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184話 フィーナとの関係・改

用語説明w

ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長

エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)

サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)

フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している


期末テストが終わった

隊舎に戻ると、ゼヌ小隊長達が待っていてくれた


「お帰りなさい、ラーズ」


「…只今帰りました」


俺は挨拶をすると、デモトス先生の所に行く

全く納得がいっていない


死にかけた

餓死しかけた

のたれ死にとは、想像以上に辛い死にかたなんだと痛感した


俺は川原で蛙や虫を手探りで探し、口に入れて生き延びたのだ


「蛙や虫は、高タンパクで栄養価も高い食材だ。繁殖期のこの時期を選んだから、たくさんいただろう?」

デモトス先生が微笑みながら説明する


「…」


俺は、この人に本気で殺意を覚えた

デモトス先生から何度か殺気を感じたことはあったが、自分で発する殺気を感じたことは初めてだ

おかげで、殺気の出し方が分かってしまった


「覚醒度は私の予想以上だよ。期末テスト前より数段強くなっている自覚はあるかね?」

デモトス先生は、普段と変わらない様子で俺の目を見て話す


…納得がいかないが、自覚はある

世界が今までとは違って感じられるのだ


風や大地の振動を感じる

匂い、音、全ての刺激を感覚とし感じ、それをしっかり認識している

視界だけでなく 、全ての感覚を使い切っている感覚だ


視覚を失ったため、その他の感覚をフル稼働していた

それが、この体の覚醒に繋がったようだ


つまり、本当に悔しいが、期末テストの意味はあったということだ…!



俺は完全に時間の感覚が無くなっていた

俺が放置されてから、オーガと戦うまでの間に十日間も経っていたらしい


さすがに十日間何も喰えなかったら死ぬ

つまり、川原で虫や蛙を食いつないでいたのがよかったようだ


…期末テストは一見無謀なようで、生き残れるよう計算された内容だったようだ


悔しい…!

腹が立つ!!

全然納得できない!!!



「ラーズは、以前から鎧を使わずに視覚以外の感覚を鍛えていた。つまり、全ての感覚を使う習慣が無意識に身についていたはずだ。どんなに追い詰められても、いきなり覚醒することなど稀だ。今回の場合は、極限の精神状態と集中力がきっかけで、覚醒するべくしてしたということだよ」


いや、あなたが戦場で鎧を使うなって言ってやらせたんですよ?

覚醒はしたかもしれないが、絶対許しませんからね?


「覚醒に必要な条件が分かるかね?」


「…分かりません」


「それは、生きるために戦うという意思と行動力だ。これは、死から逃げようとする行動とは決定的に違う」


デモトス先生は俺の肩に手を置いた

「よくやった。ラーズなら必ず気が付けると信じていたよ。今日はエマの治療を受けてゆっくり休みなさい」

そう言って、微笑んだのだった




・・・・・・




食堂で、エマがお粥を出してくれた


「内蔵が弱ってる…、ゆっくり食べて…」


腕には栄養材とナノマシン群の素材溶液の点滴を刺している


先ほど、ナノマシンシステムの再起動を行ったのだ

視覚も問題なく戻っている

しかし、急激な栄養不足により体調不良に陥ってしまっていた


ゆっくりと食べ物を胃に運んでいく


「美味しい…」

思わず声が出た


食べ物を食べられる、それがこんなに幸せなことだったなんて

そして温かい食事…、この温度の恩恵も計り知れない



「旨そうに食ってるな」

サイモン分隊長が食堂に入ってきた


「…危なくのたれ死にそうになったんですよ」


こうして食べている間も、サイモン分隊長の動き、振動、匂い、音、空気の動き、体温等を感じている

…デモトス先生の言う覚醒というやつは、間違いなく俺の体を作り変えてしまった


「やっぱり、お前も目付きが変わったな」


「お前…、()?」


サイモン分隊長はニヤッと笑った

「リサイクル経験者は、最後のテストで全員地獄を見たからな。俺も含めて全員、目付きが変わっていたぞ」


「サイモン分隊長もですか?」


申し訳ないけど、俺ほどの苦痛と絶望を味わった奴がいるわけないと思うぞ?


「俺のテストは、三メートル先にロケットランチャー積み重ねられて、俺の後ろには尖った杭を地面に斜めに刺されたんだ。爆発を盾で防ぎ、後ろに下がったら杭が背中にぶっ刺さるようにな」


「…!」


「お前、目の前からロケットランチャーを次から次へと撃ち込まれ続ける気持ちが分かるか? しかも、衝撃で下がると杭が背中に突き刺さって食い込んでくるんだぞ。あの時は、終わったら殺してやるって思いながら耐えてたぜ」


