41話 組織批判
用語説明w
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
夜勤明けだ
サイモン分隊長と朝から酒を飲みに来ている
サイモン分隊長が常連の居酒屋「四季」だ
午前中から店を開けさせたらしい、迷惑じゃね?
グビッ…グビッ…
「ふぅ…、しっかしよく生き残ったなお前。オートマトン十体以上に囲まれて、もう一人は負傷して動けない状態で孤立だろ?十中八九詰んでるぞ」
ゴクゴク
「死んだと思いましたよ。ただ、相方が爆破魔法の範囲魔法(中)を使えたんで、敵呼び込んで一掃するしかないって思って賭けたんですよ」
グビグビ
「範囲魔法(中)ってことは魔導師か?なかなかの威力だったらしいじゃないか」
パクパク
「ルーシュっていう神族の女性魔導師なんですけどね。魔法一発でオートマトン全滅させてビルまで半壊させたんですから凄いですよね」
ブハッ!
「ルーシュだと!?」
「汚なっ! 何ですか、知り合いですか?」
「神族のルーシュっていや、爆破天使の通り名を持つ有名隊員だぞ。爆破魔法が得意で、ロケットランチャー以上の火力を範囲魔法(中)の面積に展開するって話だ」
フキフキ…
「あー、確かに爆破魔法の火力は異常でしたね。有名人だったんですね」
グビッ
「そのルーシュと、近くにいた負傷者全員を救ったんだ。今やお前もなかなかの有名人だけどな」
有名人って…
ルーシュは救った自覚はある
だが、救われたのも事実だ
その他は結果的に助かったってだけだからなぁ…全然ピンと来ないな
ゴクゴク
「そういや、くそ幹部候補の話聞いたっすか? マジで許せないですよ」
グビッグビッ
「聞いた聞いた。気持ちは分かるが忘れた方がいいぜ。そういうやつはいつの間にか消えてるさ」
サイモン分隊長、飲むの早いな
「おばちゃん、ビールお願いします!」
サイモン分隊長のおかわりを頼む
俺って出来た部下だな、うん
「消えるんですか? 軍法会議とかって言ってましたけど」
「軍法会議はあくまで防衛軍内での処分を決めるだけだ。降格なのか停職なのかは分からないがな。だが、今回はバカな采配のせいで複数の戦死者が出ているから、多分消えちまうだろうぜ」
ゴクゴク
「消えるって、辞めるってことですか?」
「バカ、消されるってことだ。」
グッ!
「…っ!」
「おう、おばちゃん、ありがとう」
サイモン分隊長は、新しいビールを受け取ってグビグビ飲み始める
確かに殺意は沸いた
俺達の命がかかっているのに、情報も取らずに敵に裏をかかれるなんて有り得ない
無能すぎるし、部下を死なせないって気は無いってことだから
だが、消されるってのは…
グビッグビッ
「…戦友を失った奴らは、このままじゃ済まさないと思うぜ。俺達はただの公務員じゃねえ、軍人だからな。上司といえど、舐めた采配にはそれなりの対応が待ってるだろうぜ」
「…怖いっすね。でも、確かに絶対許せないですけどね。死にかけたし」
グビグビ
「覚えときな、ラーズ。防衛軍では毎年一定数が事故に遭う。事故に遭う奴は、仲間や部下を軽んじた奴と組織を嗅ぎ回った奴の二種類だ」
ゴクゴク
「事故ですか…」
ぷはぁ~
「戦場で流れ弾に当たったり交通事故に遭ったりな」
ゴクゴク
「事故者にパターンがあるだけで怪しすぎますよ。嗅ぎ回るってなんですか?」
ガツガツ
「興味本位であれこれ調べ回った奴とかだ。多分、見ちゃいけない情報を拾っちゃったんだろ。軍隊の情報はシャレにならねー物もあるだろうからな」
「よくわからないけど、めっちゃ気を付けます」
「ま、よっぽどの話だし、普通にやってりゃ大丈夫だ。後はヤバイ奴を見極めるだけだな」
夜勤明けに飲みすぎた
だが、組織批判してかなりスッキリした
組織批判といっても、クズみたいな奴がムカつくだけ
うちの小隊は、とてもいい人間関係が出来ていて居心地良いんだけどね
・・・・・・
「こんにちはー」
「あら、ラーズ君お帰りなさい」
アパートの前に、管理人のカエデさんと娘のサクラちゃんがいた
「ラーズ君も社会人の顔になってきたねぇ」
「マリアナさん、なんかお久しぶりですね」
101号室のマリアナさん
旦那さんと小学生の子供と三人暮らし
このアパートは子供がいるとちょっと狭い気もするけど、管理人さんとも仲がよく出ていってない
マリアナさんは、まもなく一歳になるサクラちゃんが可愛くて仕方ないらしい
俺も会えば声をかけてもらってる
挨拶をして自分の部屋に戻る
「ただいまー」
「お帰りー…って、酒臭っ!」
フィーナも帰って来ていた
ちょっと飲みすぎたか、自覚はめっちゃあるな
「そこでカエデさんとマリアナさんに会ったよ」
「え!? ちょうどいいからお土産のお返し渡しちゃおう。アパートの前?」
「うん。サクラちゃんと遊んでたよ」
「分かった、行ってくるね」
フィーナは、前もらったお土産のお返しに龍神皇国のお土産を買ってきたようだ
出来た妹だわ
よし、シャワー浴びて寝よう
…
シャワーを終えて浴室から出るとフィーナが戻って来ていた
「ラーズ、早く着替えなよ」
「帰ってくるの早くね?」
「だって、ほっとくとラーズ寝ちゃうと思って」
「…」
なぜ夜勤明けで寝ちゃいけないんだ?
酒も入ってるし眠いに決まってるし
「セフィ姉達に、みなとやの大学芋頼まれたんだ。一緒に行こう?」
「俺は夜勤明けで死ぬほど眠いんだ」
「眠いのはお酒のせいだから大丈夫だよ。ついでに泉竜神社にもよっていけばいいじゃん、お世話になったんでしょ?」
「まあ、確かにな」
「じゃ、さっさと行こうよ」
「…」
まあ、挨拶はしといた方がいいよな
泉竜神社に着いた
宮司さんがちょうど掃除をしていた
「こんにちはー」
「あ、ラーズさんこんにちは」
宮司さんは掃除の手を止めて挨拶を返す
「わざわざ隊まで来てもらってありがとうございました」
「いえいえ。霊札の調子はどうですか?」
「凄くいいです。フェムトゥが呪われていることを忘れちゃうくらいです」
「それは良かった。ただ、霊札をつけっぱなしにすると、すぐに霊力無くなっちゃうので気を付けてくださいね」
「分かりました。宮司さん、良かったら今度徐霊用のアイテムも見せてください。防衛軍にアンデッド系の討伐依頼が意外と多いんですよ」
「大丈夫ですよ。いつでも相談してください」
このエルフの宮司さんは、今後もお願いすることが多そうだな
関係を大事にしようっと
今日知ったが、宮司さんの名前はヒコザエモンというらしい
覚えとこう
「さ、大学芋買いに行こう?」
「何で俺まで並ぶんだよ…」
「だって、一人800グラムまでしか買えないんだもん。二人なら倍買えるでしょ?」
「ハイハイ…、女って芋好きだよな」
「一個はセフィ姉達に、一個は私達で食べればちょうどいいでしょ」
…甘言に乗って、一時間以上並ばされた
呆れるほどの日常だ
この日常を守ってると思えることが防衛軍のやりがいだ
ただ、芋ごときに行列はおかしいと本気で思う