168話 新武器の設計図 ver.3
用語説明w
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
「おっ、今度は上手くいきました!」
俺は、シリントゥ整備長が作ってくれた、特別な射撃場で練習をしている
ナノマシンシステム2.1の左腕銃化の練習だ
本物のアサルトライフルから取り出した金属パーツを使うことで、弾丸を込めるチャンバーと、打ち出す撃鉄、それと弾丸が通る銃身が構成できた
「スムーズに銃の形が作れるようになったてきたな」
シリントゥ整備長が、俺の左腕の変形具合を見て言う
「何度も同じ動作を繰り返していると、だんだんナノマシン群が銃の形を覚えてきたみたいなんです」
俺の左の前腕は、通常時は動きの邪魔にならないように筋肉組織内と骨の間にパーツを取り込んでいて、必要なときにナノマシン群を動かして銃の機構を組み立てる
練習を繰り返したお陰で、二十秒ほどで銃弾を一発だけ撃てる銃が構成出来るようになった
「よし、撃ってみろ」
「はい!」
俺は鉄板に穴が開いた防護板に左腕の銃を差し込み、撃鉄を動かす
パンッ!
一発の弾丸が左腕の前腕から突き出した銃身から飛び出す
「おし!」 「やった!」
射撃の成功をシリントゥ整備長と喜び合う
「次は連射だな」
「連射の機構って複雑なんですよね…」
変形にかかる時間もまだまだ実戦には遅すぎるし、ナノマシンシステム2.1の完成はまだまだ遠い
・・・・・・
俺は、デモトス先生とジャンク屋に向かった
「ほう、これがラーズの新武器か…」
デモトス先生が設計図を見つめる
今日は倉庫に放置して忘れていたオルハリコンの支柱をスサノヲに見せに来たのだ
新しい武器には強靭な芯材が必要だ
この芯材で、パイルバンカーを始めとする強力な衝撃に耐える必要があるからだ
桁違いの硬度を持つオルハリコンなら、このその芯材に使用できるはずだ
これが使えれば一億ゴルドが浮くはずだ!
この支柱は、以前参加したクエスト中に魔導電波塔が崩壊し、その瓦礫の中から発見したものだ
盗んだことになる可能性もあるので、公には出来ない
そもそも本当にオルハリコンなのかどうかも分かっていない
「これは本物に見えるね。まさか、ラーズがオリハルコンを持っていたとは、驚いたよ」
「…これ、勝手に持ってきて倉庫に放置してたやつなんですよ」
さすがに有名な金属であるオリハルコン、デモトス先生もこれを見たときは驚いていた
スサノヲにも連絡はしたが、どんな反応を見せるかな
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
スサノヲが、目を見開いて動きを止める
「ま、ま、ま、マジでオルハリコンじゃねーかぁぁぁぁぁ!」
スサノヲが興奮で過呼吸になりかけている
「入手経路は秘密だけどな。使えそうか?」
「ああ、長さもちょうどいい。これなら加工さえ出来れば使えるぞ」
スサノヲは神秘的な輝きを放つ支柱をうっとりと見つめる
本物でよかった!
やはりオルハリコンは職人を虜にするらしい
「加工は難しいのか?」
「オルハリコンの硬度は他の素材とレベルが違うんだ。長高温に熱する施設と、同じオルハリコン製のハンマーが複数いる。あとは職人の腕の見せ所だぜ」
スサノヲがニヤッと笑った
オルハリコンを見て、職人のやる気スイッチが入ったのだろう
スサノヲが新武器の設計図を表示した
かなり手を加えたようで、設計がかなり変わっている
スサノヲが、俺の武器を統合するために設計し直してくれたのだ
「この魔玉の下の四角いのは何だ?」
「それはロケットブースターだ。ロケットハンマーの機構を流用する」
「…これ、ジェットの噴射口が魔玉に直結してるけど、間違いじゃないのか? ジェットを噴射したら魔玉が吹き飛ぶだろ」
「あたしがそんな間違いするわけないだろうが!」
スサノヲは怒りながらも説明した
この大剣は、ロケットハンマーと同じくジェットの推進力で叩き切ることが出来る
…そして、槍のようにジェットの推進力で突くことも出来る
だが、サイズや機構的にロケットブースターは一つしか取り付けられない
そこで、魔玉に空間魔法をインストールして、ジェットの噴出口を、あらかじめ設定した二ヶ所に繋げるのだ
繋げる場所は、一つは嘴の真後ろで魔玉の右側、これはジェットの推進力で叩き斬るのに使う
もう一つは大剣の柄の先端の石突きの部分で、これはジェットの推進力で突き破るのに使う
繋げる場所は任意に切り替えられるようだ
「なるほど。ロケットハンマーの大剣版だな」
「基本的な使い方は変わらない。あとは、穂先部分の刃体に超振動ブレードの帯状の刃を入れる。先端の穂先部分だけは超振動ブレードの切れ味を出せるようになる」
「超振動機能は簡単に移植出来るのか?」
「簡単じゃねーよ。ブレードは直線だが、この大剣の穂先は二つも角があるんだ。超振動させる帯状の刃を二回も曲げないといけないんだぞ」
「そっか、なんかごめん」
…いろいろ難しいらしい
「いい武器を作るのに手間は惜しまないぜ。あとは霊的構造の移植か。これは特に問題なく出来そうだな」
俺の全ての近接武器を一本の新武器に統合
更に大型武器の利点である防御ができ、ジェットハンマーのロケットブースターの搭載で重さによる動きの遅さの欠点が緩和出来る
対Bランク火力として、
・ジェットの推進力
・霊的構造
・超振動機構
・パイルバンカーによる刃体の射出
・大剣星砕きを流用した刃体の硬度
の同時使用による瞬間火力の実現が可能だ
かなりいいんじゃないだろうか?
