165話 新武器の設計図 ver.2
用語説明w
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
イズミF:ボトルアクション式のスナイパーライフル。命中率が高く多くの弾種に対応している
リロ:MEBパイロットの魚人隊員。十歳程度の容姿をしている
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
今日は海沿いで、海棲モンスターの大蛸狩りだ
地元の漁協から要請が入ったのだ
漁に出た漁船が一隻、大蛸の足で叩かれて損壊したらしい
沈没しなくて良かったよな…
通常は防衛海軍の管轄になるのだが、海岸で対応できるクエストなので、協定により俺達1991小隊が受注したのだ
漁港近くの磯辺で、竜牙兵に餌である干物の束を持たせ囮にさせている
竜牙兵はいくらダメージを受けても復活できるので囮に最適だ
アンデッドって、敵なら厄介だけど味方ならめちゃめちゃ心強いな
その横で、黒いシートを被ったリロのMEBが座って待機中だ
ジャバァ…
大蛸が海から上がってきた
竜牙兵がジリジリと下がっていく
それにつられて、大蛸が磯を歩いて海から離れていく
「リロ、オッケーだ」
「了解!」
俺のインカムを聞き、リロがMEBを起こす
その脇にはデータ2がいる
データ2が力学属性拘束の魔石を使い、拘束の魔法弾を数発撃ち出す
大きなMEBに驚いた大蛸は、竜牙兵に背を向けてリロのMEBに襲いかかった
リロのMEBはナイフで応戦
ザシュッ!
大蛸の足を一本切断して、右手を大蛸の頭頂部に添える
ドゴォッ!
右腕に装着されたパイルバンカーが大蛸の頭を破壊した
だが、大蛸は動きを止めずに海に逃げ込もうとする
「ラ、ラーズ! コイツ頭に穴空いたのに死なないよ!?」
慌ててリロのMEBが大蛸の足を掴んで引っ張り合いになった
「ち、ちょっと待ってくれ!」
俺はデータのアバターを見る
「データ、あの大蛸何で死なないんだ?」
「ご主人! 蛸の脳みそは目と目の間辺りだよ! 頭頂部は内蔵や生殖器が入っているみたい!」
データが蛸の構造図を仮想モニターに表示してくれた
「それ、リロにも送ってくれ」
俺はそう言って、スナイパーライフルのイズミFを構える
距離は五十メートルほど、ここからなら外さないだろう
「リロ、俺の方向に蛸を動かせるか? 脳みそを狙撃するよ」
「了解、ちょっと待ってね!」
大蛸に七本の足でまとわり付かれ、リロのMEBがうまく動けないでいる
それでも何とか大蛸を俺の狙える位置に持ってきてくれた
「その位置でいいよ」
俺はゆっくりと狙いを定めて…
ドンッ!
脳ミソを撃ち抜くと、大蛸はだらりと力が抜けて磯に横たわった
「ああ…、あたしのMEBがー…」
隊舎に戻るるとリロが嘆いていた
その目の前には、大蛸の真っ青な血で染まったMEBが立っている
「…青色が好きって言ってなかったっけ?」
「こんな生臭い青色なんて嫌だよ!」
…そりゃそうか
リロは凹んでいるが、これで暫くは漁船が襲われることはないだろう
今、1991小隊は溜まったクエスト消化で大忙しだ
・・・・・・
勤務時間が終わり、俺は昨日に引き続きジャンク屋に向かった
「ラーズ、昨日の設計図を直したんだ。見てくれ」
そう言って、スサノヲがモニターに大剣の設計図を表示させる
昨日の設計図の大剣は、刃体の角度が変わるという変形機構はあるものの、形は穂先が膨らんでいるだけで普通の大剣とそこまでの違いはなかった
だが、今日の設計図は明らかに普通の大剣ではない
昨日とは、刃体の穂先の形を変えたようだ
まず穂先の形が変わり、先端と左側が尖っていて嘴のような独特な形をしている
穂先の下は二股に別れ、左側が刃体、右側に芯材の持ち手が伸び、柄の部分でまた一つになっているのは昨日とは同じだ
穂先の真ん中には、昨日は無かった魔玉が描かれており、杖としての機能が追加されている
「魔玉を付けてくれたんだな」
「ああ、芯材と魔玉を使えば杖の機能は付けられる。そして、これを見てくれ! いやぁ、頭を使ったんだぜ」
スサノヲは説明をしながらモニターを操作する
大剣の刃体が傾き、扇のように芯材からせり出した
「これが斬る方向への刃体の射出機構だ。そして、今回は…」
スサノヲがまたモニターを操作する
大剣の刃体が、開いた扇を閉じるように芯材と重なり元の大剣の形に戻る
そして今度は、真っ直ぐ芯材に重なった刃体が30センチメートルほど穂先方向にせり出した
「おおっ! 突きの方向に刃体を射出できるのか!?」
「ああ、そうだ。芯材に刃体をはめた状態をニュートラルとして、切る方向と突く方向に刃体を射出できる。この方向は任意に切り替えられるようにするつもりだ」
「スゲーな! これ欲しい!」
「そうだろそうだろ? あたしもいい出来だと思うぜ」
大剣の重さによる威力にパイルバンカーを組み合わせる
火力が期待できる素晴らしい組み合わせだ
そして、斬擊にも刺突にもパイルバンカーを使えれば、当てるチャンスも増える
「ただ、この武器はあくまでも近接武器だ。パイルバンカーほどの射出距離がないから、斬ったり突いたりしたインパクトの瞬間に刃体を射出しないと当たらないからな?」
「分かってる。練習しなきゃな」
そして、あとは取り回しだ
大剣は、当たり前だが重い
俺はナノマシンシステム2.0を発動させないと、まともに大剣なんか振れない
だが、2.0で大剣を振り回していたら、すぐにエネルギーを使い果たしてしまう
アイアンヴァルキリーのヘザーも、大剣でのエネルギー消費を控えるために銃を重要視していた
何か解決策はないだろうか?
