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183話 期末テスト3

用語説明w

デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む


世界は美しく、そして残酷だ

俺がこのまま死んだとしても、何も変わらず美しいままだろう


黒竜が自分の死を悟ったときは、どんな気持ちだったのだろうか?



ぐちゅっ… ぐちゅっ…



何か柔らかい、得体のしれないものを口に放り込む

動いているから生き物だろう


食えればいい

死ぬよりましだ


アレルギー、毒、無機物…、口に入れてはいけないものは腐るほどある

だが、目が見えないので判別がつかない

動き、匂い、肌触り、温度で生物だと認識し、口に放り込んでいく


幸いなことに、今のところ腹は痛くはなっていない



空腹ではあるが、生存が可能な分を得ることができた

俺は石に座って瞑想を行う



「………」



野生の生物は、寝る、食べ物を探す、食べる、を繰り返す

それは俺も同じだ


だが、人間は腹が満たされると、寝る以外のことをやりたくなるらしい

こんな状況でも心に余裕がある生物、人間という生き物は凄いな



俺は、体と対話をする


呼吸に意識を向ける

呼吸に意識を向けると、体のどこが動いているのかが分かる



「…」



呼吸に意識を向けながら、周囲の情報を感じる

見えてはいない

でも、体の周囲360度が風景のように理解できる

これは新たな発見だ


感じている風景には、かすれていて見えない部分がある

例えば、小さな段差を流れ落ちている水の先だ

流れ落ちる水の音で他の音が消され、風もない

つまり、情報が俺まで届いていないのだ


俺は、そういう感じられない場所、見えていない場所をなんとなく把握できるようになった



「…」



周囲の状況の次は自分の体に意識を戻す

力が入っている場所を探していく


戦いや狩は、常にうまくいくとは限らない

必要な時は全力を出すが、基本的には想定外の出来事が発生した場合のために余力を残しておく必要がある


常に余裕を持ち八割、ほどの力で動く

目的地が分からないのに、全力疾走をしたらたどり着くなど不可能だからだ

この状態を自然体といい、余計な力が入っていない理想的な状態といえる


瞑想をすると、力みが分かる

余計な力を抜く、そうするとセンサーからノイズが消え、世界の風景がよりクリアになる

力を入れれば入れるほど、体のセンサーにはノイズが入ってしまう仕様になっているようだ


逆にいえば、敵を力ませれば力ませるほど、相手のセンサーの性能を下げさせることができる

挑発や恫喝を使って相手の心を揺さぶる

そうすることでセンサーの性能を下げ、より情報を取れないようにさせる


兵法とは、とてもシンプルで、効率がよく、そして俺が思うよりも恐ろしい手法だった




「…」



ふと、何かを感じた



何だ…?




…動きが不自然だ

こちらを意識している動きだ



…しかも大きい

小動物ではない、もっと大きなものだ



…いる

確かにいる



恐怖を感じる

だが、恐怖は生理現象だ


理解して抑え込む

精神状態を自然体に持っていいく


意識したことで、体の余計な力が抜けた

センサーの反応が向上したのが分かる



微かな風の動きと臭い、音

そして、何者かの精神の動き



…これは一体ではない

遠くにもう一体いる



近づいてこない、様子をうかがっているようだ

意図が分からない


精神が覚醒し、体のセンサーがフル稼働する

体のセンサーの感度が上がりきっている


何者かの動きが分かる




「…おめでとう、ラーズ」



…この声は……!



「では、期末テストを始めよう。準備はいいかね?」



「…ぁ……」



急に聞こえた言葉に動揺する

しばらく声を出していなかったので、喉がかすれて言葉が出てこない



「動かないように」



目の前の生物が、両腕を広げて俺の頭を挟む


()()()()()()



「うあっ……!!」


こめかみに鋭い痛み



「………」


ゆっくりと目を開く


ぼんやりと何かが視界に入る



「…ぁ……あ…」


そうだ…、これが()()という感覚だ



今は夜のようだ

だが、漆黒ではない


空は暗い灰色、それを背景に黒い山のシルエットが見える



だが、それだけではない

景色が立体に見えるのだ


音と風が景色を立体にする

目の前の生物の匂いがする



「…」


俺はデモトス先生を見る



なんだ?


俺は何をしている?



立ち上がると、俺はまたデモトス先生を見る



ああ、分かった

俺は怒ってるんだ



飢え死には、最も苦しい死に方の一つかもしれない

理不尽に放置された怒りが沸き上がってくる



死にそうになる恐怖、絶望、怒り、悲しみ

それらが作り出した感情



…殺してやる



だが、デモトス先生は落ち着いて話した

「…今、ラーズが発している感情を感じられるかね?」


「………?」


感情?


ああ…、分かる



これは殺気だ

俺は殺気を出しているんだ


考えが、思考が、殺意に塗りつぶされていく

脳がフル稼働して一つの感情を作り出しているんだろう


今の、この脳の使い方が殺気の放出なんだ…



「ラーズ、暴力性は生物の本能だ。だが、人間は理性も同時に進化させてきた。殺意に流されてはいけない、抑えなさい」

デモトス先生は静かに言って、俺に何かを差し出した


「…?」


これは、ナイフ…?


