251話 秘密工場1
用語説明w
ナノマシン集積統合システム2.1:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化、左腕の銃化も可能となった
シグノイア純正陸戦銃:アサルトライフルと砲の二連装銃
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
小隊長室
氣功拳士アミラが隊舎に来てくれた
海の町の魔導プラントの調査結果の報告のためだ
「お疲れ様です、アミラ」
「ありがとう、ラーズ」
ペットボトルのスポーツドリンクを渡すと、おいしそうに飲み始める
飲み終わると、アミラが真面目な顔になった
「聞いてほしいの。魔導プラントからの氣脈の調査で気が付いたんだけど…」
ゼヌ小隊長、ジード、オズマ、そして俺でアミラの話を聞く
デモトス先生は出かけていて不在だ
アミラが紙の地図を広げる
北にハカル、南にシグノイアが書かれた地図だ
南側の端の海上には魔導プラントがある海の町が描かれている
「私が氣脈を調査したところ、魔導プラントの魔晶石から氣脈が通っていることが分かったの。これは、人為的な氣脈よ」
氣脈
氣力の通り道で、氣力とは肉体と魂を繋げる力だ
人体と同じように惑星にも氣脈が通っており、この氣脈が通っている惑星にしか生命は誕生しない
肉体は土に還り、霊体は氣脈へ還る
惑星の氣脈とは、氣力の通り道だけでなく、霊力や精力も通る惑星レベルの巨大ネットワークなのである
「人為的?」
「ええ。氣脈は、環境によって移動する。そして、置き石をしたりして物理的に氣脈に干渉する技術が風水術よ」
そう言って、アミラは地図に線を描いた
線は曲線であり、シグノイア南にある海の町から出発、黒竜の洞窟を経てハカルに入り、ハカルの北を通って東にあるカツシの町を通過、再び海の町に戻って来た
描き終わってみると、ハカルとシグノイアの外周を通る巨大な円が構成されている
その円周上に、黒竜の洞窟と海の町がある
巨大魔晶石がある、二か所を通る氣脈の巨大な円だ
「円…?」
「海の町の魔導プラント、そして黒竜の洞窟も調べたわ。氣脈が明らかに誘導され、この二つを繋いでいる。偶然にしては不自然だと思うの」
「魔法陣の可能性も…?」
ゼヌ小隊長が呟く
「それは私も考えました。ただ、黒竜の洞窟と魔導プラントの二点だけだと図形が判明しません。もしかしたら、ハカル側にも魔晶石がある可能性も…」
アミラが地図に描かれた円を指で沿わしていく
魔導プラント、黒竜の洞窟を経て、円周の線はハカル国内に入っていく
「また、あの二人に聞かなくてはいけないことが増えたわね」
ゼヌ小隊長が俺を見た
・・・・・・
アミラが帰ると、今日の指示を受けた
今日は特殊任務、秘密工場の制圧だ
リナリーの話した秘密工場
それは自律型兵器やオートマトンの工場だ
いつの間にか自動拠点が設置されて自律型兵器が稼働、更に各地でオートマトン部隊が自然発生していた
そして、これらをハカルの戦力とリナリーが特定していたのだ
シグノイア国内でシグノイアの敵を生み出し、防衛軍が戦っていたということらしい
「必要があればBランク戦闘員を要請するつもりよ。でも大規模な魔晶石が確認できないから、量産されたBランクがいる可能性は低いわ」
ゼヌ小隊長が言う
Bランクが量産できるという異常事態
当然、本来なら防衛軍のBランクを使って制圧をするべき特殊任務だ
だがBランクを動かすということは、各種手続きを行って防衛軍の組織内に自らの情報を振りまくということだ
環境破壊の目と耳は、防衛軍内にも存在している
「ラーズの実力は信頼できる。Bランクを使わずに調査が行える、これは1991小隊の利点よ」
そう言って、ゼヌ小隊長に特殊任務を頂戴した
特殊任務は嫌だけど、信頼されているという実感は嬉しいな…
俺も単純だ
「ラーズ、気を付けてな」
オズマに声をかけられて、俺は頷く
秘密工場は、国境に近い下町の工業地帯に建てられていた
他の工場と見分けがつかない
公安と防衛軍が外周を固めて待機している
「ラーズ、久しぶり。今日はよろしくね」
「ハイファ、またよろしくお願いします。ピーターもね」
俺の言葉に、ハイファの肩に立っていたフェアリーが優雅にお辞儀を返してくれた
マッスルフェアリーのハイファ
重近接戦闘を得意とする兵士だ
フェアリーのピーターと組んでおり、ピーターは複数の補助魔法を使える
今回はハイファの小隊が待機して、俺達が調査した後に突入する算段になっている
「あの式神の龍はどうしたの?」
「前回の戦闘で負傷して治療中なんですよ」
妖精のピーターが口をパクパクさせて、補助魔法を使ってくれた
防御魔法(小)、硬化魔法(小)、耐魔力魔法(小)、そして身体強化魔法(小)だ
「ありがとう、ピーター。相変わらず優秀だね」
ピーターは、優雅に会釈をした
「ご主人、入口にゴーレムを確認。三つ首の変続的な形をしているよ」
データがドローンで工場内を確認
設置されているゴーレムの映像を表示してくれた
「これはケロベロス型…?」
「これは私が相手をするわ。ラーズは、その間に奥を確認してきてよ。敵がいないなら、部隊を突入させちゃいましょう」
「了解しました」
俺は頷いて奥へ進んだ
工場内には入らずに、壁沿いに敷地を進む
ドッゴァァァァァァァン!
