42話 同僚
用語説明w
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで画像を受信する
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシンを運用・活用するシステム。ラーズの固有特性となった
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
メイル:1991小隊の経理と庶務担当隊員
ジード:情報担当の隊員、補助魔法が得意
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
エレン:獣人の女性整備隊員。冒険者ギルドの受付も兼務
メイルが書類と伝票の束に埋もれている
「隊の会計業務を一人でやるって無謀じゃないですか?」
「給食とか医療物品の手配はエマが、整備用物品や戦闘アイテムの手配はエレンがやってくれてるから一人って訳じゃないのよ」
そ、そうなんだ
だが、うちの小隊は出動もクエスト依頼も多く、その分弾薬や消耗品、各種武器や装備が消費されている
購入数もかなりのものだ
「入力くらいだったら手伝いましょうか?」
「お願い! バイト代出すから」
「それは嬉しいです。でも、たまる前にこまめにやりましょうよ」
「そうなんだけど、いつも気がつくとたまっちゃってるの…」
「毎回、仕事終わりで時間ある時にに入力しに来ますよ」
「ありがとー。バイト代は時給千ゴルド、隊の雑費から出すからね」
経理や庶務って大変だ
なんせ、仕事が終わるってことがないからね
常に誰かが経費を使い、常に隊の維持費がかかり、突発の費用も求められる
少しは手伝ってあげたい
・・・・・・
「鎧の調子はどうですか?」
整備隊員のエレンがお茶を飲みながら聞いてくる
装備やアイテムに詳しいから、いろいろアイデアをもらえて助かる
「最高だよ。体にフィットしてずれないしぶれない。運動能力が間違いなく上がったよ」
「良かったじゃないですか。呪いも霊札使えば問題ないんですもんね?」
「そうだね。霊札の使用回数が気になってたんだけど、十回以上使ってもまだ霊力に余裕あるからね」
「安く買えて良かったじゃないですか」
「うん、後は借金返すだけだよ。早く一人立ちしてクエスト気軽に行きたいんだけどね」
「あと五回くらいでしたっけ。すぐですよ」
「AIも早く導入したいし、借金も返したいし、理想の装備集めるのにはお金かかるよ」
「新しい装備は確かに高いですから既存の装備見直してみたらどうですか」
「既存のって、どの装備のこと?」
「これ、新しい魔石なんですけど使ってみませんか? 安かったんで業者から多めに仕入れてみたんですよ」
魔石装填型小型杖
魔石を装填して、封じられた魔法効果を放出できる杖
魔石は使いきりで、一度魔法効果を放出したら無くなる
俺の小型杖は、魔石を三つ装填できる
魔石にはいろいろな種類がある
俺が主に使っているのは
・精神属性 睡眠
・精神属性 混乱
・土属性 土壁
・力学属性 引き寄せ
が主だ
今回、エレンが仕入れたものは俺が使ってない種類だ
・聖属性 回復
・火属性 照明
・水属性 酸
・水属性 塩基
・力学属性 吹き飛ばし
・力学属性 拘束
・状態属性 軟化
・魔属性 呪い
・魔属性 即死
「結構種類あるね」
「そうなんですよ。今、うちの隊って補助魔法使いがジードしかいないじゃないですか? だから、魔石で補助魔法使えたら戦力アップもするんじゃないかなって思ったんです」
「うん、確かに面白いね。補助魔法を俺が小型杖で使えれば、火力担当の補助もできるようになるわけだしね」
「ええ、ラーズは器用だから火力特化よりいろいろ出来た方がいいですよ。業者さんは拘束や軟化の弱体化魔石をおすすめしたましたね」
「ふーん。敵の防御力を下げたり、動きを拘束して機動力下げたりってこと?」
「はい。これは物質を柔らかくしたりうごきを制限する効果なので、戦車やゴーレムにも効果が抜群だそうですよ」
「へー、今度使ってみよう。酸や塩基ってのは何?」
