221話 変異体とは1
用語説明w
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している。ラーズと付き合うことに
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
リロ:MEBパイロットの魚人隊員。十歳程度の容姿をしている。卓越したMEB操縦技能を持つ(固有特性)
フィーナとの仲を進めたい
最初の目標は…、やっぱりキスだよな
具体的にどうしたらいいのだろうか?
冷静に考えると、俺とフィーナは恋人としてひとつ屋根の下で暮らしている
どう考えても同棲だ
同棲は、関係を進めるためにはチャンスだろう
しかし、逆に俺にとってはプレッシャーになっているのだ
考えてもみてほしい
同棲している → なんとか雰囲気を作ってキスにもっていく → 拒否されたら…
そう、同棲していると、気まずくなった時に逃げる場所が無くなるのだ
絶対に顔を合わせることになる
しばらく会うのを控えて、心のHPが回復してから再挑戦ということができないのだ
だが、一つ進展したことがある
戦地から帰って来た時、俺は泣き出したフィーナを自然に抱きしめた
ハグを達成したのだ
意識してないと全然恥ずかしくないんだけどなぁ…
夜勤明けのフィーナと落ち合って、一緒にお昼を食べる
カフェでミルクティーをテイクアウトして、海が見える丘の上の公園にやってきた
この季節は結構風が冷たいな…
フィーナとたわいもない会話を楽しむ
…だが、俺は狙っている
敵の隙を狙っているのだ
隙をついて攻撃をぶち込む
格闘技と同じだ
……
…
「そろそろ帰ろうか、寒くなって来たし」
フィーナが立ち上がる
一時間ほど、冬の公園で談笑してしまった
ちなみに、隙は見つけられなかった
…仕方がない、焦ってもしょうがないんだ
今日はたまたまダメだっただけだ
次こそは…
俺は狙いを悟られないよう、素知らぬふりをして冷たくなったミルクティーを口に流し込む
フィーナが寒そうに俺の側に来た
「ね、ぎゅっとして?」
ブーーーーーーーーーッ!
な、何だとぉぉぉぉ!?
いきなり何を言ってるんだ、この娘は!?
不意打ちにもほどがあるだろ!
口のミルクティーを全力で吹き出しちまった!!
「だ、大丈夫?」
フィーナが俺の顔を覗き込む
「い、いや、大丈夫だよ! ちょっとむせちゃってさ!」
ヤバい、完全に引かれた気がする
「寒いから早く?」
フィーナが手を広げる
「あ、ああ…」
な、何だこのかわいい生き物は!?
俺は何をしたいんだ?
とりあえず、ぎゅっとしてみよう…!
「…」
「…」
しばしの無言
俺は思った
恋愛とは格闘技と同じだ!
なんでも格闘技に例えるのはダメだとは分かっている
けど、論点はそこじゃない
どうやって相手の懐に飛び込むかだ
失敗を恐れては何もできない
相手を見すぎる選手は、試合ではなかなか勝てない
自分が手を出さなければ相手だって隙を見せないからだ
積極的に攻める選手は、カウンターのリスクもあるが、相手の隙だって作りやすいのだ
フィーナは勇気を出して、ぎゅっとしてと言ってくれた
俺はフィーナに、女に先に冒険をさせてしまったのだ…
このままでは、俺はヘタレで終わってしまう
次は俺が動かなくては…!
フィーナをぎゅっとした後、俺は優しくフィーナの手を取る
寒くないように、手を包み込むように握る
そして、自然と手を繋ぐ流れに…
すっ…
フィーナが、自然な流れで腕を組んできた
ぬっはーーーーー!
う、腕組んじゃうの!?
な、何だ、今日のフィーナは!
攻撃力が高すぎるぞ!?
これ、恋人じゃん!
恋人がよくやるやつじゃん!!
