35話 狙撃
用語説明w
ウル:ギアと二連星をつくっている惑星
ギア:ウルと二連星をつくっている相方の惑星
イズミF:ボトルアクション式のスナイパーライフル。命中率が高く多くの弾種に対応している
霊札:霊力を込めた徐霊用の札
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
ロゼッタ:MEB随伴分隊の隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)
カヤノ:MEB随伴分隊の隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
鎧サイが現れた
別の隊の管轄地域で十数体の群れが現れ、大規模な討伐作戦が実行されたらしい
だが数体を取り逃がし、その内の一体がうちの隊の管轄地域に流れてきたようだ
人の生活圏に近づかなければ狩る必要は無いのだが、仕方がない
ウルの生態系はモンスターといわれる生物から成り立っている
食物の他に魔素を積極的に摂取して生きている
魔素をエネルギーとして使う分、ギアの生物よりも強力で狂暴だ
だが、モンスターは資源なのだ
モンスターは、表皮、骨格、牙や爪、肉などが素材となる
高コストで作り出される合金素材と同程度の硬度を持つ表皮が、森の中を歩いてる
しかも、物によっては属性に耐性があるものまである
そういう訳で、生態系を守るため、資源の確保のために、人類は危険なモンスターも絶滅させたりはしない
だが、そのリスクとして危険なモンスターが人の生活圏に近づく場合があるのだ
鎧サイは人を襲うことがあるため、駆除対象となっている
こういった場合のモンスター駆除を、シグノイアでは防衛軍が担当しているのだ
「今回スナイパーライフルは三人だ」
サイモン分隊長が、自分の盾を持ちながら言う
「三人はいいですけど、私がその内の一人でいいんですか?」
「他の二人は、応援のベテランスナイパーらしいから大丈夫だろ」
「私より上手いサイモン分隊長がスナイパーやった方がいい気がしますけど」
「今回は数十メートル位だから誰がやっても大丈夫だ。疑似アダマンタイト芯の徹甲弾ぶちこんでやれ」
俺の新しいスナイパーライフル、イズミFは様々な弾種に対応している
疑似アダマンタイトは、希少金属であるアダマンタイトを模したチタンと黒銀の高圧縮合金だ
オリジナルのアダマンタイトほどではないが、かなりの硬度を誇る
「はい…、分かりました」
「お前、鎧買うとか言って浮かれてたけどよ、ちゃんと集中しろよな?」
「気が散って、一度大失敗してますから大丈夫ですよ」
一瞬気が逸れただけで、五十メートルの高さから紐なしバンジーをさせられたのはトラウマになっている
…作戦開始前、MEBハンガーにて
「ほーぅ、霊札スイッチか」
シリントゥ整備長が感心して言う
「はい、これなら使える回数によりますが聖水よりはコスパがいいと思うんですよね」
「あの鎧を出品してる店は評価もいいし、わしも使ったことがある。呪いの強度はそこまで強くないと書いてあったが信用していいぞ」
「じゃ、買って良さそうですよね?」
「ああ、一応呪いの強度だけ再確認して、大丈夫なら買っちまおう」
「はい、よろしくお願いします!」
ついに、俺の鎧が決まるんだな
ドキドキするぜ
…と、いうわけで鎧の購入が決まったのだ
正直、気分が浮わついているのは間違いない
だが仕事はしっかりこなさなければ…
俺は狙撃ポイントで待機する
スナイパーライフルを使うのは、1991小隊では俺とサイモン分隊長だけだ
サイモン分隊長は鎧サイの動きを止める盾役だ
必然的に、残った俺がスナイパー役に選ばれた
スナイパーライフルはそこまで使ったことがない
訓練はしてきたが正直不安だ
「遊撃2から各班、まもなく対象が誘導ポイントに到着します!」
ロゼッタとカヤノが誘導ポイントまで鎧サイを誘き寄せてきたようだ
俺は、疑似アダマンタイト芯徹甲弾を装填して腹這いになり、スコープで鎧サイを探す
「リーダーから各狙撃担当へ。配置を順に確認せよ」
「狙撃1配置完了」
「狙撃2配置完了」
「狙撃3配置完了です」
俺もインカムで答える
「リーダー了解、準備ができ次第狙撃を開始、以上!」
狙撃開始の命令が下った
俺が肉眼で誘導ポイント方向を見ていると、恐らくカヤノであろう、空中から思念誘導弾を撃っている姿が見えた
来たな…
誘導弾の飛ぶ方向をスコープで探す
「見えた!」
鎧サイがこっち方向に走ってくる
俺から見ると、鎧サイはほぼ正面を向いている
…っ!!
鎧サイの右と左に着弾が見えた
右側は血が吹き出したからダメージを与えただろう
左側は鎧の表皮で止められたか?
出血は確認できなかった
俺は右前足を狙う
ッドン!!
発射の衝撃でスコープから鎧サイが消える
すぐリロードしてスコープで鎧サイを探す
「あれ!?」
鎧サイの右足に出血がない
角から煙っぽいのが出てるな…
ギアにいるサイの角って、毛が固まった物って聞いたことがある
鎧サイも、表皮から構成されているなら硬度は凄いって事だろう
擬似アダマンタイトってかなり硬いはずなのに、弾かれちゃうんだ…
やっぱり鎧の隙間が効率よさそうだな
再度、右足を狙う
さっきは左に少しずれたって事だよな
補正して…
ッドン!
今度はスコープがあまりずれなかった
すぐに鎧サイをスコープで捉え直す
鎧サイが右足の膝辺りから出血してる
やったぜ
こうして、俺が全ての弾を撃ち込み終わる頃には、鎧サイは血まみれになって倒れていた
ちなみに俺は、10発撃って3発しかダメージを与えられなかった…
練習しなきゃな
・・・・・・
鎧サイの所に行くと、サイモン分隊長とロゼッタが鎧サイを解体していた
「お疲れ様でした!」
俺は声をかける
「おう、ラーズお疲れ」「お疲れさまぁ」
サイモン分隊長とロゼッタが手を挙げてくれる
「ラーズ、そこに大きめの穴掘ってくれ。内臓を捨てるからよ」
「了解です」
サイモン分隊長のスコップを使って穴を堀る
サイモン分隊長が、鎧サイの甲殻と表皮の間に斧を叩きつけて隙間を開けていく
その隙間に、ロゼッタが青い片手剣を差し入れて解体
解体した隙間から、俺が内臓を引きずり出して掘った穴に捨てていく
解体が終わった頃に、カヤノが誘導してきたヘリコプターが到着した
ロープで鎧サイを結びヘリで持っていってもらう
「終わりですね。解体結構大変でしたね…」
「だが、鎧サイの素材は高く売れる。小隊の予算が潤えば俺達の装備も良くなるからやった甲斐はあるぜ?」
サイモン分隊長が帰り仕度を始めた
「食堂のご飯美味しくなるといいねぇ」
ロゼッタは、お腹すいたと言いながら歩き出した
この人はマイペースだよな
俺も帰り支度を始めながら思う
「久々に怪我なく作戦が終わった気がするな」
忘れてたが、帰ったら鎧が買えてるかもしれない
これを機に怪我が減ればいいなぁ