32話 冷属性範囲魔法
用語説明w
回復薬:細胞に必要なエネルギーを与え、細胞を保護し代謝を活性化
カプセルワーム:ぷにぷにしたカプセル型で、傷を埋め止血と殺菌が出来る
今日も元気に防衛作戦が展開中
昨年の台風で道路が遮断し、住人が避難して無人になっている集落が戦場だ
敵はアンデッド軍団
発生理由は不明だ
ただ、まずいことにリッチがいるらしい
生前に魔法使いだった者がアンデッドになり、更に月日が経つことで強力な魔力を得た魔物だ
「お前、耐魔力魔法付けてもらったか?」
隣の兄ちゃんが話しかけてきた
「さっき、支援班の人にかけてもらいましたよ」
今日は敵が強いので、他の小隊との合同作戦
この人は今回俺と同じ強襲班になった他の隊の人
水性っぽい耳の魚人で、年はちょっと上かな?
「俺、この作戦が終わったら結婚するんだ…」
「いきなりフラグ!? 会ったばっかの俺に言うの!?」
「和ませたんだよ、冗談じゃねえか」
「それ和みます?」
今回の作戦内容はこうだ
アンデッドは火に弱いので火葬にする
だが、リッチの回りには魔法を使うアンデッドが集まっていて火力が高い
よって、強襲班で建物を盾に攻撃、アンデッドをおびき寄せる
そして、今回呼んだ火属性範囲魔法(大)が使える魔法使いが一掃
その後、残りを殲滅だ
住宅の影から先を見てみる
…骸骨が多いな
ゴーストはいるのかな
ゴースト系は透明で霊視しないと見えない魔物だ
仮想モニターに霊視カメラの映像を映す
「ゴーストはいないのか…」
ゴーストの姿は無し
骸骨とゾンビのみだ
アンデッドでも骸骨ができやすい、ゴーストができやすいとか何か法則でもあるのかな?
「情報班から強襲班へ。敵の種類とゴーストの有無を確認しろ」
うわ、呼ばれた!
「こちら強襲7、霊視カメラでゴーストの姿は無し。集落のメインストリートに、骸骨が二十体ほどとゾンビ数体が確認できます」
何でこっちが情報班に情報渡すんだよ
逆だろうが
「情報班了解。まもなく敵が攻撃範囲に入る、準備されたし、以上!」
霊視カメラでゴーストチェックしといてよかった
焦るとこだったぜ
まもなくだ
後は、合図を待って陽動、攻撃、そして大火力攻撃を待って掃討で終わり
簡単な仕事…のハズ
「そろそろだな」
魚人がまた話しかけてくる
不安なの?ねぇ、不安なんだろ?
「そうですね」
まぁ、俺も不安だし構ってやれる心の余裕はないけどな
「情報班から各班へ、敵が迎撃ポイントに入った。現時点で攻撃を開始せよ! 敵の魔法攻撃に注意されたし」
「ッシャア!」
魚人の兄ちゃんが気合いを入れる
俺は、ロケットランチャーを一発斜め上↗️方向に発射
上空から捕捉した敵に落ちていくはずだ
「発射箇所は狙われますから移動しましょう」
「おうよ!」
路地を抜け、民家の影からメインストリートを伺う
骸骨とゾンビがいるわいるわ
魚人と頷き合い、アサルトライフルを撃ち始める
ダダダダダダっ
ダダダダダダっ!
「移動しましょう!」
「おう!」
骸骨が魔法を詠唱してる
魔法が飛んでくる前に場所を移動しよう
民家の反対側の角に回る
隣の民家との間から二発目のロケットランチャーを上空↗️に発射
路地を越えて後ろの家に移動する
「情報班から各班へ、まもなく範囲魔法(大)が発動する! 発動ポイントは変更無し、待避せよ!」
思ったより早いな
ここは、発動ポイントに近すぎる!
「下がりましょう! ここ近すぎるっす!」
「ああ、ここやべー!」
慌てる魚人兄ちゃん
「おい、下がろうぜ!」
他の強襲班の人も待避してきた
「はい!」
俺たちも民家の脇を抜け下がる
カッッッ!!
