179話 調査報告会 四回目
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
バックアップ組織:各地のテロ組織に、資金、技術、人材を提供し、その活動をバックアップする謎の組織
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
小隊長室にいつものメンバーが集まっている
調査報告会だ
メンバーは、ゼヌ小隊長とデモトス先生、ジード、オズマと俺だ
「今日は、本当に報告を聞くだけだよ。安心しなさい」
デモトス先生が穏やかに言う
うん、全然信用出来ませんよ?
オズマが立ち上がって報告を始める
「まずは特評価おめでとうございます。これで捜査を進めていけるということですね」
どうやら、オズマは査定クエストを急いだ理由を知っていたようだ
まさか、1991小隊全体で裏仕事に勤しむことなろうとは…
最初は、俺がバックアップ組織に関わってしまったために、その防衛と組織の実態解明が目的だった
だが、今後はバックアップ組織だけでなく、国の行く末をも調査することになってしまった
スケールが大きくなったもんだなぁ…
今回の調査報告は、風の道化師のアジトで手に入れた情報媒体の解析結果のようだ
「風の道化師とその配下に、関わりのあった人間がかなりの数確認できました。現在、その捜査を続けています」
敵のアジトで手に入れた情報だけあって、いい情報が多かったようだ
「ほとんどが風の道化師より下の人間だと思うが、風の道化師よりも上の人間も見つかりそうかね?」
デモトス先生がオズマに聞く
上の人間、要は風の道化師に命令している側の人間だ
「可能性は高いと。ただ、風の道化師は、特定の人間というよりも特定の組織から依頼を受けているような印象を受けました」
オズマが、風の道化師のアジトと連絡を取り合った連絡先のリストを示す
「ほとんどが会社や団体です。つまり、風の道化師が会社などを隠れ蓑にした組織の依頼を受けている可能性があります」
…その、会社を隠れ蓑にした組織がバックアップ組織ってことなのか?
「オズマ、このリストの人間ついても捜査をしてもらいたい。もしかしたら、風の道化師と連絡を取り合っていた人間の中に、このリストの人間とも連絡をとっている者がいるかもしれない」
デモトス先生が、人物のリストをオズマに渡す
「このリストは?」
「突然、戦争に賛成を表明した議員や官僚だよ。その議員達と風の道化師を繋ぐ人間がいれば、最優先で調査する必要があるからね」
「…分かりました」
オズマが頷く
バックアップ組織の影響でシグノイアが戦争に舵を切った
それは、犯罪組織の影響が国の方針を動かしたということだ
これが本当ならとんでもないことだけど…
まあ、捜査結果待ちだな
「次は私からだ」
ジードが立ち上がった
「何でも屋アントニオの調査結果だ」
何でも屋アントニオ
前回、オズマと一緒にストリートファイトでぶっ飛ばした奴だ
警察内のバックアップ組織の内通者と通じており、風の道化師の証拠品 (ダミー) を持ち込まれた先が、このアントニオだったのだ
「結論、バックアップ組織についての情報は持っていなかった。だが、何度か警察内の内通者から依頼を受けたことがあったそうだ。そして…」
アントニオと接触した警察内のバックアップ組織の内通者は五人もいたらしい
アントニオはその五人から、過去に証拠隠滅の依頼を受けたそうだ
「この五人の内通者を特定できたので、これから警察で監視をしてもらう。さらに、アントニオをこちらのスパイとした。警察の内通者から依頼が来たら、私に連絡が来ることになっている」
ジードがアントニオをスパイとして使うのか
今後いい情報が入って来るかもしれない
これで、今回の調査報告会は終わりだ
本当に裏仕事はなさそうだ、よかった
「すみません、最後に一つ忘れていました」
オズマが手を挙げる
「風の道化師のアジトのデータに気になる物がありました」
そう言って、オズマがモニターに画像を表示する
それは、三角形二つを上下逆さまに重ねた図形だ
「六芒星…?」
ゼヌ小隊長が呟く
「はい。この六芒星の計算式が複数見つかっています。おそらく魔法の強度計算と思われますが…、詳細は不明です」
六芒星
魔法の基本図形の一つだ
五芒星や六芒星が一番有名で、一番簡単な「魔法陣」の一種だ
一番単純な用途は、術者の魔法をこの魔法陣に撃ち込むと、魔法陣の魔法エネルギーで魔法を強化できる
何か強力な魔法や複雑な魔法を使う場合、この魔法陣を使うことで、より効率よく簡単に発動することができるのだ
風の道化師は、何かの魔法を使うつもりなのだろうか?
