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217話 生還

用語説明w

シグノイア:惑星ウルにある国

ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国


ナノマシン集積統合システム2.1:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化、左腕の銃化も可能となった

MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット


ロゼッタ:MEB随伴分隊の女性隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)

リロ:MEBパイロットの魚人隊員。十歳程度の容姿をしている。卓越したMEB操縦技能を持つ(固有特性)

エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)


白い鎧を女兵士の血で染めた男は、静かに俺に目を向けた

感情の読めない静かな目だ


「…お前の戦いは見ていた。見事だった」

鎧の男が静かに口を開く


見事だっただと?

仲間を殺した俺を褒めるなんて、何が狙いだ?


…ズキン 頭痛が酷くなってきた

Bランクのプレッシャーなのか


「お前何を…!」

また怒鳴りかけたウカムを手で制する


全員殺されるぞ、刺激するなって!



「私はハカルのBランク戦闘員だ。お前たちに手は出せない、安心するがいい」


「…っ!?」

ウカムが目を見開く


やっと状況を飲み込んでくれたようだ



…ズキン


くそっ、頭痛で考えがまとまらない

こいつは何のためにここに来たんだ?


鎧の男は静かに女兵士に目を落とす


「…この兵士は私の妹だ。闘氣(オーラ)は無くとも、努力してCランクまで上り詰めてレーザーエッジを勝ち取った。…戦争とはいえ、こんな所で………!」


一瞬、鎧の男の殺気が空間を支配する

闘氣(オーラ)の威圧感、それは種の格差に近いかもしれない


生物としての格の違い

本能に届く恐怖

それらが脳と体を切り離したように、俺達一般兵の動きを封じた


だが、その殺気は一瞬で消え、鎧の男は悲痛な表情を浮かべる


「お前の戦い方に嗜虐や凌辱は無かった。純粋な戦いだ…、戦場において、お前に否定されるべき行為は無い」


鎧の男は天を仰ぐ

その眼には静かに涙が流れていた


「あれだけの死闘だ、必要以上の攻撃を加えてしまうこともあるだろう。仲間から畏怖されるような…、な」


後ろで、部隊の仲間達が気まずそうに顔を見合わせる



…ズキン…ズキン


くそっ、プレッシャーで頭が…

こいつは俺達をどうする気なんだ…?



「…正直…復讐をしたい気持ちはあるが……」


鎧の男は歯をくいしばる

だが、女兵士の遺体を抱き、踵を返して俺たちから離れて行く



「…殺さないのか?」

俺はその背中に声をかける…、かけて()()()()


し、しまった…!

つい、口に出てしまった!


何で黙って見送らなかったんだ俺は!


…ズキン


くそっ、頭痛ぇ!

Bランクの気が変わったら全員瞬殺なんだぞ!?


「戦場での純粋な生存競争だ。お前が生存競争以外の行為を少しでもしていたら、喜んで八つ裂きにしてやったんだがな」

鎧の男は足を止めて振り返った


「…お前の名前を聞きたい。Cランクか?」


機嫌を損ねないように、答えた方がよさそうだ


「…ラーズ、Cランクだ。道化竜と呼ばれている」


「この子はリサ。光刃のリサ、Cランクだ。お前もCランクに上がるまでにかなりの努力を積んできたのだろう?」


「…それは、まぁ」


「この子もそうだったんだ。闘氣(オーラ)の無いリサの努力を、私はずっと見てきたんだ」


「…」


「…戦争なんかなければ、努力してきた者同士、お前とリサはいい友達になれたのかもしれないな」


鎧の男は哀しそうな…、何とも言えない顔をした


「…私は白き盾のルークだ」


そう言って鎧の男は、今度は振り返らずに空を飛んで去っていった




・・・・・・




俺達の部隊は、情報担当一名が殉職、他の五人は生還することができた

相手のハカルの部隊は全滅、生存者はゼロだ


「あいつ、白き盾のルークって言ったよな? 凄い殺気で、一瞬殺されるかと思ったぜ」

ウカムがのんきに笑う


「あのBランク戦闘員が殺す気だったら、私たちは十秒で肉塊に変わってましたよ…」


「マジで!?」


俺は、驚くウカムにため息をつく

ただ、Bランクの戦闘を見たことが無いと、その強さは実感できないのもまた事実だろう


今回はBランクの気まぐれに助けられた

()()()()()()()()()

