213話 開戦宣言
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
バックアップ組織:各地のテロ組織に、資金、技術、人材を提供し、その活動をバックアップする謎の組織
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
ゼヌ小隊長の言う通りになった
「開戦宣言」
特殊任務の甲斐なく、シグノイアとハカルの両国は正式に開戦宣言を行ってしまった
東の国境にあるカツシの町とその一帯は、すでに激戦区となっているらしい
カツシの町の領有権を、どちらかが物理的に奪うまではこの戦争は続くだろう
今回の開戦により始まった戦争を、第二次シグノイア・ハカル戦争と呼称するそうだ
これに伴い、十七年前に始まった前回の戦争を第一次シグノイア・ハカル戦争と呼ぶことになった
カツシの町とその周辺は避難勧告が出され、現在は防衛軍関係者以外は入ることができない立ち入り制限地区となった
ただ、今のところ、この地区以外に被害は確認されておらず、国民の生活は以前と変わってはいない
シグノイアからの出入国制限も多少厳しくなった程度で、フィーナも特に問題なく龍神皇国に出勤している
しかし、同じ国内で戦争が起こっているという不安は国民にとって重くないはずがない
俺達防衛軍の仕事も特に変わることはなく、発生したモンスターの対応に追われている
戦争が始まってからはハカルからと思われる兵士やオートマトン、AI制御の小型戦車を始めとする兵器の出現は無く、むしろ以前よりも余裕さえある
しかし特評価小隊とはいえ、いつかはカツシの町での戦争に参加する必要があり、そのプレッシャーは大きい
…時間を無駄にするわけにはいかない
俺はデモトス先生との訓練だ
「ついに始まってしまいましたね。ニュースで、戦況コーナーなんて初めて見ましたよ」
久しぶりに亀の甲羅型の重りを背負って、大岩を持って歩く
「カツシの町に防衛軍が軍を集めてしまった時点で開戦は避けられなくなっていたのかもしれないね…」
デモトス先生がため息をつく
「メッツァー議員ですか」
メッツァー議員が主導して、カツシの町に防衛軍を集めて要塞化が行われた
そして、それに呼応するようにハカルもカツシも町の近くに軍を集めて睨み合うこととなったのだ
「メッツァー議員の動きも予想できていなかったが、その指示に従って防衛軍が動くことも予想していなかった。更にハカルの動きも早すぎる。…開戦を意図した力は、シグノイアのかなりの深い所まで力が及んでいるということだ」
「開戦を意図した力ですか?」
戦争とは、起こるべくして起こると思っていた
だが、何かの意図があるってこと?
「一つではないが、意図はあるだろう。例えば、メッツァー議員の意図が明らかに開戦だったようにね。特に今回、シグノイアはハカルと違って利益が少ないのだから」
ハカルの利益はカツシの町の領有権
シグノイアの利益は…、なんだろう?
カツシの町を失うリスクしかない気が…?
「た、確かに! シグノイアが戦争するメリットが無い!?」
「もちろん、攻撃されたハカルにやり返すとか、前回の戦争の報復を、など理由が無いこともない。だが、戦争をすることによる国際世論からの批判や物理的経済的な損害など、デメリットの方が明らかに大きい。だからこそ、今まで開戦を否定してきただからね」
確かにそうだ
そういえば、突然の戦争への転換
理由は何なのだろうか?
「戦争が起こる理由は国のシステムの問題だ。魔王を倒せば全て解決という時代ははるか昔に終わっている。現代では、貧困や独裁など、戦争をしなければ国民の生活が成り立たない場合に起こるのだよ」
「…シグノイアは貧困も独裁もない、普通の近代国家ですもんね」
「そうだ。だからこそ、特殊任務を続けて解明しなければいけないことが多い。そして、卒業テストも見据えなければいけないからね」
「は、はい! ただ、イジュンと戦ってみて、Bランクを倒すなんて出来る気がしませんでしたけど!」
今日も、いつも通りの厳しい訓練だった…
・・・・・・
会議室
ゼヌ小隊長が皆を集めた
更にオズマまでいる
何で?
