239話 続々々々・出会い
用語説明w
環境破壊:バックアップ組織の母体組織。炎とミズキ、そしてブロッサムの三企業が関わっている
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内線が激化している
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
セフィリア:龍神皇国騎士団に所属、B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性
ハカル兵コンビ:ハカル陸軍第七歩兵旅団所属のギデオンとウダイ。国境の山の中で監視任務についている
小隊長室
ゼヌ小隊長に、フィーナの件を報告する
「ブロッサムがフィーナさんのお父様の…」
「そうみたいなんです。私も初めて知りました」
環境破壊に資金を流している企業、ブロッサム
貿易、原子力、魔石精製などを扱うクレハナの国営企業、フィーナの実父であるドースが主導しているらしい
「そして、セフィリアさんに龍神皇国で炎の本社を調べてもらうのね?」
「はい、お願いしてみようかと」
環境破壊の母体である炎
龍神皇国に本社を置く国際企業だ
龍神皇国の騎士団の幹部であるセフィ姉なら、何か分かるかもしれない
「ただ、バックアップ組織の調査経過や炎、ミズキ、ブロッサム、そしてハカル兵コンビの関係も話さないと説明できないと思うんです。セフィ姉は信用できますし、情報を伝えてもいいですか?」
「…ええ、セフィリアさんとは黒竜の時にで一度お世話になっているものね。大丈夫よ」
ゼヌ小隊長は、少し考えてから続ける
「ラーズ。もし良かったら、隊舎でセフィリアさんに連絡できないかしら? 資料データも渡せるし、正式にお願いしもしたいし」
「あ、はい。分かりました、セフィ姉に話して聞いてみます」
セフィ姉とゼヌ小隊長の会談
プライベートと仕事が錯綜していて、何か変な感じがする
「ラーズ。いろいろお願いして悪いんだけど、もう一つお願いしていいかしら?」
「はい、何ですか?」
「あの二人に会ってきて欲しいのよ」
ゼヌ小隊長が封筒を渡してきた
・・・・・・
俺が向かっているのは、ハカル兵のコンビ、ギデオンとウダイの所だ
こいつらに交渉を持ちかける
何を持ちかけるって?
ハカルの人間との交渉がしたいってことだ
今までシグノイア防衛軍が戦っていた相手は、ハカルのみだと思っていた
しかし、別の可能性が浮上している
全くの第三者だ
そして、それはハカルも同じ可能性が高い
シグノイアと思われる戦力との戦い
更に、バックアップ組織までもが姿を見せている
いったい、何をもってシグノイアと特定したのか?
この問いに答えられる者にコンタクトを取りたい
こんな交渉、緊張するな…
集落の村長さんに手土産
隊舎の周辺の、海沿いの農家さんの畑で取れたネギだ
塩に強い品種で甘味が強く、海沿いならではの味だそうで一度食べてみたいと言っていた
農業も奥が深く、この集落の村長さんも新しい品種に敏感なようだ
山道を登り、国境のハカル兵コンビの拠点へ
相変わらず二人しかいない
本当に、何でこんなところで監視させられてるんだろう?
「ラーズさん! こんにちは」
ウダイが俺に気がついて手を挙げた
「あ、ラーズ。お前だけだよ、こんな所に来てくれるのは」
ギデオンも笑顔を見せる
俺、敵兵だからね?
「相変わらず、時間を持て余してるな」
「はい…、正直キツいですよ。こんなところで生活させられている意味がわかりません!」
ウダイが声を荒げる
「…いい加減、理由ぐらい言って欲しいもんだな」
ギデオンまでが表情を曇らせる
大分ストレスが溜まってきてるみたいだな
そりゃそうだ
「ほら、差し入れ持ってきたから落ち着きなよ」
そう言って、俺は倉デバイスから袋を取り出して渡した
「おっ! いつも、済まないな」
「ヤター! ヤッター! ラーズさん、ありがとー!」
食い付く二人
ストレスの反動だろうな
「おおっ!? ラーズ、これは…!?」
ギデオンが瓶を取り出す
「ああ、俺達の小隊のそばの地酒だ。さすがに酒は無いだろ?」
「おおっ、ありがとうございます! 監視任務だから補給にも酒はありませんし、さすがに下の村長さんにも酒は頼めなくて…」
そりゃそうだろ!
二人は俺の酒をうまそうに飲み始めた
俺は、持ってきたスルメや干物を二人に渡す
「つ、つまみまで…! いいのか?」
ギデオンが宝物を見るような目で見る
山の中だと海の幸が食いたくなるだろ?
さぁ、ほどよく酔っ払って心の防御力を下げるんだ!