「それはラーズのダマスカスナイフだ。これで、一対一で戦い、勝ち残ることが期末テストだ。()()()()()()()、それを試すのだ」

デモトス先生が後ろを見る



その先には、大きな人間の形をした何かがいる


…オーガだ

俺が、1991小隊配属されて最初に戦ったモンスターだ



「ラーズの目は、まだ完全に視力が戻っていない。注意するんだよ」


そう言って、デモトス先生は佇んでいるオーガに何かをした



「グルルルル…、ウゴォォォォォッ!」


オーガは、突然目が覚めたかのように俺を見て雄叫びを上げた



デモトス先生は、影を纏って後ろに下がる


デモトス先生はあらゆる気配を消しており、オーガの目には映っていないようだ


オーガが一歩踏み出す

どうやら、俺を敵として、いや、獲物として認識しているようだ


攻撃的な息遣い、視線、殺気を感じ取れる


人間が、ナイフだけでオーガと戦うなんて、普通なら自殺行為だ

闘氣(オーラ)を使えるならば、たんぱく質の塊であるオーガの体を破壊することは簡単だろう

だが、闘氣(オーラ)がないなら、人間なんてすぐに殴り殺されて食いちぎられる



「ゴアァァァァ!」


オーガが腕を振り上げる



あぁ…、見える

違うな、感じる


オーガの体温が近づいてくる

オーガの生臭い唾液の臭い、息遣いもだ


腕を動かす瞬間に、それらに変化が起こる

オーガの体に、動きという変化があったからだ



ブォン!



半歩動くと、オーガの拳が俺の横を通しすぎる

俺は左の手のひらをオーガの腕に当てて滑らせる


踏み込むと、オーガの太い血管の振動を感じられる



トスッ… グリッ!


「ガァッ!」



わきの下に近い腕の付け根にナイフをダマスカスナイフを刺し、ねじって血管をちぎってやる


ブシューーーーーッ!!


勢いよくオーガの血液が噴き出す


血でナイフの持ち手が濡れてしまった

滑らないように服で拭き取る



オーガは噴き出た血を止めようと、右手で左の脇を抑えている

オーガの呼吸が乱れ、焦燥感が伝わってくる


血の臭いと、汗の臭いもする

先程よりも汗をかいているようだ


俺は足元の石を拾ってオーガに投げつける

そして接近だ


三メートルの身長があるオーガが相手では、確殺できる部位には届かない


それならば、下半身を削っていく

膝の裏、股間、内腿、かかと…


オーガの動きが手に取るようにわかる

オーガの攻撃が当たらない場所をキープし続ける

一方的にナイフを刺していく



股間を削ると、地面の振動に違和感

オーガがバランスを崩し、膝をついた

チャンスだ



ザスッ…


「ウゴォッ!」



オーガの耳にナイフを突き刺す

最優先はセンサーの破壊だ


オーガは、たまらず耳を手で押さえる

俺は、その指にナイフを叩きつける



ザクッ!


「ギャッ!」



オーガの指の先が抉れるが、切断までは出来なかった



ゴクリ…


オーガの肉片が付いたナイフを見る

俺は唾を飲み込んだ


オーガの肉片に食欲が刺激されるとはな


ああ…、肉が食べたい

腹が減った…



弱肉強食とは、個体と個体の関係だ

オーガと人間の、種族の関係性を表す言葉ではない


つまり、俺の方が強ければ、お前は俺に食われるんだ



…オーガが、攻撃が当たらない俺に対して恐怖を抱き始めたようだ

そんな感情が伝わってくる



…待て、焦るな

俺は自分の体の状態を意識して感じる


呼吸が早い…、少し焦ってきているようだ

深呼吸をして呼吸を落ち着けろ


俺は自分の状態を正確に感じることで、改善策を試せるようになった

緊張感によって呼吸が浅くなれば、呼吸を意識的に変えてみる

逆に、先走るように鼓動が早くなれば、深呼吸で落ち着かせる



オーガの動きを感じながら、手足の筋と血管を狙う

石を叩きつけての打撃

姿勢が低くなれば、首と感覚器を刺す


オーガの側面を常に取り続け、ナイフを刺していく

オーガの動き出す兆候を感じられる、攻撃をもらう気がしない


だが、ナイフが血脂で刺さらなくなってきた

俺は膝を付いたオーガの背後に周り、大きく振りかぶって、体重をかけてナイフをオーガの首に突き刺した



ドスッ…!


「グゴォ…!」



やはり息の根は止められない

あとは出血で死ぬのを待つしかないか…


俺は、冷静にオーガの全てを()()()



オーガを観察しながら、滴るオーガの血をなめる

ああ…、久々の塩分の味だ…!


鉄臭く、生臭い、正直旨くはない

だが、体が求めているのが分かる


「…」


暫くすると、オーガが動きを止めた

呼吸が止まり、体の活動が止まる

オーガの体から何かが無くなった、そんな感覚がした…


死の感覚まで、以前よりも感じられるようになってしまったようだ



ブクマ、評価、本当にありがとうございます!

励みになっております


期末テストはこれで終了になります



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