47話 セフィ姉
用語説明w
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
「やっと借金を返せます」
「い、いきなり何?」
正座して、フィーナに強盗被害と賠償金の話をする
「これで妹に借金してた気まずさから解放されるよ」
「ふーん…、強盗被害って大丈夫だったの?」
腕をスッパリ切断された件は伏せている
説明がめんどくさいし
「怪我はほぼ無いよ。犯人は今度軍の裁判にかけられるってさ」
「ほぼ…って曖昧な言い方が怪しいよね? ラーズって最近嘘つきだからなぁ」
うぐっ! 細かいところを突っ込むな
逃げ道残さないで完璧に嘘をついた方がいいのだろうか?
「いや、フィーナのおかげでフェムトゥ買えただろ? あれから怪我も減ったし、嘘つく理由なんか無いって」
「…ま、お金はいつでもいいから。まだ貰えると決まった訳じゃないんでしょ?」
「それはそうなんだけどね」
「それよりご飯食べに行こうよ。ラーズの借金完済記念のおごりで」
「今、もらえると決まってないって言ったよね!?」
・・・・・・
「ラーメン久々に食べた気がする。美味しかったぁー」
「これで賠償金もらえなかったら、妹にラーメン代恐喝されたかわいそうな兄になっちゃうよ…」
「恐喝って人聞き悪すぎるよ!?」
防衛作戦従事中は携帯食ばかりだから、たまにラーメンとか温かくて味が濃いものを食べたくなってしまう
好きなものを食べられない環境は、食文化のありがたさを思い出させてくれる
「そういえば、セフィ姉が後で電話くれるって」
「え、何で!?」
「私の報告の用事があったからだけど、ついでにラーズの近況報告も聞きたいんじゃないの」
セフィ姉、本名 セフィリア ドルグネル
龍神皇国正規騎士団の監査官房に所属する一等行政保安官で、B+の戦闘力を持つ
俺の凄い遠い親戚で、セフィ姉自身は龍神皇国の王族の令嬢だ
俺の家は一般家庭だが、父親の親戚が王族に嫁いだとかの縁でセフィ姉とは小さいときから知り合い遊んでいた
セフィ姉は俺の五歳上で、俺の憧れのお姉さんだ
いつかこの人のために働きたい、力になりたいと思っている
そう、セフィ姉こそが俺が兵士を志し防衛軍に入った理由なんだ
…特異魔法で性格診断なんてものがある
血液型の性格診断並みに当てにならないものがあるが、セフィ姉に関しては当たっている気がする
セフィ姉は水属性の魔法が得意で、水魔法が得意な者の性格は、「怒らせると怖い」だ
そもそも、属性とは何か
魔法には属性がある
物質の状態三属性は、風、水、土の三つだ
それぞれの属性は、
風属性は気体
水属性は液体
土属性は固体
を司る
そして、属性魔法は司る物質を
「操る」「生み出す」
の二種類の作用を魔力を使って行っている
風魔法を使う場合、周囲の気体である空気を「操って」竜巻などを発生させる
土魔法の場合は、魔力を石に変えて、石を「生み出し」それを打ち出す
魔法効果が終わると、生み出された物質は魔素に戻って消え、操る作用は消える
その違いは物質の特性の違いによる
固体が一番エネルギー量が少なく安定している
魔法的には産み出しやすく操りにくい
反対に気体は一番エネルギー量が多く不安定だ
魔法的には生み出し難く操りやすい
液体はその中間の性質だ
例えば、宇宙空間
操れる気体が無いため風魔法は発動しないが、固体を生み出す土魔法は発動する
例えば、火山地帯
有毒ガスを操って風魔法が発動するため、有毒な竜巻を発生させて威力が上がる
しかし、周囲に硬度の高い岩石があっても、生み出す特性の土魔法の威力が上がらない
水魔法は、生み出す特性も操る特性も中間の性質だ
これだけ聞くと、水属性って中途半端に聞こえる
だが、セフィ姉の水属性は凄い
水を生み出して自身の周りに展開する防御力
液体を操り、超高圧の水を噴射する水魔法
そして、水魔法で性質を変えて強酸や強塩基の液体を降らす水属性範囲魔法
とんでもない能力だ
だが、ぶちギレた時はもっとヤバい
…あれは、俺が高等部の時の話だ
俺やフィーナを、当時龍神皇国の騎士団に入っていたセフィ姉が火山での岩竜討伐の見学に連れていってくれた
溶岩がどろどろと流れる火山フィールドでセフィ姉は、土、風、火属性魔法と、闘氣を纏った得意武器の純白の双剣を使って、岩竜を追い詰めていた
岩竜は暴れに暴れ、見学に来た俺たちを攻撃した後、全速力で逃げ出した
その攻撃を止め、俺達を狙った岩竜にぶちギレたセフィ姉が水魔法を使ったのだ
あの時の光景は今でも忘れない
水魔法は液体を操る
火山の高温環境下では、水は液体の状態ではいられない
だから液体である溶岩を水魔法で操って岩竜を貫いたのだ
よ、溶岩って確かに液体だけど!?
