191話 合コン
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
合コン
合同コンパ
コンパって何?
今回の出動で、ヘザーが企画していた合コンの相手方が負傷してしまったらしい
防衛軍同士の合コンだったのかよ…
ヘザー側は、女男女のパーティーらしい
つまり、俺は男女男のパーティーを組んで合コンに挑まなければならない
流されてOKしてしまったが、何で俺が…
フィーナとの関係もうやむやになっているのに、合コンなんかやってる場合じゃないんだけどな
でも、1991小隊の誰かのいい出会いになるかもしれないし、ヘザーにも頼まれちゃったしな…
今日は、俺は隊舎で待機任務だ
つまり、合コンのメンバー探しに集中できるってわけだ
隊舎に戻ると、ロゼッタとリロが話していた
女子は一人しか誘えないし、二人の内片方だけってのも誘い辛いな…
いや、そもそもリロなんか明らかに未成年か
待機室に戻るとカヤノがいた
一人だから、誘うのにちょうどいい
「カヤノ、今日って暇ですか?」
「あ、ラーズお帰りなさい。今日は私、当番なのよ」
マジかー、カヤノは隊舎で夜勤か
じゃあダメだな
「ちょっと合コンの人数集めしたんですけど、ダメですね」
「合コン? フィーナちゃんがいるのにあなた…」
カヤノの目が鋭く光る
「いやいや! 違いますよ、ヘザーに人数集め頼まれただけで、私は出会いなんか求めていませんって」
俺はヘザーとの合コンのいきさつを説明する
今後の小隊付き合いもあるし、いい関係は必要だろ?
「ふーん、なるほどね…。でも、ラーズが合コン付き合わなくてもいいんじゃないの?」
「まぁ、ヘザーとは特別クエストの縁があったので…」
あんまり変なこと言うとフィーナに密告されそうなので、俺はそそくさと待機室を後にした
医療室
エマに診察を受ける
最近、よく診察を受けるように言われるんだよな
「診察が多いし、薬も飲まされてるし、何か異常でもあるの?」
「デモトス先生の期末テストから、精力は乱れ気味…」
そりゃ、あんなテスト受けさせられたら精神的にも引きずりますわ
「ね、エマ。今日は暇?」
「…え? ええ…」
「じゃあさ、今日飲みにいかない? 合コンなんだけど」
考えてみたら、女性隊員を飲みに誘うなんて意識しちゃうな
今回は合コンに誘うだけだから大丈夫だけど
「え…でも…、私…合コンなんて…」
「大丈夫だよ、俺も行くし。それに連絡先交換するだけだからさ」
「え…、で、でも…」
絶対、合コンとか苦手だろうなと思いつつ、なんとか説得して参加してもらうことのなった
ノルマを達成していない営業職ってこんな感じなのだろうか?
ちゃんとエマのフォローはしよう
でも、俺も合コンなんかほとんど行ったことないけどな…
隊舎を出ると、ちょうどオズマが来ていた
「オズマ、お疲れさまでした」
「おお、ラーズ! あの賞金首を仕留めてくれたんだってな。あいつは、何人もの警察官を殺して逃げていたんだ。仲間の仇を取ってくれてありがとう」
「運良く倒せましたけど、あいつ強かったですよ。危なかったです…」
「おかげで、バックアップ組織の実体に近づけそうなんだ。あの工場もとんでもない人体実験をしていたし、明日の会議で詳しく報告する」
そうか、ついにバックアップ組織の尻尾が…
明日の報告を楽しみにしていよう
「オズマはこれから帰るんですか?」
オズマはスーツ姿に着替えている
「ああ、今日は半休をもらったんだ。デモトスさんとジードがあの工場の調査を続けてくれているから、少し休ませてもらうことになってな」
「なら、今日は飲みに行きましょう。防衛軍と公安の親睦を深めるために」
うむ、最後のメンバーが決まったな
「1991小隊とか? 別に構わないが…」
「いえ、ヘザーの小隊と合同ですね」
「分かった。何時にどこに行けばいい?」
俺はオズマに時間と場所を伝えて別れた
