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閑話2 特命

用語説明w

魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力(じんりょく)、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと

魔力:精力(じんりょく)と霊力の合力で魔法の源の力

輪力:霊力と氣力の合力で特技(スキル)の源の力

闘力:氣力と精力(じんりょく)の合力で闘氣(オーラ)の源の力


MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット


サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)


サイモン分隊長は、不機嫌そうにずっと文句を言っている

俺とサイモン分隊長は、特命によりある現場に車で移動中だ


「特命って初めてなんですけど何をするんですか?」

運転をしながら、俺はサイモン分隊長に質問する


「特命ってのはだいたい何かの尻拭いだ」

サイモン分隊長がため息をつきながら教えてくれる


今日は、俺は待機組、サイモン分隊長は一人でクエストにいく予定だったのだが、ゼヌ小隊長にこの特命をお願いされたのだ



何でも、隣の1979小隊の隊舎が火事になっていて、荷物運びの人手が足りないらしい


小隊内で問題が起こった場合は、近くの小隊からお手伝いをすることになっている

お互いに困った時に助け合おうという制度だ


「つってもよ、もう三回くらい連続でうちが助けに行ってるんだぜ? あそこの小隊はどうなってんだよ」


と、いうわけで、サイモン分隊長のイライラは止まらない


「あ、あれじゃないですか?」


目の前から、真っ黒な煙が上がっている


真っ赤に塗装された消防用MEBと消防放水車が止まっているのが見える



俺達が車を止めて降りると、立っていた警察官が近づいてきた


「危ないのでここから先は入らないでください」

警察官は規制線を張っていたようだ


「防衛軍第1991小隊です。2名、通して下さい」

俺は身分IDカードを見せる


「あ、防衛軍の方ですか! 失礼しました、どうぞ」


「ありがとうございます。あの、状況って分かります?」

ついでだから聞いてしまおう


「ああ、状況はですね…」


出火元は、隊舎の地下にある非常電源用の魔玉らしい


何でも、若い隊員が地下の発電室内をペンキで塗装していたらしい

その隊員が、しばらくすると大きな声で歌を歌い出した


別にペンキを塗る手は止まってなかったから、他の隊員は特に気にしなかったらしい

だが、よく考えると地下室ってのは換気が悪い


「いや、それシンナーが原因ですよね? 大声で歌ってて何で気にしないの?」


「換気もしないでペンキ塗ってたら…、ねぇ?」

警察官もため息をつく


その隊員が静かになったので様子を見に行くと、発電用の魔玉の前にしゃがみこんでいた


何をしてるのかと思ったら、魔玉を設置してる魔力回路のインクの匂いを嗅いでたらしい

魔力回路のインクには魔晶石の成分が入っていて、人によっては精神属性の混乱作用の効果が出ることがあるらしい


特に、精神耐性が下がった状態だと影響を受けやすくなるとか


「完全に精神属性の効果受けてますよね? シンナーで物理的に、混乱作用で精神的に飛んじゃってるよね?」


「まあ、間違いないでしょうね」

警察官も同意してくる


そして、混乱中の隊員は、何を思ったか発電用の魔玉を最大出力で起動させてしまい、魔力回路が耐えられずに発火してしまった


「…ということみたいですね」


「普通、安全装置とか付いてませんか?」


「ペンキを塗るからって、物理的に取り外してたらしいですよ」


俺はサイモン分隊長を見る


「若い奴一人に押し付けるからこうなるんだ…」


「行きますか?」


「今行ったって、消防が火を消してくれないと何もできないだろ。寝てようぜ」


そう言って、サイモン分隊長は車に戻ってしまった


俺は警察官とおしゃべりでもしてよう

同じ公務員だけど話す機会あんまりないし


「火事でも警察の方が来るんですね」


「来ますよ。事件かもしれないですからね」


「ただの火事なのに?」


「人的被害があれば業務上過失致死や過失障害、放火の可能性も捨てきれませんし、なくても失火罪とかいろいろと…」


「あ、そういう罪名があるんですか」


でも、防衛軍が警察に捕まるって大問題になるんじゃないのか?


