219話 出会い
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
巻物:使い切りの呪文紙で魔法が一つ封印されている
ナノマシン集積統合システム2.1:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化、左腕の銃化も可能となった
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている。巻物の魔法を発動することが可能
今日は恒例の調査会議が行われることになっていた
しかし、オズマに仕事が入ってしまったので明日に延期になってしまった
国際会社「炎」と、その傘下のドンブリロ社の捜査で各地を飛び回っているらしく、開戦後もその忙しさは変わらないようだ
かく言う1991小隊も、戦闘員が戦地へ派遣されていたためクエスト消化が滞っており、今日はそれぞれの隊員がクエストに赴いている
俺も今日は単独でクエストを受けた
一人でのクエストは、それだけ危険性が高くなるということだ
しかし俺もCランクとなり、それを認められたと思うと嬉しさがある
今回のクエストは、シグノイアの北西、ハカルと接しているエリアの小隊の管轄地区だ
1991小隊と同様、他の小隊も戦地に派遣されており、その場合は残っている小隊がクエストを代わりに消化する
お互い様ってやつだ
今回のクエスト現場は低山の森で、ハカルと接してはいるが戦争の影響は無い
戦地と定められたカツシの町はシグノイアの北東であり、このエリアはシグノイアの北西、龍神皇国に近く戦地の反対側だからだ
クエスト
ニルギコングの駆除
『
ニルギコング、Eランク、全長一メートルほどの猿型モンスターで数匹の群れを作る
同じEランクのノムルウルフと同じく、初心者用のクエストによく選ばれるモンスターだが、狼型のノムルウルフと違って、牙による噛みつきの他に腕による攻撃もあるため注意が必要
その分、ノムルウルフよりも群れの個体数が少なく囲まれる心配は少ない
』
『
クエスト情報
三、四匹の群れが集落に近い森に住み着いた
農作物の味を覚えたようで被害が深刻、至急駆除されたし
』
1991小隊は南の海沿いにあるため、北の国境付近までシグノイアを縦断する
クエストは簡単な部類なのだが、移動に時間がかかる
弾薬を減らして倉デバイスに装備をぶち込み、電車で移動する
特急で三時間ってところだ
…このクエスト、もう少し近い小隊で受けられなかったのか?
現地でレンタカーを借りて移動、クエストを出した農村の住人に話を聞いてクエスト開始だ
荒らされた畑の側には猿の足跡がしっかり残っている
足跡や獣が通った痕跡を追っていくと…
「ヒャンッ」
同行させていたリィが一声鳴いた
その先にはニルギコングを三体確認できる
俺は絆の腕輪でリィにゴーサインを出す
同時に、ナノマシンシステム2.1で左腕を銃化する
ゴシャッ!
ドドドド…
リィが上空から発動した、巻物による土属性範囲魔法(小)の大岩が、一番大きいニルギコングを叩き潰す
個体を魔素で作り出す土属性魔法は、具体的には魔素を質量と運動エネルギーに変換している
しかし、リィが上空で土属性魔法を発動させる場合は重力があるため運動エネルギーを考慮する必要がない
巻物に込められた魔素の全てを質量に変換することだできるため、通常よりも大きな大岩を構成できるのだ
そして他の二体を俺が弾丸で仕留める
すると、近くでガサガサと音がして小さなニルギコングが逃げて行った
ニルギコングの子供だろう
危険を感じたニルギコングは、その場所から離れるらしいので放置しても大丈夫と判断する
確認できたニルギコングは全部で四体、数も合うから大丈夫だろう
俺は仕留めたニルギコングの内臓を捨てて運ぶ準備をする
ニルギコングはそこまで大きくないので、竜牙兵に持たせれば一回で運び終えられる
キラッ…!
その時、この山の上の方で何かが光った
何だ?
あの輝きは人工物の可能性が高いな
俺は一度農村に戻り、話を聞くことにした
・・・・・・
農村の住人から話を聞くも、「モンスターハンター資格を持った狩人くらいしか森に入らない」、そんな情報しか得られなかった
正体が分からないので、念のため光の原因を確認することにした
登山道など無いため、低山とはいえ結構疲れる…
だが、この山の頂上付近はハカルとの国境になっている
どちらの国にも町が近くにないため、この付近の国境を越えるメリットはあまりないが調査をしておく必要はあるだろう
思いっきり戦時中なわけだし
「…ん……ん……」
間もなく頂上であろう場所まで上がってみると、人間のものらしき声が聞こえて来た
マジか…!?
ここから国境を越えようとしたハカルのスパイか
もしくは狩をしているだけの一般人か
俺は、音を立てないように慎重に歩いて行く
感覚を研ぎ澄まし、声の元を探る
…一人じゃない、二人いるな
しかも、焦っているようで微かに血の臭いもする
何かのトラブルか?
慎重に近づいていくと、声の源となる人間の姿を目視できた
…思いっきりハカルの軍服着てるじゃねーか!
こんなところで何をしているんだ!?
スパイ…、って軍服で所属国をアピールしたスパイなんかいるわけないか
いや、ハカルと思わせて別の?
