177話 特評価小隊
用語説明w
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
巻物:使い切りの呪文紙で魔法が一つ封印されている
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
査定クエストから一週間が経った
1991小隊がやっと再稼働し始めている
サイモン分隊長は大小様々な傷を無理やりカプセルワームと回復薬でふさいで戦っていたにもかかわらず、たったの二日の入院で復帰した
タンク役の体力はさすがだ
三日目でジードが、四日目にロゼッタが通常勤務に復帰
それぞれが限界まで魔力と氣力を使ってしまったので、復帰まで予想以上に時間を要した
ロゼッタは氣力を回復するアクセサリーの力を借りて二回もトランスを発動させたので、いつもよりも疲労が大きかったようだった
リロとカヤノは一週間の入院
二人はブレスや爆破ブレスで熱傷が酷かったため、医療カプセルと再生医療による治療を受けた
戦闘員がほぼ全員潰れてしまったので、1991小隊は出動が出来ずに開店休業状態だ
だが、Bランクモンスターのキマイラの素材の処理と査定クエストの結果の手続きなどの事務処理、そして整備業務で大忙しだった
リロのMEBはキマイラの空中からの一撃で腰部の機構にダメージを受けてしまった
更に炎ブレスの影響もあり、メーカーに持ち込んでの修理となった
シリントゥ整備長とクルス、ホンが忙しそうにメーカーとやり取りをしていた
そして、キマイラの素材だ
メイルが死にそうになりながらも売却手続きを行い、エレンが必要な報告書を書く
俺はその横で領収書の打ち込みを手伝う
いつもの流れだ
そして今日、ようやく全員が復帰して隊舎に揃った
今日までは他の小隊がうちの管轄の防衛作戦にも出動してくれることになっている
あらかたの処理も終わり、残務を処理しながらゆっくりできる一日になりそうだ
「もう体はいいの?」
俺はリロとカヤノに声をかける
「うん、バッチリだよ!」
出勤してきたリロは元気そうだった
「ええ、お肌が生まれ変わったみたいでしょ?」
カヤノがちょっと嬉しそうに言う
確かに、リロとカヤノのお肌が輝いている
再生医療、恐るべし…
「リロ、カヤノ、ラーズ、相談があるの!」
メイルが待機室に入ってきて、雑談していた俺達に向かって言った
メイルの手には一つの腕輪がある
「それって…」
「うん、キマイラの蛇についていた腕輪よ。やっぱり装備品としてのアクセサリーだったわ」
キマイラの尻尾の毒蛇にはまっていたアクセサリー
効果は不明だが、ロゼッタが毒蛇を切り落とした際に一緒に落ちた
「効果は分かったの?」
カヤノが腕輪を見ながら尋ねる
メイルは頷いた
「中隊本部の解析班にお願いしたんだけど、解析の結果、絆の腕輪だということが分かったわ」
絆の腕輪
仲間の力の一部を封印することで「絆」を作る
具体的には、仲間との簡易な精神共有が可能となる腕輪だ
要は、絆の対象の霊力や魔力を腕輪に入れることで受信装置となり、テレパス機能を作れるらしい
多少レアなものだが、直接的に戦闘力が増えるわけではないので、人気はそこまで高くない
人間同士でも使えるが、インカムで事足りるのでわざわざ使う必要はない
この機能は、インカムが使えない使役対象との意志疎通に使われる事が多い
「これって、ラーズしか使えないよね?」
リロが俺を見る
「うーん、使役対象を持ってるのって俺だけだしな…」
使役対象とは、式神や使い魔、モンスター使いのモンスターやネクロマンサーのアンデッドなどのことだ
基本的には契約を経て使役する
「そうなのよ。一応、アーティファクトになるから売れば高値にはなるけど、どうする?」
カヤノが全員の顔を見る
モンスターを倒すと、たまに武器や防具、道具が手に入ることがある
これらはまとめてアーティファクトと呼ばれ、同じ性能でも普通のものより高値が付く
歴史的価値が有るためだ
他にも、ダンジョン内で発見されたものなどもアーティファクトと呼ばれている
「それなら、ラーズが使えばいいじゃない。連携を取るのに有利な機能なんだから」
「あたしも賛成だよ」
カヤノとリロが俺に勧めてくれる
「え、いいのかな?」
「隊のみんなに聞いて回ったんだけど、全員がラーズが使えばいいって言ってるわ。後はラーズが使いたいかどうかだけね」
メイルが答える
アーティファクトは戦闘に参加した全員が受けとる権利を持つ
だからこそ、メイルはその意志をみんなに確認してくれたらしい
俺の使役対象とはリィや竜牙兵のことだ
この絆の腕輪があれば、声以外の方法で意志の疎通が出来るようになる
これは俺にとってかなり有用だ
意志の疎通は連携力に関わってくるからだ
「ぜひともお願いします。使わせて下さい!」
「決まりね」
こうして、俺は初のアクセサリーを手に入れることになった
みんなの好意がうれしい、ありがたや…
新しい装備品というのは、いつでもワクワクするもんだ
・・・・・・
デモトス先生とジードが、会議室で戦闘状況の検証をしていた
モニターにはドローンで撮影されたキマイラとの戦闘映像が再生されている
「ラーズ、これを覚えているかね?」
デモトス先生が再生した映像は、俺がライオンに頭突きを喰らって動けなくなった場面だ
ライオンが炎のブレスを吐き出し、カヤノが俺を掴んで離脱しようとしてくれているが、ギリギリ間に合わずに炎を受けてしまうタイミングだ
だが…
ビュオォォォォォ…!