それ水魔法なの!?
溶岩が飛び交う地獄のような光景の後、岩竜は骸に変わっていた…
あれは、嫌でも思い知らされたよな
才能が違う
魔力、闘氣、剣技、溶岩を使う発想力、全部が違う
今の俺って…、魔力も闘氣もない、銃や装備がなければ戦うことさえできない
これでセフィ姉の力になりたいだなんて、よく思えるぜ
いや、腐ってもしょうがない
防衛軍で経験を積んで、地道に頑張ろう
ちなみに、物質の状態変化は固体、液体、気体の上にもう一つプラズマという状態がある
プラズマは高温高圧の特殊な状態でないと存在できないため、プラズマ魔法は超高難度の魔法だ
だが、他の三つの状態に比べ高い威力を持つ
これを、フィーナは使えるんだ…
俺の周りの女って何かおかしいんだよ!
「もしもし?」
「セフィ姉? 久しぶりだね」
「ラーズ、本当に久しぶりね。全然連絡くれないで…」
「戦争による情報統制中で、龍神皇国とやり取りしすぎると回線をマークされちゃうからね。フィーナがそっちに通ってるからこっちの状況はわかるでしょ?」
「ええ、フィーナからは聞いているわ。でも私はあなたから直接聞きたいのよ? いろいろ危険な目に遭ってるみたいだしね」
「ま、まぁ…防衛軍だけあって危険な任務はあるよ! でも、安全対策もバッチリしてるし、フィーナのおかげで固有装備も導入できたし大丈夫だよ」
「そう、ならいいんだけどね。でも、無理しないで龍神皇国で就職する道も考えてね?」
「う、うん。ま、暫く防衛軍を続けながら考えてみるね」
やっぱり、龍神皇国に俺を連れていく気はあるのかも
俺は防衛軍をやめるつもりはない
ビシッと言い切らなきゃな
「そういえば、フィーナとは仲良くやっているの?」
「うん、変わらずだよ」
「フィーナもあなたも、もう社会人なんだからそろそろ別々に住んだ方がいいんじゃないの?」
「うーん、フィーナがそっちの方が良いならそうするけどね。今さらフィーナを女としては見てないし、俺は気にしないけどね」
「そこの判断は二人に任せるわ。じゃあ、ラーズ。くれぐれも無理しないようにね?」
「うん。セフィ姉も仕事しすぎないでね」
ふぅ…
電話を終え、ため息をつく
「終わったよ」
「…」
通話に使ったPITを返すと、フィーナがむくれていた
なぜだ?
「…どうした?」
「私を女として見てないって酷くないですか?」
「え? だってもう四年兄妹やってるし、今さら…」
「ひ・ど・く・な・い・で・す・か!?」
「はい、ごめんなさい」
フィーナは危険な後継ぎ争いから逃れるために、俺の両親の養子になった
いろいろあって一緒に住んでいるが、もうお互い成人して社会人になったんだし一緒に住む理由は無いんだよな
幼なじみから、いきなり妹になり一緒に住む
最初こそ同棲みたいな気分でドキドキしたが、四年以上兄妹やってるとなにも感じなくなった
「…ラーズのバカ」
ボソッと聞こえる声
…え、フィーナって?
いや、まさか
フィーナは正直言うと結構かわいい
だが、今さら、、、俺の理想はセフィ姉だし