241話 オンライン会談
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
バックアップ組織:各地のテロ組織の活動をバックアップする謎の組織。環境破壊と神らしきものの教壇で構成
環境破壊:バックアップ組織の母体組織。炎とミズキ、そしてブロッサムの三企業が関わっている
セフィリア:龍神皇国騎士団に所属、B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性
ムヒカ防衛審議官:特殊任務を行っている有志の活動の指導者。防衛庁の七番目の権限を持ち、防衛軍内にも大きな影響力を持っている
朝、出勤する時に
「ラーズ、後でね!」
「ああ、後でな」
そんな言葉をフィーナと交わして出勤した
フィーナは夜勤らしいので、俺より少し遅れて家を出るそうだ
後でとは、今日は1991小隊とセフィ姉とのオンライン会談の日なのだ
やはりセフィ姉ほどの龍神皇国騎士団の重鎮だと、簡単にアポなんて取れない
それなのに、俺とフィーナが頼んだら簡単に時間を空けてくれて会談が実現したのだ
この社会とは数字と規定で出来ているわけではない
人間と、その人間の気分を含む利害関係で成り立っているのだ
つまり人間関係があれば、数字や規定を無視してこういう会談が実現してしまうこともあるといことだ
大変ありがたいが、人間関係を作るのが苦手な俺としてはちょっと理不尽さを感じる
何年も営業を続けていた会社なのに、別の営業が一回飲みに行っただけで契約を奪われるなんてこともあるわけだから
まぁ、何年も続けた営業が相手の望む営業だったかは別問題だが
出勤して小隊長室へ行く
昨日のうちにオンライン会談の準備は済ませており、あとは開始を待つだけだ…
「…っ!?」
ノックしてドアを開けると、なんとムヒカ審議官が来ていた
ムヒカ審議官
特殊任務を行っている俺達の指導者、同時に防衛庁の幹部だ
「やあ、ラーズ。今日はよろしく頼むよ」
気さくに挨拶されて戸惑う
「あ、は、はい。あれ、今日は?」
「いい機会だから、セフィリアさんと正式に調査協定を結ぼうと思ってムヒカ審議官も呼んだのよ」
ゼヌ小隊長が言う
そ、そうなの!?
もっと、「ちょっと調べてくれる?」 みたいな気軽な感じでお願いすると思っていたのに、龍神皇国騎士団の幹部とシグノイア防衛軍の幹部の密談みたいな雰囲気になってる!
フィーナにも、ちょっと話すだけだからなんて言い方しちゃったよ!
俺は慌ててPITでフィーナにメッセージを送る
『フィーナ! なんか、防衛庁の審議官が来てる! ちゃんとした会談っぽいからセフィ姉に言っといて!』
『分かったー』
すぐに返信が来て一安心
セフィ姉にもゼヌ小隊長にも恥をかかせるわけにはいかないから焦ったぜ…
こうして、オンライン会談の時間になった
『始めるよ!』
フィーナからメッセージが来る
『オッケー、よろしく』
俺はメッセージを送って、ゼヌ小隊長に頷く
モニターにセフィ姉の顔が表示された
セフィ姉は、モニター越しに俺の姿を見たようで少しだけ微笑んだ
そして、ムヒカ審議官とゼヌ小隊長に挨拶する
「龍神皇国騎士団に所属するセフィリアと申します。今回は立場を考えない、情報共有を目的とした話し合いと認識していますので、個人として名乗らせて頂きますわ」
セフィ姉は、あえて役職を名乗らなかったようだ
「今回は勝手なお願いをして申し訳ありません。シグノイア防衛庁のムヒカと申します。では、私も個人としてお話させて頂きます」
ムヒカ審議官も個人として挨拶する
「セフィリアさん、お久しぶりです。黒竜の時はお世話になりました」
ゼヌ小隊長も挨拶
「ゼヌさん、お久しぶりです。黒竜との出会いは私個人としても、とても貴重なものでした。お礼を言うのはこちらですわ」
こうして、オンライン会談が始まった
「ラーズを介して…」
「ラーズが…」
こんな立場がある人たちの会談で、いちいち俺の名前が出るのが恥ずかしい
俺、ただの一般兵だからね?
ただ、共通の人間が俺だけだからな
人間関係って、時にとんでもない影響力を持つことがあるんだな…
ゼヌ小隊長が、バックアップ組織、そして環境破壊の調査経過を説明をしていく
サイラ副隊長の事故死、それに伴う公安の捜査
リナリーの保護と聴取、環境破壊を構成する炎、ミズキ、ブロッサムの把握…
「…分かりました。炎、ミズキ、ブロッサムの調査は私が個人的に行います」
セフィ姉が、送信された資料とゼヌ小隊長の説明を聞いて口を開く
「三社ともをですか?」
ムヒカ審議官が聞く
炎は龍神皇国に本社があるが、他の二社もセフィ姉は調べられるのだろうか?
