249話 リナリーの言い分
用語説明w
バックアップ組織:各地のテロ組織の活動をバックアップする謎の組織。環境破壊と神らしきものの教壇で構成
大剣1991:ジェットの推進力、超震動の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラーの特性を持つ大剣。杖、槍としての機能も持つ
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
セフィリア:龍神皇国騎士団に所属、B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性
オズマが隊舎に来ている
保護しているリナリーが話した内容を伝えに来てくれたのだ
「関連者が消されたことを考えると、公安も信用ができない。リナリーの保護を知っているのは、俺の直属の上司と1991小隊だけだ」
一階の自販機で缶コーヒーを飲むオズマ
疲れてるな
オズマとはいろいろあった
最初の印象は最悪だったが、今では変な友情を感じている
バックアップ組織の調査をずっと一緒にやって来たんだ
戦友に近い感覚なのかもしれない
「リナリーはどうなんですか?」
「リナリーは、自分のやったことが分かっていない」
オズマがため息をつく
会計予算課リナリー課長
防衛軍総司令本部のお偉いさんだ
そして自立型兵器やオートマトンなどの、シグノイア内で発生した戦力をハカルの攻撃と断定してきた人物だ
しかし、実は外務省のゴデイバに唆されており、出所不明のサンプルとの共通点を根拠にハカルの攻撃と特定してきた
結論からいうと、それらがハカルが送り込んだ戦力である可能性は限りなく低い
なぜなら、ハカル国内にも同じような戦力が出現しているからである
つまり、シグノイア、ハカルの両国が、第三者である謎の戦力をお互いの攻撃と特定し、現在の戦争に至ったと考えられるのだ
「つまり、開戦の原因はリナリーにもあるってことだ」
オズマは缶コーヒーを飲む
刑事というのは缶コーヒーが似合うな
ちなみに俺は紅茶派だ
リナリーは、サイラ副隊長に説得されてゴデイバの提示した条件に乗ったらしい
「このサンプルは、外務省が入手したハカル軍の兵器の一部だ。これで自立型兵器やオートマトンの出所を特定してほしい」
というゴデイバ要求、見返りはリナリーの昇任だった
実際にリナリーは、圧倒的な早さで総司令本部の会計予算課の課長に昇進した
「論点がずれているんだよ…」
オズマがイライラしている
オズマは話を聞いて、リナリーを叱責した
開戦の原因を作った、それがどういうことか分かっているのかと
だが、リナリーは愛で正当性を訴えた
「私はサイラ副隊長を愛しているの。私が会計課長になれればサイラ副隊長の役に立てるわ」
「平然と云いきりやがったんだ…」
オズマがまたため息をついた
「ど、どういう意味ですか?」
どうやら、リナリーは同性愛者だったらしい
サイラ副隊長とも、そういう関係だったそうだ
要は、女同士のハニートラップに嵌まったということだろう
「同性愛者を差別するの!?」
「は?」
「性的少数派は差別されろって言ってるのね!?」
「…お前は同性愛で人に迷惑をかけたのか? お前が断罪されるべきは、国を売ったこと唯一つだ。捧刑も含めて覚悟しておけ!」
という会話が繰り広げたらしい
「…不毛というか、バカな会話ですね」
「あいつは、自分の行為で何人もの防衛軍の隊員が死んでるのか分かってないんだ。サイラ副隊長が言ったことを全てやらなくちゃいけない、そんな依存に近い考え方なんだ」
「…一度、戦地に放り込んでやればいいんじゃないですか? 私が開戦の原因を作りましたって」
「ああ、それは面白いな。戦地の生き死にに晒されればいい」
俺達は笑い合う
半分ジョークだが、半分は本気だ
戦争を始めたやつが戦争に参加しない、こんな理不尽があるのか?
性別も少数派も関係ない
戦友や家族を失った人が、恋愛云々で開戦しちゃいました…、で納得できると思っているのか?
「ま、リナリーはいい情報を持っている。価値があるうちは保護を続けるさ」
オズマは立ち上がった
「後は何か言っているんですか?」
「ああ、重要情報だ。自立型兵器やオートマトンの秘密工場の場所だ」
「え!?」
「また特殊任務だろうから準備しとけ。いい情報を期待しているぞ」
そう言って、オズマは俺に手を挙げて帰っていった
・・・・・・
ジャンク屋
一階の謎の商店の婆さんに挨拶して、地下の工房に降りていく
今まで、あの婆さんに一度たりとも返事をしてもらったことがないが、嫌われてるとかないよな?
