38話 銃撃戦1
用語説明w
イズミF:ボトルアクション式のスナイパーライフル。命中率が高く多くの弾種に対応している
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで映像を受信する
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の隊員、補助魔法が得意
オートマトン部隊がハチオウラの町の直近に現れた
ハチオウラは人口五万人の都市で、ハカルとの国境に近い大都市だ
当然、ハチオウラまで進攻を許したら大惨事になる
現在避難措置をとっているそうだが、町全体の退避など不可能で、町の北西部の一部が避難を開始した程度だ
今回はいつもと重要度が違う
五万人の町を守る、俺が防衛軍となって初めての大規模作戦だ
オートマトンは自立型の人型ロボットだ
人型という事で人間の、つまり俺たちと同じ武装をしている
ハカルから送り込まれたと考えられるが、侵入経路が一切不明だ
一中隊規模、四十体ほどのオートマトンと複数のドローンの編成らしい
対して味方は、各小隊から集められた六十人
戦闘担当が五十人、補助等が十人だ
うちの1991小隊からは、ゼヌ小隊長、ジード、俺の三人が参加している
「人数集めましたね…、心強いですけど」
「ラーズ、戦力二乗の法則って知ってる?」
ゼヌ小隊長が聞いてくる
「え、知らないです。何の法則なんですか?」
「個体の戦闘力が同じと考えた場合の、人数を戦力に換算する法則よ。戦力は人数を単純に二乗するだけ、二人なら戦力4、五人なら戦力25って感じね」
「はぁ…」
「要は人数差を大きくするほど、戦力差も一気に広がるってこと。同じ時間に打ち出される弾や魔法の数が増えていくからね」
俺達の戦力:戦闘員50人でその二乗 = 戦力2500
敵の戦力:敵約40でその二乗 = 戦力1600
…なるほど、10人差でも戦力だと900も変わってくるのか
「だから今回は人数を集めて一気に殲滅するわけですね? 町も近いですし」
「そういうこと。作戦内容は、指定位置からひたすらオートマトンを狙うだけの単純なもの。でも、陣形が崩されると一点突破される可能性もあるから気を付けてね」
「はい、了解です」
油断なんかしない、思い込みもなし
自分の仕事を淡々とこなそう
「あ、ジードが来たわね」
振り向くと、ジードが歩いてきた
「ゼヌ小隊長、まもなく作戦開始です。作戦本部へ移動をお願いします」
「分かったわ、二人とも気をつけて」
ゼヌ小隊長が手を降って歩き出した
「ラーズ、補助魔法をかけておこう」
そう言ってジードが詠唱を始める
防御魔法(小)、硬化魔法(小)、耐魔力魔法(小)と連続でかけてくれる
「ジード、ありがとうございます」
「お前は抜けてる所があるから気を付けるんだぞ」
うぐっ…、自覚はあるから何も言えねぇっす
ジードも作戦本部に行ってしまった
俺も配置につこう
・・・・・・
部隊を三つのエリアに分ける
俺の配置は、東側のエリアで放棄されたビル群の一画だ
この地域は、何度かオートマトンやモンスターの襲撃を受けて人が退去し廃墟となっている
崩れたビルの壁だけが残っており、これを弾除けに使う
俺は瓦礫と壁の間に土魔法の魔石で土壁を作り、簡易なバリケードにする
スナイパーライフルのイズミFを取り出し準備は完了
弾を装填しておく
「手際いいわね」
魔導師のローブの上に防弾アーマーを着た女性隊員が話しかけてきた
「バリケードはOKですね。ただ、ここは退路を取るのがきついですよ? 敵の射線上に身をさらさないと逃げられないですからね」
左右と後ろをビルに囲まれ、正面の大通りが戦場になる予定だ
「戦力はこっちの方が上だから大丈夫でしょ?」
「用心はしときましょう」
彼女は魔導師用の杖とアサルトライフルを持っている
頭には特徴的な円環があるので神族だろう
「ここの配置は私達二人ね。装備と技能を確認しましょう」
防衛軍では、初めて会う者と組むことも珍しくない
この場合、お互いの技能などを確認する事が必要だ
「私はルーシュ、1722小隊よ。アサルトライフルと爆破の範囲魔法(中)を使えるわ」
「範囲魔法(中)ですか、凄いですね」
範囲魔法(中)は、モ魔では出来ない魔導師のみの広範囲・高威力の殲滅攻撃だ
「私はラーズ、1991小隊です。スナイパーライフルとアサルトライフル、モ魔の範囲魔法(小)と魔石装填型の小型杖を使います」
「そんなにいっぱい使うなんて器用ね。その鎧は固有装備でしょ? 凄いのね」
「借金して買っただけですよ」
鎧が誉められたー!
