45話 報復
用語説明w
シグノイア純正陸戦銃:アサルトライフルと砲の二連装銃
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで画像を受信する
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
「…」
俺は疲労困憊で濡れた地面に横たわっていた
鉄砲水に押し流され、咄嗟に近くの木の幹に体を預けた
おかげで流されなかったが、暫く身動きと呼吸の権利を放棄させられた
何で突然鉄砲水が…?
って、マーマンか!
マーマンの水魔法しか考えられない
まさか、同じ防衛軍の隊員に強盗されるとは思わなかった
完全にマーマンのことを忘れてて不意をつかれた
どこにいる!?
さっきの三人組の姿もない
…ダメだ、助けを呼ぼう
ガサッ ガサガサッ
繁みの奥から何かが近づいてくる
マーマンか?
俺は倉デバイスから陸戦銃を取り出す
「…」
取り出して構えるまでの時間が一時間にも感じられる
取り出し完了、来るなら来い
姿を表したのは…マーマンだ!
ドドドッ!
現れたマーマンを射殺、すぐに木の後ろへ隠れる
…そういえば、左腕が動くな
切断された腕をナノマシンとカプセルワームがくっつけてくれたらしい
いや、それどころじゃない…!
インカムで叫ぶ
「こちら遊撃11、マーマンと交戦中!」
「遊撃11、現在地を送れ!」
「鉄砲水に流され現在地不明です! マーマン一体処理、他の個体は未発見です!」
「本部了解。遊撃11がマーマンと交戦中、各員エリア3に向かえ!」
くそっ、暫く一人で対処しなきゃダメか
マーマンの魔法使いはどこだ
水源が近くにある場合、水魔法は凶悪な威力となる
さっきの鉄砲水をもう一度受けたら生き残れる気がしない
「ぎゃああああ! た、助けてくれ!」
…悲鳴が聞こえた
俺は、悲鳴の方向に静かに移動する
ドムだ
マーマンが三匹で囲んでいる
真ん中の奴が魔法使いなのかな?
助ける義理はないが仕事はしよう
ダンッ ダンッ ダンッ
俺は繁みからアサルトライフルでゆっくり狙い、三体のマーマンを順番にヘッドショットしていく
この距離で隙をつければ呆気ないもんだ
「お、お前…!」
ゆっくり姿を表した俺を見て、座り込んでいたドムは目を見開く
「…」
ドスッッッッ!
俺は無言でドムの顔面を蹴り込み、意識を失わせた
・・・・・・
俺はサイモン分隊長に連絡を取り、ことのあらましを話した
「三人ともふんじばって、作戦本部に連れていくぞ」
俺の話を聞いて怒り狂ったサイモン分隊長は、魚人二人を探し出すと思いっきりぶん殴って気絶させていた
巨人族の血を引くサイモン分隊長に本気でぶん殴られたら、顎は砕けていることだろう
「今回のことはお前がケリをつけなきゃダメだ。狙われた原因は、お前がカモだと思わせたってことだからな」
…確かに、俺が狙われた理由はあるだろう
金になる鎧を使っていることもそうだが、それ以上に俺ならやれると思われたんだろう
それがどれだけ危険なことか、それを思い知った
「ラーズ、お前は手を出されたら何をする人間なのか、それを周りに教えてやれ。周りには口裏合わせるように言っとくからよ」
クズはどこにでもいる
俺はやり返す人間だ、これを周りに示さないといけない
示せなければ、俺はこれから先何度もカモになるだろう
俺は作戦本部に事情を説明し、準備をお願いする
もちろん報復の準備だ
見ると、サイモン分隊長が誰かと話している
「サウル、久しぶりじゃねえか」
「蒼きティターン、サイモン様じゃないか。元気そうだな」
どうやら、ヒートブレードのサウルとはこの人のようだ
金髪の普通のノーマンで、サイボーグには見えないな
「実は今回の作戦中に…ってことがあってよ」
「…ドムって茶色の鎧着た奴だろ? 前にうちの小隊の新人を撃ちやがったらしいんだが、その時も事故で処理されたらしいんだ。どうしようもない野郎だな」
「今回は年貢の納め時ってやつさ。そいつが今回の被害者、俺の部下のラーズだ」
「マーマンの魔法使いを仕留めた奴だろ? サイモンの部下だったのか」
「ラーズです。よろしくお願いします」
「サウルだ、よろしくな。ドムの行いは目に余る、しっかり報復してやれよ」
「はい、ありがとうございます」
作戦本部の拠点で、今回の作戦参加者が集まった
「うぅ…」
やっと、ドムが目を覚ましたようだ
「あっ、お前!」
ドムは俺の姿を見ると、殴りかかろうとして周囲に押さえ込まれた
「離せっ! こいつは倒れてる俺を蹴り飛ばしたんだぞ!? 傷害罪で告訴してやる! 軍法裁判にかけてやる!」
興奮するドムを俺は静かに見る
俺には危機感が足りなかった
こいつは俺を喰い物にしようとした
警戒と牽制が必要だったんだ
「先輩、落ち着いてくださいよ。先輩が俺にしてくれたことを考えれば、足の裏をなめてもらうくらい何でもないじゃないですか」
「あぁ!? 俺がお前に何をしたって言うんだ? 何かした証拠を出してみろよ! 言っとくけど俺は防衛軍幹部の息子だからな! お前の証言くらいで俺をどうにか出来ると思うなよ!」
