24話 大先輩1
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで映像を受信する
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
防衛軍の拠点は、基本は小隊ごとに各所に点在している
どこで敵軍やモンスター等の防衛軍が対処すべき事案が発生しても、すぐに駆けつけられるように拠点は分散させているからだ
このように、犯罪行為は警察施設、火災や災害等は消防施設、防衛やモンスターは防衛軍施設で担当している
だが、敵軍やモンスターの襲撃規模が大きかったり、特殊な対応(対空能力や特定属性等)が必要な場合は、一つの小隊では対応できない
この場合は中隊や大隊本部が指示を出して、複数小隊を召集したり各小隊から人を一時的に集めたりする
また、小隊相互に連携をとることもある
仲のいい小隊同士は、よく協力し合って共闘する
今回は、三小隊合同での防衛作戦
と言っても、うちの1991小隊は俺だけが派遣されただけ
お手伝いって感じらしい
メインは1922小隊で、編成は射撃型が多いオーソドックスな隊だ
他は、どっかの隊から応援が来てるらしい
小隊長が作戦を説明している
「敵は、小型戦車とドローン、その制御ユニット基地だ。だが、周囲にノムルウルフやニルギコングが確認されている。」
作戦概要は、現場が盆地であるため丘の上から包囲して攻撃する
ドローンと戦車を優先撃破
その後、優位な丘上からモンスターを殲滅するらしい
二十人以上が参加する比較的規模の大きい作戦だ
俺の任務は、丘が切れる盆地の入り口で逃走してくるモンスターの撃破
獣人のおっさんとペアだ
「作戦開始!」
小隊長の号令が響いた
・・・・・・
俺は偵察用ドローンを木の上に飛ばして簡易偵察カメラとする
インカムから流れてくる情報によると、ドローンは五機で全て撃墜済み
だが、モンスターが思ったよりも多く、一部で混戦になっているらしい
まだ戦車は見つかっていないとのこと
出番はまだ先だろう
「お前いくつだ?」
今日の俺のペアは、ジャンという獣人のオッサンだ
「23です。大学出て防衛軍に入りました」
「そうか、人を殺したことは?」
こいつ、すげー簡単に聞いてくるな
「前回の作戦で初めて…」
「そうか」
それから、俺達は互いの戦力を確認する
ジャンは、戦車壊しというロケットハンマーを使うそうだ
一時的に獣化して身体能力を高める固有特性も持っているらしい
俺がホバーブーツで陽動、ジャンがロケットハンマーで止めを差す作戦になった
「ジャンはこの仕事長いんですか?」
俺は興味本意で聞いてみる
「まあな。もう十五年以上は軍にいるな」
「長いですね。じゃあ、十年前のハカルとの戦争を経験してるんですか」
「ああ、参加してる」
今から十年前に停戦となっているが、停戦まで五年ほどシグノイアとハカルは全面戦争となっていたらしい
十年前に龍神皇国が仲裁に入り停戦協定を締結したそうだ
だが、二年前に両国が侵略行為を受けたとお互いに宣言して国交を断絶、出入国を拒否した
開戦宣言がないとはいえ、小規模な戦闘が繰り返されている現在の状況に至った
ただ、一般民としては、大学生だった俺も含めて戦争の感覚は少なかった
出入国の許可がなかなか出ないといったデメリットはできたが、知らぬ間に防衛軍がハカルの対応をしてくれている感じだ
「当時はどんな戦争だったんですか?」
「泥沼で殺し合いをしてるようなものさ。酷いものだったよ」
ジャンは話してくれた
東の国境付近の町が戦場となり、何人も戦死者が出たというのは聞いている
だが、俺がこの国に来た四年前は平和そのもので、戦争と言われても全然ピンと来なかった
「…爆弾で家族が肉の固まりに変わってな、助けを求めて外に出たら魔法や砲弾が飛んできて町が壊滅してたんだ」
「…」
十年前の戦争は、東の国境付近の町の所有権を争った戦争だ
他の地域では戦闘はなかったが、その町は激戦区となり、挙げ句町は無くなったそうだ
「その後、復讐のために防衛軍に入ってな。敵兵を何人も殺したんだが、結局誰を殺せば復讐になるのか分からなくなっちまったよ」
「そう…ですか」
なんと答えていいかわからない
駆除を目的とした戦いではない、対話できる相手を、対話を拒否して殺戮する本当の戦場
俺にはそんな経験がないからだ
少なくとも、あの魔法使いとの戦いは殺戮ではなかった
「家族が殺され、仲間が殺されるとな、もうお互いに止められなくなるんだよ」
老兵は寂しそうに語る
「辛気臭せえ話になっちまったな。」
老兵は新兵に苦笑いを見せて、そして伝える
「戦場の大先輩からのアドバイスだ。死ぬな、そして馴れるな、だ」
「死ぬなと…馴れるな、ですか?」
「そうだ。戦死で多いのは馴れによる油断だ。生き残るのが当たり前になって、死が想像できなくなった奴は死ぬ。死を忘れるな、メメント・モリってやつだ」
メメント・モリ
「人間はいつか必ず死ぬ、これを忘れるな」という大昔の教訓だ
「メメント・モリ…」
俺は自分に聞かせるように呟く
「話が長くなったな。年取ると若い奴につい長話しちまう」
そう言ってジャンは、ロケットハンマーを背負い、ロケットランチャーを持って立ち上がった
俺も立ち上がる
インカムから、数匹のモンスターが逃走を始めたと通信が入った
「ジャン、今日もしっかり生きて帰りましょうね」
「ああ。しっかり戦って食い扶持稼ごうぜ」
俺達は先ほど決めた配置場所に向かった