俺ってなんて弱いんだろう…




このエリアの戦闘はシグノイアに軍配が上がった

戦線を押し返して、五分の状態に戻したようだ


俺達のエリアは、天使を召喚した召喚士をレールガンで狙撃して射殺

しかし、召喚された天使は消えずにレールガンの兵士ごと部隊を叩き潰した


後ろに控えていた戦車砲の波状攻撃で天使を何とか倒し、ハカルの部隊と衝突

お互いの戦力の削り合いの中で、シグノイアの魔法使いによる火属性範囲魔法(大)がハカルの部隊を壊滅させることに成功

周辺のハカルの部隊を撤退に追い込んだ


サイモン分隊長とカヤノ、リロのMEBとロゼッタ、そしてジードもそれぞれの場所で活躍し、無事に生還した

敵も味方も甚大な被害を出した、薄氷の上の勝利だった




俺は、1991小隊の車で横になっている

右胸とちぎれかけた右腕は、回復薬とウカムの回復魔法で大分ましになった

だが、それとは別に、頭痛が酷くなって動けない

周期的に酷くなり、痛みが増すと吐きそうになる


1991小隊は戦争参加のノルマを終えたため、派遣が終了となり撤収する

今はサイモン分隊長達が撤収の準備をしてくれている

申し訳ない…



先程合流したエマが打ってくれた注射で、かなり頭痛が引いてきた

エマが俺の血液を検査したあと、一瞬焦った顔を見せたのが気になる


「大丈夫…」

とは言っていたけど、何だったんだろう?



殺されると思った、死を覚悟した


リサというレーザーエッジの女兵士は強かった

武器もそうだが、使い方や戦術の練度が高かった

分散させたレーザー、それを悟らせない陽動


あのBランクが言っていた意味は分かる

あの女兵士は、俺達1991小隊に負けない努力をしてきたのだろう

あの実力と気迫…、尊敬できる兵士だった



ズキン… 思い出すと頭痛がする


恐怖に負けて、その兵士の体を必要以上に傷つけてしまった

久しぶりのあの感覚

我を忘れてしまう、あの感覚だ


後悔からなのかずっと頭痛が続いている



あの女兵士に勝てたのは、ナノマシンシステム2.1のおかげだ

左腕の前腕をアサルトライフルとし、さらに左手で小型杖を持ち、右手でナイフを持ったスタイル


三種類の武器を同時に使えるという選択肢、これが俺が求めた安定性だ

更に、前腕に銃を仕込んでいるということを悟らせなかったことも勝利に繋がった


人間相手には、1991のような大型武器よりも銃弾の方が効率がいい

リサという女兵士が俺を切り刻むのに、大型のレーザーよりも分散したレーザーの方が効率が良かったのと同じだ

強力な一撃よりも手数が大事なのだ


皮肉にも、ナノマシンシステム2.1の有用性が戦争で証明できてしまったな



あとは、範囲攻撃が欲しい

近接攻撃を仕掛ける相手と同じ土俵で戦うと、今回のように罠に踏み込む結果となる


蜃気楼魔法や防御魔法で狙撃が難しいため、広範囲を巻き込める範囲攻撃、モ魔よりも広い範囲魔法(中)のような攻撃方法がほしい

俺も魔法が使えたらなぁ…


ボリュガ・バウド騎士学園時代ってどうしてたっけ?

いや、あの時は普通に範囲魔法使えてたか…



ダメだ、ぐるぐると考えていたらまた頭が痛くなってきた…

せっかく休ませて貰ってるんだ、少し寝よう…




・・・・・・




「ラーズ、またな」


「ええ、ありがとうございました。ウカム、絶対にまた生きて会いましょうね」


俺はウカムとガッチリ握手をする


俺はレーザーで体の二ヶ所を貫かれて重症だった

右胸からは大量の出血もあり、ウカムの回復魔法が無かったらナノマシンシステムの治癒力があっても危なかったかもしれない


「俺は後方の医療部隊になるみたいだ。前線の部隊には悪いが、まだ安全な方さ」


ウカムは、今後もしばらくは戦争へと参加するらしい

正直心配だ


また生きて…、会いたいな




「ラーズ、大丈夫ぅ?」

ロゼッタが俺に回復薬を飲ませてくれる


「はい、もう大丈夫です。エマの薬で頭痛も収まってきました。帰りの準備、やってもらっちゃってすみません」


「しょうがないよぉ。でも死ななくてよかった、うちの事故者はラーズとリロの二人かぁ」


「えぇっ!? リロも怪我したんですか!?」


「大丈夫、リロはMEBの右腕が吹き飛んでメーカー持ち込みになっちゃっただけ。怪我はしてないよぉ」


「そ、そうですか…」


俺はホッと胸を撫で下ろす

リロはへこんでるだろうけど、無事なら何とかなる



…すでに、敵味方でたくさんの死傷者が出ている

俺も運が悪ければ殺されてた


この戦争は本当に必要だったのか?

もし、意図的に戦争を起こしたやつがいるとしたら、そいつを冷酷にやってやれる自信があるな






誤字報告、評価、ブクマありがとうございます!

励みになっております


700pt…!

ブクマももう少しで…

読んでいただいた皆様に感謝

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