166話 警察官と防衛軍兵士
用語説明w
バックアップ組織:各地のテロ組織に、資金、技術、人材を提供し、その活動をバックアップする謎の組織
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
デモトス先生に呼ばれて、一緒に隊舎の地下に降りる
隊舎の地下は倉庫になっており、各隊員に割り当てられたスペースと、多目的の共用スペースになっている
「銃が暴発したそうだね。目は大丈夫なのかね?」
「はい、再生医療を受けて目は完治しています」
俺はデモトス先生に左目を見せる
あれからもナノマシンシステム2.1の練習をしているが、うまく部品を取り込めず、完成にはまだまだ遠い
地下の倉庫に降りると、なぜかオズマがいた
倉庫の一画に特殊な壁が持ち込まれ、ここに小さな部屋を作っているようだ
「これが遮断壁かね?」
「はい。これで囲めば安全です」
デモトス先生の問いにオズマが答える
この二人の組み合わせって、俺にはろくな思い出がないんだが…
「今日はデータの抽出作業だ。たまにはオズマとの共同作業もいいだろう?」
「抽出ですか?」
持ち込まれた壁は、電磁波と霊波を完全遮断する特殊加工がなされており、この壁で作られた部屋の中では外部からの電磁波や霊波による通信が届くことはない
風の道化師のアジトから入手した情報媒体には、遠隔操作での消去やウイルス、GPS等が仕込まれている可能性がある
安全にこれらのデータを抽出するために、この特殊な壁をオズマが発注していたようだ
「ラーズ、お前はこっちだ」
「分かりました」
情報担当のジードが指した場所には、いろいろな種類の記録媒体が積み重なっていた
俺の他にも、エレンとカヤノが呼ばれている
「ハードディスクの接続端子が違うわ。そっちの青いコード取ってくれる?」
カヤノがコードの山と格闘している
「この半導体メモリ、暗号化されてて読めませんね。パスワードを要求されますよ」
エレンがデスクトップ型コンピューターを三台並べて作業をしている
「この情報魔玉、霊的干渉を受け付けないんですけど理由わかりますか? 巻物の術式が開始できないんですよ」
そして俺は、魔玉の制御盤に巻物の術式を走らせているが、全く反応が無くて原因を調査中だ
「ご主人! このデスクトップコンピューターはコピー完了だよ!」
俺のAIのデータは、接続したデスクトップコンピューターを片っ端からコピーしている
データも含めて、みんなで情報媒体の山を処理していく
「暗号化されている情報媒体はこの箱に入れてくれ。抽出済みの媒体はこっちの箱だ」
ジードが指示を出しながら、情報抽出を進めている
全ての情報媒体からデータを吸いだし後、オズマに渡して警察で解析をしてもらう予定になっている
オズマの所属する公安は独自の情報解析スキルを持っており、解析を請負ってくれたのだ
「ラーズ、その巻物は違うぞ。その魔玉は仏教式のフォーマットを使っているんだ、イスラム式の術式を走らせたって読み込めるわけないだろう」
ジードに突っ込まれて自分の間違いに気がつく
設定を調べてたのに、そもそも走らせる術式が違っていた
俺の一時間が…
……
…
…それから、早十時間が過ぎた
「まだこんなに残ってるわ…」
カヤノが嘆く
「これも暗号化されてる。用心深いですね…」
エレンがため息をつく
「もしもし、奴に替わってくれ」
オズマがどこかに電話をし始めた
「おい、また暗号化されたデータがあるんだが、パスワードを教えろ……あ?……分かった、明日にでも釈放してやるから覚悟しとけ……」
オズマの電話の相手は、どうやら風の道化師のアジトにいた男のようだ
「釈放するなんて言っていいんですか?」
オレはジードに話しかける
「あいつらは、アジトの情報を持ち出されているんだぞ? 釈放なんかされたら、すぐに行方不明になってしまうだろ。もう刑務所に行くしか手は無いのさ」
ジードは作業を続けながら言う
「裏の世界も大変ですね。失敗=身の危険って…」
「だが、おかげでいい情報を話してくれている。アジト内にあった金庫を開けたのも奴だしな」
アジト内の壁に隠し金庫を発見したのだが、鍵がかかっていて開けられなかった
ジード達が、警察での保護(逮捕)を条件に開けさせたらしい
同僚が平気で悪いことばっかりしてるよ!
怖すぎるよ!
ひたすら接続し、データを開けてコピーし続ける
…気がつけば、もう朝方になっていた
約二十時間かけて、やっと全てのデータを抽出できた
だが、これでやっと解析のスタートラインに立てただけなのだ
「オズマ、今まで警察の捜査を舐めてました。ここまで地味な作業を延々と繰り返すのは大変ですね…」
俺はオズマに謝る
オズマ達は今まで、大量の情報からコツコツと必要な情報を精査していたのだ
「分かればいい。簡単に情報は転がって来ない、捜査には地道な作業が必要なんだ」
その通りなのだろう
データを抽出するだけで丸一日かかってしまい疲れてしまった
「うん、いいね。お互いの作業を体験することは、相互理解の第一歩だ」
デモトス先生が、俺とオズマの様子を見て微笑む
俺達は、お互いに頷く
「では、次はオズマの番だね」
「え?」 「は?」
俺達は、デモトス先生の言葉に同時に声を出す
「23時にそこで集合だ」
デモトス先生は俺達のPITに地図データを送ると、地下室を出ていった
「どういうことだ?」
「…きっと、まともな用件じゃありませんよ?」
そう言いながらも、俺達に行かないという選択肢は無かった
・・・・・・
一通り作業が終わった午前十時、一度帰るというオズマと入れ替わりで、今度はスサノヲがやって来た
「スサノヲ、何でここに?」
「納品だよ。1991小隊から発注を受けたって言ったろ?」
そう言って、スサノヲが次々に品物を車から降ろしていく
折り畳み式の大砲、薙刀のような刃の付いた魔導師用の杖、腕輪、チョーカーの四つだ
「これ大砲?」
「それはサイモンさんだ」
「この魔玉付きの薙刀みたいのは?」
「それはカヤノさんだな」
へー、あの二人は武器を発注したのか
「この腕輪とチョーカーは?」
俺は二つのアクセサリーを持つ
「えーと、腕輪がロゼッタさん、チョーカーがリロさんだな」
アクセサリー
装備品は大きく分けて三種類が存在する
武器、防具、そしてアクセサリーだ
武器は物質への依存度が高く、霊質の重要度が低い
魔法として発動する以外は、物質が対象にぶつかったときの衝撃が威力を決めるからだ
防具は物質と霊質に依存する
物質の衝撃に対する防御、魔法のエネルギーに対する防御と、物質と霊質のどちらの構造も必要となるからだ
そして、アクセサリーは霊質構造に依存する
腕輪や指輪、チョーカーや髪飾りなどは、物質からの防御にはほぼ役に立たない
だが、これらは霊質の構造を持ち、精神属性や火属性など各属性への防御など、身に付けるだけで特殊な効果を持つものが多い
「へー、ロゼッタとリロがアクセサリーを発注したのか。リロなんて、常にMEBのコックピットにいるからあんまり使う機会なさそうだけどな」
「ふっ、ラーズは甘いな。あたしが、MEBの操縦に使えないアクセサリーなんか作るわけないだろうが」
そ、そうなの?
MEB操縦中に使えるアクセサリーっていったいなんなんだ
「それで、お前の新武器の強度計算をしてみたんだ。予想以上の強度が必要になりそうなんだよな…」
「どのくらいなんだ?」
ロケットハンマーのジェットの推進力
+
大剣の質量と硬度
+
パイルバンカーの破壊力
これだけの衝撃に耐えられる芯材だ
使える材質は自ずと限られてくる
「おそらく、アダマンタイトやオルハリコンの硬質化合金が必要になってくるはずだ。多分、一億ゴルドを越えてきちまうな…」
「い、一億…、さすがに無理があるな…」
「威力の低下覚悟で芯材の材質下げるしかないかも…」
スサノヲが残念そうに言う
性能を下げざるを得ない、設計した本人なのだから残念なのは当たり前か
だが、威力を下げて本当にBランク戦闘員の闘氣をぶち抜けるのだろうか?
「…あと、組み込む魔玉についてだな。いろいろ調べたんだが、飛空石という加工方法があったんだ。この武器と相性が良さそうだから、今度来たときに説明するよ」
「飛空石? 普通の魔玉と違うのか?」
「魔玉は魔玉なんだが、機能を特化させた特殊な魔玉だな」
魔玉
魔玉とは消えずに何度も使える魔石のことで、魔法をインストールすることで習得していない魔法を使用できる
インストールした魔法を定型魔法という
魔玉は、モンスターの体内で時間をかけて生成され、大きさや質によって魔法の容量に差がある
また、魔導師の杖の柄と組み合わせることで術者の魔法を強化する特性を持つ
「それは、どんな魔玉でもいいのか?」
「いや、浮遊系か、複合系のモンスターの魔玉が必要になる。しかも、Bランク以上のモンスターの魔玉の大きさが必要だろうな。市場にも都合よく出回らないし、あっても高いからな。Bランクモンスターを狩るのが経済的にも時間的にも効率がいいと思うぞ」
「Bランクモンスターがそんな簡単に狩れるわけないだろ!」
「まぁ、また店に来いよ、説明するからさ。次はデモトス先生も一緒に来てくれ。意見を聞きたいからさ」
「ああ、分かったよ」
しかし、一億ゴルドは無理だよな…
どっかに金が落ちてないもんか
だが、とりあえず今日は、デモトス先生のお仕事を済ませなければいけない
切り替えて集中しよう、どうせ下手するれば死ぬ仕事なんだ…