この武器の瞬間火力なら、本当に闘氣をぶち抜いてBランク殺しが出来るかもしれない
「費用の見積りはまだだが、既存の素材をかなり流用できそうだから大分安くできそうだぞ」
スサノヲが素材のリストを見せてくる
強靭な芯材は、オルハリコンの支柱を流用
刃体の素材は、大剣星砕きを流用
その他、ロケットハンマーや超振動ブレードの機構を流用
霊的構造はドラゴンブレードとデュラハンのハルバートを流用
…やはり、オリハルコン支柱による一億ゴルドの削減が大きいな
あと、揃える必要がある素材は、
・パイルバンカーの機構
・魔玉
くらいだ
「一億ゴルド越えは絶対に払えなかったから助かるよ」
「だが、まだ魔玉の問題が残っているからな? ロケットブースターのジェットの噴出口を二ヶ所に直結させる空間魔法をインストールして、更に魔法も強化するんだ。かなりいい魔玉が必要となるぞ」
「いい魔玉か…」
「空間魔法に対応した魔玉ってだけで、かなり貴重なんだ。だが、貴重な魔玉を使うということは、同時に強力な杖の機能を付けられるってことだ。将来的には得するぜ」
「どんな魔玉ならいいんだよ?」
「最低でも、Bランクのモンスターのサイズの魔玉が必要だろうな。しかも、空間魔法に対応した魔玉が必要となるので、生成するモンスターが限定される」
魔玉は、買うか、モンスターから採取する必要がある
質のいい魔玉は、それだけ強力なモンスターからしか採取できない
しかも魔玉はそこまで出回る物では無く、需要も高い
狙ったモンスターの魔玉を買うことなどほぼ不可能だ
だがスサノヲは、防御と火力という俺の要望を形にしてくれた
魔玉入手のハードルは高いが、武器としては俺の理想の物ができるのではないだろうか?
俺は横でお茶を飲んでいるデモトス先生を見る
「先生、この武器どう思いますか?」
「うん、瞬間火力、使い勝手、共によく考えられている。Bランクを倒すことに使えるか、という意味の問いならば、私は可能だと思うよ」
「やったぁ!」
スサノヲが、デモトス先生の言葉に子供にように喜ぶ
「ジェットハンマーやパイルバンカー等の複数の要素を一つの衝撃に変える、素晴らしいアイデアだ。まさに、弱者の戦力集中と一点突破の理念を形にした武器だ」
俺も頷く
デモトス先生の言葉に、自信を持ってこの武器の作成をお願いできる
「じゃあ、この武器を作っていいのか?」
スサノヲが俺の目を見る
「…ああ、頼んだぜ」
「よし! 決まりだ!」
スサノヲが勢いよく立ち上がった
「あたしは、最初にオルハリコンの支柱の加工から入る。その間に、ラーズは魔玉探しを頼んだ」
そう言って、スサノヲが紙を渡してきた
「これは?」
「あたしが考えた魔玉の条件のメモだ。この魔玉は、空間魔法に特化した飛空石加工という特殊加工をするべきだと思う。概要が書いてあるから後で読んでみろ」
「わ、分かった」
資料には、魔玉の条件や入手モンスターなどが書いてあった
スサノヲは、自分の作品についてとことん調べて追及する
その姿勢は本当に凄いと思う
「まずは魔玉探し。そして、同時にナノマシンシステム2.1の訓練、更に部隊行動の習得と武器の作成費用の捻出…、これからも忙しくなるね」
デモトス先生が微笑んだ
「確かに、やることが多いですね…」
技能の開発と武器の同時開発は、確かにきつい
だが、同時にワクワクが止まらない!
ついに、俺の新武器の設計図が完成、作成も開始だ
ヴァヴェルに引き続き武器も揃うのか…、頑張るぞー!
オルハリコンについては、61話 オルハリコン が入手経緯となっています