23話 実験部隊
用語説明w
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
ロゼッタ:MEB随伴分隊の隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
ジード:情報担当の隊員
隊の食堂で飯を食っている
食堂では、防衛軍本部から送られてきた、あらかた調理された料理を医療担当のエマと食堂のパートのおばちゃんが準備してくれる
「サイモン分隊長、そういえば随伴分隊の後一人ってどんな人なんですか?」
昼食を頬張りながら、気になっていたことを聞いてみる
MEB随伴歩兵分隊は、サイモン分隊長を筆頭にロゼッタと後一名隊員がいるらしい
「カヤノのことか?」
サイモン分隊長も、チキンを頬張りながら答える
「もう一人も女性なんですか? ハーレム分隊じゃないですか」
「…戦場で俺より火力が高い女達だぞ? 抱きたいって言うなら別に止めないがな」
サイモン分隊長は、防御重視の固有装備を強化紋章の固有特性で強化する防御特化の兵士だ
だが、巨体で扱う重火器の火力は決して低くない
それを越える火力を持つ女性隊員って凄くね?
「カヤノさんはどんな人なんですか?」
「サイキッカーだな。フラップ型飛行ユニットと思念誘導系の装備、あとは範囲魔法を使うな」
サイキック
精神力の力である精力を、物理的な力や感応力として使う力だ
脳ミソをエンジンとしており、思念や感情の力によって出力が変わる
サイキックの中でも、物体に干渉する能力をテレキネシス、感知や読み取りの力をテレパスという
ちなみに、霊体の力である霊力と、精神の力である精力の合力が魔力である
必然的に、サイキッカーは魔法も得意な者が多いらしい
ただ不思議なことに、魔力を使える者よりもサイキッカーの方が数が少ないらしい
精力のみを使う能力はかなりレアなのだそうだ
「サイキックってかっこいいですよね。俺にも隠された力とか目覚めないかな…」
「ま、ここにいて食堂の飯食ってりゃ可能性はあるかもなぁ」
「どういうことですか?」
「何言ってんだ? この食堂の飯には、サイキックに目覚めるとかいう薬が入ってるじゃねえか」
「は、初耳ですよ? 何ですか、そのクソ怪しい薬は!」
「あれ、知らなかったのか? うちは実験部隊って側面もあるからな、いろいろと実験させられてるのさ。他の部隊に比べて固有特性持ちが多いだろ?」
…確かに
普通は、固有特性持ちが部隊に一人いればラッキーなことらしい
ここは、サイモン分隊長の強化紋章、ロゼッタの身体能力や剣、エマの回復魔法、恐らくカヤノのサイキックもそうだ
「確かに多いとは思ってましたけど…」
「運用に困る固有特性を集めて、データ収集と運用法を確立する。ついでに色々実験しちゃえって考えなんだろうな」
「人体実験じゃないですか!? この飯、本当に大丈夫なんですか?」
そこに厨房からエマがやって来る
俺達の話が聞こえたようだ
「大丈夫…。副作用は今のところ確認できないし、カヤノのサイキック能力は上がってるから…。サプリみたいな感じ…?」
「全然違う気がするけど!」
「うるせぇなぁ。こんだけ固有特性持ち集めて、戦死率低い小隊なんて他にないぞ? 害がないなら実験くらいいいじゃねえか」
サイモン分隊長はめんどくさくなったようだ
「それに、眠った力が起きるかもしれないんだぜ?」
「まぁ、そうかもしれないですけど」
「ちゃんと健康管理は私がやるから安心して…」
エマも厨房に戻っていく
実験部隊…
すげー場所に来ちゃったよ
ただ、これだけの戦力なら、他の隊よりは致死率が低いのは確かだろう
けど、よくわからん実験台になり続けるのは怖いけどな
・・・・・・
食後は、倉庫で戦闘に備えての準備をする
倉デバイスに弾薬や武器をしまっていく
「後は魔石だな…」
俺は魔石装填型小型杖を取り出し、魔石の整理に移る
魔石装填型小型杖
俺みたいに魔法を使えない人間が魔法を使うためのアイテム
俺の杖は魔石を三つ装填することが出来るタイプだ
モ魔で実行した巻物が主に攻撃魔法を発動するに対し、魔石装填型小型杖で発動する魔石の魔法は単純な効果のものが主だ
そもそも魔石とは、簡単な魔法が構成済みで封印されている石だ
この魔石を専用の杖にはめ込んで振ることで、魔石の魔法が発動する
種類は豊富で、例えば…
土属性の土壁を作れる魔石
精神属性の敵を混乱させる魔石や眠らせる魔石
力学属性の当たった物体を引き寄せる魔石
火属性の明るく照らす魔石
などなど、いろいろな種類の魔石がある
一回使い切りだが、状況によって魔石を使い分けられるのは便利だ
銃での撃ち合いで、弾除け用に土壁を作れるメリットはかなり大きい
巻物と違って、魔石は火力を出せるような複雑な魔法は封印できない
代わりに読み込みが要らず、すぐ発動できるメリットがある
魔石によって魔法効果の飛び方が違うので、結局習熟は必要なんだけどね
「ラーズ、この魔石を使ってみないか?」
いつの間にか、ジードも倉庫に来ていたらしい
「なんの魔石ですか?」
俺は、ジード投げてきた魔石をキャッチする
「引き寄せの魔石だ。魔法弾を当てた対象をこちらに引き寄せる」
「あぁ、前に使ったことがあります。使い所がわからなかったんですよね」
「私が考えたのは、動かせない対象に当てる使い方だ」
「動かせない対象?」
意味がわからん
首をかしげながら、自分の小型杖に魔石を装填する
「いいからやってみろ。倉庫の壁でいいだろう、杖をしっかり握っとけよ」
言われた通りに杖を握って振ってみる
…そして、すぐに理解した
ドガアッ!!
壁が突然、目の前に突っ込んで来た
いや、俺が壁に突っ込んだんだ
「痛てえぇぇぇっ!」
「…どうだ?緊急回避やホバーブーツでの高機動に組み入れてみたら面白いだろう」
魔法効果は、当たった対象を引き寄せる
正確には、杖と当たった対象を引き寄せるということだ
当たった対象が動かない物であれば、当然杖の…つまり杖を持っている俺が引き寄せられることになる
「いや、もっと教え方あるでしょ? 普通に自分が動くって言えばいいでしょ? 何でこの教え方なの?」
「ま、状態異常の魔石も使うなら、装填数が三発しかない小型杖一本じゃきついな。杖をもう一本持つのも手じゃないか」
「聞いてねぇ! …もう一本杖買うと高いんで公費で落としてください」
「請求できるかは聞いておいてやる。それまで練習しとくんだな」
「どうせなら、二本目の杖はトンファー型がいいです!」
「カスタムは自分でやれ。公費でそこまでできるか」
魔石装填型小型杖は、中古でも七、八万ゴルドはするから公費でもらえるなら大変ありがたい
早く、AIや鎧も買わなきゃいけないし、そろそろクエストいくかな
こういう戦闘準備で、戦闘時の動きが決まってくる
在隊時の時間は大切なんだ
ジードのアイデアはぜひ取り入れさせてもらおう