33話 遺族
用語説明w
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の隊員、補助魔法が得意
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
凍傷の影響は思ったより大きく、結局俺は医療カプセルに入った
皮膚が凍傷で壊死してしまったのだ
だが、すぐ回復薬を使ったため内臓や皮膚より下の組織は無事だった
凍傷を受けた他の二人も同じ感じだろう
五時間ほど回復溶液に浸かって出てくると、殉職したスアンの母親と姉が来ていた
現場で一緒に行動し救護措置を行った俺に、話を聞きたいとのことだった
正直、何を話せばいいのか分からない
「遺族が聞きたいのは、その殉職に意味があったかよ。作戦遂行に隊員の存在は不可欠、それを話してあげて?」
ゼヌ小隊長からお願いされてしまった
二人は泣き腫らした顔をしていた
「スアンは勇敢でしたか? 皆様の力にはなれていましたか?」
俺とスアンは、今回の作戦で初めて顔を会わせた
今回の任務が、アンデッド集団の陽動という危険で重要なものだったこと
また作戦開始前にジョークを言って、俺の緊張をほぐしてくれたことなどを話した
「スアンの死は無駄ではなかったんですね?」
「私たちの陽動が上手くいったことで、アンデッド集団を一掃することが出来ました。失敗していたら、どれだけ被害が出ていたか分かりませんし、無駄であるハズがありません」
実際、リッチの魔法は凶悪だった
防衛軍である俺達を魔法一発で行動不能にし、スアンの命を奪うほどだったのだから
スアンの母親と姉は、俺にお礼を言って帰っていった
スアンには可愛がっていた三歳の甥がいるらしい
姉は「まだスアンが亡くなったことが分かってないんです」と寂しげに話していた
仲のいい家族だったんだろうな
「カプセルから出てきたばっかりだったのに、ごめんなさいね」
ゼヌ小隊長が声をかけてくる
「大丈夫ですよ。ただ、最後に一緒に戦っただけの、初対面だった俺でよかったんですかね?」
「あなたは最後の姿を見てるからね。殉職が無駄ではなかったことは充分伝わったし、それで遺族の方も大分救われたと思うわ」
「はい…」
一つのミスで殉職
防御魔法をかけてもらうのを怠っただけで、スアンは死んでしまった
この事実は遺族には言えなかったが、遺族の涙が俺にも突き刺さる
俺が死んだら、フィーナは泣いてくれるかな…?
いや、泣くだろうけど泣かせたくない
よし、死なないために訓練しよう
・・・・・・
俺はMEBハンガーの裏にある、崖をくり抜いたらような射撃場に来ている
ここは、長距離射撃の訓練が出来る
MEBハンガーが近いので、アサルトライフルなどでの連射は厳禁だ
うるさすぎて整備長にぶっ飛ばされる
スナイパーライフルを壊してしまい、やっとメイルから新しい物をもらえた
「イズミF」、ボトルアクション式の名銃だ
一発ごとにリロードが必要だが、命中性能は抜群
更に、豊富な弾種が揃っている
「よし…」
俺は腹這いになって、八十メートル先の的を狙う
スコープ越しに…
ドンッ!
「当たった!」
嬉しくて声がはずんじゃったよ
恥ずかしい
「新しい銃の試し撃ちか?」
いつの間にかジードが来ていた
「はい、メイルから新しいスナイパーライフルを貰えたんで」
「最近、鎧サイが国境付近に出ているそうだ。スナイパーライフルをしっかり練習しておけ」
鎧サイ。Dランクの犀型モンスターで、その名の通り鎧のような表皮に覆われている
普通は、貫通力を持つ弾丸で鎧の隙間を狙撃して倒す
「りょ、了解です」
弱小小隊は一人のやることが多すぎるんだよな
ジードはどこかへ行く途中だったのか、そのままどこかへ行ってしまった
俺は練習に戻る
再度スコープを覗き、今度は百メートル先の的を狙う
ドンッ!
「よしっ」
当たるなぁ…
次は百二十メートル
………
……
…
この銃、当たるけど一回づつリロードするのめんどくせぇ!
撃つ→スコープから目を離す→リロード→スコープで的を探す→撃つ…
の流れになり、撃つ度にスコープで敵を探さなくてはいけない
敵が遠ければ遠いほど、スコープで敵を捕らえるのが難しいのに、毎回させられるが思ったよりストレスになる
だが、イズミFを使えば今まで当たらなかった距離の狙撃も出来る
悩ましい…、練習してなれるしかないな
「ラーズ、ちょっと来い!」
「え?」
振り替えると、シリントゥ整備長が手を振っている
何だろう?
「整備長、どうしたんですか」
「掘り出し物の鎧が見つかったんだよ! 買うなら早くしねぇと他に買われちまうからよ」
「え、鎧ですか!? 見たいっす!」
「おう、ハンガーの端末で見ろ!」
ハンガーのデスクトップ型情報端末にて
「この鎧ですか…!」
「訳有りだが、条件は全て満たしてるぞ。訳有りだが」
ん? 今訳有りって二回言った?
「…訳有りって何なんですか?」
「防衛軍ルートで買っても百八十万は越える品だが、訳有りだから百四十万だ」
「安い…って、逆に怖いわ! 訳有りって何なんですか!?」
シリントゥ整備長は、微妙な顔をする
どういう表情だ?
買いなのか? 待ちなのか!?
「これ、呪われてんだわ」
「の、呪い?」
「だから安いんだ。こんな値段で買える鎧じゃないぞ」
いや、危険な呪いなら安くても買えないよ!?
「で、どんな呪いなんですか?」
「勇者のゲームでお馴染みさ。着ると脱げなくなる」
「あー…よくある奴ですね。でも戦闘中に動けなくなるとか素早さがゼロになるとかじゃなければ、まぁ」
「そこの判断はお前次第だろ?お買い得には違いねぇんだからよ」
「…いや、でもゲームと違って俺には私生活がありますよ? トイレとか風呂はどうするんですか!? 人間の尊厳を失いますよね!」
「トイレは鎧脱がないでも出来るようになってるぞ。風呂はさすがに無理だがな」
「解呪は無理なんですかね。せめて鎧を脱ぐ方法は?」
「見てみないと厳しいが、解呪は厳しいんじゃねぇか。割り引きしてるくらいだしな」
確かに、解呪出来るならするよな
その方が四十万ゴルドも高く売れるわけだし
「ただ、脱ぐ方法はあるぞ」
「え、あるの!?」
じゃあ問題解決じゃん!
「聖水を使うと一時的に呪いが弱まり脱げるんだってさ。だが、聖水って二千ゴルドはするだろ? 一回脱ぐごとに二千ゴルドってきついっちゃきついよな」
「…経費で出ませんかね?」
「メイルに聞いてみな。多分無理だろうが」
…悩む
だが、鎧は必須、更に四十万ゴルドが浮く
どうするかな