201話 フィーナとの関係・改の改
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
バックアップ組織:各地のテロ組織に、資金、技術、人材を提供し、その活動をバックアップする謎の組織
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
フィーナに連れられて歩く
公園内には、遊ぶ子供達とそれを見守るお父さんお母さん達がいて微笑ましい
近くにあった売店でコーンスープを買って二人で飲む
「あったかいね」
「ああ、おいしい」
公園のベンチで話し込んでいたのだが、日差しはあるのに時折ふく風が冷たく体が冷えてしまった
公園を出たら、今度はショッピングモールのフードコートへ
「お昼ご飯を食べようよ。お腹すいちゃった」
気が付いたら、もうお昼だ
確かに腹が減った
そういえば、昨日はまともに食べていなかったな
一人でいると、延々と悩んでしまい食欲が出なった
やはり、悩みを言葉に出すということは、ストレスの解消としては効果的だ
自分が何に悩んでいるのか、それが明確になる
何より、聞いてもらえる、それだけで少しだけ安心できてしまう
フィーナは温かいうどんを、俺はそばを頼んで席に着く
お昼時なだけあって、周りの席は買い物客で埋まりつつあった
人と話し、体を動かし、食事をとる
これだけでもいい気分転換になった
「おいしかった!」
「ああ、おいしかった」
フィーナは、今度は水族館に向かった
大きな水槽の中には、熱帯魚、サメ、マンボウが色とりどりに泳いでいる
あっちの水槽には水龍やシーホースが泳ぎ、観客席付の水槽では、イルカとオットセイとマーマンが芸を披露していた
その後はクレープを食べ、喫茶店でお茶をして、二人で町を散策する
何の目的もない散歩もたまにはいいもんだな
フィーナは、相変わらずいろんなものを買い食いしている
パフェからのたこ焼きって、なんか違くないか?
・・・・・・
丘の上の公園に戻ってきた
今はちょうど夕焼けの時間だ
この時間は、俺とフィーナのお気に入りの時間だ
この時間にこの公園から海を臨むと、西の山に沈む黄昏の光が反射してきれいなんだ
学生の頃はたまに二人で、わざわざこの公園に夕日を見に来たことがあったな
朝日と夕日は同じ太陽だが、俺は夕日派だ
一日が終わり疲れてから見る黄昏ってのは、一日よく頑張ったなって言ってくれているような気がして好きなんだ
黄昏の金色に輝く海を眺める
気分が沈んでいるときほど、外に出てみるものなのかもしれない
この金色の海が、涙が出そうになるほど美しく見える
悩みすぎてメンタルがやられたからか?
「どうだった?」
フィーナが金色の光を受けながら聞いてきた
「うん? …ああ、いい気分転換になったよ。ありがとな」
気分が軽くなった
朝の沈んだ気分とは大違いだ
「もー、違うよ。ラーズが守った町を見てどうだったのってことだよ」
「え?」
「シグノイアをラーズは守っている。でも、全部は見れないから、その一部を見に来たんじゃない。今日すれ違った人達も、公園で遊んでいる子供達も、みんなラーズが守った日常だよ?」
「…っ!」
フィーナは、大袈裟に両腕を広げた
「ラーズ達防衛軍の人たちが守ったものをしっかり見れば、仕事の実感が湧くでしょ?」
「…ああ、そうかも…」
感情がグチャグチャになっている
なんだろう、この気持ちは…
フィーナにとっての龍神皇国の風景も、こんなふうに見えるのかな?
「ね、ラーズ。私は分かってあげる」
「え?」
フィーナが笑いかけくる
「正解が分からない、不安で仕方がない。それでも、正しいと思うことを決断して実行する。それって凄いことだよ?」
「え…」
「やらないことは簡単なのに、決断して正しいと思うことをやった。その勇気を私が褒めてあげる。ちゃんと分かってあげる」
「…」
フィーナは力強く俺を見つめる
「もしラーズが間違っていても、私だけは許してあげる。ずーっと味方してあげる」
ああ…、フィーナの言葉が素直に嬉しい…
シグノイアのために決断すること
決断して行動すること
それは間違ってない
そうか…
俺は、背中を押してほしかったのか
「ラーズ?」
フィーナに呼ばれて顔を上げると、俺の手に温かいものが落ちた
「…あれ?」
俺は…、泣いているのか?
