248話 次の目標
用語説明w
バックアップ組織:各地のテロ組織の活動をバックアップする謎の組織。環境破壊と神らしきものの教壇で構成
環境破壊:バックアップ組織の母体組織。炎とミズキ、そしてブロッサムの三企業が関わっている
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持するテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
会議室
ゼヌ小隊長が、揃った隊員達を見回す
「みんな、海の町の魔導プラント制圧お疲れ様。ミズキには国家転覆罪の容疑がかかって、公安が強制捜査に入ったわ」
魔導プラント内に違法ガーゴイル工場
そして、変異体の強制進化による被験者、魔晶石干渉と受信用強化紋章を利用した量産型Bランク
次々と明るみに出たミズキによる違法施設は、ドンブリロ社による変異体の人体実験施設以上のインパクトをシグノイアに与えた
政府、公安、そしてマスコミと民衆が注目しており、さすがに国家転覆の危険性を持つ設備を黙認は出来ないだろう
今回の件で、ついに炎、ミズキに対する警察捜査のメスが入れられることになった
「魔導プラント内の魔晶石や工場は、防衛軍でも調査をすることになったわ」
調査員として、氣功拳士のアミラ、人形泥棒のケインが呼ばれた
先ほど、二人が1991小隊の隊舎に挨拶に来てくれた
「久しぶりね、ラーズ。時間があったら、また組手をやりましょうね!」
「Bランク仕留めたんだって? やるじゃねえか!」
アミラは魔導プラント周辺の氣脈の調査、ケインはガーゴイル工場の調査だ
二人とも知り合いだったこともあり、1991小隊には直接調査結果をくれることになった
「最優先事項である、国家転覆はとりあえず阻止できたわ。次はいよいよ環境破壊の解明、そして戦争を止めること。この目標に向かって進みたいと思います」
ゼヌ小隊長が言い切る
「デモトス先生とジード、そしてオズマがリナリー会計課長の尋問を続けるわ。次の最優先事項は、防衛軍が戦っていた相手の解明よ」
・・・・・・
バンッ!
木の棒を的に触れさせると、的が弾け飛んだ
「…こんな感じなんですが、どうですか?」
「ええ、いいじゃない。そうか、一点に圧縮するイメージだったのね」
カヤノが感心している
1991のフル機構攻撃
六つ目の要素として、テレキネシスの衝撃を上乗せした
練習ではうまくいっていなかったのだが、量産型Bランクの強化人間との戦いで成功したのだ
「ええ、ロゼッタのアドバイスなんです。剣で斬ると思って刃体全体に衝撃を作ろうとしていたのですが、これだと衝撃が薄まってしまう。剣が最初に対象に当たるのは刃体の一部なので、その接触点に衝撃を集中させるっていう…」
俺のサイキックは弱い
サードハンドを使って物を浮かせることは出来るが、投げるほどのエネルギーは作れない
しかし、衝撃を作るエネルギーを圧縮して準備をすれば、解放した時にかなりの衝撃を作れる
しかも、意識をした方向に衝撃を解放できる
指向性を持たせられるのだ
練習すれば、小石を弾丸のように弾き飛ばす、なんてこともできるかもしれない
ただし、テレキネシスの衝撃の圧縮には十秒くらい集中する必要があるので、ここぞという時にしか使えない
「ラーズは圧縮がうまいのね」
そう言って、今度はカヤノが木の棒全体にテレキネシスを纏わせる
バンッ
同じように的が吹き飛んだ
だが、俺がテレキネシスを圧縮して作り出した衝撃を、カヤノは圧縮をせず木の棒全体に纏ったまま作り出した
もちろん圧縮のためにチャージ時間も要らない
「私とラーズだと、多分百倍くらいテレキネシスの出力が違うのよ? それなのに、テレキネシスを圧縮することで同じくらいの威力が出ているわ。圧縮している分、貫通力はラーズの方が上かもしれない」
「ひ、百倍も違うの!?」
「それは、サイキッカーとしての年期が違うもの」
カヤノがちょっと得意そうに言った
「カヤノは、飛行能力も含めて憧れのサイキッカーです。またサイキックを教えて下さ…」
バッチーーーーン!
「痛ーーーー!」
ノーモーションでとんでもない威力のビンタが俺の脳を揺らした
悪意のない無い動きに全く反応できなかった
っていうか、いきなり顔面にビンタ来るか!?
