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182話 期末テスト2

用語説明w

魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力(じんりょく)、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと

魔力:精力(じんりょく)と霊力の合力で魔法の源の力

輪力:霊力と氣力の合力で特技(スキル)の源の力

闘力:氣力と精力(じんりょく)の合力で闘氣(オーラ)の源の力


デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む


デモトス先生に置いてきぼりにされてから、どれ程の時間がたったのだろう

時間の感覚はとっくに無くなったが、喉の乾きと空腹が時間の経過を嫌でも教えてくれる


もう限界だ…

何か…飲みたい…



何も見えない…

何も分からない


周囲の状況が分からず、まともに動けない

少し動いて、何かを触って、また座り込む

これを延々と繰り返している状態だ



視覚を奪われたことで、いつからか、常に何かに狙われているかのような恐怖を感じている



怖い

周りに何がいるのかが分からない


一秒でもいい、周りを見回すことができたらこの恐怖は消えるのに…




いったい、俺は何に狙われているんだ?


ずっと様子を伺っている、お前はいったいなんなんだ


俺をずっと狙ってきやがって


いい加減にしろ…


消えろ!


俺の目の前から消え… ん?



…目の前から?

目が見えないのに?



目の前にいた何者かが、急に()()()()()()


これが幻覚ってやつか…

俺は幻覚に狙われていたのか


頭がおかしくなりそうだ…

体の力が抜けて、俺は大の字で地面に横たわった



人間の脳は、常に大量の知覚情報を処理している

そのほとんどが視覚からの情報だ

しかし、突然その知覚情報が遮断されると、脳の情報処理は空回りを始めてしまう

暗闇に長時間放り込まれると、ありもしないものを見えたと認識してしまうのだ




「…」


幻覚は消えた

だが、何も改善はしていない


目眩と悪寒がしてきた

は、腹が減った…

水が飲みたい…



「…」



何も見えない…


何も感じられない…


俺、このまま死ぬのかな…




フィーナの顔が浮かぶ


もう会えない…?

やっぱり告白しとけばよかったな…





サァァー…





風が肌を撫でていく






そのくらいここにいるんだろう…?


もうどうでもいいか

飲まず食わずで体が動かねぇ…



期末テスト…?


こんな、ただ目をつぶされて森に捨てられて…

一体何が分かるって言うんだ…



もう感覚が無い






サアァァーー……



ザァザァザァ……



ゲコゲコゲコ……



チチチチ……






風が吹いている


左の方からは、風が途切れる

木でも生えているのか?





音が聞こえる


どこかで鳥が鳴いてる

蛙もだ



土の少し湿った感触

足の方の土は乾いている



土の臭い

草の臭い


微かに生臭い臭いもする




体の力が抜けたことで気がついた

目が無くても()()()()()


体が、世界を感じている

多くの情報に気がつく


周囲の状況が少しだけ分かる

視覚以外のセンサーが動き始めた感じだ


…いや、センサーは動いていた

視覚以外のセンサーに、たった今気がついたんだ






ザアザアザア…





さっきよりも音がよく聞こえる


水が飲みたい…




ザアザア…




遠くから微かに聞こえるこの音って…


「水が流れる音…?」



そうだ、水が流れる音だ…!

川があるのか?



俺はノロノロと立ち上がる

手探りで水の音のする方を進んでいく


木の幹、根、生い茂る草…

手で触りながらゆっくりと進む…



ズサッ…!


「うあっ!?」



だが、俺が進む先は斜面になっていたらしい

踏み出した足下が崩れて俺は落下する



ドスッ


「…ぐぅっ…!」



落ちる途中、木か石に脇腹を強く打ちつけた

肋骨が折れたのか、呼吸をする度に痛む


目眩と悪寒がする

だが、足を引きずって歩き続ける



水が飲みたい…


水を…




ザアザアザア…




水の流れる音、空気の温度、湿った風…

そして、足元に転がる小さな石


間違いなく川原だ

眼が見えなくても分かる!


俺は一歩づつ、足の裏で石の形を確認する

流れている川までゆっくりと歩いく



ゴクッ…


「旨い…」



冷たい水が体に染み渡る


ああ…、俺はまだ生きている…!




