご飯食べに行こう?」
店を出るなりフィーナが言ってくる
「…」
「どうしたの?」
「フィーナ、落ち着いて聞いてくれ。ちょっと長くなるけど」
「え?」
「あ、ありのままに、今起こった事を話すぜ
俺は200万を受け取ったんだ
それなのに、いつの間にか消えていたんだ
な、何を言っているのか分からないと思うが
俺も分からないんだ
頭がどうにかなりそうだぜ 」
「有名な口調パクってるけど、全然面白くないからね? 何に使ったのよ」
「借金80万、AIが110万、サーキュレーター二個で3万、空気清浄機7万だね」
「…足して200万ピッタリだろ!」
「ぐふっ…!」
フィーナの正拳突きがボディに突き刺さる
「期待させるだけさせといて…!」
凄く残念そうな顔をするフィーナ
「いや待て! フィーナ大丈夫だ。賠償金は204万ゴルドだったんだよ。だから四万ゴルド分食べに行こう」
「え!?行けるの?」
フィーナが凄い嬉しそうな顔をする
こいつ、からかい甲斐があるな
そんなわけで、賠償金はめでたく使い切り
妹のご機嫌を取りつつ、焼き肉でちょっといい肉を食べましたとさ