「ええ、どこまでできるかは分かりませんが、調べる必要があると思います。国同士の戦争に影響力を持つ組織…、これを見過ごすことはできません。私個人が全面的に協力、場合によっては正式に龍神皇国騎士団が協力する事案だと思っていますわ」
セフィ姉が真剣な顔で言う
「ありがとうございます」
ゼヌ小隊長がお礼を言う
「今後、調査結果が分かり次第セフィリアさんにもお伝えしたいと思っています」
ムヒカ審議官が言う
「ええ、よろしくお願いします。あと一つ、ハカル側のコンタクトの方法なのですが…」
セフィ姉がモニター越しで俺を見た
ハカル内へのコンタクト
シグノイアとハカルで、共通した正体不明の敵が確認されている
この事実を確認すべく、ひょんなことから出会ったハカル兵コンビに頼んだ
ハカル側に知り合いがいないことから、俺は戦場で出会ったハカルのBランク、白き盾のルークに連絡を取るように言ったのだ
正直、成功率は低そうだよな…
「私は龍神皇国の人間で、ハカルとは敵対関係にありません。白き盾のルーク、私も人格者だと聞いたことがありますので、こっそり会ってもらえるように話を通してみましょう」
「ほ、本当ですか?」
ゼヌ小隊長が驚く
な、なるほど…!
セフィ姉からハカルとコンタクトを取ってもらうという手もあったのか!
「ただし、条件を付けさせて下さい」
セフィ姉が続けた
セフィ姉の条件
それは、白き盾のルークと会えることになったとしても、Bランクを同席させること
Bランクの白き盾のルークと会う場合、ハカル兵コンビに話した手前、俺が会う必要がある
白き盾のルークと会ったことがあるのも俺だけだ
白き盾のルークが俺達の暗殺を企てた場合、Bランクがいなければ一瞬で殺される
白き盾のルークの人間性が分からないのだ
「…ハカルとの密会は、シグノイアとハカルの双方にばれてはいけない内容になります。下手すると全面戦争に発展する可能性を含んでいますので。この状況で、シグノイアのBランクを動かすのは正直難しいかと思います」
ムヒカ審議官が困った顔をした
Bランクは兵器扱いだ
水面下で動かすにしろ、どこかしらで情報がばれる
水面下でミサイルを持ち出すことだがきないのと同じだ
だが、セフィ姉はすぐに解決策を提示した
「それならシグノイアに住んでいる、龍神皇国騎士団の秘蔵っ子の力をお貸ししますわ」
セフィ姉は笑顔で言う
「え? あ、初めまして。龍神皇国騎士団のフィーナです。あの、その時は同席しますので言って下さい」
こうして、セフィ姉に
・環境破壊の三社に対する調査協力
・ハカル側とのコンタクトの協力
を取り付けることができたのだった
・・・・・・
ムヒカ審議官が退室すると、セフィ姉は少し砕けた話し方になった
「はー…、やっぱり偉い人がいると緊張するわね」
「いや、セフィ姉だって偉い人でしょ」
俺がセフィ姉に突っ込んでいると、ゼヌ小隊長がクスクス笑っている
「セフィリアさん、ありがとうございました。ハカル側へのコンタクトまで力を貸してもらえるとは思ってなかったので助かりましたわ」
「いいんです。バックアップ組織、特に神らしきものの教団は、私も潰さないといけないと思っている組織ですから」
バックアップ組織は、環境破壊と神らしきものの教団からなる組織だ
セフィ姉は以前も、神らしきものの教団の対策を考えていた
「ラーズも覚えてるでしょ? フォウルを連れて帰って来たあの森で、ラーズが神らしきものの教団に拉致されたこと」
「…え!? いや覚えているけど、あれって神らしきものの教団だったの!?」
「知らなかったの? 神らしきものの教団の外部団体だったのよ」
フォウルとの出会い
俺とフォウルの出会いはボリュガ・バウド騎士学園の初等部二年生の時だ
ギアにある大森林の近くにクラスで遠足に行った時に、武装集団に襲われるという大事件が起こった
先生が負傷して、俺が拉致されてしまったのだ
だが、現地の騎士団が拉致集団の拠点を特定して攻撃を開始
その隙に、俺はその拠点から逃げ出して森を彷徨った
この時にフォウルと出会ったのだ
まさか、あの集団が神らしきものの教団の外部団体だったとは
あれは初等部二年の時だから十一歳の頃か?
印象には残っているけど、もうあまり覚えていないな…
「あの教団は、各地で子供を拐って戦闘員に育て上げ、使い捨ての兵士として使っているの。いつか絶対に壊滅させるわ」
セフィ姉が怒りを露わにした
バックアップ組織の、環境破壊にばかり目が行っていたが、神らしきものの教団も負けず劣らずにろくでもない組織のようだな
ブクマ600!
pt2500!
皆様のブクマと評価のおかげでここまでこれました、感謝!
誤字報告、いつも本当にありがとうございます!
今週末まで毎日投稿して七章が終了予定です
お付き合いよろしくお願いします!
七章終わるまでに五十万pv行ったらいいなぁ…




