43話 ぬえ
用語説明w
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
回復薬:細胞に必要なエネルギーを与え、細胞を保護し代謝を活性化する
イズミF:ボトルアクション式のスナイパーライフル。命中率が高く多くの弾種に対応している
ジード:情報担当の隊員、補助魔法が得意
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
ジード、サイモン分隊長と共に緊急クエストに参加することになった
緊急クエストとは、クエストとして認知されたが、緊急で対処する必要があることが判明したクエストだ
今回は、町のそばにぬえというモンスターが現れたらしい
ぬえは雷を操り、攻撃力や素早さが高いCランクのモンスター
Cランクということは、戦車レベルの戦闘力を持つという意味だ
危険だが、ぬえの皮は雷属性を帯ることから高く売れる実入りのいいモンスターだ
「属性持ちのモンスターって初めてです」
俺はホバーブーツの絶縁コーティングを確認しながらサイモン分隊長に言う
雷でショートしたら一発で電気系統が壊れる
しっかりコーティングをチェックしとかないと危ない
「気合い入れろよ。鵺は討伐できたら二、三十万以上は分け前来るぞ」
「ま、マジっすか!? 頑張ろう…!」
「…金額で目の色変わったな。もしかして金に困ってるのか?」
「妹に借金を早く返したいだけですよ。そんな相談に乗ろうか的な目はマジでやめてください」
金が欲しいのは本当だけど
断じて困ってるとかではない、…ないはずだ
今回も合同作戦で、他の小隊から狙撃手が三人応援に来ている
サイモン分隊長が攻撃を受け止め、俺が補助、二人で足を止めている間に狙撃で蜂の巣って作戦だ
「補助魔法かけますね」
応援の狙撃手のドワーフの兄ちゃんが、杖を掲げて防御魔法(小)、硬化魔法(小)、耐魔力魔法(小)をかけてくれる
「凄いな兄ちゃん、その杖についてる石って魔玉だろ。定型魔法効果付きなのか?」
サイモン分隊長が感心して言う
「はい、魔玉です。定型魔法効果として、今使った防御魔法(小)、硬化魔法(小)、耐魔力魔法(小)の三つをインストールしています」
「三つも入る魔玉って高かっただろ?」
「フロストドラゴンの討伐クエストで質のいい魔玉が手に入ったんですよ。汎用性を考えてよく使う補助魔法を三つインストールしました」
魔玉とは、簡単に言うと消えない魔石だ
モンスターの体内で時間をかけて生成される魔玉は、大きさや質によって魔法の容量を持つ
この魔玉に使いたい魔法をインストールすると、習得の有無に関係なく自分の魔力を使ってインストールした魔法を使うことができる
ただし習得した魔法と違って魔力効率が悪いため、効果時間や威力は少なく消費魔力は多くなる
だが、習得してない魔法を使えるのは大きい
ちなみに俺は、魔力の容量が極端に低いため魔玉の魔法は発動できない…
代わりに自分の魔力を使わない魔石を使っている
「各員配置につけ。ぬえが餌の方に向かって来ている」
ジードからインカムで指示が来る
敵の動きが分かる情報班の存在は本当にありがたいと改めて感じるな
今日は魔石装填型小型杖を使って、補助を意識してしてみようと思う
エレンが色々と発注してくれた、新しい魔石を使ってみたいんだ
イズミFに、対生物用のフランジブル出血毒弾を装填する
「まもなく接触する!」
ジードがインカムで警告する
「…っ!!」
繁みの奥から姿を表した、こいつがぬえか
ぬえは頭が猿、体が虎、尾が蛇のモンスターで思ったよりデカい
「ラーズ下がれ!」
サイモン分隊長が強化紋章を発動して大盾を構える
俺はサイモン分隊長の後ろに下がる
とりあえず先手必勝だろ?
撃っちまえ
ダンッ!
ボッシュッ…
「…え?」
「グギャアァァァァァ!!!」
ぬえが怒り狂って襲いかかってくる
ドガァッッッ!!
「グゥッ!」
サイモン分隊長が、ぬえの爪の一撃を受け止める
「バカ野郎! ぬえは雷を纏ってる時は同時に防御魔法を展開してるんだぞ、お前資料読んでないだろ!」
「えぇ!?」
ごめんなさい ごめんなさい!
作戦だけ聞いて、そういえば資料読んでいませんでした!