「皆に集まってもらったのは、聞いてもらいたい話が二つあるからです。ちなみに、どちらも嫌な話よ」
ゼヌ小隊長が困った顔を見せる
「まず、一つ目は開戦についてよ」
第二次シグノイア・ハカル戦争が始まったことについてか
「私達は特評価を受けた小隊よ。だから、出動命令に対して拒否権が認められている。でも、だからといって、他の隊員が参加している戦争にずっと参加しないというわけにはいかない」
一度、ゼヌ小隊長は息を吐いた
「だから、中隊本部と話をつけて来たわ。命令を受けたら、言われた通り必ず戦闘に参加する。その代わり、参加は一度だけ、とね」
ゼヌ小隊長が皆を見回す
そうか、やっぱり戦争には参加しなければいけないんだな
納得しようがしまいが、そこは防衛軍として当たり前か
だが、一回だけというのはありがたい
「おそらく、命令は近いうちに来ると思うわ。今、カツシの町はかなりの激戦区となっているそうよ。皆、心の準備をしておいてね」
サイモン分隊長が手を挙げた
「1991小隊が戦争に参加している間のBランクモンスターの対処はどうするんですか?」
「それは他の特評価小隊に任せることになるわね。逆に、他の特評価小隊が戦争に行く場合はうちがカバーすることになるわ」
特評価小隊の仕事はBランクモンスターの対処だ
今のところ、まだBランクモンスターの出現はないが、そっちも気を付けないといけないんだよな
他に質問者がいないことを確かめて、ゼヌ小隊長が話を進めた
「もう一つの話が、黒竜の洞窟の調査が止められていた問題よ」
ゼヌ小隊長がオズマを見た
「これを聞いてほしくてオズマにも来てもらったの。忙しいのにごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
オズマが首を振る
「黒竜の洞窟の調査中止を指示した者が不明だったため、防衛軍の内部調査をしたの。結果…」
ま、まさか特定できたのか!?
防衛軍を黒竜の洞窟から離れさせ、バックアップ組織の内通者であるイジュンが占拠
挙句、地下の魔晶石を利用する危険極まりない実験を行っていた
普通に考えりゃ、指示した奴ってバックアップ組織の関連者だよな
防衛軍幹部って言っていたけど、そんなお偉いさんがバックアップ組織の関連者って防衛軍って大丈夫なのか?
「…結論から言うと、防衛陸軍の副隊長である可能性が高いわ」
「えぇ!?」 「まさか!」 「何だと!」
隊員達から驚きの声が上がる
俺もびっくりだよ!
俺達の所属する組織は防衛軍の中の防衛陸軍で、そのトップが防衛陸軍本部、通称大隊本部だ
副隊長とは、この大隊本部のナンバー2だ
これくらいのお偉いさんともなると、防衛軍というよりも政治家や官僚という側面が強い
「ただし、一切証拠がないわ。だから、間違いないとは言えないから注意して」
ゼヌ小隊長が注意を促す
「今回の、黒竜の洞窟への調査の中止に関しては、命令を下した人間が一切記録されていない。だから、現場の責任者から命令を伝えた人間を辿ったの。結局、途中で途切れて推測に頼ることになってしまったんだけれど…」
今回の黒竜の洞窟制圧作戦は、本部には秘密で決行された
当然、本部のお偉いさんには寝耳に水だったようで、いろいろと情報をとりに来ていた
その中で、イジュンやガーゴイルの詳細や出て来た証拠についてを特に気にしていた人間を追ったらしい
「……………」
皆が黙って聞いている
「状況的に、副隊長から直接命令が落ちてきた。そして、あえて記録を残さないような指示だった、としか思えない。これ以上調査を行うと、間違いなく事故が起こるわ」
ゼヌ小隊長がもう一度全員を見回す
「だから、この件は絶対に調べたりしないように。新たな証拠や、動きがあるまでは絶対に静観を厳守。分かったわね」
ゼヌ小隊長が念を押す
…これは、あれだ
前にサイモン分隊長が言っていた奴だな
興味本位であれこれ調べ回った奴は事故に遭う…
気を付けないといけない
参照項目
防衛軍の組織構造 閑話12 エマージェンシーコール
事故に遭う件 41話 組織批判
目を疑った…、ジャンル別日間で6位に入ってました…!
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七章開始です、よろしくお願いします