「っ!?」
カシャシャシャーーーーーーーーン!!
…
……
………
…な……何が起こった…?
体が動かない…
…
…俺は横向きに倒れていた
景色が白い
意識が朦朧としている
「っ…」
体を無理やり仰向けに倒す
手足が動かない
何かの攻撃を受けたようだ
体の右側が白くなっている
…いや、凍っている?
無理やり左手を動かして回復薬を飲む
「あぁ…」
体に感覚が戻ってくる
次に回復薬を顔やアーマーの中のかけ、右腕と右足に回復薬のアンプルを刺して注入する
「っぐぁ…」
凍った皮膚がひび割れ出血した
頬や右肩から出血している
代謝が上がり、血流が増したからか?
出血部位にカプセルワームを貼る
「あっ…!」
見ると、魚人の兄ちゃんが倒れている
すぐに回復薬をかける
そして、顔を持ち上げ回復薬を飲ませる
…反応が無い
首に手を当てると、脈がない!?
ヤバいヤバい!
心臓マッサージだ
「強襲7から作戦本部! 敵の攻撃を受けた! 強襲6が負傷、脈がない! 至急救護願います!」
「本部了解、敵リッチが使った冷属性範囲魔法(大)と思われる! 救護は向かわせている! 付近に後二名負傷者がいるので強襲7は応急措置に向かってくれ!」
何、さっき待避してた強襲班の奴か!
「強襲7了解! 負傷者は脈がないんだ、救護急いでください!」
仮想モニターにマップと強襲班の隊員の位置を確認する
すぐ前の民家の向こう側だ
回復薬がもう残ってない
俺は魚人の兄ちゃんのポシェットから回復薬を取り出し、他の隊員の救護に向かう
本当は心拍が戻るまで心臓マッサージをしたかった
だが、冷たいかもしれないが他の負傷者の状況の確認の方が優先だと思った
ドッガァァァァァァァァァァァン!!
轟音が響いた
火属性魔法(大)のようだ
改めてみるとかなりの広範囲だ
敵の進行はとりあえず止まったか
それを期待して負傷者の場所に急ぐ
二人の負傷者は同じ場所、路上裏に倒れていた
回復薬をぶっかける
「うぅ…」
よし、息はある
すぐに回復薬を飲ませて体内から回復
負傷者のポシェットから回復薬とカプセルワームを取り出し凍傷部分に使っていく
やはり、露出部分の皮膚の凍傷がひどい
だが、範囲魔法の発動ポイントが俺たちより遠かったようで若干凍傷の程度がましに見える
「強襲7から作戦本部! 負傷者二人は息あり、応急措置完了です!」
「作戦本部了解、まもなく救護が到着する!」
「敵は!? ここに待機でいいんですか?」
「火属性範囲魔法(大)でリッチ及び取り巻き大多数は消滅した。現在、他の強襲班で掃討中だ。待機して応急措置を続けてくれ!」
「了解!」
俺はすぐに魚人の兄ちゃんの所に戻る
名前も知らない魚人の兄ちゃん
俺と同じ作戦の従事者は、変わらず路上に横たわっていた
残った回復薬をもう一度かけ、心臓マッサージを再開する
戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ!
くそったれ!
…戻れ、戻って来い!
・・・・・・
やっと救護が来た
AEDや回復魔法を使いながら、本部まで担架で運ぶ
結局、緊急へりで病院まで搬送となった
…だが、命は戻らなかったそうだ
後で聞いた話、魚人の兄ちゃん…名前をスアンと言うそうだが、今回スアンは耐魔力魔法をかけていなかったらしい
リッチが放った冷属性範囲魔法(大)は威力も範囲も凶悪だった
出撃の際に支援班の補助魔法使いにかけてもらった耐魔力魔法(小)が、俺と二人の負傷者の命を救った
いつもはちゃんとかけてもらっていた奴らしい
多分、今回は遅れてきたとか、そういう下らない理由なのだろう
「俺に確認しておいて、何でお前が耐魔力魔法かけてもらってないんだよ…」
俺は、確認し返さなかったことを後悔した