「ぬえを動かして雷を消費させろ!」
「了解!」
なら銃での攻撃は効果が薄いか
俺は小型杖を取り出して構える
装填した魔石は、拘束、回復、拘束の順だ
ぬえが再度爪を振るう
ガンッ!
サイモン分隊長が受け止める
ぬえの纏う雷が鎧を走っているが、サイモン分隊長は全く動じない
体重差があるはずなのに、全然力負けしないのはスゲー!
俺はすかさず小型杖を振るう
拘束の魔法弾が放物線に飛んでいく
ぬえは身を翻して距離を取るが、左の前足に魔法効果がかする
装填された次の魔石は回復の魔石だ
すぐに小型杖をサイモン分隊長に振るう
パアァッ…
「うおっ、なんだ!?」
「回復の魔石です!」
「やる前に言えよ、焦っただろ! だが回復効果は良い、どんどん使ってくれ!」
「了解っす」
やはり雷ダメージは蓄積しているようだ
ぬえの動きが速くて回復薬を使う余裕がないんだな
俺はホバーブーツのエアジェットで距離を詰める
すぐ両足でブレーキをかけながら小型杖を振る
拘束の魔法効果が飛んでいき、今度はぬえに完全にヒット
ぬえが振るう爪の攻撃を、エアジェットの噴射でバックステップして躱す
体勢が崩れてなかったので、かなり余裕があった
俺はサイモン分隊長の後ろに下がり、小型杖に魔石を装填する
次は、拘束、回復、軟化の順だ
ぬえは何かに戸惑っている?
この隙にイズミFをリロードする
「ガアァァァァッ!」
再度、ぬえが爪を叩きつけるように襲いかかってくる
「オラァッ!」
サイモン分隊長が叫ぶ
やっぱり雷が鎧に通電してそうだが、ガッチリと爪を受け止めている
…ぬえの動き遅っ!
これ、拘束効果出てるのか?
しかも、突進の勢いが落ちて爪の威力も落ちてるっぽいな
チャンス!
もう一回杖を振って、拘束の魔法効果を当てる
二回目は回復効果だ
すぐにサイモン分隊長を回復する
ガンッ ガンッ ガンッ!
業を煮やしたのか、ぬえが爪を振り回す
雷がサイモン分隊長を襲うが防御は崩れない
サイモン分隊長大丈夫か、三回くらい雷が流れただろ!?
回復の魔石を装填する時間がない、回復薬を直接かけちゃえ
バシャッ
サイモン分隊長の鎧の上から回復薬をぶっかける
鎧の隙間から少しは入っていって回復するよね
攻撃してくるぬえの動きを見るが、更に動きが遅くなっている感じはない
拘束効果は、効果が出たらそれ以上拘束力は上がらないみたいだ
ダーーーンッ!!
ドンッ ドンッ ドンッ!
「ギャアァァァァァァァァァァァァァァ!」
突然、ぬえが苦しみだす
ぬえの纏う雷が少なくなり、弱くなった防御魔法を狙撃が貫いたんだ
ドシューーーーッ!
「グギャッアァァァッッッ!!」
大きな石の楔がぬえに突き刺さった
突き刺さった石の楔は、すぐに石が崩れて消え、一本の矢となって落ちる
土魔法を付加した矢の狙撃だ
矢一本で大穴を穿つ、魔法付加した矢って銃弾とは違う破壊力があるな…!
ドンッ ドンッ
狙撃がぬえをどんどん貫いていく
よし、俺も貢献しよう
小型杖の三回目の魔石は軟化の魔法効果だ
怪我で動きが止まったぬえに杖を振るう
ふわぁぁ…ん
軟化の魔法弾が飛んでいく
弾速遅っ…!
こんなの当てられねーだろ
使ってるやつ少ないはずだわ
ボワァァ…
怪我でぬえの動きが止まってたので魔法効果が当たる
軟化の効果はどうだ?
ドシューーーー! ドスッッッッ!!!
「……っっ!!!」
ぬえが白目を向いて、声も出せずに倒れる
「ええ!?」 「うおっ!?」
…飛んできた石の楔が、突き刺さるどころか貫通した!?
俺とサイモン分隊長が同時に声をあげる
「まさか、今の魔法効果か!?」
「な、軟化の魔石です。めちゃくちゃ柔らかくなったんですかね?」
「そうだな、ぬえの横っ腹に大穴空いたもんな…」
「弾速遅くて当てるの難しいけど、当てられるなら使えそうですね」
「お前の練習次第だな」
無事に討伐完了
補助魔法は凄い
新しい戦い方ができるかもしれない