「な、な、もー何言ってるのよ!? もー!」
「もーじゃないし! 久しぶりだな、これ!!」
…実戦で開眼した圧縮したテレキネシスの衝撃に、俺は手応えを感じたのだった
・・・・・・
デモトス先生が退院してきた
「退院おめでとうございます、デモトス先生」
腕がちぎれたのに退院が早すぎませんか?
「ああ、腕がちぎれただけだからね。部位を生成してもらえれば、後は繋げるだけだから簡単だ」
デモトス先生がなんでもないように言う
腕がちぎれたら重症だし、繋げるのも間違いなく大手術ですからね?
再生医療
患者のDNAから組織を培養し、移植する技術だ
自分のDNAを使用しているため拒絶反応が起こらない
しかも回復魔法や回復薬を併用して繋げ、抗生物質を点滴すれば一日で神経も含めて繋がってしまう
更に損失部位の生成も、世界樹から抽出した万能細胞を使用することで数日で終わる
移植後に万能細胞と自身の細胞が代謝と共に置き換わっていき、通常の生活を送っていれば気がついたら治療が終わっているという感覚だ
「ラーズ、バタバタしていてまだ言えていなかったね」
デモトス先生が俺の目を見た
「え、何をですか?」
「ラーズはBランクを倒した。卒業テストを無事に突破したんだ」
「あ…!」
そういえば、これは卒業テストでもあった
Bランクを倒す、これがデモトス先生の課したテストだった
まさか本当にBランクを倒せるなんて…
「最初に会ったときに言った言葉を覚えているかね?」
デモトス先生が言った言葉
力を持つ者にはない、その苦悩が君を孤高の頂きに導くだろう
「悩み、苦しみ、考え、繰り返し、そしてたどり着いたのが今回の結果だ。自分の成長を感じないかね?」
「…はい」
あの時に比べて、俺はどうなっただろう?
強くはなった
だが、何が強くなった?
…それは経験だ
経験が俺の心を強くしたんだ
挫折し、悩んで、そして乗り越えた
失敗し、妬み、そして助けられた
心が強くなった、それが分かる
闘氣を持っていた、あの頃よりも優れていること
経験と心の強さだ
俺は胸を張って言える
闘氣があった、あの頃よりも強くなったと
俺は、デモトス先生の顔を見る
「デモトス先生、お願いがあります」
「何だね?」
経験を積んで見えたもの
それは、知らないということだ
経験を積んで、知らないということを理解したのだ
Bランクを倒せたのはなぜか?
俺のフル機構突きの増し増しの威力か?
…そう、違うんだ
倒せた理由はシンプルだ
戦闘は火力じゃねぇ、戦術だ!
闘氣を片寄らせる
そのために正面に攻撃を集める
目隠しと足止めのために壁で囲む
背面に一点突破の火力を用意
そして、ダメ押しで風穴があいた体に爆弾と猛毒を流し込んで確実に倒す
この戦術が、Bランクを倒したのだ
「私には、圧倒的に経験と知識が足りません。まだまだ教えてもらいたいことがあります。これからも、指導をお願いできないでしょうか?」
「…いい知識欲だ。私は、いい生徒に出会えて幸せだ」
デモトス先生は微笑んだ
「では、さっそく訓練と行こうじゃないか」
「はい!」
甲羅を背負って一本下駄、岩を抱えて歩く
柔らかいボールの上で空気椅子、両腕を伸ばし水の入った壺を指先で把持する
そして筋肉トレーニング
デモトス先生の指導が始まり、最初の十日間は地獄だった
早く帰りたくて仕方なかったな…
中間テスト、期末テスト、そして卒業テスト
良く生き残ったもんだ
だが思い返せば、俺が一番嫌だったのは裏仕事な気がする
マフィアの事務所に乗り込まされるわ、賞金首と一対一させられるわ、とんでもない実践訓練だった
改めて考えると、デモトス先生指導を受けるということは、また裏仕事があるということか…?
あれ、デモトス先生に指導お願いして大丈夫なのか?
ちょっと自信がなくなって来たぞ?
参照事項
氣功拳士アミラ 113話 風水師
人形泥棒のケイン 212話 ついに
八章始まりです!
読んでいただけたら嬉しいです
誤字報告、ブクマ、評価、いつもありがとうございます!
励みになっております♪
新しい章が、話を投稿してからじゃないと作れない仕様に違和感が…