心の中で絶叫した後、チラッとフィーナを見ると顔が赤くなっていた
フィーナも恥ずかしかったのか…
そうだ、俺には勇気が足りなかった
次は俺から動かなければいけない
失敗したって別にいいんだから
・・・・・・
「なんかいいことあったの?」
会議室で、リロが俺の顔を見る
「えぇっ、何もないよ?」
「絶対あったでしょ。顔が緩んでるもん!」
そう言って、リロがニヤッと笑う
くそっ…、やはり十歳ぐらいの見た目とはいえ、女ってのは鋭いな…
いや、俺が分かりやすすぎただけか
1991小隊は明日、緊急クエストが入った
ドンブリロ社の秘密工場が新たに見つかったらしく、そこの制圧だ
また変異体の実験施設の可能性が高いらしい
前回のドンブリロ社の秘密工場の制圧は、警察庁と防衛軍内で大騒ぎになっている
軍事機密情報であり、変異体の人体実験については国際条約違反レベルの実験なのだ
注目度が大きく、さすがに今回は証拠隠滅などできないだろう
そういうわけで、防衛軍からは中隊本部が指揮に乗り出す大規模な制圧作戦となる
公安もかなりの人数が捜査に入るらしく、1991小隊はお手伝いだけだ
特殊任務としてではなく、正式な緊急クエストとしての参加だ
その分、いつもよりプレッシャーは少ない
もちろん、防衛軍内部のバックアップ組織の内通者に漏れると、秘密工場で証拠隠滅をされてしまう可能性がある
だから、信頼できる小隊に秘密裏に緊急クエストが出されたらしい
緊急クエストの指示を受けるために、他の隊員達も会議室に集まって来た
「みんな揃ってるわね?」
ゼヌ小隊長が会議室を見回す
「本当はもっと早く伝えたかったのだけれど、ラーズが余計なものを見つけてきちゃうから…」
ゼヌ小隊長が小さいため息をついた
…それって、ハカル兵の二人の話だよね?
あれって、俺のせいなの!?
「まず、明日の緊急クエストは、それぞれの役割を全うしてね。人数もいるし、そんなに難しい制圧にはならないと思うわ」
そして、ゼヌ小隊長がひと呼吸置く
「これから話すことは、そもそも変異体とは何なのかということよ」
…変異体か
確かに何度かキーワードとして出てきている
ドンブリロ社の秘密工場を見ると、人間を強化する実験か何かってイメージだな
ふと、横を見るとリロとロゼッタが真剣に聞いている
変異体に何かあるのかな?
「変異体とは…」
ゼヌ小隊長が説明を始めた
変異体
それは、人体の強制進化を促した結果の個体をいう
進化とは本来、生物が世代を経るに連れて環境に適応して変化していくことをいう
しかし、現代では遺伝子操作により個体を強制的に進化させる技術が存在する
この技術は、生存のための整合性をとるためある程度デザインされた方向に進化させる
進化の内容があまりに無作為だと、足が三本になったり肺が無くなって即死したりと、生存に支障が出るパターンが多すぎるからだ
「変異体とは、人類の最終進化形の一つよ。けれども、その完成形まで行ける確率は十万分の一以下とも言われているわ」
十万分の一って…、ほぼ完成しないってことか
遺伝子いじるのに、その確率じゃ怖くてやってられないな
「そして、変異体となる条件が…」
ゼヌ小隊長が話を続ける
この変異体には、理論上は誰でもなれる
現代人の遺伝子には変異体因子が組み込まれているからだ
変異体因子とは、要は進化する意思、進化してより環境に適応していきたいという遺伝子に他ならない
利己的遺伝子、つまり他の遺伝子との淘汰を生き抜き、自己の遺伝子の数を増す
そのために、より良い状態に変質していくという遺伝子の基本プログラムを暴走に近い状態で発現させ、かつコントロールしてデザイン性を持たせる
これが変異体の正体だ
変異体因子とは利己的遺伝子を含む進化の意思であり、誰でも持っている
変異体因子が活性化すると、変異体遺伝子検査の数値に変化が起こり陽性と判定される
そして、変異体因子が活性化して数値が増えていくと、体の変異、変質が起こり始める
体に変異、変質が起こりえる段階を、変異体因子の「覚醒」という
「…覚醒したら、どんな変異が体に起こるんですかぁ?」
ロゼッタが手を挙げた
「ラーズが秘密工場で戦った賞金首を覚えているかしら。破城槌のエドモント、あれはかなり完成度の高い変異体の変異例ね」
破城槌のエドモント
俺がプチ巨人と呼んでいた、身長2.5メートルもある鎧に身を包んだ賞金首だ
確かに普通の人間にしては体がでかすぎるし、身体能力も高すぎるとは思った
だが、鎧から見えた目は、人間の目にのように見えた
「変異体因子が覚醒すると、あんなデカい体になっちゃうの…!?」
リロが嫌そうに驚く
「…まずは、明日の秘密工場を見てからの方がいいわね。更に、何でこの変異体の話を全員にしたのか、何で今までこの話をしなかったのか。明日のクエストが終わったら話したいと思います」
こうして、明日に備えて今日は解散となった
ランキングにのせて頂き人が増えたので(感謝)、今後の展望を書いておきます
あらすじを更新して載せましたが…
この小説は、一章35話前後と閑話で構成しています
そして、十章で完結させる予定でいます(予定なので変わるかも…)
ブクマや評価を頂いた責任として、完結まで間違いなく投稿しますので、お付き合いよろしくお願いします
ブクマ、評価、励みになっております
読んでいただきありがとうございます