「敵が酸やアルカリを攻撃として使う場合の中和ができます。酸の粘着物質から構成されるスライムとかは塩基の魔石で一発みたいですよ」
「そうか、敵によっては決まった攻撃方法じゃないと倒せない物もいるんだもんね」
「そうですね。この魔石があれば、かさばるアルカリ性溶液持っていかなくていいから便利ですよね」
「呪いや即死は?」
「小型の昆虫系や植物の大量発生の時用ですかね。一匹一匹が弱くても大量にいる場合は即死や呪いがよく聞きます。殺虫剤や枯葉剤と併用できます」
「ふーん、面白いね。使ってみるよ」
「範囲魔法とは違って、魔石の魔法効果は単発で地味ですけどね。一人が補助系の立ち回りが出来ればパーティの生存率が上がると思うんです。どんどん試してみてくださいね」
「うん。面白い魔石入ったらまた教えてね」
・・・・・・
備品倉庫にジードがいた
情報担当のジードは戦場での情報の取り方に詳しい
情報が取れないとどうなるか…は、愚かな幹部候補が実証してくれた
「ジード、ドローンカメラが便利なんですけどバッテリー容量や無線の有効範囲もう少し長いのが欲しいんですよね」
「バッテリーを長くするならドローンのサイズを大きくするしかないな。多少目立つが、風にあおられにくくなるメリットもあるしな」
「前回のオートマトン掃討の時も、ドローンカメラに助けられましたからね。目が一つ増えるメリットがでかすぎて、もう手放せません」
「だが、防衛軍配備品以外は自費だからな。高いドローンでも結構損傷したり行方不明になったりするから気を付けろよ?」
「やっぱり経費では出ないっすか…。サーモ機能とか、霊視、赤外線機能が付いたカメラのドローンが欲しいんですけどね」
「お前の場合は、先にAI導入して映像確認を自動化した方がいいぞ。ドローン映像に気をとられて撃たれましたじゃ本末転倒だからな」
「…うぅ、どうせ注意力散漫ですよ。しばらく無理ですけど早めに買います」
「ま、とりあえずはクエストの一人立ちを優先すればいいさ。ラーズは器用貧乏だが、補助に特化した私と相性はいい。今度またクエストに行こう」
「はい、よろしくお願いします」
・・・・・・
医療室
医療担当のエマに、日課の毒ジュースとナノマシンの素材溶液をもらう
「最近、回復力が上がってきてる気がするんだよね」
「ナノマシンが…馴染んできたのかも…」
「ロケットランチャーで吹っ飛ばされて、多分足が折れたんだけど。フェムトゥ接骨機能と回復薬使ったら、気がつくと走り回れるようになってたんだよ」
「ラーズは怪我が多いから…ナノマシンの活動数が増えて、馴染む速度も上がっているのかも…」
「それ、喜ぶべきなのか分かんないね」
相変わらず、エマは恥ずかしそうに喋るな
コミュ症ってやつなのか?
「そう言えば、継続して毒ジュース飲んでるけど少しは耐性って付いてきたのかな」
「少しずつ濃度も上げてるから…効果は出てると思う…。まだ時間は必要だけど…」
「そっかぁ。あとずっと隊で飯食ってるけど、サイキックの才能は開花しないのかな?」
この小隊は実験部隊で、エマが健康管理をしながら、食事にいろいろな薬を混ぜられているらしい
その一つがサイキック能力に目覚める薬だそうだ
「続けていけば可能性はあるはず…。あとは戦場での強いストレスで目覚める例が多いって…」
「そんな目覚め方って、危なっかしすぐて嫌だね」
「生き死にのストレスは…生物にとっての最大の刺激の一つだから…」
そうかも知れないし納得もするけど、そんなストレス受けたくはないな
安全運転が一番です
「エマって学者みたいだよね。考察とか得意だし。何で防衛軍に入ったの?」
ふと気になって聞いてみる
あまり過去のことは聞かない方がいいのかな?
「医大でいじめられて…就職した病院でもいじめられて…続けられなくなって…」
「重っ! 想像したより大分重っ!」
「私…人と話すの苦手だから…」
「そうかな? ちゃんといろいろ考えてるし、説明分かりやすいし」
「…」
エマがうつむいてしまった
ま、確かに誤解は与えるかもかも
いい子なんだけどね
うむ、平和な時にやることやって有事に備える
日頃の人間関係は大事だよね