30話 転落休み
用語説明w
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹
フィーナが静かに聞いている
「普通は足だけじゃなく腰骨や背骨にもダメージがあるはずなんだけど、それもなかったしね。受け身がうまくいったってことだよな」
「…」
「引き寄せの魔石とホバーブーツの組み合わせは凄くいいと思ったよ。練習しないとな」
「…」
「すぐ治ったんだけどね。治療を受けたら言う約束だったから一応言っとこうと思ってさ。全然大したことないんだけどね」
「…」
「あの…」
「…」
「以上で報告を終わります」
俺は敬礼をして部屋を出ようとする
「おい」
フィーナが睨みを効かせる
「…はい?」
「話が終わってないし」
フィーナが立ち上がる
「ま、まだ終わってないかな?」
フィーナはため息をつく
「…ラーズが防衛軍を続けるのは分かったし、もう止めないよ」
「あ、うん、ありがとう…」
フィーナの意外な言葉に変なお礼を言う俺
「ただ、少しは対策をしてよ。何をすれば怪我が減るわけ? 危なっかしくて見てられないよ」
大策って、そんな事ができれば誰も苦労しないし戦死もないだろ
「とりあえず鎧を買うことかな?」
本音を言うわけもいかず、とりあえず答える
「じゃ、買いなさいよ!」
「まだ金が無いんだよ!」
切ない会話だな…
だけど事実だ
「いくら足りないの?」
「今、七十万ゴルドたまってて、あと百万ゴルドくらいかな」
「…私が貸してあげるから買ってよ」
「妹から金が借りられるか!」
「妹に金借りてでも防衛軍を続けるか、私と龍神皇国に行くか選んでよ!」
「なんだよ、その選択肢!?」
「せめて怪我を減らす努力はしてよ! 本気で心配なんだよ!? それができないなら私ももう我慢しない。セフィ姉にも言ってやる」
フィーナが涙目で見てくる
泣くのは反則だって
「…お前、百万も持ってるのか?」
「貯金が百万ちょっとあるよ。ラーズと違って無駄遣いしてないし」
「お前が俺に奢らせてばっかいるからだろうが!」
・・・・・・
…借りてしまった
妹から百万ゴルドの借金だ
龍神皇国の騎士団は高給なんだな
期限は一年間
一年間で返せなければ防衛軍を辞めろって条件だ
かなり緩い条件で普通にやれば返せるだろう
フィーナは、本気で俺のことを心配してくれていた
だけど、防衛軍を続けたいという俺の意思も尊重してくれた
その気持ちがありがたい
嬉しくて涙が出そうになった
いつか、フィーナの隣で…
Bランクのフィーナやセフィ姉達の隣で戦えるような兵士になれるだろうか?
Bランクの才能が無かった俺には、単純な強さとは別の強さが必要だ
あがいて、もがいて、そして諦めない強さが戦場にはある
とりあえず、資金が用意できたので軍事関連のショップを見に来てみる
今日はチラ見と値段チェックだ
明日は整備長のシリントゥに相談してみよう
「鎧がいっぱいだね」
フィーナがひやかし感満載で商品を見ている
外骨格型で、魔法耐性、耐衝撃性、耐刃性能、防弾性能、更に接骨機能がついたものは、新品で二百万ゴルドくらいする
うげ、高いな
だが、これは一般価格
隊で買えばもっと安くなるはずだ
オプションを見ていくと、腰部分に小物入れが付いている
PITや倉デバイスを付けられて使いやすそうだ
更に、足と胸に隠しポケットがあり、魔石やナイフが収納できるオプションもある
動きを邪魔しない隠密性も重視した装備だろう
めっちゃいい
ホバーブーツと相性がよさそうだ
「あんまり防御力高そうなのないね」
「そうか? 各耐性を持って充分だと思うけど」
「自動再生機構とか、魔障壁とか物理攻撃無効とか…凄い!って感じの性能が無いなぁって」
「そんなファンタジーな性能聞いたこと無いわ! どんな鎧だよ」
「オルハリコン合金や純ミスリル加工、アダマンタイト鋼とカーボンナノチューブ繊維の合成素材とかで出来るって言ってたよ?」
「希少素材じゃねーか! 企業買収レベルの金が必要だろうが。それに闘氣で鎧を包むからこそ鎧の性能を最大限に引き出せるわけだろ? 俺には宝の持ち腐れだよな」
「ふーん…。せめて防御魔法を展開出来るようにしたら?」
「軍は組織でチームだからね。一人で何でもするより、誰かの力を借りた方が効率はいいんだよ」
「うーん…、そんなものなの? ちょっと心配だけど、ラーズがそういうならいいのかな」
「いいと思う。ただ、隊でも相談して見るよ。防衛軍の割引もあると思うからさ」
新しい装備を選ぶのは、やはりウキウキする
帰り道
「すぐに鎧は買えそうなの?」
「隊で意見を聞いてから探してもらう予定。急ぐけど、高い買い物だから慎重に選びたいんだよ」
「うん、分かった」
フィーナが頷く
防衛軍の仕事はこの国になくてはならない仕事だ
モンスターから誰かの命を守るために自分の命をかける
やりがいもある
だが、フィーナに心配をかけていることは事実だ
心配してくれ、俺の意思も大切にしてくれたフィーナを大切に思うし、少しでも早く安心させたいとは思う
先は長そうだけどな
「借金を返すまで、ラーズは私に頭が上がらないよね? 別に敬語で話してもいいからね」
…前言撤回だ
「金はありがたく借りるが、兄の尊厳は渡さんからな?」
「感謝の気持ちを何で表すのか楽しみだなー」
「そもそもお前、そんな簡単に大金を貸して大丈夫なのか? 将来がちょっと心配だよ」
「だってラーズは兄妹だし、実家押さえてるし身分確認もできてるし逃げられないじゃん。期限守れなかったらどうしよっかなぁ…?」
…ちゃんと考えてそうでお兄ちゃんは安心だ
「とりあえず、節約するから奢りとかは今後無しだからな。奢ってくれるのは受けてやるけど」
「妹に奢ることも出来ないなんて、防衛軍やめた方がいいよ。今まで通り普通にやれば返せるんでしょ?」
「あー言えばこう言うな! 屁理屈娘が!!」
「うっさい! 私のほぼ全財産貸したんだから寿司ぐらい奢れ! 心配ばっかさせんな!!」
ギャーギャー言い合って、結局回転寿司を奢らせて頂いた