今日は、Bランクとの戦闘で使った1991のメンテナンスしてもらうために来たんだ
整備班のシリントゥ整備長、クルス、ホンが作ってくれや対物ライフル用の大口径薬莢を圧縮してサイズを合わせた特製薬莢
パイルバンカー機構の威力を引き上げたが、その分衝撃を受けたはずだ
「いやー盲点だったな。薬莢や護符で威力を上げるって発想は、悔しいけど思いつかなかったなぁ」
スサノヲが素直に感心している
「ああ、俺も思いつかなかった。ギリギリの勝負だったから、威力の底上げは助かったよ」
フル機構攻撃の威力を火薬と硬化魔法で底上げ
今後の対Bランク戦でも使える手だ
「いやー、まさか本当にBランクの防御を貫くとは思わなかたったぜ。サイキックの力も上乗せしたんだろ?」
スサノヲは話ながらも、パイルバンカー機構の弾倉を清掃して油をさしていく
「ああ、そんなに威力はないけどな。なんとか完成したよ」
「よし、ちょっと見せてみろよ」
スサノヲがナイフと木の板を渡してきた
「…」
俺はナイフを受け取り、先端に意識を集中する
十秒ほどで精力が集まり、圧縮されてテレキネシス、つまり物理的なエネルギーの発動準備が終わった
「…やるぞ」
俺はナイフの先をゆっくりと木の板に触れさせる
パンッ!
乾いた音が響き、木の板に小さな穴が開いた
「…改めてやると、こんな小さな穴しか空かないのか。俺のテレキネシスじゃそんなに威力は変わらないのかも」
ちょっとショックだ…
「いや、そんなことないぞ」
「え?」
スサノヲが首を振った
「テレキネシスを圧縮して、ナイフの接触点に瞬間的に運動エネルギーを発生させたわけだろ?」
「まあ、そうだな」
「実際は、フル機構攻撃を撃ち抜く対象のテレキネシスの衝撃が発動、小さなくぼみができた瞬間に1991が突き刺さってるわけだ。力が集中することによって効率的に貫通力を高められているはずだ」
「そ、そうなのか…」
「しかも、テレキネシスの衝撃は刃体に纏わせている分、刃体の速度にも依存する。1991のフル速度でのテレキネシス衝撃はかなりのもののはずだ」
「そうかー、そう言ってもらえるとホッとするよ」
苦労して得た技が意味無いとか、心のダメージがとんでもないからな!
ついでに、ヴァヴェル、データ2、データのアバターのメンテナンスも頼む
「な、スサノヲ。そういえば1991の金って払い終わったってことでいいんだよな?」
「ん? ああ、メイルさんが振り込んでくれたぞ。なんか、日頃のお礼と1991小隊の優先依頼ってことで二千万ゴルドくらい払ってくれたんだ。お礼言っといてくれよな」
そ、そうだったのか
「ま、でも今回のBランク戦は1991の火力頼みだったからな。スサノヲの功績はでかいし、妥当なんじゃないかな」
「へへっ…。1991は、あたしの最高傑作だからな」
スサノヲがちょっと照れる
この顔だけ見ると、可愛らしい女の子なんだけどな
いろいろもったいないよなー
「何か考えてるだろ?」
ジロッとスサノヲが見る
「いやいや! 考えてないよ!?」
女って勘が鋭すぎ!
いや、もしかして俺が顔に出すぎてるのか?
「な、ラーズ。あたしの夢を聞いてくれよ」
「夢?」
「ああ、夢だ。あたしの夢は、いつか自分でスピリッツ装備を作ることなんだ」
スサノヲは夢みる少女のようなは表情をしている
ちなみに、話している内容は人を殺す道具のことだ
「スピリッツ装備って何だよ?」
「ラーズ、武器や防具の到達点、究極って何だと思う?」
「…宇宙戦艦とかかな?」
俺は、凄い武器を思い浮かべてみた
宇宙を移動して大気圏外からの攻撃を放つ、究極じゃね?
「バカじゃねーの」
「ひどくない!?」
スサノヲの軽蔑の目に、ちょっとへこんだ
「それを言ったら、高出力のエネルギーさえあれば最高の武器じゃねーか。核爆弾の発射スイッチや魔神召喚魔法陣の発動魔玉が最高の武器ってことになるか?」
「…いや、そう考えると違う気がするな」
「そうだろ、バーカ!」
「くっ…、じゃあ武器の究極ってなんなんだよ?」
スサノヲが得意気に、仕方ねーなと話始める
すげー腹立つ!
「答えは絆さ。武器防具と持ち主に絆ができて一体化する。それが究極の装備、スピリッツ装備だ」
「絆…」
「龍神皇国の騎士団のセフィリアさんの装備は、おそらくスピリッツ装備だぞ」
「え!?」
セフィ姉の自慢の装備、純白の双剣と深紅の鎧ことか
スサノヲが龍神皇国の騎士団に納品したときに会ったらしい
あれがスピリッツ装備なのか…
相変わらず、あの人は完璧超人だな
「…ラーズ。お前の1991とヴァヴェルは間違いなくスピリッツ装備になれると思ってる。大事にしてくれよ?」
スサノヲが真面目な顔で言う
「思い入れってやつか? 俺はこの装備にこれ以上無い思い入れを持っている。安心してくれ」
スサノヲがよく言っている思い入れ
スピリッツ装備のためだったんだな
俺の装備も、いつかスピリッツ装備になれるんだろうか?
誤字報告、ブクマ、評価、ありがとうございます!