だが、六芒星など小学校でならう魔法の一般的な基礎知識だ
これだけでは、ちょっとヒントが足りないな
こうして、本当にすんなり調査会議が終わった
なんか肩透かしを食らったみたいだ…
あれ? 俺って調教されてきていないか!?
・・・・・・
間違っていた
全然すんなり終わらなかった
いや、調査会議は終わった
ただ話が終わらなかったのだ
「ラーズ、これら忙しくなる。戦力が必要だ」
「はい?」
調査会議が終わると、デモトス先生が口を開いた
かなり真剣な表情だ
「キマイラとの戦いを見て、時期が来たのが分かったよ。キマイラの動きを読み切った先の先の動きはとてもよかった」
「え、は、はい。リロの動きを見て、何かを掴めた気がしたんです」
急にデモトス先生に褒められて焦ってしまう
いきなりどうしたんだ?
何の時期が来たんだ?
「ラーズには今後の戦いのために、これから更に強くなってもらう必要がある。その時期がきたということだ」
「な、何をすればいいんですか?」
強くなる…、いつもの訓練ではないということか?
ピリッ…
デモトス先生の雰囲気が変わる
殺気に近いほどの鋭い緊張感が部屋を満たした
「ラーズには期末テストを受けてもらう」
「期末テスト…!」
デモトス先生は一切の笑顔なく頷いた
俺は中間テストを思い出す
デモトス先生が、初めて俺に特技を見せてくれた日
本気の殺気を向けられたあのテスト
もし、答えを間違っていたら、俺はどうなっていたのだろうか?
「特殊任務は過酷だ。なぜなら、相手が人間だからだ」
「は、はい」
今までの敵はモンスターがほとんどだ
本能とフィジカル、能力で襲ってくる敵だ
だが、人間には戦術と武器がある
実際に、1991小隊は格上のBランクモンスターでさえ狩って見せた
だが、もし敵が同じ戦術と武器を使ってきたら?
例えばバンパイアのような、風の道化師のような、そして知能のある黒竜のような敵だったら?
モンスターは脅威だ
だが、戦術がはまりさえすれば、格上でも倒すことが可能だ
しかし、敵が戦術をつかってくるとなると、その戦闘の難易度が跳ね上がる
「今のままのラーズでは生き抜く力が足りない。だが、キマイラとの戦いを見て、ラーズには期末テストを乗り越えられる力が付いていると判断した」
デモトス先生は俺の目を見る
「…期末テストを受けて、一気に強くなってもらう。だが、このテストは失敗すれば死ぬ」
「…っ!」
ゲームじゃないんだから、いきなり一気に強くなる方法なんてあるわけ無いだろ!?
…いや、なれるな
デモトス先生が、できない事を言うわけない
今までデモトス先生の訓練を受けてきたから分かる
そして、危なくもないのに「死」なんて単語を使うわけない
ほんとうに生き残れないかもしれない、そんなテストなのだろう
…ゾクリ
それを理解した瞬間、俺の背筋に冷たいものが流れた
・風の道化師のアジト
158話 またまた裏仕事
・何でも屋アントニオ
167話 防衛軍兵士と警察官
で扱っています
分かりにくくならないようにしなくては…