ドムは勝ち誇った顔で言う
これがドヤ顔って奴か…
「いや、先輩ってアホなんですか?」
「何だと!?」
「証拠…見ますか?」
「あ?」
アホ顔のドムを無視して、俺はさっきお願いしていた映像を作戦本部のモニターに映してもらう
「…っ…なっ…なななんっ……!」
映像を見たドムは、目を見開いて口をパクパクさせている
「なっ…ななんなっ…ん…!?」
驚きのあまり喘いでいるドムを尻目に、俺はドムに話しかける
「俺は、偵察用ドローンを設置した場所でわざわざ先輩に襲われたんですよ? おかげで先輩の証拠映像は撮れましたが、敵の水魔法に気がつけずに死にかけましたけどね」
映像には、三人で俺を押さえ付ける様子から俺の腕を切断する所までがしっかり映っていた
「な…、これは…違う、俺じゃない!」
「まぁ、この映像はすでに今回の作戦本部に提出しましたし、ここにいる全員にも見てもらっています。真偽のほどは軍法裁判で判断してもらえばいい」
「…っ!」
ドムは周りを見回すが、全員が冷たい目でドムを見下ろしている
こいつは仲間を喰い物にするクソ野郎なんだから当たり前だ
「仲間を殺そうとするとはな」「作戦中の事故に見せかけてか?」「最低のクズ野郎だな」「裁判で死刑になれ」
隊員達から怒りの罵倒が飛び出す
「うぅ…う…」
ガックリと膝から崩れ落ちるドムを見て、俺は目の前に立つ
「俺の鎧を強盗しようとした件は、後で賠償を求めるとしてこれで終わりです。次に移っていいですか?」
「あ…次…?」
トスッ…
俺は脇に置いてあった超振動ブレードを持ち、ドムの左肩に刺し入れる
ここから先は報復じゃない
「俺は報復する人間だ」、と周囲に伝える儀式だ
冷酷にやりとげなければいけない
「え!?」
ドムは驚愕して目を見開く
そして一瞬の間の後、
「ギャアァァ!痛ええええええ!」
ドムは大声で叫び声を上げた
ドムは、肩から血を流しながら地面を転げ回る
「次は私の腕を切断してくれた件です。ここにいる皆さんには、先輩がマーマンの襲撃で負傷したと証言してもらいます。しっかりお話させて下さいね」
ドムは俺のことを殺すつもりだったと思っている
どちらにせよ、戦場で鎧を脱がされたり腕を切断されたら戦死の可能性は高い
「死んでも構わない」というメッセージはしっかり伝わった
やってやることに抵抗がない
俺は今度はドムの左の手の甲を刺す
トスッ
「ギャアァァァァ!や、やめてくれぇ!」
「ちゃんと返事をしてください」
「わ、分かった、分かったから!」
ドムは、涙と鼻水、よだれでぐしゃぐしゃになりながら返事をする
こんな痛みに弱い人間が俺を殺そうとしたのか…
「先輩、超振動ブレードの切れ味って凄いですね。人の肉なんか抵抗がほぼ無いですもんね」
「あ、あぁ…!」
「先輩、この超振動ブレードを俺にくれませんか?」
「な…、ふ、ふざけんな! それがいくらすると思ってるんだ!?」
ドムは、焦って立ち上がろうとする
スパッ…
「ギャアァァァァァ! 腕がっ、腕がぁっっ!」
今度は左手の前腕の中程を切断する
俺の切られた場所と同じくらいの場所だ
「先輩、腕を切られると痛いですよね? 理解できるまで味わってくださいね」
血まみれの左腕をかばいながら、ドムが泣き叫ぶ
「や、やめろ…、もうやめてくれぇ!」
「先輩が俺にしてくれたこと、ちゃんと理解しましょうね?」
俺はもう一度刺そうとブレードを向ける
「わ、わかった! 超振動ブレードはやる…だからやめてくれ…!」
出血し続ける腕を振り回しながらドムは後退りする
「よし、ここまでだ。超振動ブレードはドムがラーズに正式に譲渡ってことでいいな?」
サウルが割って入って来た
「分かった、やるからもうやめてくれっ!」
ドムはパニックになっているようだ
そろそろおしまいかな?
「殺してはまずい。後は軍法裁判が終わってから賠償を請求するべきだ」
サウルはドムの止血をしながら言う
「分かりました。最後に先輩の口の利き方だけ直させて下さい」
俺はドムに一歩近づく
「ひぃぃっ! や、やめて…、もうやめて下さい! お、お願いしますっ!」
ドムは一瞬で俺の意図を汲み取ったらしい
「いい言葉遣いですね。では、まとめます。先輩は俺に強盗を働いた。先輩はマーマンの襲撃で負傷した。先輩の超振動ブレードは俺に譲った。この三点は間違い無いですね?」
「は、はいっ!それでいいです…!」
俺は超振動ブレードを鞘にしまいながら、報復を終えることにした
サイモン分隊長が俺の肩を組んでくる
「いい報復だったぞ。これでお前をカモにするバカはそうそう出ないだろうぜ」
「あんな奴が、よく隊員から強盗しようとしましたよね…」
「自分がやられるとは夢にも思ってないバカなんだろ。それにしてもお前、キレるとなかなかだよな」
「手を出したらやり返すって、周囲に分からせよう思ったんですよ。何度もこんな目に遭うのはごめんですから。…ところで、蒼きティターンって何ですか?」
「…俺の通り名だ」
「え、サイモン分隊長通り名持ってるんですね!? やっぱり凄いです」
「通り名って自分で決めるもんでもないし、呼ばれるの結構恥ずかしいんだぞ」
…そういうもんなのかな