222話 変異体とは2
用語説明w
バックアップ組織:各地のテロ組織に、資金、技術、人材を提供し、その活動をバックアップする謎の組織
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
リロ:MEBパイロットの魚人隊員。十歳程度の容姿をしている。卓越したMEB操縦技能を持つ(固有特性)
ロゼッタ:MEB随伴分隊の女性隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)
クルス:ノーマンの男性整備隊員、車両の運転も兼務
緊急クエストは、特に問題なく終わった
防衛軍から三小隊が出ており戦力的には充分
公安もかなりの人数を出していたので、捜査自体もどんどん進んでいった
結局、戦闘は一か所のみで、研究所の入り口にある武装ガーゴイルを防衛軍で破壊した
このガーゴイルは、イジュンが使っていたガーゴイルと同種の物であり、関連性を調査するそうだ
秘密工場のその他の警備員や研究員はすぐに投降した
国際企業「炎」の傘下であるドンブリロ社
製薬会社であり、複数の製造工場や実験施設を持っている
その内のいくつかが、非合法の実験を行う施設だったようだ
大企業で力を持っているとはいえ、国際条約違反レベルの変異体の実験施設を暴かれたドンブリロ社は、公安の捜査を全面的に受け入れた
そして、全ての工場や実験施設を捜査中に、この施設の存在を発見したらしい
ドンブリロ社がいくつ工場や実験施設を持っているかは知らないが、全部を調べるのって大変だろうな…
そして、実際には真っ黒な施設をも発見したのだ
公安の執念の結果だろう
俺が実験棟の中に入ると、いくつもの医療カプセルが設置されていた
その数は五十ほど、先の秘密工場よりも規模は大きい
「…完全に人体実験じゃねーか!」
カプセル内の人間には体に明らかな変形が見られる
秘密工場では被験者の各部位が巨大化していた
体全体がうまく巨大化すれば、破城槌のエドモントのようにプチ巨人化するであろう変化だった
ここにも、同様に肩や足が発達し、部位が巨大化している被験者がいる
だが、ここの被験者達にはそれとは明らかに違う変化をしている者が含まれていた
頭蓋骨が伸び、額から上が常人の二倍ほどの長さになった者
背中から触手のようなものが一対生えた者
この二種類の変化は、明らかに部位の巨大化とは違う変形に見える
…ぱっと見る限り、変異体の変化には、この三種類の変形のパターンがあるようだ
いったい、この変異体という技術は何なんだろう?
個人の能力を上げることは重要だ
実際に、プチ巨人の身体能力は凄かった
だが、国際条約違反や軍事機密情報を使ってまで違法に実験するメリットがあるのだろうか?
ドンブリロ社は、間違いなくもう終わりだ
そして、この違法実験を理由に「炎」本社にも捜査の手を伸ばすことができるだろう
…現代の最高戦力は、高威力破壊兵器とBランク以上の戦闘員だ
闘氣が無ければ、変異体といえど勝てるわけない
プチ巨人と風の道化師が戦ったら、結果は明らかだ
それなのに、国際企業の傘下の製薬会社が、リスクを覚悟でこんな人体実験をしてまで変異体を欲しがる
何か理由があるんだろうか?
・・・・・・
オズマが、俺のところにやって来た
「ラーズ、お疲れ。今回はすんなり終わったな」
「オズマ、お疲れさまでした。これで、炎の本社も捜査できそうなんですか?」
「…ここまで、違法実験の証拠が得られたからな。バックアップ組織の件を抜きにしても、捜査は可能だろうな」
「それなら逆に、炎本社からバックアップ組織の証拠が出てくるかもしれませんね」
バックアップ組織と環境破壊の組織の実態が明らかになれば、叩き潰すのは簡単だ
シグノイアの国家権力をなめるなよ?
