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178話 沈黙

用語説明w

シグノイア:惑星ウルにある国

ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国


ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長

ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意

デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む

リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている


第1991小隊 小隊長室

部屋の壁には、特評価を証明する賞状が飾られている


ゼヌ小隊長と医療担当のエマが深刻な顔で話している


「ラーズの変異体遺伝子検査が三回目に陽性反応を示しました…。陽性反応のトリガーは、強敵との戦闘による精神的なストレスの可能性が高いと…」


「…そう。ラーズに何か症状は出ているの?」


「ラーズからは特に何も…。恐らく、以前言っていた我を忘れるといったような症状だと…。ストレスの多い戦闘中では自覚しにくい症状なので…」


ゼヌ小隊長が考え込む


「…これからはラーズが(かなめ)となっていくわ。抑制剤の仕様を検討しないといけないわね」


「はい…」




・・・・・・




昨日は、ゼヌ小隊長の特評価の話でうやむやになってしまった

俺とカヤノを助けてくれた竜巻魔法の検証を行う


デモトス先生とジードが巻物を持ってきた


「ラーズ、リィにこれを咥えさせてみてくれ」


ジードが風属性竜巻魔法(小)の巻物を渡してきた

俺がいつもモ魔で使っている風属性範囲魔法だ


「はい。リィ、これを咥えてみてくれ」


「ヒャン!」

リィが巻物を咥える



巻物

使い切りの呪文紙で、霊子情報が記録された魔法が一つ封印されている

モバイル型魔法発動装置を使うことによって、巻物に封印された魔法を発動することができる



…キマイラのブレスをギリギリで防いでくれた風魔法の竜巻

近くに術者は確認できず、リィが何かを咥えた状況だけが確認できた


俺はキマイラの頭突きで吹き飛ばされ、モ魔が壊れて巻物を落としてしまった

ジードは、リィがこの巻物を咥えたのではないかと推測したのだ



「リィ、魔法を発動してみてくれ」


「ヒャン!」

リィが霊力を発する


すると…



ビョオォォォォーー!


「おおっ!?」



なんと、竜巻魔法が発動した!


こ、これは凄い

リィの戦闘能力が数段上がったぞ!

噛みつきしかなかったリィが、今後活躍できる場面が一気に増える


ちなみに、リィは巻物を咥えていて返事が出来なかった

だが、俺はリィの返事を聞くことができた


これは俺のアクセサリーである絆の腕輪にリィの霊力を入れたおかげで、リィの思念を読めるようなったからだ

俺の意思も明確に伝わるし、思った以上に使いがってがよかった



「やはりリィだったな。これらも試してみよう」

デモトス先生が、いくつかの巻物を渡してくれた


土属性、水属性、火属性、冷属性、雷属性などの範囲魔法(小)の巻物だ



ドゴォッ! シャキーン! バシャーッ! ボボォッ! バチバチ…!



次々と巻物の範囲魔法が発動されていく


「凄い…!」

これで間違いない

リィはモ魔と同じように巻物の魔法を使えるようだ!


俺が後ろ振り返ってリィを見ると、


「ヒャン?」


リィが巻物を咥えてこっちを見ていた


いやいや、ヒャンじゃねーよ

いつから出来るようになったんだよ


「ヒャン?」


もしかして最初からできてたとか?


「ヒャン?」


俺の思念を受けて、リィが首を傾げている


いや、まさか…、そうなのか?

俺が勝手に、リィには噛みつきしかないと思い込んでいたのか?


そういや、宮司のヒコザエモンさんが、式神は固有の能力を持っていることがあるとか言ってたな

これがリィの能力だったのかもしれない


…お前の取扱説明書をよこせー!


「ヒャンヒャン!」


誉めついでにリィの頭をワシャワシャ撫でたら、嫌がられて噛まれてしまった…




・・・・・・




全員が会議室に集まる

これからゼヌ小隊長の説明があるのだ


何を説明するのか?

それは、査定クエストを()()()理由だ



「まず、私から謝ることが一つ。…査定クエストを急いでしまってごめんなさい」

ゼヌ小隊長が話始めた


「本来は、ラーズがデモトス先生の訓練を終えてから査定クエストを受けるつもりだったの。今回討伐できたのは、運が味方した面もあったと思う。五分五分の勝負をさせてしまったと思っているわ」