まさか…
涙が静かに流れてくる
涙ってどうやって止めるんだっけ
「…」
フィーナは、俺の涙を見て少し驚いた顔をした
そして、静かに横に座ると黙って待っていてくれた
こいつ、本当に気を使えるな…
黙っていてほしいときに、黙る
まさか、テレパスとか使ってねえだろうな…
「…」
しばらく涙が出るのに任せていると、気持ちよく涙が止まった
疑問の答は出ていない
正解は分からない
正しいことをやりたかった
間違ったことをしたくなかった
不安だった
でも、やらなくちゃいけないと思った
「…」
開戦を一先ず止めたことは間違いない
今日すれ違った人の何人かを救えたのかもしれない
正しいかどうかは分からない
でも、決断したことで開戦を遅らせたんだ
フィーナの言葉でここまで救われるなんて、思ってもみなかった
いい年して泣くところを見られた直後なので、フィーナの顔を見るのが恥ずかしい…
「…正解は分からないけど、俺の出来ることをやるよ。ありがとな」
俺の目的は、戦争を止める、それだけだ
今日すれ違った人達の日常を守る、そのために正しいと思うことをやる
それしかない
それしかできない
暗殺が正しいか分からない
でも、行動をしないという選択はない
俺は自分で行動する
「…うん、よかった。少し元気でたね」
フィーナが立ち上がって、高台の柵に手を置いた
沈みかけた夕日で、フィーナの髪がキラキラと瞬いている
フィーナのおかげで少し吹っ切れた気がする
思えば、昔からフィーナには元気づけられてきたな
フィーナを見つめる
俺の好きな、黄昏とフィーナが一枚の絵のようだ
ああ、神々しい…
女ってやつは、何でこんなに綺麗なんだ
…夕日を受けたフィーナの横顔がまぶしい
「…好きだ」
自然に言葉がこぼれた
「え?」
フィーナが振り返った
フィーナはいつも自然だ
自然体で接してくれる心地よさ
自然に俺のことを気にかけてくれ、文句を言って喧嘩にもなる
やさしさとわがままの共存する、不思議な奴だ
「…フィーナ、好きなんだ」
「……………えぇっ!?」
真っ暗な思考の迷路から抜け出せたからなのか
引っ張り出してくれたのがフィーナだからなのか
とても自然に言葉が出てくる
なぜか恥ずかしさが全くない
気持ちを伝えたい
兄妹じゃない
好きだと言える
…異性として好きだと言える、そんな関係になりたいんだ
「フィーナ、兄妹をやめよう」
「………!!」
俺は、前に言いかけた言葉をもう一度伝える
フィーナの目が見開かれる
フィーナの深紅の目が、驚きで震えている
そうだ、前はここで言葉を止めてしまって誤解をさせてしまたんだった
何て言えばいいんだ?
シンプルに伝えればいいか
「…そして、俺の恋人になってください」
「…………は………い……」
フィーナの見開かれた目から、涙が溢れてくる
それも、とんでもない量だ
歯を食いしばり、涙と鼻水を垂れ流す
全力で泣く女の顔ってのは、正直あんまり可愛くない
だが、俺の告白でここまで心を動かしてくれるってのは、堪らなく可愛いな…
この矛盾する気持ちは何なんだ?
「…ふうぅ……ぅ……」
なぜか、俺の胸で号泣を始めるフィーナ
俺は優しくフィーナの頭を撫でる
…告白は、成功でいいんだよな?
言葉にして、改めて気がついた
…やっぱり、俺はフィーナに惚れていたみたいだ
フィーナは天才のはずなのにバカだ
時に感情的だ
喧嘩だって何度もした
だけど…、尊敬している
可愛いところが多すぎる
…しばらくして、やっとフィーナが落ち着いた
お互いに目が合うと、なぜか恥ずかしさが込み上げてくる
兄妹から恋人変わった
でも、すぐに何かが変わるわけじゃない
「…帰ろう」
「…うん」
夕日が沈み切って暗くなった公園を、俺達はどちらともなく手を繋いで歩く
…ちょっとだけ変わったみたいだな
フィーナと手を繋いだのなんて、小学校以来だ
うん、恥ずかしいが嫌じゃないぞ