二人は焼酎を水で割りながら、大事そうにちびちび飲んでいた
思った以上に喜んだな
よし、さあ仕事をしよう
「ところで、ギデオン、ウダイ。話があるんだ」
「へ?」 「ほえ?」
二人が呆けた顔でこっちを向いた
気が緩みきってるな…
「これを見てくれ」
俺は、シグノイアの国内で戦った小型戦車やドローン、オートマトンや魔導サイボーグの写真を見せる
ゼヌ小隊長に渡されたものだ
「これは…」
「このオートマトン、シグノイアが放ったやつに似てますね」
ギデオンが首を傾げ、ウダイが思い出したように言う
「見たことがあるのか?」
「ええ、自分は二回ほどオートマトンの部隊と戦かったことがありますので。何でこの写真をラーズさんが?」
「このオートマトンは、ハカル国内に現れたものじゃない。シグノイア国内の写真なんだ」
「…え?」
ウダイは理解が出来ないようで、変な声を出す
これでハッキリした
シグノイアにもハカルにも、同じタイプのオートマトンが現れていたということだ
「なあ、ハカル軍の中に話が分かる奴っていないのか?」
「話が分かるやつ?」
ギデオンが俺を見る
「シグノイアの防衛軍の俺と、話をしてくれる奴はいないかってことだよ」
「いやいや、いるわけ無いですよ! 自分達だって、ラーズさんと会ってるなんてことがバレればスパイ認定で軍法裁判行きなんですから!」
いや、お前ら差し入れ散々受け取っているじゃねえか
「だって、おかしいだろ? ハカルとシグノイアで同じタイプのオートマトンが現れてるんだぞ? もしかしたら、魔導サイボーグやドローンも同じかもしれない、調べるべきだろ?」
「…言っていることは理解できるが、俺達は島流しと同じ扱いを受けている末端の下っ端だ。そんな調査ができる知り合いがいるわけないだろう」
ギデオンの諦め顔
まぁ、俺も特殊任務をしていなかったらそんな知り合いできてないからな
それなら、やはりあの手しかないか…
「なあ、白き盾のルークって知ってるか?」
「ああ、知っているぞ。人格者で有名なBランクの戦闘員だ、知っているのか?」
ギデオンが答える
「…戦地で妹を殺したんだ」
「なっ!?」 「えぇっ!?」
ハカル兵コンビが同時に驚く
「白き盾の妹って、あのCランクの光刃のリサですよね!? 戦ったんですか?」
ウダイは知っているらしい
「ああ、戦地で出会って交戦した。結果的に勝ったが、あと一歩で俺が殺されるところだった」
「…光刃のリサの強さは有名だ。それに勝つなんて、お前って強かったのか? 俺たちと同じで、飛ばされて国境に差し入れ持ってこさせられてるだけだと思ってたのに」
ギデオンが本気で驚いている
俺をどんな目で見てやがるんだ、この野郎ども
「ラーズさんって、親しくなったと思っていましたけど、やっぱり敵兵なんですね…」
ウダイは、俺を怖がるような目で見る
「戦場で会ったなら仕方がないだろう。やらなきゃやられるんだ」
そしてギデオンがフォロー
「リサを殺したとき、白き盾のルークが来てたんだ。Bランクが戦場では戦えない、シグノイア・ハカル戦地条約によって、俺は報復で殺されずに済んだんだ。連絡が取れないか?」
「…お前、妹を殺したのに白き盾に会うつもりなのか、殺されるんじゃないか?」
「ハカルに、他に知り合いがいないんだよ。人格者なんだろ? 俺が戦地で会った時も、話はできる印象だった。会ってみる価値はあると思うんだ…」
「…だが、会ってくれるとは限らないぞ? 俺達みたいな雑兵が声をかけてBランクがホイホイ来るとは思えないしな」
「俺はあの時白き盾のルークに名乗ったんだ。道化竜ラーズが誰にも秘密で会いたいと言っていると伝えてくれ。そして、このオートマトンとかの写真を見せて説明しろ」
「…それでダメだったら?」
「俺からこれ以上、ハカルにできることはない。割り切って切り捨てる。俺は、後はシグノイア内でやれることをやるだけだ」
「…」 「…」
二人は黙ってしまった
俺は立ち上がる
「…いいか、ハカル軍もシグノイア防衛軍も、お互いに敵国と戦っていると思ったら、全く別の第三者と戦っていた可能性が出て来たんだ。その重要性は分かるな?」
「あ、ああ…」
ギデオンがコクコクと頷く
「スパイにされないように、秘密裏になんとか白き盾のルークに連絡を取れ。現状、シグノイアとハカルの情報を交換できるのは、偶然出会った俺達だけなんだ。気が付けるのも俺達しかいないんだぞ」
俺は二人が頷くのを見て、差し入れを置いてその場を後にした
参照事項
セフィ姉と黒竜 152話 黒竜討伐1
白き盾のルーク 217話 帰還
ブクマ、評価、誤字報告、いつもありがとうございます!
次回から七章最後の戦いの準備が始まります