「ま、住宅街からも離れていて人的被害は無さそうですし、今回は警察の出番は無さそうですけどね。お互いの上同士が話し合って終わりだと思いますよ」


「そういうもんなんですか?」


警察(うち)も、わざわざ事件になんてしたくないですし、防衛軍(そっち)も事件になったら新聞に載っちゃいますからね。さすがに怪我人や死人が出たら事件にせざるを得ないでしょうけど」


「文句いう訳じゃないですけど、今のご時世でうやむやにしちゃっていいもんなんですか?」


「これは私の意見ですけど、誰も得しない事件をやるぐらいだったら、私たちは犯人逮捕、そちらはモンスター退治をした方がよほど国民のためですよ」


なるほど、そういうもんか

納得だ



その時、向こうで大声が上がった

「お、消火作業が始まったみたいですよ」


「え? 今まで消火してなかったんですか?」


「いやいや、違いますよ。MEBで隊舎の壁を壊して放水車で水を入れてたんですがなかなか火が弱まらなくて。それで、水属性の特技(スキル)持ちの消防隊員を呼んだんですよ」


「そうだったんですね。でも、防衛隊員に冷属性や水属性の魔法使いならいたんじゃないですか?」


「今回は発電用の魔玉が暴走してるので、近くで魔力を使うと魔玉と暴走してる魔力回路が魔力を吸って火を強めちゃうんですよ。だから、輪力を使う特技(スキル)持ちを呼んだみたいです」


「魔玉と魔力回路からの出火って大変なんですね…」


警察官の挨拶をして、俺はサイモン分隊長を呼びに行った




・・・・・・




「水属性強化魔法…ウンディーネの加護」


「付加魔法、水属性(小)」


魔法使いらしき杖を持った防衛軍の隊員が、一人の消防隊員に魔法をかけている


「お、精霊魔法に付加魔法だ。水属性増し増しで、放水車の水を使って水属性特技(スキル)ぶち込むみたいだな」


「お、やりますよ」


消防隊員は、自分の両手を前に出し、そこに放水車の水を集めて大きな水の塊を形成している


「はあぁぁぁぁ…、行きます! 瀑布落とし!」


体内で氣力と霊力を混ぜ合わせて輪力を作り、輪力を練って水を成す

放水車の水を巻き上げ、輪力で作り出した水と混ぜ合わせて操作


大量の水をあえて維持し、隊舎の地下が浸る量になったら一気に落とす



ドッバアァァァァァァァァーーーーーン!!



滝さながらの水が地下に入り込んで空気を遮断し、さらに流れ込む水で一気に隊舎の火が消えた


「おー、凄い! 何で防衛軍には特技(スキル)持ちが少ないんですかね?」


「そりゃ、特技(スキル)は遠距離が少ないからな。銃で撃たれたら終わりだろ?」


「なるほど…」


特技(スキル)が生かせるのは、やっぱり身体能力や防御力を高めるBクラス以上の闘力(オーラ)使いだろ」


サイモン分隊長と俺は、消防隊員の特技(スキル)使いを見物して時間を潰すことにした




…結局、隊舎内はまだ火が燻っており、中には入れず今日は解散となった


帰りの車の中で


「ったく、何だったんだ! 結局無駄足じゃねーか!」


「まぁまぁ、困ったときはお互い様なんですよね? それに怪我人が出てなくてよかったじゃないですか」


「俺は今日、クエストの予定を入れてたんだぞ? 下らねえ時間使わせやがって」


「何のクエストなんですか? ずいぶん気にしてましたもんね」


「西の山に集落があるんだ。そこのお婆ちゃんに、オークみたいなモンスターが目撃されてるって相談されてよ、クエスト出してもらったんだよ。早く安心させてやりたかったのによ」


「それは心配ですね。ゼヌ小隊長に相談して私も行きますよ」


「あ? そりゃ助かるけどいいのか? もうすぐ待機の時間終わりだろ」


「いいですよ。さっきのお巡りさんとも話しましたけど、やっぱり国民のためになる仕事をしてこそ公務員ですからね」


「お、いいこと言うじゃねえか。よし、それならさっさと隊舎に帰ってい準備するぞ。暗くなる前に調査は終わらせないとな」


「了解です」



防衛軍と警察の本音と建前

個人的にとても勉強になった一日だった




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