ゼヌ小隊長が頭を下げる


我が1991小隊は、別名リサイクル小隊と呼ばれている

小隊での訓練によって、生まれ変わったように実力を上げた者が三名もいるからだ

そして、俺は現在リサイクルのために絶賛訓練中だ


「…では、なぜリスクを覚悟で査定クエストを受けなければならなかったのか?」

ゼヌ小隊長が全員を見回す


「理由は査定クエストを受けられなくなるから。その理由なんだけど…」


ゼヌ小隊長が一呼吸置く

全員が黙って続きを待つ


「…シグノイアが、ハカルとの戦争に舵を切ることになりそうなの。これは、ほぼ確定事項で間違いないわ」


「…っ!?」


寝耳に水とはこの事だろう

全員が驚きと疑問を表情で表すが、誰も口を開けなかった


「戦争が始まれば査定クエストの制度は凍結され、特評価を得ることは不可能になる。そして、特評価を取った理由は小隊の自由行動が認められるためよ」



特評価を受けた小隊には、義務と特権が与えられる

義務とは、Bランクモンスターの緊急クエストが発生した際の強制出撃だ


そして、特権には、予算の拡充、人事面の優遇、そして行動の自由がある

行動の自由とは、戦力の維持を目的に管轄外のクエストの受注が認められ、その間の管内の防衛作戦やクエストを中隊本部に預けられる、つまり免除されることを認められるのだ



「では、自由行動で何をするのか? それは…」

ゼヌ小隊長が決意の眼を皆に向けた


「戦争を止めるわ。そして、それが無理なら少しでも開戦を遅らせるつもりよ」


「………………………!!」


全員が驚きの表情をゼヌ小隊長に向けた



「もちろん、これは防衛軍の本来の仕事ではないわ。これは、私の思想に基づく目的、だから無理強いはしない。でも、もし私を信じてついてきてくれるのであれば…、手伝って欲しい。あなた達の力がないと実現は不可能だから」


ゼヌ小隊は1991小隊の隊員達に頼み、そして一度言葉を切った


「…ここから先は機密事項に触れるわ。賛同出来ない場合は、遠慮はいらないわ。今ここで手を挙げて?」


ゼヌ小隊長はゆっくりと、また隊員達を見回す…


ん? 最後に俺を見た気がしたぞ?



隊員達は、押し黙ったまま、誰も手を挙げなかった

それぞれが、何かを決めた顔をしている


…今までのゼヌ小隊長の行動を振り返ると、いろいろと腑に落ちる

ゼヌ小隊長は小隊の強化にこだわり、力を入れてきた

その理由が()()だったのではないだろうか?


()()()()()()


話が大きすぎて現実感が沸かない

どうすればいいのかさえも分からない


だが、今までの経験が…、

守ってきた国や街、人々が…、

防衛軍で一緒に戦ってきた仲間達が…、


戦争に巻き込まれるというのであれば、見過ごすことはできない



手を挙げる者は誰もいなかった


「…ありがとう」


ゼヌ小隊長は、反対の意見が出なかったことに…、賛同の沈黙に対して頭を下げる


どうやら、この沈黙で1991小隊の方針が決まったようだ


「…まずやることは調査よ。私の得た、戦争に舵を切ったという情報の裏付けを行うわ。そして、国が急に戦争の方向に舵を取った。それはつまり、議員や官僚で突然戦争に賛成した人間が多数いるということ。この理由を見つける必要があるわ」


どうやら、ゼヌ小隊長の独自のルートから情報が入ったらしい

怖すぎて、どんなルートの情報かを聞けない


それにしても。国の舵取りに影響を与えるほど、官僚、議員、防衛軍に至るまで、戦争に賛同した人間が突然増えるなんて

しかも、戦争反対から真逆に()()()()()()人間ばかりらしい


明らかに不自然だ

その背後を調査するということだ



「具体的には何をすればいいんです?」

サイモン分隊長が手を挙げた


「基本的には今までと変わらずに防衛作戦に従事するわ。そして、たまに()()()()についてもらうだけよ」



特殊任務、それが調査の任務なのか?

官僚とか議員って、話が大きすぎてピンとこないんだよな


なんか喉が渇いてしまい、俺は水を煽った



「この特殊任務は、ラーズに専任でお願いしようと思っているわ」


「ブゥーーーーーー!」



俺は思いっきり水を吹き出した


「うわっ!」 「汚い!」


非難の声が上がるがそれどころじゃない!


ゴホッゴホッ…

「えっ…!? 専任って!?」


「今までの裏仕事が増えるってだけよ? 期待してるわ、ラーズ」

ゼヌ小隊長がニッコリ笑う


特殊任務って言葉変えただけじゃねーか!

結局、裏仕事やらさられるのかよ!


だが、さっき反対しなかった手前、文句は言いづらい

戦争を止めたいという気持ちもある

いや、たかだか一小隊が戦争を止めるなんてできるの?



「…」

俺は吹き出した水を拭きながら考え込んだ


「…その前に、ラーズにはやってもらうことがあるがね」

今までの黙って聞いていたデモトス先生がボソッと言った






六章開始です

読んで頂きありがとうございます!

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