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181話 期末テスト1

用語説明w

ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性


デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む


ついに、期末テストの日がやってきた

デモトス先生と隊舎を出発する


近接武器はスサノヲに預けた

銃や全てのアイテム、倉デバイスも倉庫に置いてきた


PITも使わないということで、AIのデータともしばらくお別れだ

同様に、リィの勾玉、データ2の外部稼働ユニット、竜牙兵の黒竜の牙も置いていく


「ヒャン!」 「ご主人! 早く帰って来てね!」

リィとデータに見送られる


「…ラーズ、絶対に帰ってこいよ?」

サイモン分隊長が心配して言う


「頑張ってね…」 「絶対、帰って来てね!」

カヤノとリロ…、リサイクル経験者は本気で心配そうだ


多分、自分の期末テストと重ねてるんだろうな

期末テストってどれだけ危険なんですか?


昨日はフィーナと楽しく酒も飲めたし、もう思い残すことはない

やれるだけのことをやるだけだ!


「帰りを待ってるからね。いってらっしゃい」

ゼヌ小隊長に見送られ、俺たちは隊舎を後にした




・・・・・・




俺が車を運転して、目的地に向かっている

目的地は山の中のようだ


山の中とはいっても、立ち入り制限地区ではないのでモンスターは少ないはずだ

山ごもりみたいなことをするのかな?


危険なモンスターが出ないということは、少しホッとできる情報だ

なんといっても、装備品もない、アイテムもない、PITという情報ツールもない、本当に体一つで向かっているのだ



「ラーズ、暴力や性犯罪、略奪や正当防衛以外の殺人をどう思うかね?」

デモトス先生が聞いてきた


デモトス先生は、いつも微笑みながら話す

だが、今日はその笑顔がない


「もちろん最低な行為だと思います」


デモトス先生は頷く

「では、なぜそういった暴力性に流された行為を犯す人間が後を絶たないと思うかね?」


「…それは、我慢や忍耐を学んでこなかったからでしょうか」


「それもあるだろう。だが、私はもっと単純な、根本的な理由があると思っている」



根本的な理由、それは遺伝子の設計だ

生命の二大目的は、生命の維持と子孫を残すこと

少ない食べ物を少しでも多く得るため、少ない異性を勝ち取るため、生物は進化を重ねてきた


生き残り、少しでも多くの子孫を残すために、生物は暴力性を進化させてきたのだ

暴力性を持たない個体よりも、暴力性を持った個体の方が、当然子孫を残す確率は高くなるのだから当然だ

だが、現代の人間は社会を構成し、進化させてきた暴力性は社会にとって害となってしまっている



「人間に潜む暴力性は、人間の本質であり本能でもある。それを理解し、本能に流されずに制御することが人間の成長だと私は思っている」



だが、人間はその暴力性だけではなく、暴力性を制御するために前頭葉を進化させた

人間の理性とは、暴力性を根源とする本能を制御するために進化したものだ

人間が社会性の生物と言われる所以の一つだろう



「現代の社会は暴力性が否定される素晴らしい社会だ。だが、そうとばかりも言っていられない。戦争が始まれば、その暴力性が肯定されるようになってしまうからね」


「…っ!」



戦場は、むしろ暴力性が肯定される

非人道的な行為を平然とできる人間が英雄となっていく場所なのだ



「ラーズは、各国が要しているBランクの騎士の理念をどう思うかね?」


「えーと…、品行方正といういうイメージですかね」



フィーナやセフィ姉は龍神皇国の騎士だ

シグノイアの防衛軍も、Bランク以上の戦闘員を要している


Bランク以上の戦闘員はその国の顔だ

一般的に、品行方正、清廉潔白といったイメージがあり、その質がその国の質を表すといっても過言ではない

少なくとも、野蛮なBランクがのさばっている国を、品行方正な国とは見ることができないだろう



「そう、彼らは暴力性を徹底的に排除している。正々堂々と力を行使し、そして勝ち抜く。勝ち抜くだけの力を持っている。ラーズはそんな相手とどう戦う? 戦うためには何が必要だと思うかね」