賞金首との死闘を制した後に合コンの準備をする、俺もタフになったなもんだな…
その後は、勤務終了後までナノマシンシステム2.1の練習を行うのだった
合コンの会場
要は普通の居酒屋だ
「ラーズ、急だったのにメンバー揃えるなんてやるじゃない!」
ヘザーが俺の功績を称える
「結構大変だったんですよ?」
合コンは結構盛り上がっている
「合コンなんて聞いてないぞ!? 仲間があの工場で仕事してるのに、俺だけ…」
とか、ぶつぶつ言ってた割に、オズマはヘザーともう一人の女性隊員と連絡先を交換していた
あいつ、結構慣れてやがるな
そして、とんでもない偶然が一つ
俺の大学時代の友人と再開したのだ
名前はロン、ノーマンの男だ
ロンは武術をやっており、格闘技をやっていた俺とは練習相手でライバルだった
「ロン、こんな所で会うなんて思わなかったよ」
「俺もだよ。まさかヘザーと知り合いだったとはよ」
ロンは竜神皇国に就職したのだが、去年背骨の悪性腫瘍を発症し、背骨を人工の骨に入れ換えるサイバネ手術を行ったらしい
そのサイバネ病院でヘザーと知り合ったそうだ
「久しぶりにシグノイアに戻って来たから、ラーズにも連絡しようと思っていたんだよ」
ロンの実家はシグノイアなのだが、ハカルとの戦争でこれから入国し辛くなってくる
今のうちに会えて良かったのかもしれない
ちなみに、エマとロンは話が弾んでいた
ロンの病気の症例とサイバネ手術について、医師免許を持つエマは興味があったようだ
二人とも連絡先を交換していた
俺、今日のMVPじゃないか?
ロンの健康状態は問題無いそうなので、今度会う約束をして合コンは終了となった
皆の出会いのきっかけになったのなら、俺も頑張った甲斐があったってもんだ
・・・・・・
「ただいまー」
「遅かったね?」
帰ると、フィーナが起きて待っていた
「飲み会だったんだよ」
わざわざ合コンなんて単語を出さない方がいいからな
「カヤノさんから合コンだって聞いてるよ?」
その時初めて、フィーナの雰囲気がおかしいことに気がつく
「…え!?」
あの女…!
フィーナに密告たのかよ!
話がややこしく…
「楽しかった?」
フィーナが笑顔で言う
だが目が笑ってない、鬼神の如き目力だ
人間は口で笑顔を表現するが、目が連動しない場合もあるらしい
完全に怒ってる! すげー怖い!
今日の俺にやましいことはない、完全にキューピッド役だったんだぞ?
何でこんなに怒ってるんだ!?
カヤノは何て伝えたんだ!?
「フィーナ、聞いてくれ! 合コンには二つの目的があるんだ!」
「…」
フィーナの口が笑顔をやめる
それ、もうただの怒った顔だからね?
「一つは、もちろん男女の出会いだ。でも、もちろんそれは俺の目的じゃない! もう一つが紹介だ。俺はヘザー達の出会いの場を作る協力を…!」
ガシッ…!
「…っ!?」
突然フィーナさんが俺の額に手を添える
「話が長いんだよ、この野郎…!」
「え? フィーナさん言葉使いが!? …痛っ!?」
フィーナは目を見開いて、口だけ笑顔を作る
フィーナの深紅の目が燃える炎のようだ
「人に中途半端に告った後放置しておいて…、合コンだぁ? この、この…」
フィーナの指に力が入る
尋常じゃない力だ、これ闘氣使ってるだろ!
「ぐがっ…! 落ち着…!」
ヤバい、俺の力じゃフィーナの腕をピクリとも動かせない
Bランクの騎士の腕力は伊達じゃねぇ…!
「このバカァァァァァ!」
「ちょっ! まっ! ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
…ドサッ
「…! …! …!」
指が頭蓋骨にめり込んだかのような感覚
痛すぎて声も出せない
「人の出会いより先にやることあるだろ…、バカ…」
フィーナは捨て台詞を吐いて部屋に入ってしまった
だが、悶絶している俺の耳にはもちろん届かなかった…




