37話 新鎧の実践
用語説明w
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェットが噴射の勢いで対象を粉砕する武器
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
やっと俺の鎧が届いたことをフィーナに伝えた
「フェムトゥって名前がかっこいいだろ? すげーかっこいい鎧で、実際見ると凄いかっこいいんだよ!」
「嬉しいのは分かるけど、かっこいい言い過ぎじゃない? とりあえずは性能がどうかだよね」
「呪いがあって気軽に着れないからなー…。ただ、隊にいるときは着続けようと思ってるんだ。慣れも必要だしね」
「ラーズって欲しいもの決まったら一直線だよね。昔から変わってないね」
「今回の鎧は命に直結する物だからね。防衛軍の純正装備から個人の固有装備に変わっていくことで、兵士として一目置かれるようにもなるみたいだよ」
「一目置かれたいの?」
「そうじゃないけど、チームのために出来ることが増えるのはいいことだろ? あいつなら任せられるとか嬉しいじゃん」
「あー、それは確かに嬉しいかも」
フィーナとは、お互いに社会人になったばかりで感覚が近いと思う
認められたいとか、やっぱりあるんだよな
職場の雰囲気がいいと特にそう思う
「とりあえず、浮いた三十万ゴルドを下ろしてきたから返すよ」
「半分でいいよ、ラーズも貯金必要でしょ?」
「じゃあ二十万ゴルド返すね。もうすぐ給料日だし十万あればしばらく大丈夫だから」
「分かった。後九十万ゴルドはゆっくり返してね」
「しれっと上乗せ!? あと八十万ゴルドだから!」
「ちっ…」
「しかも舌打ち!? 態度悪過ぎない!?」
・・・・・・
サイモン分隊長とクエストに来た
フェムトゥの実践訓練
ついでに、見習い卒業のために条件とクエスト数を稼ぐ意味もある
実際に装着してみると、防衛軍の防弾アーマーと違ってかなり動きやすい
フィット感が違うので、動いても体と鎧がずれないのがいい
ピッタリとした外骨格型なので、俺の体が一回り大きくなり皮膚が固くなったイメージかな?
これなら、さらに大きめの防弾アーマーを重ねて着ることも出来る
…重くはなるけど
心配していた呪いについては、脱ぐことができないだけで泉竜神社の霊札を使えば問題は解決した
トイレも問題ない
股間部分が開くので、大も小も出来る
この部分は、呪いで開かないということがなくてよかった
風呂以外に私生活の問題はなさそうだ
今日のクエストはゴーレムの排除だ
岩石を魔力で動かす魔導ロボット
魔力で動く物は、放置すると意図せず動き出して魔物化することがある
放棄された採掘場に数年放置されていた工事用の大型ゴーレムが二体、魔物化して動き出したらしい
「高さ三メートルと五メートルの二体だってよ。鎧の試運転も出来て一石二鳥だろ」
サイモン分隊長が、わざわざ俺のためにクエストを探してくれた
この人、面倒見いいよな
「ありがとうございます。ついでにロケットハンマーも使ってみていいですか?」
ロケットハンマーの実践練習もまだやってないんだよね
「おう。俺は補助に回るから好きにやってみな」
ミドリア地区西の採掘場
一時期、魔昌石が取れるといって採掘されたが数年で取り尽くして放棄された場所だ
その時使われたゴーレムが違法に放棄されたらしい
迷惑な話だよ
距離をおいて様子を伺うと、ゴーレム二体が採掘のために崩された崖の前で佇んでいる
人が近づくと動き出して襲ってくるようだ
遠距離からロケットランチャーを二発撃ち込んだら終わる気がするが、いい機会なので練習させてもらう
「ロケットランチャーで一体を破壊、残った方をロケットハンマーで破壊します」
「おう、了解だ」
俺はPITでマップの座標を指定し、ロケットランチャーの設定をする
魔力で動くゴーレムには熱源が無いため、熱源センサーのロケットランチャーはゴーレムを認識してくれない
だから、座標で着弾地点を指定するんだ
「始めます!」
俺は、ロケットランチャーを少し上空↗️に撃つ
ロケットランチャーは数秒後、上空から降下してゴーレムの一体に着弾
ドッガァァァァァァァァァァン!
