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閑話3 魔法兵器

用語説明w

シグノイア:惑星ウルにある国

ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国

MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット


サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)


防衛軍には、軍事訓練というものが少ない

理由は簡単、単純に余裕がないのだ


隣国ハカルとの小競り合い、自然発生するモンスターの対処

日々の業務でさえ人が足りていないのに、そうそう頻繁に軍事訓練なんてやってられないのだ


だが、国を守る軍隊である以上、ある程度の練度は必要だ

そういうわけで、本日は中隊本部が指揮する五つの小隊による合同訓練が行われている



「おい、そこの青銀の楔針を取ってくれ」


「はい、一本でいいですか?」

俺は、ローブを着た魔法技術者の補助をしている


今日の共同訓練は、「多層ルーン型収束魔法陣」による熱線魔法発動訓練だ


だが、小隊が管理していた肝心の多層型魔法陣がなぜか劣化していて、稼働に問題が出てしまっていることが今日判明した

現在、大慌てで稼働のために努力(ごまかし)が行われている


「ダメだ、二層目と三層目の間で魔力の伝達が十分の一近くに下がっているぞ? 一回上層を剥がさないと無理だ」


「い、今からですか?」


「この状態で魔法を撃っても、収束率が低すぎて熱線にならないぞ。ったく、倉庫内に保管してて何でこんなに劣化してるんだ!?」


多層型ルーン収束魔法陣は、半径二メートルほどの魔方陣が書かれた精霊銀板を三枚重ねた三層構造で、重ねた板の周囲四面にそれぞれの層を直結する魔力回路が描かれている

これに接続した受信魔法陣で術者が魔法を発動すれば、その魔法を収束、強化して打ち出す高威力魔法兵器なのだ


しかし、常に忙しい小隊が管理(放置)しており、ほとんど使われていない

なぜ、この強力そうな魔法兵器が使われないのか?


それは、シグノイアとハカルが開戦宣言をしていないことによる


兵器を使うということは、戦争を始めますと国際世論は受けとる

そして、戦争を()()()国として国際的な批判を受けることになり、更に相手の国に侵略された防衛行為という大義名分を与えてしまうことになるのだ


だからこそ、魔法から科学に至る兵器、さらに兵器と見なされるBランク以上の戦闘員を小競り合いに使うことはできない

現状は、Cランク以下の戦闘員で構成された歩兵部隊、自然発生を見せかけたモンスター、身元がばれないゲリラ兵などで小競り合いを続けているのだ


だが、もし開戦宣言が行われたならば、都市部に向けて多層型魔法陣や大型弾道ミサイルのような破壊兵器を使用することもあり得、今回の訓練が必要となってくるのだ


もっとも、開戦宣言の可能性はしばらく無いといえるだろう



「とりあえず、この魔法陣の板をずらそう」


「分かりました、いきますよ…、うぐぐぐ…」

俺達は、土台となっている金属の台から多層型魔法陣を押す


ジャリリリリ…


何かの粉を磨り潰すような音がする


「何だこの音は?」


「何か土台と魔法陣の板の間が錆びてますよ?」


俺達が改めて多層型魔法陣を調べると、多層型魔法陣の板の角付近が一ヶ所だけ明らかに腐食していることが分かった


「原因はこれだな。三層と土台の一部が腐食して魔力回路が途切れているのだろう。MEBを呼んで三層を外して魔力回路を描くしかないな」


「じゃあ、呼んできますよ」



訓練開始まで間がない

俺達は、フルスピードで作業を続ける


ここは、空調もない倉庫の中

汗だくで熱中症になりそうだ


「おい、これを見てくれ」


MEBで魔法陣が描かれた板を外し、三層目の板と土台をむき出しにする


こういう作業は、MEBは本当に便利だ

人間の手を大きくしたような魔導マニュピレーターは、器用に精霊銀板を持ち上げる

クレーンやフォークリフトだとここまでスムーズにはできない


「あー、これ多分あれっすよ」


「何だ、心当たりあるのか?」

魔法技術者が、腐食した板を削りながら保管していた小隊の隊員に話を聞く


「いや、トイレ掃除用の酸性洗剤を前にこぼしたとか聞いたことがあるんですよ。ちょうど、液体がかかった下の部分が腐食してるからそれじゃないかなって」


精霊銀板は酸化に弱い

防錆コーティングをしていても、酸性洗剤をかけられたら腐食してしまうだろう


「…何で腐食しやすい精霊銀板と酸性洗剤を一緒に置くんだ!」


魔法技術者は怒ったところで時は巻き戻せない

俺たちはヒーヒー言いながら、腐食部分をけずって魔力回路を描いていった


「おい、底の図柄違うぞ! 中性洗剤で消すんだ、急げ!」


「台座の魔力回路は今回は無視でいいですか?」


「もう時間がない。それは放熱用だ、冷属性魔法を使える奴をかき集めて代用しよう」


「中隊からそろそろ魔法陣運べって言ってきてますよ?」


「あと十分だって言っとけ!」



三十分後…


俺達は奇跡的に多層型魔法陣を復元して、発動場所に設置を完了した


「本当に動くんですか?」


「テストの時間がなかった。テスターで魔力回路の動作が確認できたから大丈夫だと思うが…」


国民の血税で買っている兵器

劣化してました、じゃ済まない


しかも、今日は中隊本部の幹部も見に来ている

何とか一発だけでも撃ってこの訓練を乗り越え、後日故障の発見ということにしなければ…!



熱線魔法の術者が魔法陣に立つ


分かってるだろうな? という理不尽なプレッシャーを肌で感じながら、術者は呪文を唱える

電力を魔力に変え、一層の魔法陣で熱線魔法を増幅、次の二層で収束と指向性を持たせ、最後の三層でエネルギーを維持し続ける



キュゥンッ…!



レーザー兵器と化した光線が目標を破壊、熱量を与えて膨張爆発をおこす


「おい、魔法陣が熱暴走を起こしてるぞ! 電源のブレーカーを落とせ!」


「冷属性魔法でもっと冷やせ!」


「やばい、台座が熱疲労でヒビ入りました!」


魔法陣周辺ではとんでもない熱風の中の、隊員達が作業を続けていた



・・・・・・



「おう、ラーズ。結局熱線魔法は一回しか撃てなかったんだな」


「…一回撃てただけで奇跡ですよ。凄い疲れました、汗だくだし早く帰りましょう」


「へー、大変だったんだな。俺なんか同期がいてよ、最新型の幹部用指揮車両に乗せてもらったてたんだぜ? いやぁ、クーラー効いてるしリクライニングソファーは座りやすいし最高だったぜ」


「サイモン分隊長、ズルいですよ…」


今日は、サイモン分隊長が着弾確認班、俺が発動班だっただ

不公平さを感じながら、俺達は隊舎へ向けて車を出発させるのだった



合同訓練は、防衛軍のお偉いさんも来るので気を使います

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