やっぱり固有装備にすると目立つのかな
ちょっと嬉しい
俺は偵察用ドローンを飛ばして、隣の三階建てビルの屋上に止める
PITで受信する、簡易偵察カメラだ
「ルーシュ、ドローンカメラのパスワード渡すんで画像を共有しましょう」
「うん、ありがとう。…画像来た、回り見渡せるしバッチリね」
「これ、支給品のドローンなんで電池があまり持たないんですよ。電池節約のためにドローンは飛ばさないで遠隔カメラとして使いますので」
「分かった」
ドローンを飛ばすとそれだけ電池を消耗してしまう
カメラ機能だけならそれなりの時間使えるだろう
「…来たわね」
ルーシュが、瓦礫の隙間から外を覗く
確かに、遠くから爆発音と銃声が聞こえてきている
「先に始めますね。敵が近づくまでカメラ画像の確認をお願いします」
俺はイズミFを構え、スコープで敵を探す
俺のスナイパーライフルの射程は、百メートルから三百メートルってところだ
ルーシュの魔法は、実力にもよるが二、三十メートルが一般的だから出番はもう少し先だ
「了解ー、敵がちょっと多そうね。こっちに集まってきてるかもしれないわ」
俺達のこの区画は待避が危険だから、できればあまり集まって来て欲しくはない
他の場所行ってくれ
ダーン…
ガシュッ
ダーン…
ガシュッ
…
二体ほど命中させたが、奴らも障害物に隠れながら進行してくる
なかなか当てられるチャンスがない
姿くらい見せろよな!
…隠れながら撃ってる俺が思うのもどうかと思うが
「…っ!? ラーズ!おかしい、敵の数が増えてる!」
「え?」
これ以上、ここに戦力を集めるなんてことがあるか?
他の場所が手薄になれば、そこを制圧した味方がこっちに増援に来るだけだ
「でも本部の情報班から警告が来てないですよね?」
敵の戦力が集中してたら、一点突破される可能性があり危険だ
警告を出して動きを止めさせる指示が来るはずだ
「間違いない、敵の弾幕範囲が広がってる。人数でこっちが勝ってたはずなのに膠着状態になっちゃってる」
ルーシュが不安そうに言う
「ルーシュ、本部に確認を取って! この地域の配置員がドローンカメラ使ってなければ膠着状態に気がついてないかも!」
「あっ! 確かにそうかも。分かったわ!」
ルーシュがあわててインカムを使おうとする
俺はスナイパーライフルを構え直し敵を探す
「…あっ!!」
勝手に声が出た
「え!? どうしたの、ラーズ?」
見えた
ロケットランチャーが十発以上撃ち上がった
その内の一つが完全にこっちの方向に飛んで来ている!
「…にっ、逃げろ! 撃たれた!!」
叫んでルーシュの方を向く
「え?」
ルーシュが驚いてこっちを向いた
ヤバい!
直撃だ!!
俺がルーシュにタックルし、ホバーブーツのエアを噴出した瞬間…
…ッド………ッガァ……ァァ……ァ……ァァン………
………
……
…
ロケットランチャーが…バリケードに突き刺さった
俺達は爆風に吹き飛ばされた