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閑話20 警備業務

用語説明w

サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)


俺は今、海のど真ん中にいる

北側に陸地が見える、沖合い二十キロメートルの海上だ


「さ、寒いっすね…」


「冬の海の上だからな」


ここはトウク大港の沖にある海上プラント

通称「海の町」だ



「…波が高いですね」


「冬の海は基本荒れてるんだ。知らなかったのか?」


今日は、サイモン分隊長と俺でここの警備の応援に来ている

俺達1991小隊は海沿いの管轄であり、海の町からも近いために警備応援の白羽の矢が立ったのだ



海上プラントとは海上の建造物のこと

この海の町は、発電と環境操作の二つの機能を持っている巨大建造物であり、二つの区画からなる海上の小さな町なのだ


一つが科学プラントの区画

海の町の発電は全て波力発電だ

海の町がある地点は海流の流れが近く、その地点に波力発電の発電機を設置しているのだ

更にこの電力の一部を使い、海水から燃料となる水素を作り出したり、核融合に使う重水素を取り出す水素工場ともなっている


そして、もう一つが魔導プラント区画

こちらはの機能は環境操作を行う区画だ

具体的にどのような操作を行うのか、それは水属性と風属性の分野となる


例えば津波が来たとしよう

津波とは、地震のエネルギーを得た海水が、それを運動エネルギーとして使い、波となって動く現象だ

つまり、液体である海水の動きに他ならない

水魔法によって海水を操作して逆位相の波を作り出したり、波の方向を変えたりすることで、津波という環境の操作をする


同様に台風に対しては、風魔法で発生させた空気をぶつけることで、規模を小さくしたり方向を変えたりするのだ

この魔導プラントは、いくつもの大きな魔晶石を使い、風と水の精霊や海の神と契約をして、複雑な術式を構築しているそうだ

この術式は、魔導プラントの制作企業である「ミズキ」が特許を持ち、企業秘密としているため公開はされていない



「サイモン分隊長、その火属性魔法を使った携帯ヒーターを早く使いましょうよ」


「ばか野郎、水素工場の真横で火属性なんか使ったら、海の町が消し飛ぶぞ」


そうか、水素に引火したらシグノイア史上に残る大惨事になってしまう

火の気はまずいな…


「なら、この使い捨てカイロしかないですね…」


俺は、袋に入ったカイロを取り出してシャカシャカと揉みしだく


「本部も先に言ってくれりゃいいのによ…! 警備場所が、水素工場がある海の町って分かってりゃ、バッテリー式のヒートスーツを持ってきたってのに」


サイモン分隊長も、ぶつぶつ言いながら俺が渡したカイロをシャカシャカし始めた


「カイロって、水に濡れたら高熱になるらしいから海沿いで使ったらダメですよね」


「肌に直接付けるなよ?」



海の町は、当然ながら国民の生活を守る重要な施設だ

モンスターや自然災害、テロリストや他国のスパイからも守る必要があるため、常に防衛軍が常駐している

常駐している防衛軍の隊員は、基本的には中隊本部の隊員がだ

つまり、お偉いさんや出世コースに乗っている隊員たちなのだ


だが、ハカルとの戦争に向けてシグノイアが動き始めたことで、防衛軍の幹部も各地の拠点に動くこととなり、ここの警備要員が確保できなかったというわけだ

とりあえず、近くの小隊ということで俺達が警備につくことになったのだが、人員配置くらい考えてやれや!





バッシャァァン!



沖合で、大きな生物が水面からジャンプした


「あっ!? サイモン分隊長、あれってシーサーペントじゃないですか!」


飛び出した生物は、リィのような東洋型で前足がヒレになっていた

分類上、水龍になるのだろう


ちなみに、竜と龍という文字は、それぞれ西洋型と東洋型のドラゴンを表す

要は、トカゲ型か蛇型かってことだ


「あいつらは、この気温で海の中にいて寒くねぇのか?」


「水の中の方があったかかったりするらしいですけどね」


相変わらず風が冷たい

俺達の警戒区画は外周の沖側で、施設の風上側なのだ

風避けがないので、交代までひたすら耐えるしかないのだ


それにしても寒い!

この寒さを忘れる何かをしたい!


「データ、ドローン飛ばしてあのシーサーペントの写真撮ろうぜ」


「ご主人! 無理だよ、この風で煽られてドローンが海に落ちちゃうだけだよ!」


データに、AIらしいまっとうな意見で却下される

そりゃそうか



仕方がないので警戒に戻ると、向こうから警備員が歩いてきた


「海上は寒いでしょう、大丈夫ですか?」


この人は、この海の街の魔導プラントのメーカーであるミズキの警備員だ、

慣れない俺達に差し入れの缶コーヒーを持ってきてくれたのだ


「おおっ! ありがとうございます!」


「わざわざすまないな」


俺達は、ホッとコーヒーを流し込む

温かさが染み渡る!


「突然警備をお願いしてしまってすみませんでしたね」


「いえいえ、防衛軍が人員の確保に失敗しただけですから」


ホットコーヒーとカイロで少し元気が出てきた


「そういえば、さっき沖の方でシーサーペントが見えたんですよ。ここら辺が生息域なんですか?」


「ええ、一年中いますよ。春になれば、イルカと一緒に泳ぐ姿も見えますね。ただ、近くに来ると大波が立つので気を付けてくださいね」


そう言って、警備員さんは帰って行った


「…あの警備員、元防衛軍らしいぞ」

ボソッとサイモン分隊長が言う


「そうなんですか? 再就職でここの警備員になったんですね、知り合いだったんですか?」


「いや、俺の同期が同じ小隊だったらしいんだ」


「へー、なんであの警備員さん、防衛軍をやめちゃったんですかね」


ホットコーヒーがもうアイスコーヒーになってしまった

交代まであと三十分だ、がんばれ俺!


「浮気したんだってよ」


「…あの警備員さんがですか? そうは見えませんでしたけど」


「しかも、三股らしいぞ」


「さ、三股!?」


どんだけ肉食系なんだよ、あの警備員!?


「しかも、同じ小隊内の女三人に手を出していたらしくて、発覚後に修羅場になったらしいぜ」


「そんな雰囲気の小隊で働きたくない…」


「で、嫁さん入れたら四股だろ? 女四人であいつを囲んで問い詰めたんだってよ」


「怖っ…!」


針のむしろだろうな…、でも明らかにあの警備員が悪いから仕方ない

浮気って、改めて考えたら裏切りだし、パートナーを軽視したってことだ


まだ彼女もいないが、浮気はやめておこう


「結局、防衛軍を辞めて、その退職金で嫁さんに慰謝料を払って離婚、今に至るってわけだ」


「話が重すぎますよ…」


だが、人の不幸は蜜の味

そして、自業自得による不幸はさらに興味をそそられてしまう


あの警備員には悪いが、いい時間つぶしにはなった


「そろそろ交代の時間ですね…」


その時、少し先の海でシーサーペントが姿を見せた



ザッパァァァァン!



「うわっ! 近い!」


シーサーペントはすぐに海に潜ってしまうが…



バッシャァァァン!


「うおっ!?」 「冷たーー!」



高波が立ち、俺たちは思いっきり水を被ってしまった

これが人の不幸話で時間をつぶした報いなのか…


俺達は防衛軍

人知れず、寒さに耐えながら国の施設を守るのも仕事なのだ



平時の防衛軍の日常です

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