「…」



…ああ、この小隊は素晴らしい

俺だけが地獄を見たと思ったら、全然俺だけじゃなかった


これが仲間か…

同じ苦労をした仲間だ

俺だけじゃなかった、それだけでなぜかホッとできてしまった



「ま、その目付きになる気持ちは、俺もカヤノもリロも分かってるからよ。だが、しばらくすれば、そのテストが正しかったことに気がつくと思うぜ」


「…はい」


不本意だが、少し気がつき始めている自分が確かにいる




・・・・・・




アパートに帰ってくると、管理人のカエデさんと娘のサクラちゃんが前の道路で遊んでいた


「ら、ラーズ君…! 頬がこけちゃってるし、顔色が悪すぎるわよ! 大丈夫なの!?」


カエデさんに、本気で心配されてしまう

そりゃ顔色も悪いだろうな…


「ちょっと過酷な任務だったんですが、それがやっと終わったんですよ。大丈夫です」


「ラーズー!」

俺は、だっこをせがむサクラちゃんに高い高いをしてあげる


この距離だと、カエデさんとサクラちゃんの鼓動と呼吸が分かる

やっぱり、子供の方が鼓動も呼吸も早いんだな

…って、これはセクハラになっちゃう気がするな


カエデさんとサクラちゃんにさよならをして、俺は部屋に帰った



エマの点滴とお粥、そして回復薬と回復魔法でかなり回復した

後はゆっくり寝れば大丈夫だろう


ドアを開けるとフィーナがテレビを見ていた


「お帰りー」


「ただいま」


俺は、フィーナの鼓動や呼吸、視覚以外の情報を取らないように心がける


やはり、プライバシーは大事だ

フィーナもテレパスで俺と会話する時は、フィルターをかけて俺の心を読まないようにしてくれていた



「こんなに長く帰ってこないなんて思わなかったよ。言ってくれればよかったのに」


「ごめんな。俺もこんなに帰れないとは思わなかったんだよ」


いきなり十日間も帰れないとは思わなかった

フィーナにも心配をかけてしまったな


「…で、何でこんなにやつれてるの? って、ラーズの精力(じんりょく)の乱れが凄いよ!?」


精力(じんりょく)は精神の力

人間の脳は、精力(じんりょく)に覆われているが、それが乱れているのだろう

フィーナもサイキッカーだけあって、精力(じんりょく)の変化には敏感だ


「大丈夫だよ。死ぬかとは思ったけど、こうして帰ってこれたんだから」


「それ全然大丈夫じゃないよ!?」



俺は、フィーナに期末テストの訓練と、覚醒状況を説明した

俺の第七感の精力(じんりょく)のセンサーの感度も向上しているようで、フィーナの精力(じんりょく)も以前よりはっきり感じられる



「…ふーん、大変だったんだ。帰ってこれてよかったね」


「ああ、本当だよ」


フィーナが、温かい紅茶を入れてくれた

この()()()という感覚は、本当に幸せになれる


すると、フィーナが神妙な顔をして正座をした


「…ねえ、その、聞きたかったんだけど! 前に言った兄妹(きょうだい)やめるってどういう意味だったの?」

フィーナは心配そうな顔をしている



俺が告白しようとして心が折れてしまったのだが、フィーナには別居しようという意味に伝わってしまったようだ

どうやら、中途半端に伝えてしまったことが、予想以上に心配させてしまったようだ


いや! 違うんだよ! むしろ真逆なんだよ!

なぜ伝わらないんだ!?


…そりゃ伝えてないからだよな



「…」


今、言うべきか?

まだ心の準備が…


だが、期末テストで学んだことがある

それは、()()()()()()()()()()()()()、ってことだ

お互い、戦闘が商売の危険な仕事なんだ


言うか…

いや、素直になろう


俺は()()()()()()



あぁ、呼吸が荒い

なんかクラクラする


細かく呼吸して落ち着けろ…、ってバカか!

告白する相手の前で、そんな挙動不審なことが出来るか!


何も考えず、言うに任せろ

頼んだぞ、俺…!


「ラーズ?」

フィーナが、挙動不審の俺を怪訝な顔で見ている


そんな顔で見ないで!?


緊張でのどがカラカラになり、やはりさっきから頭がクラクラする



「…」


「…ん? どうしたの?」



俺はフィーナの目を正面から見つめる

言え! がんばれ俺!




「フィーナ、好きなんだ…」


「…!」

フィーナは目を見開き…、止まった




出た、言葉が出た!

よく言った、俺!



…だが、待て

勢いで言ってしまった


もっと、ムードとか! タイミングとか! サプライズとか!

考えなければいけなかったのでは?


言えばいいってもんじゃ…



フィーナを見ると、まだ固まっている


なんなの!? 答をはよっ!



そこで少し冷静になってきたのか、前回の不安が再び湧き上がってきた

フィーナにとって俺がそういう対象ではなかったら?

…悪いシミュレーション結果が俺の頭を占領していく


「…」


もう沈黙に耐えきれない…!

また、ポッキリと心が折れた



「…いや、やっぱり今の無…!」「ダメぇ!」


俺のセリフを遮るように、フィーナが大声を上げる



「…!?」「…」


無言でフィーナと見つめ合う



あぁ…、もうだめだ…

クラクラする… あ…れ…?



ドサッ…


「え!? ラーズ! ラーズ!?」



…自宅に帰ってきたことで緊張感が途切れていた

それにより、極度の疲労が俺を襲っていたようだ


だが、告白の緊張でそれに気がついていなかった

俺はブレーカーが落ちるように意識が飛び、そのまま深い眠りへと落ちてしまった


緊張感から逃避ではない…、ハズだ




ブクマ、評価ありがとうございます!

モチベを頂いております

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