180話 フィーナとの関係
用語説明w
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
今日は少し早めに帰れることになった
「しばらくラーズの出動はない。期末テストで武器は使わないからスサノヲに預けてくるといい。今日はゆっくり休んで、期末テストに臨んでくれたまえ」
と、デモトス先生にそう言われたのだ
言われた通りにジャンク屋によると、スサノヲが弓のように曲がった棒を持っていた
「スサノヲ、何やってるんだ?」
「お、ラーズ。ちょうどいい、これ持ってみてくれ」
スサノヲはそう言って曲がった棒を差し出す
俺は受け取ってみるが、この棒の正体が分からない
「これは何なんだよ?」
「新しい武器の芯材の試作品だよ。オルハリコンの支柱をこの形に加工して、先端に魔玉、反対側が柄と石突きになる」
「あー…」
何となくイメージが出来た
この弓のような棒に、あの嘴のような刃体が組み合わされるわけか
工房の壁に当たらないように気を付けながら、刃体の形をイメージして振ってみる
「もう少し角度が広い方がいいか?」
「そうだな。盾としてガードするときに、もう少し刃体との距離があった方がいいかも」
スサノヲと芯材の形を調整をしていく
オルハリコンは硬度が高く、一度加工するともう調整は効かないから、この調整は大事だ
調整があらかた終わると、俺は倉デバイスから近接武器を取り出した
・ドラゴンブレイド
・ロケットハンマー
・超振動ブレード
・ハルバート
・大剣星砕
この武器達が、これから新しい一つの武器となるのだ
逆に言えば、この武器たちの姿は失われてしまう
防衛軍のメイン武器は銃と杖だ
遠距離から火力を出せるので強い
だが、それだけでは不十分だった
乱戦になったときや、大型の敵、硬い敵など、遠距離攻撃だけでは倒せない場面で何度も命を救われた
セフィ姉に貰い、ボリュガ・バウド騎士学園時代から使っていたドラゴンブレイド
ジャンから譲ってもらい、俺の固有装備となったロケットハンマー
強盗被害の際に巻き上げた超振動ブレード
デュラハンから手に入れたハルバート
Bランクの騎士ターレスから巻き上げた大剣星砕
全て思い入れのある、俺の近接武器たちだ
「スサノヲ、この武器達を預けてもいいか?」
「ああ、あたしは大丈夫だ。だけど出動した時に近接武器無しで大丈夫なのか?」
スサノヲに武器を受け取りながら言った
「俺の出動はしばらくないみたいなんだ」
「分かった。ラーズ、新しい武器の名前を考えておけよ。しっかりと思い入れを持てるようにさ」
スサノヲは、自分の作品に思い入れを持てなかった客を小突いてしまった
スサノヲの鍛え上げられた腕力で小突いた結果、スサノヲは武器防具の鍛冶職人業界でブラックリスト登録されてしまったのだ
冷静に考えると、スサノヲの性格で小突くだけで済ますとかあるか?
絶対、思いっきりぶん殴った気がする
「な、もちろん思い入れは持つし大事にするよ。でもさ、この材料になる武器達にも凄い思い入れがあるんだよ。…いい武器にしてくれよな」
我ながら女々しい
これから形を失う、この武器達が名残惜しく感じてしまう
「もちろんだ。あたしが愛情をこめて加工するから安心してくれ。確かに受け取ったからな!」
楽しみにしておけ! そう言って、スサノヲはニカッと笑った
・・・・・・
デモトス先生にゆっくり休めと言われた
つまり、しばらく休めないという意味なのだろうか?
過酷な期末テストなんだろうな…
憂鬱になりながらも家に帰ると、フィーナも帰ってきていた
よし、今日は家でゆっくりしよう!
「お帰り、ラーズ。早かったんだね?」
「ああ、明日から忙しくなるみたいでさ。今日は早く帰らせてくれたんだよ」
フィーナは夕食を作ってくれていた
俺も総菜を買ってきていたので、すぐに夕食が完成だ
今日はお気に入りのホワイトビールを買ってきた
フィーナはちょっと高いシャンパンを開けている
別に特別な日ではない
だけど、たまにタイミングが合えばちょっとだけの贅沢を楽しむ
いいじゃないか
フィーナはいつも変わらない
昔から変わってない
怒るときは怒る
納得できなければ喧嘩する
楽しいときは笑う
フィーナは俺と普通に話す
いつも、自然体で話している
俺はどうだろうか?
