226話 襲撃
用語説明w
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持するテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
ナノマシン集積統合システム2.1:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化、左腕の銃化も可能となった
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
リィ:東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊、霊体化、巻物の魔法を発動することが可能
竜牙兵:黒竜の牙に魔属性と竜の魔力を封入し、幽界から骸骨戦士を構成する爪と牙を武器とするアンデッド
ゼヌ小隊長に、ハカルの二人組の報告を行う
「…というわけで、特にシグノイアに影響のある活動はしていないと思います」
「そう、ご苦労様。念のため、こまめに顔を出して動向を確認してね。さすがに、敵国の兵士を見つけて放置ってわけにはいかないから」
「分かりました。あと、質問なのですが…」
俺はハカル兵から聞いた話をする
ハカルには、シグノイアが送り込んだというAI制御の自動破壊兵器やオートマトン、そして魔導サイボーグが出現している
そして、それをハカル兵が迎撃している…、らしい
「ハカルに? シグノイアから送り込んでいる…?」
ゼヌ小隊長は考え込む
「魔導サイボーグが防衛軍にいるなんてことも聞いたことがなかったので、本当なのかなって。ハカルの雑誌には、記事になっていますね」
俺は、ゼヌ小隊長にハカルの雑誌を渡した
「…ちょっと調べてみるわ。この雑誌、預かっていいかしら?」
「ハカルの二人からもらってきました。返さなくて大丈夫です」
小隊長室を出ると、カヤノがいた
「カヤノ、体調は大丈夫なんですか?」
「おはよう、ラーズ。もう大丈夫よ、ちょっと疲れが出たみたい」
カヤノは顔色もよく元気そうだ
「教えてもらいたいことがありまして…」
俺は、1991のフル機構攻撃にサイキックの衝撃を追加したいことを話した
「ふーん…、1991の六つ目の要素にサイキックを使うかぁ…。ラーズはテレキネシスタイプだからいいかもしれないわね」
カヤノは頷いた
「最初は、衝撃を作る準備の感覚から練習しましょう」
そう言って、カヤノが床に座る
俺は、サイキックに覚醒した直後のようにカヤノの前に向かい合って座る
サイキック、正確には物体に力を与えるテレキネシスの力を衝撃に変える
カヤノに教えてもらいながら訓練をした
・・・・・・
頭が重い…
サイキックが発現した直後の感じを思い出したな
いきなり脳を使いすぎて、知恵熱が出て頭痛に苦しめられた、あの感じに近い
サードハンドで物を持ち上げるのとは、脳の疲れが比べ物にならない
サードハンドの延長上に衝撃を作り出そうとしているのだが、全然うまくいかなかった
サイキックはイメージが大事なのだが、新しいサイキックの使い方をするときはイメージが固まっていないから難しい…
俺は、隊舎からの道を歩いている
十五分ほど歩くと駅に着くのだが、この道は隊舎とその先の港に続く道で夕方以降は人通りは少ない
それにも関わらず、この道の先に三人の人影があった
正確には三人と一匹、大きな黒い犬のような生き物がいる
そして、三人と一匹が俺を見ていた
何度も戦場や裏仕事をしてくると分かってくる
間違いなく、俺に用があるようだ
…心当たりは無いぞ?
装備は隊舎に置いてきている
ホバーブーツとヴァヴェルが無いのが痛い
持っている武器は、倉デバイスに入った陸戦銃と魔石装填型小型杖、ナイフくらいか
そして、俺の使役対象であるデータ2、リィ、竜牙兵が戦力だ
「データ、陸戦銃とデータ2を出してくれ」
データに倉デバイス管理を頼み、俺はリィと竜牙兵を呼び出す
全く心当たりが無いが、お客をもてなす準備だけはしておかないと
それを見た三人と一匹が動き出す
当たりは薄暗くなっており相手の顔はよく見えないが、装備は軍人のものだ
目視で武装を確認、杖が1、銃が2、犬っぽいの1!
絆の腕輪でリィと竜牙兵に指示を出す
リィは上空から巻物で範囲魔法、竜牙兵はアンデッドで物理攻撃には強いから銃を相手に、データ2は銃と魔石の魔法弾で全体を牽制だ
ドガガガガッ!
サブマシンガンを持った二人に竜牙兵が襲い掛かる
そして上空からリィが範囲魔法(小)を狙っていく
俺は、杖を持った男と犬みたいな生物に対峙する
あの犬みたいなのはモンスターだ、口から火が洩れている
俺はナノマシンシステム2.1を発動、左手を銃化して小型杖を持ち、右手で陸戦銃を持つ
今回、ホバーブーツが無いのが痛いが泣き言を言っても意味はない
「ガァッ!」
犬型モンスターが炎のバリアを纏い、杖の男の前に立って俺を威嚇する
このモンスター、特技を使うのか…!
後ろの杖の男はモンスター使いかもしれない
データ2がアサルトライフルを撃ち込むも、犬型モンスターが炎のバリアで銃弾を止め、杖の男を守った
そして、口を開けて火の玉を吐き出す
ボゴォッ…!
データ2がぎりぎりで避ける
当たったら、外部稼働ユニットが一発で壊されるかもしれない火力だ
「ご主人! あの犬はブラックドッグだよ! 口から火属性の特技を使うから気を付けて!」
データが犬型モンスターを特定する
ブラックドッグの後ろにいた杖使いが、魔法を放った
ゴゴォッ!
一瞬、俺の目の前の地面に魔法陣が光り、炎が立ち上がる
火属性範囲魔法(小)だ
だが、杖の動きを見ていたので予想ができた
俺は余裕をもって躱す
ブラックドッグは銃を警戒し、杖の男を守っている
こいつは優秀だ、杖の男を守る盾役をやりながら遠距離攻撃、そして高機動力も持っているのだろう
くそっ、ホバーブーツが無いとブラックドッグの防御を避けて撃ち込めない!