…こんな農村でそんなことする理由はないか
ハカル兵と戦地以外で交戦してしまうと、地区限定の戦争が全面戦争に発展してしまうおそれがある
情報収集のためしばらく様子を見ていると、どうやら一人が狩猟用のトラップにかかってしまったようだ
話している内容から、トラバサミ型のトラップに足を挟まれて負傷しているようだ
そして、そのトラップが外せずに悪戦苦闘している…、ということらしい
狩人がこの森に入るって言っていたから、トラップを仕掛けていたのかもしれない
周囲には人影はない
ハカルの兵士は見たところたいした実力も無さそうだ
どうするかなー…
無視するのもありだが、シグノイアへの侵入を企んでいる可能性もある
何も聞かないで報告するわけにもいかないか
とりあえず助けて目的を聞く、身分を確認する
襲ってきたら、射殺してこの森に埋めるしかないか…?
下手なことをすると全面戦争…、このリスクを考えるとスルーもありな気がするんだけどな
だが、俺は覚悟を決めてハカルの兵士に近づく
姿を見せて、間合いを取って止まる
「そこで何をしているんだ?」
「…っ!」 「うわっ!?」
二人は同時にこっちを見た
その顔には驚愕と恐怖の色が浮かんでいる
戦争している国同士の国境で声をかけられる、そりゃ怖いよな
「シグノイアの防衛軍だ。敵意は無い、武器を捨てるならこちらも武器を下す」
「シ、シグノイアの…!!」
罠にかかっていない、若い方の男が恐怖に震える
「ぐあぁっ…!」
その勢いでトラバサミを動かしてしまったらしく、罠にかかった年上の兵士がうめき声をあげる
「…もう一度言う、敵意はない。武器を捨てるなら、そのトラバサミを外して回復薬をやる。どうだ?」
若い兵士が、年上の兵士の顔を窺う
「武器を捨てよう。この状況で戦っても殺されるだけだ…」
「わ、分かりました」
話が決まったようで、若い兵士が自分の装備を横の木にかけ、年上の兵士の装備も外した
装備はアサルトライフルとベルトのハンドガン、そしてナイフのようだ
「…他に武器は無いな? もし持っていたら、俺はあんたらと戦わなければいけない。そうしたらシグノイアとハカルは全面戦争だ、分かってるな?」
「分かっている、装備はこれだけだ。調べてくれてもいい…」
年上の兵士が、痛みに耐えながら言った
俺は二人の体を調べて武器が無いことを確認すると、トラバサミの処理に取り掛かった
このトラップは踏んだ部分の下にストッパーが付いており、これを解除しないと開かないようになっていた
俺がトラバサミを開くと…
「おぉっ…!」 「痛っ…」
二人が声をあげた
年上の兵士の足を触ると、腫れており、痛みで呻いた
俺は、回復薬をかけて抗生物質クリームを抉れた傷口に塗ってやる
「多分骨が折れてるな。休める場所はあるのか?」
「少し移動すると、テントを貼っているんだ」
そう言って、若い兵士の肩を借りて年上の兵士が歩き出した
俺もハカルの装備を持ってついて行く
少し歩くと、木々の中に迷彩のテントを使った竪穴式の拠点が作られていた
拠点の中は寝袋が二つ敷かれ、その間に小さなテーブルが置かれているだけの空間だ
年上の兵士が寝袋の上に横になる
「礼を言う。俺はハカル陸軍第七歩兵旅団所属のギデオンだ。そしてこっちが俺の部下のウダイだ」
「あ、ありがとうございました…!」
ウダイが頭を下げる
ギデオンは神族、ウダイは魚人の兵士だ
「…で、あんたたちはこんなところで何をしていたんだ? シグノイアの領内に侵入するつもりだったのか?」
「この戦時中にそんなことするつもりはない。この拠点はハカルの領土だ、拠点を作ってシグノイアの動向を探っても問題はない」
ギデオンが強い口調で抗議する
このご時世に国境を越える意味は理解しているようだ
「…ここはもうハカルの領土なのか。だが、あんたがトラバサミにかかった場所はシグノイアだろ?」
ここらの国境は完全に山の中だ
目印も何もないから、国境は地図とGPSで判断するしかない
「あそこはイノシシの通り道になっていて、罠を仕掛ければ獲物が取れると思ったんだ」
「…まさか、あの罠ってあんたらがかけたのか!?」
「この馬鹿が、罠をかけたことを忘れていたんだ!」
ギデオンがウダイを睨む
ウダイは、冷や汗をかきながら目を伏せ続けている
…あきれて物も言えないわ!
自分達で勝手に自滅していたハカル兵、どうすりゃいいんだ?
ブクマ、評価ありがとうございます!
人がいつもよりも増えてる!
…今更ながら、やっとポイントシステムの意味を理解しました
この小説を必殺技とすると、ブクマが基礎攻撃力、総合ポイントが必殺技の威力
そして、必殺技(この小説)の威力(評価を含む総合ポイント)でランキングをぶち抜ければ、人の目に触れて基礎攻撃力が増えやすい
(例えが余計分かりにくい)
…という理解でいいんですね?
と言うわけで、もし面白いと思っていただけたならば、ブクマ、評価をお願いできないでしょうか!?
よろしく…、よろしくお願いします!