ロケットランチャーが、特撮映画みたいに石の塊を爆破した
すると、もう一体のゴーレムが起動した
俺は背中に陸戦銃を背負い、手にロケットハンマーを持って迎え撃つ
ここからが本番だ
…って、このゴーレム手が四本あるぞ!?
オプションなのか!?
ホバーブーツのエアジェットで近づく
ゴーレムが左手の一本を伸ばしてくる
俺は鋭く一歩踏み出し、ロケットハンマーのジェットを噴射
ボウゥッ ゴガァッ!
手の平にロケットハンマーが突き刺さり、親指以外が吹き飛ぶ
だが、ジェットの勢いに体が持っていかれてバランスが崩れてしまった
追撃を諦めて一旦距離を取る
ゴーレムが俺を捕まえようと追いかけてくる
仕切り直しだ
ロケットハンマーのジェットは、一瞬の噴射でも威力がある
ホバーブーツのエアを使っていると、地面との摩擦が少なく不安定な状態となっている
そのためエアを止め、しっかり地面に立った状態にしてハンマージェットを使う必要がある
あとは単純に腰が高いな
腰をしっかり下げる、全ての格闘技や武道の基本だ
ブウゥゥゥン!
空を切る大振りのパンチを余裕を持って躱す
大振りの隙!
ボゥッ!
一瞬だけホバーブーツのエアジェットを噴射し、足の蹴り出しの力と共にゴーレムの懐に踏み出す
すぐにエアを止め、腰を落として着地し両足で急ブレーキをかける
つんのめるような力を、体幹使って上体に、そしてハンマーへと伝える
そして一瞬だけハンマーのジェットをONにする
ボッ! ゴガッ!!
ゴーレムの右膝が砕ける
今度は、俺の体勢は崩れていない
すぐにエアジェットを噴射し、右側に離脱する
いける、これはいけるぞ!
ロケットハンマーとホバーブーツの一瞬のONとOFF
そして、腰を落として大地を両足で掴む動き
攻撃に振り回されないで、体勢が維持できてる!
「ラーズ、勝負は着いただろ?」
サイモン分隊長がインカムで呼び掛けてきた
「はい、後はとどめですね」
「いや、そいつは核を取りだそう。売れるはずだからな。手足を壊して無力化しろ」
「了解です!」
もう少し練習したかったからちょうどいい
「鎧の性能チェックで一発殴られてみたらどうだ?」
「嫌ですよ! 傷つくじゃないですか」
「…鎧は傷つくもんだろうが。外骨格の装甲は交換できるから大丈夫だって、どのくらいの衝撃か知っといた方がいいだろ」
「うーん、あまり気は進まないですけど…」
ま、でも確かに知っておいた方がいいか
勝ち確定の状況ってあまり無いしな
ドガッ! ゴガッ!
追撃をさせないため、手を二本壊す
今度もバランスを崩さない、…いいじゃん俺!
使いこなしてきてるよ!
ゴーレムが最後の一本の腕を振りかぶった
よし、このパンチに殴られよう
半身になり左手で防御、右手でロケットハンマーを持って壊されないように守る
ブウゥゥゥン!
「…っぐあ!?」
ガシッと掴まれた!?
てめっ、殴るんじゃねーのかよ!
握られて、外骨格がミシミシと音を出してる
ヤバい、握力凄い…!?
こうなったらロケットハンマーでぶっ壊してやる…!
一緒に掴まれている右手で、ジリジリとハンマーの角度調整する
ドドドォォォォォ…!
「えっ!?」
ゴーレムが突然横に倒れた
土煙の向こうにはサイモン分隊長がいた
「何やってんだお前は。ゴーレムに裏かかれてんじゃねえよ」
「…すみません」
何も言えねえ
こうして、俺のフェムトゥのデビュー戦は終わった
外骨格が俺の筋肉を補助してくれて、急加速や急停止での負担が激減した
いい感じだ
「もう少し経験積まなきゃ危なっかしくて見てられねえよ」
「…はい、ごめんなさい」
二章開始です