改めて、ホバーブーツって俺のアイデンティティだなって思うよな…
だが、データ2が杖の男を狙っているためブラッグドックの動きをけん制、膠着状態に持ちこんだ
モ魔があれば、この状況でも杖の男に攻撃が届くのにな…
盾役がいても、範囲魔法なら関係ない
ハカルの女兵士のときもそうだが、遠距離、近距離、範囲攻撃の三種類が揃っていると、対応力が格段に上がるのだ
ただ、モ魔だと効果範囲が狭く、発動も遅いので動きの速い敵には不向きという欠点がある
横を見ると、銃の男二人がリィと竜牙兵にやられていた
銃で骨のアンデッド撃ったって効果は薄い、こうなるのは当たり前だ
「…いきなり、何で俺を狙ったんだ?」
俺は杖の男に話しかけた
すでにデータが1991小隊に応援を呼んでいる
もうすぐ救援が来てくれるだろうし、時間稼ぎだ
だが、杖の男は魔法で答えた
俺の五メートルほど先に火属性範囲魔法(小)の魔法陣が光る
同時に、ブラックドッグが火の玉を吐く
ゴゴォッ!
俺は火の玉の射線上から避ける
すると、火の玉が火属性範囲魔法(小)の炎と融合、爆ぜた
ボッオォォォォォォォォォォン!
「なっ…!?」
拳ほどの炎が散弾のように飛んでくる
閃光と爆風が体を浮かす
炎に体を焼かれる
そして一瞬後に、地面に叩きつけられる衝撃
ドガァッ!!
「がはっ…!?」
火属性魔法と炎のブレスを合成して爆発させやがったのか!?
まずい、数か所炎に被弾した!
焼けただれて動けない…!
俺は意識を集中してナノマシン群による治癒を促す
とりあえず動けるようにならないとやられる
ドガガガガッ!
ゴオォォォォォォォッ!
データ2とリィがブラックドッグに攻撃、同時に竜牙兵が杖の男に襲いかかる
ブラックドッグが竜牙兵たちに攻撃を始めた瞬間…
最低限の治癒を行い、俺は静かに起き上がって杖の男に忍び寄る
気配を消して、静かに近づいた
「なっ!?」
俺を仕留めたと思って油断していた杖の男の隙を突けた
俺はナノマシンシステム2.1の左腕で、至近距離から銃弾を撃ち込んだ
ドンッ!
「がっ!?」
肩を撃ち抜かれ、男は杖を落とす
そして、俺は目を見開いた
「ア、アレクセイ…!?」
呼ばれて、男は俺の顔を見た
男も驚いた顔をする
「お、お前、ラーズか!?」
やはり、杖の男はアレクセイだった
捨て犬のアレクセイ、ブラックドッグのライカを使役獣とするモンスター使いだ
「なんでアレクセイが俺を襲うんだ!?」
「待て、誤解だ! 俺は、バックアップ組織に狙われている変異体の被験者を確保するように言われただけだ!」
「へ、変異体…!?」
俺とアレクセイが顔を見合わせていると、隊舎の方向から凄い速さで走って来る音が聞こえた
夜勤についていたロゼッタだった
…襲撃者は、全員が防衛軍の隊員だった
だがアレクセイが、相手が俺だと分かると戦闘を止めてくれた
仕方がないので、全員を一度隊舎に連れていき話を聞くことにする
「ラーズ、すまなかった」
「クゥーン…」
アレクセイが回復薬とカプセルワームを使って俺の火傷の治療を手伝ってくれている
そして、アレクセイの使役モンスターであるブラックドッグのライカがごめんねを言うように俺の傷をなめてくれる
善意が伝わってくるのでやめてと言いにくいが、ザラザラした舌が凄い痛いからやめてほしい
「おい、捨て犬! 貴様、命令に従わないつもりか!?」
銃を持っていた男がアレクセイを怒鳴る
「俺は、危険な被験者の確保を命令されただけだ。ラーズは俺の戦友だ、危険じゃない」
アレクセイは毅然と言い切った
「グルルルル…」
ライカが俺を守るように前に出る
「防衛軍の隊員が、拉致を行おうとしたってことですね?」
俺はライカの頭を撫でながら、銃を持った男に言う
「黙れ! 貴様は危険な存在なんだ! 黙って…」
ゴギャッ…!
男は体を反転させ、地面に頭を撃ち込んだ
ロゼッタが思いっきりぶん殴ったようだ
「防衛軍の隊員に攻撃を加えたということは、それなりのケガは覚悟してるんだよねぇ?」
ロゼッタが薄ら笑いを浮かべながら、もう一人の銃の男を見つめる
…怒ってるな
「ひ、ひいぃぃぃ! 俺は違う、そいつに命令されただけだ!」
完全にびびって、しりもちをついてしまった
「待ってくれ、俺とその男は本当に確保を命令されただけなんだ。確保の対象者が防衛軍の隊員だなんて聞いていなかった」
アレクセイが両手を上げる
俺達は、とりあえず隊舎に向かった
捨て犬のアレクセイについて
111話 モンスター使い 参照
ジャンル別
日間一位!
週間一位ーーーーー! ←初
月間五位!
こんな、こんな順位見たことない!
全て皆様のブクマ、評価のおかげです、ありがとうございます!
モチベが溢れる…w
できる限りペース落とさないように頑張ります
応援してもいいかな…、と感じてもらえましたら、お付き合い、ブクマ、評価のご支援をぜひよろしくお願いします!
誤字報告、いつも本当にありがとうございます!