「ああ、そうだな。ここの捜査も資料が多すぎて時間がかかりそうだが、できるだけ急ぐ。また、次の調査報告会の時にな」
そう言って、オズマは他の捜査員と合流して仕事に戻って行った
1991小隊の隊舎、三階会議室
帰って来た隊員たちが集まる
昨日の続きで、変異体についての説明を聞くのだ
「みんなお疲れ様。バックアップ組織の解明に順調に近づいているようでよかったわ」
ゼヌ小隊長が話し出す
「ゼヌ小隊長! 今日の工場の被験者達は変異の仕方がおかしかったんです!」
リロが元気よく手を挙げる
そう、おかしかった
具体的には三種類の変異があったのだ
秘密工場では、部位の巨大化という変異のみだったのに
「ええ、その通りなのよ、リロ。説明するわね」
ゼヌ小隊長が、モニターに表と写真を表示させる
変異体は、ある程度デザインした方向に身体を変異させて、個人を強制進化させる
このデザインされた方向は、実は三種類存在するのだ
最初は身体能力に特化して強化された個体で、これはギガントタイプと呼ばれる
これは破城槌のエドモンドが典型的で、肉体の巨大化が最大の特徴だ
強化された身体能力はパワードアーマーを凌駕し、再生能力なども確認されている
しかし、バランスよく体全体が強化されることは稀で、普通は体の一部が肥大するにとどまる
あの秘密工場では、外科手術と投薬、医療カプセルにより、各部位をそれぞれ肥大化させて全体的に強化するという人体実験を行っていたようだ
実際にエドモンドの死体を調べたところ、多数の手術痕が残っていたらしい
「うえぇ…、そんな手術を繰り返してまで、変異体なんかになりたくないよぉ…」
ロゼッタが呻き、リロがコクコクと頷く
「これはドンブリロ社の違法な人体実験は話よ? こんな実験が認められるわけはないし、成功例と見なされているエドモンドは、おそらく内臓疾患を患っていた。無理やり変異体として覚醒したって、長生きなんかできないわ」
そう言って、ゼヌ小隊長が説明を続ける
次が、脳に特化して強化された個体、これはエスパータイプと呼ばれる
脳を巨大化させるために頭骨が常人の1.5倍程度に伸びるという特徴がある
具体的には、脳が入る器の部分のみが伸びるため、額より上が長くなる
脳を巨大化する理由は、処理能力の増加も目的の一つではあるが、体積を増やしたとしても残念ながらそこまで処理能力は上がらないことが分かっている
では、脳を更に巨大化する理由は何か? それは精力の出力強化である
サイキック能力に特化して能力を強化することにより、精力の出力を増し、更に魔力量の増大も見込まれる
更に、テレパスと五感を含めた感覚器が強化される
最後が、ギガントとエスパーの中間の個体であり、これはドラゴンタイプと呼ばれている
見た目は人間と変わらないが、ギガント、エスパーにはない特徴がある
それが、背中から生えた一対の触手だ
身体の拡張がこのタイプの最大の特徴であり、触手がドラゴンの翼のように見えることからその名が付いた
この触手は、しなやかに折れ曲がり背中の後ろに折りたたむことができる
ギガントタイプに一歩劣るが、強化された身体能力、エスパータイプに一歩劣るが、強化された脳力と五感の強化を持つ
さらに背中の触手にサイキックを通すことで、ある程度の飛行能力を得ることができる
身体能力特化のギガント、脳力と感覚器特化のエスパー、身体拡張とバランスのドラゴン
この三つのタイプが変異体の完成体なのである
「昨日言った通り、この変異体因子を使った強化は成功率が約十万分の一なの。実現は現実的ではないし、無理やり実現してもエドモンドのように後遺症を発症して寿命を削ることになる」
ゼヌ小隊長が顔をしかめる
「ここからが本題よ。昨日も少し話したけど、その変異体因子の発現程度を、変異体の遺伝子検査で数値として調べることができるの。そして、ある一定数値を越えると陽性と判定されるわ」
変異体遺伝子検査
変異体因子の発現程度を調べる検査で、この値が一定値を超えると陽性となる
誰でも持っている変異体因子が何を原因として発現するのかは分かっておらず、今のところ個人差としか言いようがない結果となっている
この数値が陽性となり、さらに数値を上げていくことで変異体の覚醒となる
覚醒まで行く確率が十万分の一
陽性が出る確率でも一万分の一以下という低確率だ
「…そして、うちの小隊には、この陽性反応が出ている人が五人いるわ」
なにぃ!?
一万分の一が五人もいるの!?
会議室がざわつく
「ジード、ロゼッタ、リロ、クルス、…そしてラーズね」
「はっ!?」
え!? 俺なの!?
みんなが驚いているが、陽性反応が出ているジード、ロゼッタ、リロ、クルスは平然としていた
あれ? 陽性反応が出ている中で、俺だけ知らなかった感じですか?
あぁ…、なんか体調が悪くなってきた
この陽性反応の話を聞いたからか…?
「そして、本人以外に陽性反応のことを伝えていなかったのは…」
ゼヌ小隊長が、咳ばらいをして話を続けた
待って! 俺には伝わっていませんでしたけど!?
「変異体は軍事機密情報であり、陽性反応を示す人間は希少だから。ドンブリロ社のような変異体を研究したい組織は、変異体の陽性反応が出た人間を血眼になって探しているわ。実際に、人体実験の被験者は、陽性反応が出た後に拉致されているの」
…だから、今後も変異体の陽性反応については他言しないこと
もし、隊員以外でそういう情報があったら必ず報告を上げること
そう言って、ゼヌ小隊長は説明を終えた
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