「…暴力性」



戦争になれば、当然、ハカルのBランクと相対する可能性もある

まともにやれば瞬殺されるだろう


力が劣った者がどうやって戦うか、それには汚い手段が必要だ

正攻法で無理ならゲリラ戦しかない

騙し、不意打ち、弱点を狙い、弱体化を狙っていくしかない…



「暴力性は、弱者…、正攻法では勝てない者が勝利を得るための手段でもある。理解し、流されず、打算と覚悟を持って使うべきだ。汚さを否定して戦えるほど、人間の兵士は…、戦争は甘くはないからね」


「はい…!」



戦争が始まるということは、武力による生存競争が始まるということだ

それはつまり、人間が生存競争の過程で進化させてきた暴力性が肯定されるという環境だ


デモトス先生に言われて、改めて理解できた気がする

俺は、どこか現実感を持っていなかった

戦争が始まるということを甘く見ていたようだ




・・・・・・




森につくと、車を置いて三時間ほど山道を登った

道なき道を進むと小さな広場に着き、デモトス先生が立ち止まった


「ラーズ、これから期末テストを始める。覚悟はいいかね?」


「は、はい!」


ついに、期末テストか!

いったいどんなテストなんだ!?



「では、これを目につけなさい」

デモトス先生は、目を覆うアイマスクを渡してくる


「し、視界を遮るんですか?」


「そうだ。そして、この注射をしてもらう」

デモトス先生が注射器を取り出した


「なんの注射器なんですか?」


「ラーズのナノマシンシステムを一時的に止める溶液だ」


「…えっ!」



視覚とナノマシンシステムを使えなくするのかよ!

怖い…


だが、これは期末テストだ

しかたがないのだろう


俺は、ナノマシンシステムを停止させる溶液を左肩の近くに注射する

これは、俺のナノマシンシステムのコアが左肩の近くにあるためだ


更にアイマスクをして視界を遮る



「では、私の肩を持ってついてきたまえ」

デモトス先生は、俺を肩につかまらせて更に山道を登り始めた




視覚が無いので時間の感覚までが無くなってしまったが、感覚で一時間ほど歩いた


「ここだ」

デモトス先生が立ち止まった


「ここが期末テストを行う場所ですか?」


「そうだ。では、そのまま後ろを向きなさい」

デモトス先生に言われた通りにおれは後ろを向く


視覚がない暗黒の中で、デモトス先生が何かを取り出す音が聞こえる…



ドスッ…


「ぎゃっ…!!」



突然、両側のこめかみに同時に激痛が走る


「うあぁ……あ…」


しばらく頭痛に悶えると、やっと痛みが収まってきた


「ラーズ、顔を触ってみなさい」

デモトス先生の声が暗黒の中から聞こえる


「は…?」

俺は顔を触るが、いつもの自分の顔と変わらない


「アイマスクが取れていることに気が付いているかね?」


「…え、あっ!」


そうだ、確かにアイマスクが無い

だが、目の前が真っ暗闇だ


「ラーズの視覚を、秘孔を突くことによって一時的に奪っている。私が解除しない限り視覚は戻っては来ない」


「し、視覚…、目をですか!?」


「期末テストの内容を伝える」


「は、はい!」

俺は、真っ暗闇の中、デモトス先生の声がする方に顔を向けた


「期末テストの課題は気が付くことだ。期限は無期限、ラーズが生きている間に気が付くことができれば合格だ」


「気が付くって…、何にですか?」


視覚を奪われて気が付くって、どういうことだよ!

何にも見えないんだぞ!?



「ラーズ。この期末テストが終われば、君は格段に強くなっているはずだ。()()()()()


デモトス先生は俺の質問には答えず、遠ざかって行く



「え!? ちょっ、ちょっと待ってください! 何に気が付けばっ…! 意味が分かりません! デモトス先生!」


俺は焦って声がした方向に一歩踏み出すが、石のようなものに躓いて転んでしまう

その間に、デモトス先生の声も気配も全てが消えてしまった




・・・・・・




「あーっ! くそっ!!」


俺は、さっきから周囲の空間をウロウロしている

周りに何があるのかわからず、躓いたり、木の枝が手に刺さったりしている


デモトス先生が消えてから、体感で一時間

すでに時間の感覚は完全に無くなっているので、もしかしたら三十分かもしれないし、二時間なのかもしれないが…


さっきからこの場所から動けない

多分十分

メートルほどの周囲をぐるぐると回っただけだ


食料はない

水もない

それどころか、目が見えない!


一体どうしろっていうんだ…




ブクマ、評価、ありがとうございます!


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