遠くから破壊音が響く
ハイファが突入したようだ
俺は敷地の反対側に回る
建物の中を見ると、オートマトンの体部分を作り途中の機械が見えた
データに映像を記録させ、リアルタイムでオズマと1991小隊に送る
ハカルの送り込んだものだと思っていたオートマトンが、実はシグノイア国内で作られていたとは…
この工場は、シグノイアとハカルの対立を深めるための偽装工作
シグノイアとハカルの戦争は仕組まれたものだったのだ
では、シグノイアとハカルを戦争させる理由は何なんだ?
秘密工場の稼働は止まっている
静かな分、音が拾いやすい
「ご主人、工場内に一名生体反応を確認」
データの声に、俺は頷く
音の質からして人間だ
俺は右手に陸戦銃を持ち、左手をナノマシンシステム2.1で銃化、小型杖を持つ
身体強化魔法の力で、ナノマシンシステム2.0を使わなくても片手で陸戦銃が撃てるのはいい
音のする方向へ静かに接近すると、一人の男を発見した
「…っ!?」
男は作業服のような服装だが、手には陸戦銃を持っている
「…データ、奴の写真を撮ってジードに送れ」
「了解だよ! 手配者のデータベースの照合だね?」
「違う、防衛軍の隊員のデータベースだ」
奴が持っている陸戦銃
陸戦銃とは、シグノイア純正陸戦銃のことを言う
防衛軍の正式採用歩兵銃であり、アサルトライフルと砲の二連装銃という、一般的なアサルトライフルには無い珍しい特徴を持っている
つまり、防衛軍でしか手に入らない銃なのだ
「了解だ…よ…l△t…s…」
突如乱れるデータの声
「データ?」
呼びかけに応じないデータに違和感を感じた時、目の前の男が距離を詰めて来た
ドガガガガガガガッ!
アサルトライフルの連射を、機械類の影に隠れて躱す
机の下に横になり、陸戦銃の男の足元に向けてアサルトライフルを撃ち返す
ドガガガガガッ
くそっ、防衛軍の陸戦銃での撃ち合いとは変な気分だ
いつもは味方が持っている銃なのに!
ガガガガガッ!
ドガガガガガッ!
ガシュッ!
「うおぉぉぉっ!?」
アサルトライフルの応酬から、突如散弾を撃ちこまれる
跳弾も含めて、とんでもない弾丸の密度が俺を襲う
陸戦銃は防衛軍の隊員なら誰でも持っているが、決して初心者用の武器ではない
使い勝手が良く、自然淘汰されてきた防衛軍の採用武器の中で、現役を保っている素晴らしい銃なのだ
安定のアサルトライフル、散弾とグレネード弾に対応した砲
俺も幾度となくお世話になった愛用銃だ
この銃で、全国の隊員達がF~Dランクまでのモンスター達と戦い、時にはCランク、Bランクとの戦闘にも参加している
「ラーズ、聞こえるか!?」
ジードから通信が入った
「はい! 現在、交戦中です!」
「相手を特定した、クラッカーだ! サイバーポイズンのエイネル! AIをすぐに止めろ、危険だ!」
マッスルフェアリーのハイファ
124話 妖精使い 参照
誤字報告ありがとうございます!
誤字多くて申し訳ないです…
評価、ブクマ、感想、ありがとうございます
モチベを頂いてます!