「…なあ、ロケットハンマーのジェット機能を、この大剣に組み込めないのか? 大剣は重いから、ジェットの推進力が生きると思うんだけど」
この大剣を使うとところを想像すると閃いたのだ
「ジェット? …なるほどな。だが、値段は上がるぞ?」
「ロケットハンマーなら持ってるから、そのまま機構を組み込んでくれてもいいぞ」
しかも、ジェットの推進力で斬擊の威力も上がる
いいアイデアじゃないか?
「へー、分かった。他に要望はあるか?」
まだまだアイデアはあるぜ!
「あとさ、俺の武器でドラゴンブレードとアンデッドのハルバートがあるんだけど、その霊的構造を移植できないか?」
「お、それは出来るな。霊的構造なら大剣の質量を上げずに威力をあげられるし、いいアイデアだ。ラーズ、やるじゃん」
へへ…、誉められちゃった
霊的構造を移植できれば、ドラゴンやアンデッド、エレメントに強い武器になるはずだ
「あともう一つ、超振動ブレードも持ってるんだけど、その超振動機能を刃体の先に移植なんてのも出来るか?」
この際、持ってる近接武器を統合してしまえばいいんじゃないか?
「…まぁ、やってみるよ。そもそも、お前はどんな武器を持ってるんだよ? 全部見せてみろ」
スサノヲに言われて、俺は倉デバイスから近接武器を取り出す
・ドラゴンブレイド:ロングソードの一種で、霊的構造としてドラゴンキラーの特性を持つ
・ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェット噴射の勢いで対象を粉砕する武器
・超振動ブレード:根本の超振動モーターで刃の先端部分の極細の帯状の刃を振動させ、凄まじい切れ味を実現したブレード
・ハルバート:穂先に斧が付いた槍。アンデッドから入手した物で霊的構造を持つ
・大剣星砕:騎士から巻き上げた大剣。業物だが、重くて使い所が少ない
「近接武器はこんなものかな?」
思ったより数があったな
「へー、結構いい武器が集まってるじゃないか。よくこんなに使い分けられたな」
「いや、そこまで上手く使い分けられていないんだ。機能を統合出来るなら助かるよ」
「…この大剣はかなりいいものだな。素材としてはバッチリだが、新しい武器の素材にしちまってもいいのか?」
スサノヲが大剣星砕きを持ち上げる
「ああ、いいよ。大剣なんて使えないし、たまたま手に入ったものだからな」
「これだけの武器があれば、コストを上げることなくいろいろ出来る。だが、やっぱり根幹となる強靭な芯材は必要になる。これは高くなっちまうぞ?」
「そうかー、どのくらいになりそうなんだ?」
「うーん、そうだな…。今回のアイデアを詰め込んで設計し直してから計算してみるよ。だが、ジェットのパワーと刃体の重さ、パイルバンカーの衝撃に耐える芯材となると限られるからな」
そりゃそうか
だが、それだけ威力に期待できるということだ
この武器なら、本当にBランクの闘氣ををぶち抜けるかもしれない
しかも、俺のアイデアも採用してくれそうだ
俺の思い入れのある近接武器達が一つの武器に生まれ変わって、Bランクの闘氣をぶち抜ける威力を生み出すかもしれないなんて
…た、楽しみすぎるな
「分かった。でも、すぐには金を用意できないから少し待ってくれ」
だが、スサノヲは首を振った
「龍神皇国とのパイプを紹介してくれたんだ。金はいつでもいい、出来たら持ってきな」
見た目が少女のスサノヲの口から男前の言葉が飛び出す
「その代わり、今度あたしの実験に付き合えよ」
しれっと条件を追加された…!
ま、具体的なことは見積り金額出てから考えよう