19話 入院アンド手術
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン等を運用・活用するシステム。ラーズの固有特性となった
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹
一命をとりとめた俺は入院していた
怪我の治療とコアの埋め込み手術のためだ
ナノマシン集積統合システムは、コアとナノマシン群を一個体の擬似共生生物とする
共生相手はもちろん宿主だ
ナノマシン群とは、ケイ素系細胞、マイクロマシン、ナノマシンからなる人工極小マシンの集合体のことだ
そして、制御用のコアとナノマシン群からなる擬似共生生物は本能的に死を恐れる
今回、俺が生き残れた理由
それはあの時…
死にかけの俺がコアに共生先を提供する代わりに、俺の体を治させたかららしい
もちろん、共生先は俺の体だ
俺は、無我夢中かつ無意識に近い状態だったから覚えていない
でも、コアからの死を恐れるイメージみたいのが流れてきたのは覚えている気がする
その後、動きを止めた俺に回復薬をぶっかけながらジードが救出依頼をしてくれ、現在に至る
救出後すぐに、俺は医療用カプセル内で回復溶液に浸かった
背中の大穴の治療のためだ
コアは盗難品だったらしいが、すでに俺の体に癒着していた
剥がすためには、遺伝子情報をインストールしてナノマシンを制御する必要がある
一度遺伝子情報をインストールしたコアはもう使い回せないので、メーカーが折れて正規に譲渡してくれたらしい
傷を塞いだ後は市の病院に入院し、コアのメーカーの技師から手術を受けた
コアに正式に俺の遺伝子情報をインストール、宿主の肉体の維持を最優先という優先事項を設定し、俺の左肩に手術で埋め込んだ
身体の表面にケイ素系細胞を展開して高質化、全身の怪我をマイクロマシンやナノマシンで塞ぐ、なんてことが出来るようになると見込まれる
しっかり馴染むと、先の暴走のように腕を任意に大きくしたり、ある程度の変形ができるらしいが、少なくとも数年はかかるとのこと
ちなみに俺は、怪我の治療で二日間医療用カプセルに入り、コアの埋め込み手術で一週間入院した
本来は数千万ゴルドがかかるらしいナノマシン集積統合システムの導入強化手術
…これを出費なしでいきなり受けられた
普通に考えれば、貴重な強化手術なのでラッキーなのだろう
だが死にかけて、たまたま運良く生き残っただけの状態でそこまで喜べないってのが本音だ
あぁ、生きてるって素晴らしいね
念願の固有特性だが、それよりも単純に生きてることが嬉しい
・・・・・・
「もう防衛軍はやめて!」
フィーナの開口一番はこれだった
「心配かけてごめんな」
「なんでラーズがこんな危険なことばっかりやってるの?」
「誰も把握できてなかったんだ。犯人が何の闇手術受けてるかなんてわかるわけないだろ?」
「もういいじゃん! 私達と前みたいに…」
「フィーナ。俺は最近、強さが何かを考えさせられてるんだ」
「え?」
「Bランクは強いし、闘氣や強力な魔法も強い。じゃあCランク以下は強くないのか?」
「…」
「俺は強いと思ってる。じゃあその強さは何なのか?」
「…」
「俺は、手持ちのカードで生き残る戦術、そして連携力だと思っている」
「戦術だったら私達とだって…」
「Cランク以下は隊員は、全員に死ぬ危険がある。だからこそ、泥臭くても生き残るための戦術はここでしか学べないんだ。この戦術はフィーナ達Bランクと徹底的に違う、俺の武器になると思うんだ」
防衛軍の戦術は、「勝つこと」の他に「被害を出さないこと」を最優先している
なぜなら、攻撃を受けただけで人的被害…、要は「戦死」が簡単に出てしまうからだ
少々攻撃に巻き込まれたくらいでは怪我もしない、闘氣の高防御力を持つBランク以上と徹底的に違う差だ
「…」
「それに闘氣や魔法が使えない俺が、フィーナといたって何もできないよ。強力な魔法や闘氣、特技がないからこそ、連携力を強化するんだぜ?」
「…でも、死んじゃうかも」
「その可能性はゼロじゃないよ。でも、俺は初めてお前たちBランクに匹敵できる可能性を見つけたんだ。分かってくれよ」
「…」
「それに、もし俺が強いCランクになれれば凄い使えるだろ?」
Bランクの戦闘員は強力な兵器だ
強力な兵器を簡単に使えば、その国は国際的な世論を失う
よって、世界の紛争はCランク以下の戦力で行われる
最低限の戦力で「防衛」をしただけだ、Bランク以上の兵器なんか使わないっていうアピールだ
だからこそ、Cランク以下の戦力で勝てるのは大きい
強いCランクの戦力は下手なBランクより有用だったりするんだ
「私が…私がどんな気持ちで帰ってきたのか分かってる!?」
フィーナはやっぱり納得しない
「いや、心配かけたのはごめん! だけど、お前が出勤してる時は俺も同じ気持ちだからね?」
フィーナは龍神皇国でBランクの大魔導師として働いている
そりゃ、戦いにだって行くんだから心配だ
「私は怪我なんかしないもん!」
「てめっ、Bランクの横暴だろ!」
こうして、話は平行線ながら互いの大切さを再認識する
「次、入院したらセフィ姉に来てもらうからね?」
「セ、セフィ姉はダメだろ!」
マジで辞めさせられるかもしれないからな
決めたら折れてくれない、怖い人だ
…俺の憧れの人でもあるけど
フィーナが納得しないまま、俺は退院の手続きをする
久しぶりに我が家に帰れる
…落ち着いて考えると、今回手に入れた力は凄い
まだ実感は無いが、俺はナノマシン群での強化人間になったんだよな
フィーナには言っていないが、俺にもついに固有特性が…
うひひひ
「何ニヤニヤしてんの?」
「フィーナが迎えに来てくれたからに決まってるだろ」
真顔で誤魔化すと、フィーナはちょっと嬉しそうだった
うむ、感謝はちゃんとしてるからな
隊員人事記録(固有特性取得につき更新)
氏名 ラーズ・オーティル
人種 竜人
所属 1991小隊
称号 見習い兵士
戦闘ランク F
固有装備 なし(防衛軍支給装備を使用)
固有特性 ナノマシン統合集積システム ←New!
得意戦闘
・攻撃: 中距離の射撃、杖とモ魔の魔法
・ホバーブーツでの高機動戦闘




