250話 フィーナとの…
用語説明w
大剣1991:ジェットの推進力、超震動の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラーの特性を持つ大剣。杖、槍としての機能も持つ
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
巻物:使い切りの呪文紙で魔法が一つ封印されている
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している。ラーズと付き合うことに
俺の必殺技
それぞれの能力に特化している1991小隊の隊員たちの中で、俺が唯一、一番であると自負している瞬間火力、フル機構攻撃
フル機構斬撃は、1991の五つの要素、
・刃体の硬度
・ジェットブースターの推進力
・超振動機構
・霊的構造
・パイルバンカー機構
これに、
・特殊薬莢
・護符による硬化魔法
・テレキネシスの衝撃
の三つを追加してバージョンアップした
Bランクの闘氣や魔力の防御力であっても、意識を攻撃に向けさせて防御力の薄い部分を攻撃すれば貫くことができると実証できた
…そして、さらなるバージョンアップ方法を思いついてしまった
思いついたというか、デモトス先生の丸パクリだ
刃体に毒を塗る
単純にして超効果的な、昔からある技法だ
完全に盲点だったが、防御力を貫けさえすればバリア内の内臓に毒を入れることができる
殺せなくても、ダメージの蓄積、意識の混濁、解毒の手間など、塗るという簡単な行為に対して効果が大きい
単純ながら、こんなにコスパのいい強化方法が他にあるだろうか?
「モンスターハンター資格を持つ人とかは、近接武器や矢に毒や精神属性魔法を仕込む人はいるよね」
フィーナがワインを飲みながら言う
今日は、よく行く「ゴシップ」という店でフィーナと夕食だ
夕食の会話が戦闘技術についてとはどうかと思うが、兵士と騎士のカップルだ
自然な事だろう
「やっぱり、Bランクでも毒は脅威に感じるのか?」
「それはそうだよ。実際に、呪いや麻痺、集中力の低下…、再生能力持ちや回復魔法持ちじゃないと、やっぱり不利な状況になっちゃうもん」
「回復魔法か…。フィーナは回復魔法使えるから、毒対策はできるんだろ?」
「回復魔法は聖属性で生命力を強化できるから、毒を受けながらも身体能力を維持するくらいはできるよ? もちろん、並行して解毒はしちゃうけど」
「回復魔法って、やっぱり万能だな…」
1991小隊の回復魔法使いは非戦闘員のエマしかいないが、その有用性は何度も体験した
しかもBランクの場合は、その強力な攻撃力と防御力を維持できるという利点にもなる
回復魔法を使うBランクを倒すことは難しそうだ…
「ラーズの大剣って、魔玉を付けてたでしょ? 魔法は使わないの?」
「モ魔を繋いで範囲魔法(小)を使ってるよ。…そうか、それも威力の底上げにはなるな」
「私、モ魔って使ったことないけど使い勝手ってどうなの?」
「魔力が無い俺には便利だけど、巻物の魔法発動が遅いから速い相手には当て辛いんだよ」
「範囲魔法(小)…、(中)は使えないの? 時間がかかっても発動準備さえ終われば、広範囲に巻き込めて便利なんじゃない?」
「いや、モ魔で範囲魔法(中)なんか読み込んだら三十分以上はかかると思う」
巻物
使い切りの呪文紙に、範囲魔法(小)が一つ封印されている
読み込み、発動にはモバイル型呪文発動装置を使う
この呪文紙には、魔法の術式と魔法のエネルギー源である魔力が封印してある
範囲魔法(小)から(中)にするには、術式の文字列が膨れ上がり発動するための処理時間が増大する
そして当然、発動に使う魔力も増大することになる
仮に範囲魔法(中)をモ魔で発動させるとしたら、発動のための読み込みに三十分以上
更に、発動に必要な魔力を封印するための呪文紙は五メートルを超える長さとなる
若しくは、呪文紙を短くする代わりに魔石等を入れた魔法陣を書くことになるが、面積が広くなりどっちにしろ携帯には不便であり、一枚当たりの値段が跳ね上がる
これが、範囲魔法(中)が実用化されていない理由だ
俺が範囲攻撃にフォウルを求めた理由も、簡単には範囲魔法(中)が手に入らないからだ
銃と杖、科学と魔導法学の火力の両立ができない軍隊は弱点を持つこととなり、戦場で消えていくことになる
まぁ、フィーナは範囲魔法(大)と、闘氣を併用する大魔導士だ
科学と魔導法学を両立しようが、並みの部隊なら一瞬で消し炭にする超火力を持っているんだけどな
「これ美味しー!」
俺は料理をパクついてワインをグビグビ飲んでいる超火力の恋人を見て、火力差の理不尽さにため息をついた