小さな竜巻、恐らく風属性範囲魔法(小)が発動し、炎の一部を遮ってくれたおかげでなんとか躱すことができた
「あ、覚えています。そういえば、この風魔法は誰が使ってくれたんですか?」
映像には風魔法の発動者が写っていない
「それが、驚きの事実が分かったんだ」
ジードが端末を操作する
モニターの映像が、別のドローンが撮影したキマイラの背後からの映像となった
キマイラの向こう側に、俺とカヤノ、そしてリィが映っており、ちょうどロゼッタが吹き飛ばされた場面だ
キマイラが俺とカヤノの方を向いた
キマイラはカメラに背を向けているので分からないが、今まさに口から炎のブレスを吐き出すところだろう
キマイラの向く先には俺とカヤノ、少し離れた所にはリィしかいない
あれ、風魔法の術者が映ってないぞ?
場面が進み、キマイラの口周辺が光る
炎ブレスが吐き出された場面だ
カヤノが俺を掴んで跳ぶ…
うん、やっぱり術者はいない
そもそも、俺達の仲間で範囲魔法を使えるのって…、カヤノとジードだけだ
カヤノは雷属性しか使えないって言ってたし、あとはジードだけだが、あの時はいなかった
誰かがモ魔を使ったとしても、モ魔の発動範囲は狭く、映像ではその範囲に術者がいないように見える
場面は進み、やはり竜巻が起こって炎を数秒遮った
その隙にカヤノが俺を掴んで脱出してくれた
「やっぱり術者がいなくなかったですか?」
「…ラーズ。それは思い込みから来る見落としだよ。どんな時でも先入観を捨てて、客観的に物事を見るべきだ」
「うぅ…、すみません…」
デモトス先生にたしなめられ、もう一度映像を見る
キマイラが炎を吐く
カヤノが俺を掴んで跳ぶ
リィが何かを咥える
炎が俺達を襲う
竜巻が起こる
「…うん? リィが咥えたものって何ですか?」
「うん、それをこれから検証しようと思うんだよ」
そう言ってデモトス先生が立ち上がった時、ちょうどゼヌ小隊が帰って来た
「みんな、集まってくれる?」
ゼヌ小隊長の声に、みんなが待機室に集まった
「えー、我が小隊の団結による成果で、ついに我が1991小隊は特評価を得ることが出来ました!」
ゼヌ小隊長が、特評価を授与された賞状をみせる
「おぉっ!」 「ついにか!」 「やったねぇ!」
パチパチパチパチ…!
拍手と歓声が巻き起こる
「これからは、Bランクモンスターが緊急クエスト扱いになった場合は優先して出動することになるわ。人数を揃えないと危ないから、この場合は非番でも出勤してもらいます」
うん、これは納得だ
キマイラに戦闘員全員で挑んで、六人中五人が病院送りにされたんだ
Bランクモンスターに対しては、非番だろうが出勤して全員で臨むべきだろう
「あとは、全員の装備などの人事記録を更新しておいたから確認してね」
ゼヌ小隊長が持って帰って来た額に特評価の賞状を入れた
「あ、ラーズ」
「はい?」
ゼヌ小隊長に呼ばれて、振り返る
「あなたのCランクへのランクアップ上申をしておいたの。特評価をもらえたから、もう人員の関係で文句を言われることもなくなったからね」
「はい、ありがとうございます」
…特評価を受けた小隊は、小隊名の後ろに(特)が付くらしい
うむ、かっこいいぞ
隊員人事記録(装備等更新)
氏名 ラーズ・オーティル
人種 竜人
所属 1991小隊(特) ←New!
称号 達人兵士
通り名 道化竜
戦闘ランク D (ランクアップ上申中)
固有装備
・ヴァヴェル(属性装備) ←New!
・ホバーブーツ
・ロケットハンマー
・絆の腕輪 ←New!
固有特性
・ナノマシン統合集積システム2.0
・ホバーブーツによる高機動戦闘
得意戦闘 ←New!
・囮、味方の編成に合わせた柔軟な立ち回り
・攻撃: 遠、中距離の射撃、杖とモ魔の魔法、近接武器
・式神、外部稼働ユニット、竜牙兵による攻撃補助
五章終了です
次から六章が始まります
引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです