閑話17 スサノヲの実験
用語説明w
ヴァヴェル:魔属性装備である外骨格型ウェアラブルアーマー。身体の状態チェックと内部触手による接骨機能、聖・風属性軽減効果、魔属性による認識阻害効果を持つ
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
1991小隊は、怒涛の勢いでクエストを消化している
クエストとは住人のモンスター駆除の要望であり、放置すれば住人を危険に晒すことになるからだ
通常クエスト
ワイルドボアの駆除
『
ワイルドボア F~Eランク
大きめの猪型モンスターで、突進攻撃をしてくる
突進は威力が高く、受ければ骨折は免れないため注意
』
『
クエスト情報
郊外の畑付近にワイルドボアが繁殖している
至急駆除を行って欲しい
』
俺の目の前には、ワイルドボアの群れがいる
食い荒らされた野菜や残飯を集めて山を作ったらすぐに集まってきた
今日は俺一人でクエストを受注…、のはずが、なぜか隣に赤ずきんいる
この赤ずきんの女の子は、武器防具を作る鍛冶職人のスサノヲだ
鍛冶職人の業界でブラックリストに入れられている危険人物だ
「なんなんだ、そのデカイ大砲は?」
「あたしのオリジナル、試作クラスター爆弾風の魔弾射出装置だ。ラーズは、猪が突っ込んできたときの防御をしてくれればいいからよ」
本来はクエストに一般人を同行させることなどないのだが、いろいろあってスサノヲの実験をさせることになってしまった
全く乗り気ではないのだが、兵器と少女という組み合わせになぜか目を惹かれる
「って、クラスター爆弾!? こんな所に兵器持ってくるなよ! しかも禁止兵器じゃねーか!」
「いやいや、クラスター爆弾風って言っただろ。これは爆弾の代わりに魔石を使った魔法発動弾だ」
クラスター爆弾とは、容器の中に小型の爆弾を詰め込んだ爆弾だ
小型の爆弾をばらまいて広範囲を爆撃するが、この小型爆弾が何らかの理由により不発弾となってしまうことがある
この不発弾が後に爆発する可能性から、禁止兵器となったのだ
「魔石をばらまくのは同じだが、不発の魔石は時間がたてば魔素となって大気中に拡散する。不発弾の危険性はないから安心して使えるぜ」
この赤ずきんは、好奇心に目を輝かせている
早く使いたくてしょうがないのだろう
「完全に兵器じゃねーか…」
俺はため息をつく
兵器とは、戦争に使われる道具のことだ
この兵器は時代と共に変わっていく
それはつまり、戦争が変わっていくということだ
昔の戦争とは、破壊兵器を使いエリアを殲滅、その後に制圧するというものだった
この兵器には種類があり、一つは科学兵器と呼ばれるものだ
長距離射程と物量を特徴とする兵器で、ミサイル、投下型の爆弾などが有名だ
相手の手の届かない場所から、一方的に攻撃を開始する
圧倒的な火力、物量でエリアを殲滅する兵器だ
兵器にはもう一つあり、こちらは魔法兵器と呼ばれている
超広範囲魔法を展開し、エリア全体を魔法エネルギーで埋め尽くす圧倒的なエネルギー量を誇る
このエリア内に入った個体は、例外なくダメージを受ける
このエリアは三次元的にも展開でき、戦車や歩兵だけでなく、ヘリコプターや戦闘機も破壊することが可能だ
科学兵器が物量で擬似的にエリアを埋め尽くすのに対し、魔法兵器は文字通りエネルギーでエリアを埋め尽くす
射程の科学兵器、範囲の魔法兵器といったところだろう
科学兵器と魔法兵器に優劣は無く、使い所に差がある
十年前のハカルとシグノイアの戦争では、多弾頭ミサイルの発射に対して、広範囲魔法でエリアを封鎖し、互いに相殺したという記録が残っている
だが、現代の戦争の主役はこれらの兵器だけではない
主役が増えた理由は、闘氣の存在である
科学兵器も魔法兵器も、対象エリア内の個体に当たりさえすれば破壊できる、という前提で使われる
だが、兵器の火力に耐える個体がいたらどうだろうか?
町を破壊しても戦力を潰せない
むしろ、町を破壊してしまうことで占領するメリットを自分で失わせてしまう
こういうわけで、現代の最大戦力は個だ
Bランク以上の闘氣を持つ戦闘員、つまり破壊兵器の攻撃に耐えられる戦闘員がいることで、戦争の流れが変わった
闘氣を持つ戦闘員を最初に除外できないと、侵攻することができない
そして、そのためには同じ闘氣使いが必要となる
大量破壊兵器の物量とエネルギー量で撃ち合う戦争から、遥か昔の矢や近接武器で斬り合っていた英雄と呼ばれる存在がいた頃の戦争に戻ってしまったのだ
そういう理由で、現代では大量破壊兵器の使用は禁止され、各国がBランク以上の戦闘員の獲得に躍起になっている
もっとも、Bランク以上の戦闘員は兵器と同様に見なされているため、戦争以外では他国を攻撃することは出来ない
ドッゴォォォォン…
「うわっ!?」
……
…
バチバチバチ…………!
大砲から打ち出された弾は、放物線を描いてワイルドボアの集団のど真ん中に着弾した
凄まじい電撃が巻き散らされ、ワイルドボアが次々倒れる
「何を撃ち出したんだ?」
「聞いて驚けよ! 使えなくなった魔石の欠片を集めて固め、核を中心に砲弾にしたんだ。魔石の欠片であの威力が出せれば中々のものだろう」
「核って何なんだよ?」
「今回は雷属性の誘導性を持つ雷の欠片を使った」
魔石の魔力は、本来は中性だ
だが、何らかの理由によりある属性に片寄ることがある
黒竜の洞窟の地下にある魔昌石が魔属性に片寄ったのがその例だ
それを人為的に起こすため、核に雷属性値を持つ物質を使い、雷属性浸透の触媒となる青銀を魔石の欠片に塗り、一つの砲弾にして暫く待つ
すると、中性の魔石の欠片は核となる雷属性に引っ張られて、その属性を帯びる、というわけだ
「凄いな、スサノヲが考えたのか?」
「…いや、これは特許技術だ。一度試してみたかったんだよ」
スサノヲは恥ずかしそうに言う
別に、自分で全てを考える必要は無いと思うが、職人としては他人のアイデアを使うことに抵抗があるのだろうか?
「もう一発、次は風属性の魔弾だ」
生き残ったワイルドボアが、何匹か集まってこちらの様子を見ている
仲間が死んだというのに逃げないのは、目の前には食べ物の山があるからだろうか?
「行くぞー…」
スサノヲが、狙いを定めて大砲を操作する
ボッバァァァッ………ン!
「え?」
弾は発射されたのだが、同時に砲身が吹き飛んだ
砲弾は飛距離が足りず、ワイルドボアと俺達のちょうど間くらいに着弾した
だが、地面に転がっただけで何も起こらない
それどころか、大砲の音を聞いてワイルドボアが集まってきている
俺達を敵と認識したようだ
「まずいな…」
ボソッとスサノヲが言う
「何が?」
俺がスサノヲに尋ねるが、スサノヲは黙ってお札を渡してきた
「盾に貼って発動させろ」
「おっ、魔法防御の護符じゃん」
護符
補助魔法を封印したもので、武器や防具に貼り付けて発動させる
便利なのだが、作るのが難しいため高額でなかなか手に入らないのだ
俺は言われた通りに盾に貼り付ける
「でも、ワイルドボアは魔法なんか使わないだろ?」
「いや、風の魔弾だ。暴風が巻き起こるはずだから防御を頼む」
「は!?」
その瞬間、転がっていた魔弾が光った
グゴオォォォォォォーーーーーー!!
凄まじい竜巻が巻き起こる
俺は瞬間的にナノマシンシステム2.0発動し、ヴァヴェルの装甲で防御
ラウンドシールドに貼った護符を突き出して暴風に耐える
「うわぁぁぁぁぁ!?」 「おぉぉぉぉぉぉ!?」
…だが、勢いに耐えられず、後ろにしがみついていたスサノヲごと吹っ飛ばされてしまった
・・・・・・
畑は農作物が生える場所だ
だが、今はワイルドボアが叩きつけられて、肉塊が生えている
畑がスプラッターな場所に様変わりしてしまった
「ヴァヴェルの風属性に対する耐性は凄いだろう? ヴァヴェルじゃなきゃ、あたしたちもワイルドボアみたいに叩きつけられていたぞ?」
「ヴァヴェルの実験じゃなかったよな? なんなんだ、あの不良魔弾は!?」
「魔法として発動していないのに、あそこまで風の威力が上がるとは思わなかったな。ちょっと検証する必要があるな…」
スサノヲがぶつぶつと言い始める
あ、これ職人モードだ
俺はスサノヲを放置して、控えていたワイルドボアのお肉業者さんとワイルドボアの回収に加わった
作業終了後に、お肉業者さんに感電死したワイルドボアのきれいな肉を貰った
隊舎でみんなで食べたらめちゃくちゃ旨かった