・・・・・・
たらふく飲んで食べ、満足して店を出た
ちょっと遠回りだが、海の見える公園を通って帰る
元からお気に入りの公園だったが、今ではフィーナと付き合った思い出の公園となった
「リィはまだ戻ってこれないの?」
「ああ、俺をかばって土属性特技で腹に穴をあけられちゃったからな。でも、もう少しで治療が終わるってヒコザエモンさんがメッセージくれたよ」
フィーナとリィは、いつも部屋で遊んでいる
結構仲がいいんだよな
そっか…、と言ってフィーナがこっちを言った
「ラーズ、来週実家に帰ろうと思うの。その時にフォウルを連れて来るよ」
「お、助かるよ。よろしくな」
実家とは、龍神皇国のファブル地区にある俺の両親の家だ
フォウルはサンダードラゴンの小竜で、一緒に戦ってもらおうと思っている
「…その後クレハナに行って、クレハナのお父さんに会ってくるよ。ブロッサムのことを聞きに」
「クレハナに? そっか、気をつけてな」
クレハナのフィーナの実父、ドース
一人娘であるフィーナをかわいがっており、俺から見ると異常な執着にも見える
…正直、俺は苦手だ
「お父さんに電話したらさ、彼氏とかいないなって凄い詮索されたの。もしかしたらラーズに電話することになるかもしれないから話合わせてね?」
「相変わらずだな…」
フィーナが俺の実家と養子縁組する時も、俺と同居する時も凄まじい詮索をされた
同居に関しては、一人暮らしより兄妹で住んだ方が安全だと言ってなんとか説得したんだ
だが一番の決め手は、フィーナに男ができたらすぐに報告するという約束だろう
すぐに報告できますよ、へっへっへ…、と言ってみたら、ドースさんは意外なほどあっさりと同居を了承したのだ
どれだけフィーナの恋愛に厳しいんだよ…
だが考えてみると、フィーナに俺というスパイを送り込んだのに、そのスパイがフィーナと付き合ってしまった
これがばれたら俺ってどうなるんだろう…?
「…」
フィーナが暗い海を眺めている
クレハナ…、フィーナはあまりいい思い出が無いのだろう
それなのに、わざわざ話を聞きに行ってくれるんだ
「フィーナ、ごめんな。クレハナにわざわざ行くことになっちゃって」
「ううん、いいの。セフィ姉にも、一度クレハナのお父さんに探りを入れてくるように頼まれたから」
ブロッサムの調査か
ドースさんが本当のことを言うかは分からないが、身内のフィーナが聞くことに意味があるだろう
「…早く帰ってきてくれよ?」
「寂しいの?」
フィーナが笑う
寂しい?
寂しい…
「うん、寂しいな」
「え…」
しばらく会えない
家に帰っても誰もいない
フィーナがいない
それを考えるとたまらなく寂しくなる
「嫌だな、一人になるの…」
「すぐ帰って来るよ」
フィーナが笑う
海からの風が少し冷たい
お互いに、ほろ酔い気分
ちなみに、フィーナは俺の三倍くらい飲んでいた気がする
暗い海から目を戻す
フィーナが俺の胸に体を預ける
俺はフィーナの体を包み込む
「暖かい…」
「ん…」
フィーナの体温と匂い
しばらく会えないという寂しさ
「…」
「…」
見つめあう
俺がしたいこと、分かってる?
目で聞いてみると、フィーナの目は拒絶しなかった…、と思う
しばらく会えない、これはアレだ
俺から行くべきだ
俺は、フィーナを見る
フィーナも俺を見る
勇気ある行動を
行動しないこと、それはダメなことだ
これからすること
目的はなんだ?
好きだと伝えることだ
「フィーナ、好きだ…」
「うん…」
だから伝える
そして、顔を見る
フィーナも俺を見てくれる
顔を近づける
フィーナが目を閉じる
ゆっくり呼吸する
鼻息をかけないように
俺の息、臭くないよな…?
近い、もう目標地点だ
触れる…
重なる…
柔らかい唇
チュッ…という、よく聞く音はしなかった
静かに重なる
そして、レモンの味も別にしない
そもそも、何でレモン?
音も味もない、だが感触だけが俺の脳を突き抜けた
いつまでも重ねていたいけど…
静かに離れる
「…」
「…」
顔を離していくと、フィーナがいつの間にか目を開けて俺を見ていた
「何を考えていたの?」
フィーナが聞く
「…キスの俗説は間違ってるんじゃないかと思ってさ」
冷静に考えたら、本当に何を考えてたんだ?
恥ずかしい、だが幸せだ
正直、もう一回したい
突然、何でこんな雰囲気になったんだ?
「バカ…」
フィーナも真っ赤になっていた
突然の進展
神様、いい雰囲気をありがとう…
シグノイアの俗説
ファーストキスはレモン味
参照事項
フォウル 71話 進路
実家 146話 帰省1
夢のブクマ700…!
やったーーー、皆様のご支援のお陰です
誤字報告、ブクマ、評価!いつもありがとうございます!