いつもフィーナを見ている目は自然体なのだろうか
今なら分かる
俺は今まで、強さ、つまり戦闘力というフィルターを通してフィーナを見ていた
そして、戦闘力の差で勝手に劣等感を感じていた
フィーナは俺とは違う、俺は下位ランクでフィーナはBランクなんだと
フィーナはありのままの俺を見てくれていた
それなのに、俺はフィーナを戦闘力という数字で見ていたんだ
…私は別にラーズに強くなってほしいなんて思ってないよ?
前にフィーナに言われた言葉だ
俺もそう思う
人を好きになるのに強さとか関係あるか?
俺だけが、勝手に強さに拘っていたんだ
…何でこんなに強さに拘ったか
自分に自信が持てなかったからだ
でも、キマイラを狩ったことで自分に自信が持てた
自信が持ててしまったんだ
「ここの総菜おいしいね」
フィーナがアジフライをパクつく
「店員さんがお勧めしてたんだよ。確かにうまいな」
俺はホワイトビール飲みながら総菜を楽しむ
俺には劣等感がある
フィーナやセフィ姉と同じ場所には立てなかったから
才能がないと理解できてしまったから
その劣等感で、ずっと頭が一杯だった
劣等感を消す方法は強くなるしかないと、そう思っていた
でも、劣等感を消したのは、強さではなく仲間だった
俺の仲間は全員Bランクではない
でも、その仲間との連携でBランクのモンスターを倒した
Bランクの力がない俺達が、Bランクの戦闘力を超えてやったんだ!
そんな素晴らしい仲間が、俺を受け入れてくれ、必要としてくれる
その嬉しさが、劣等感を少しだけ上書きしてくれた
自分の良さを、少しだけ認めることができたんだ
自分に自信が持てるなんて経験は、簡単にできるもんじゃない
たくさん悩んで、考えた分、もう劣等感なんかに振り回されたりしない
…気持ちの整理がついた
そろそろ、気持ち伝えてもいいんじゃないだろうか
「なあ、フィーナ…」
「んー?」
フィーナがシャンパンを飲みながらこっちを向いた
「…そろそろ兄妹をやめないかなって思うんだけど」
ングッ…!
「…え!?」
散々、フィーナとの今の関係を悩んだ
今の関係が心地良くて、失いたくなかった
でも、物足りなさも感じていた
…今なら、やっとフィーナ自身を見ることができる
やっと分かったんだ
俺がしたいこと、それが何かを
今日、告白する
そう、兄妹をやめて、俺と…
「な、な、何で!? 私何かしたの!?」
フィーナは慌てて口の中のアジフライを飲み込むと、涙目でこっちを見てきた
「は?」
「い、一緒に住むのが嫌になったってこと!? 急に何で!」
フィーナが泣きそうに、いや、半泣きになりながら俺を見つめてくる
あれ? 予想と違くない?
兄妹やめるって言ったら、次は付き合うって話に進むと思ってたのに…
…俺は、もしかしたらとんでもない勘違いをしていたのかもしれない
フィーナも、俺と付き合うとかそういうのを意識をしてるんじゃないかと思っていた
だが、もしそれが勘違いだったら…
俺が都合のいい妄想していただけだったとしたら…
今後、同居をする上でめちゃくちゃ気まずくなるのではないか?
俺だけ勝手に盛り上がっていた、その事実に死にたくなるほど恥ずかしくなる
たった今、ポッキリと告白の勇気が折れた音がした
「…いや、やっぱり今の無し!」
「え!?」
フィーナはポカーンと口を開ける
そうだ、冷静考えろ
俺は期末テストから帰ってこれない可能性だってある
それなのに、今言う必要はない
うん、やめる理由だってある
よし、決めた! 期末テストだ
期末テストから無事に帰れてたのなら、その時に言おう
うん、そうしよう