・・・・・・




現代の人間は肥満があふれている

だが、空腹の極限状態になってみると、その理由が理解できる

次にいつ食えるかわからない状況では、摂取した栄養を体にためておく必要が出てくる


つまり、栄養をためておく脂肪は必要だったということだ

まさに、今の俺のように…


水が飲めたら、次は空腹に対する欲求が俺の大部分を占めるようになった


斜面から落ちた影響で満身創痍だが、それよりも空腹が耐えられない

腹がすきすぎて気持ち悪くなってきた


栄養失調の症状が出て来ているのかもしれない

だが、水を飲めたおかげで少しは動けるようになった



脱水症状も出ていたのだろう

さっきよりも、めまいと悪寒が少し軽くなった




何かを食わないと…


だが、どうやって探せばいいのか分からない

俺は途方に暮れて、さっきから川原の石に座っている




ゲコケコ…


ブーン…




音が聞こえる

生物の音だ



「…っ!」


ピチャッ… 何かが俺の手に触れた

反射的にその何かを掴む


その何かが暴れるが、足が俺の指に挟まっている


ヒヤッとした感触…、小さい蛙のようだ…


俺はためらいなく蛙を口に運ぶ



「…」


旨くはない、だが貴重なタンパク源だ




石をどかす

何かが石の下を這っている


掴む


口へ運ぶ



殻のような外皮ごとバリバリと噛み砕く

足がたくさんある長い生物のようだ



生物には水が必要だ

だから、川辺には蛙がいる、虫がいる



今、喰わなければ死ぬ


気配を感じて掴む

気配とは、音、感触、匂い…


俺の体が感じている刺激


手探りで、必死に情報を、刺激を感じとる…




…この世界は、視覚以外にも情報が溢れていた


俺は今、世界を感じている


今までは、モニターに写し出されていた画像と変わらない景色を見ていた


だが、視覚を奪われたことで、世界に()()()を感じられる


音の遠近、風の強弱、匂い…

同時に、足の感触、振動、温度…

世界が奥に広がったような感覚


テレビで見ていた観光地に行くと、見える風景は同じはずだ

だが、視覚以外の情報が体に飛び込んでくる

視覚以外の新しい発見があるはずだ



…世界は俺の目の前にあるんじゃない

()()の全てにあるんだ


この当たり前のことに気がつけたことに、小さな感動を覚える

そして、それを理解できたことに利点が一つ


暗闇の、得体の知れない恐怖が減った

精神的ストレスが軽減されたのだ



だが、極度の疲労と空腹は依然として大問題だ


食い物がない

たったこれだけのことで、Bランクモンスターを倒したパーティーの一員である俺が死にかけている



「…腹減った……」



俺は、ふとデモトス先生との最初の訓練を思い出した



食べるのも鍛練だ。いつも食べられるとは限らないのだから…



最初の訓練、フィジカルを強化するために筋トレと大量の食事を食わされた

その時に言われた言葉だ


いつでもってどういう意味だ? と、警戒したが、この期末テストのことだったのだろうな…




・・・・・・




「…」


もう一人言を言う気力もない


空腹で限界だ


どれ程の時間がたったのか分からない


人間は空腹の限界になると精神が覚醒するらしい

精神だけじゃなく、体中のセンサーも覚醒している


周囲の状況を()()()()()


土の感触、振動、柔らかさ、固さ

風の強さ、方向、温度、臭い、音


常に体が刺激を情報として感じている



「…」



更に、覚醒を感じる場所がある

…脳だ


さっきから()()()感じている

第六感というやつだろう


第六感とは、脳から発する電磁波に、外界からの電磁波が干渉したときに感じているらしい

他の生物が発する脳波や、地球から発する地磁気の変化などだ



…更に、周囲の何かを感じている

これは、第七感で感じている精力(じんりょく)

俺のテレパス能力だろう


第七感とは、霊力や氣力、精力(じんりょく)を感知する感覚だ


ちなみに、第八感もある

魔力・輪力・闘力を感知する感覚なのだが、俺はチャクラ封印練の影響で感じることは出来ない



今までは世界を見ていただけだ


だが、世界とは感じるものだったんだ…



俺は、また川原の石をひっくり返して小動物を探す

生えている草を触って、食べられそうな部分を口に運ぶ



「はぁはぁ…」



体が重い

だが、感覚が研ぎ澄まされていく…



死にたくない


死んでたまるか…!






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