162話 ナノマシン集積統合システム2.1の構想
用語説明w
ハカル:シグノイアの北に位置するシグノイアと戦争中の国
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに俺の体の側に保持するラーズのテレキネシス
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
朝からゼヌ小隊長が皆を集めた
「前回の特別クエストをもって、うちの小隊の特別クエストの当番が終わったわ。みんな、特クエ当番の期間本当にお疲れ様」
ゼヌ小隊長の言葉に、隊員同士で苦労を労い合う
俺は特別クエスト担当で、もちろん一番きつかった
だが、残った隊員達もなかなかの激務だったようだ
ハカルからと見られるドローンや戦車の隊列が現れ、殲滅作戦に従事していた時、その最中にマンティコアというモンスターが住宅街に接近し緊急クエストが発令されてしまった
ジードが防衛作戦を離脱し、隊舎に残っていたロゼッタとカヤノと共に何とか討伐した
この期間、ハカル由来と思われる自立型戦車や生物兵器、モンスターの出現が多く、ハカル側に何か動きがあるかもとの推測もなされるほどだった
だが、余計な人手を取られる特別クエストの当番が終わり、1991小隊はフルメンバーに戻った
住民からのクエストも貯まっており、これからどんどん消化していかなければならない
「あともう一つ。例の魔属性環境の森なんだけど、改めて立ち入り禁止エリア指定され、防衛軍の調査対象に指定されたわ。今後の調査で、補助の要請が来る可能性があるから覚えておいてね」
黒竜がいなくなったことが防衛軍の方で確認できたらしい
黒竜の洞窟を含めて、これから防衛軍が調査を実施していくのだろう
こうして朝会が終わった
俺はデモトス先生と訓練に移る
……
…
「はぁはぁ…。デモトス先生、相談があるのですが…」
俺は日課の訓練を行い終わった後、デモトス先生に相談をする
重要な相談だ
「蜘蛛のブロッケン戦い方は勉強になっただろう? そのことかな」
「はい、とても勉強になりました。ブロッケンはアームを使って銃を持ちながら魔法を使っていたんです。私にもこれが出来ないかと思いまして」
「アームを導入するのかね? ホバーブーツの運用に支障があるように思えるが」
そう、そこが問題なのだ
銃を体に取り付ける場合は、パワードアーマーやアームなどで身体の強化や拡張するか、サイバネ手術で銃と体を一つにするかだ
だが、パワードアーマーやアームはホバーブーツの高機動を妨げ、サイバネ手術は将来的に魔法の弱体化がおこる
そこで、俺は解決策を考えた
「いえ、ナノマシンシステム2.1を、アサルトライフルの機構にしてみてはどうかと考えたんです」
「2.1を…、体の一部を変形させて銃を作るということかね?」
「はい、正確には私の左腕の前腕に銃の機構を再現できたらと考えています」
ナノマシン集積統合システム
体内でナノマシン群を運用・活用する俺の固有特性だ
2.0の発現に成功し、身体能力の強化も可能となっている
そして、ナノマシンシステムは更に進んだ2.1の段階がある
これは肉体の一部を変形、もしくは特殊な機能を発現させられる段階で、具体的には高熱や超振動の発生や部位の肥大化などがある
「ふーむ、面白いが、陸戦銃を持つ代わりに腕を銃にするメリットはあるのかね?」
「メリットは、手首より先の手指部分を自由にできることです。いつでも銃弾が撃てる状態で近接武器や杖が持てる。そして、持ちながらも銃を撃てる。持ち替えが必須な陸戦銃にはないメリットで、ブロッケンのような安定感を出せると思ったんです」
しかも、ナノマシンシステムを使うならサイバネ手術と違って肉体や霊体を欠損しないので、将来的に魔法弱体化するというデメリットもない
「左腕を変形させる理由は? ラーズは右利きだろう」
「私のナノマシンシステムのコアは左肩付近に埋め込まれています。このコアに近い部分の方がナノマシンの動きがいいので、部位変形も容易だと思いました。それに、利き腕の右手はアサルトライフル以外の別の武器を扱えた方がいいかと思います」
「…うむ、試してみても良さそうだね。それにしても、ナノマシンシステム2.1を決めてしまうなんて、ブロッケンにかなり影響を受けたようだね」
「はい、あの安定感を出すスタイルにかなり影響を受けました」
サードハンドによる武器の持ち替えは、どこかで武器の持ち替えを失敗した場合の恐怖があった
だが、持ちかえる必要のない体の一部となる武器があれば、そのリスク低減できると思ったんだ
・・・・・・
アイデアをデモトス先生に話したところ、好感触だった
早速ナノマシンシステム2.1のアサルトライフル能力の発現に着手してみよう!
だが、具体的にどうすればいいんだろうか?
ナノマシン群は、俺の意思では動かせない
出来るのは、負傷部位に意識を集中することで治癒力を高める作用と身体強化のスイッチを入れることだけだ
どちらも、意識をすると勝手にナノマシン群が動くので、意思で動かしているわけではなく能力を発現させているだけだ
つまり、ナノマシンシステムの新しい能力の作り方が全く分からない
とりあえず、アサルトライフルの構造を理解してみるか…
俺はシリントゥ整備長の所に行くことにした
MEBハンガー内にシリントゥ整備長とカヤノがいた
「シリントゥ整備長、お疲れ様です。カヤノもいたんですね」
「私は飛行ユニットのメンテナンスよ。ラーズはどうしたの?」
カヤノは、背中につけている飛行ユニットのトンボの羽根のようなフラップを拭いている
リロが発注したという半透明の青いフラップは綺麗に輝いている
「ナノマシンシステム2.1のイメージが固まったので、シリントゥ整備長に意見をもらいに来たんですよ」
「ナノマシンシステム2.1ってな、 ナノマシン群で体を変形させるってやつか?」
シリントゥ整備長が精密作業用のルーペを外しながら椅子に座った
「はい、そうです」
俺は、ナノマシンシステム2.1で左腕の前腕にアサルトライフルを発現させる構想を話した
「なるほどな。隙を無くすためにナノマシンシステムで発現させるわけか」
「はい、蜘蛛のブロッケンというアームを使う兵士のスタイルを見て有効性を理解しました」
Bランク以上なら闘氣を纏ったパンチでピンチを凌ぐことができる
だが、Cランク以下の兵士には不可能なので、体に銃を設置するというのはいいアイデアだ
「なんか地味よねー…、ラーズって」
不意にカヤノが口を開いた
「え!?」
「だって、ナノマシンシステム2.1って凄い能力を発現させられるんでしょ? 腕を盾にしたり、全身に棘を生やしたりとか、変身に近い能力なのよね? それなのに兵士なら誰でも持っているアサルトライフルを再現させるだけだなんて」
「うぐっ…! いや、変身に比べれば地味かもしれませんが、いつでも銃弾を撃てるという利点は価値があると…!」
「ええ、利点は分かってるわ。実際、いい能力だと思うわよ。でも、サイキックのサードハンドの能力も武器を保持するってだけの地味な能力だし、もう地味なのはラーズ性格なんだろうなって思って」
「…」
何だろう?
地味って言われてちょっと凹んでいる気がする…
「わしはいい能力だと思うぞ。 だが、ナノマシンシステムに関しちゃ、正直何のアドバイスもできないんだよな」
シリントゥ整備長が困ったような顔をする
「あ、ナノマシンシステムの相談ではなく、アサルトライフルの機構を教えてもらいに来たんです。まず機構を理解して、そこからナノマシンシステムでナノマシン群で再現していきたいなと思いまして」
「ああ、そういうことなら任せとけ」
シリントゥ整備長は、ハンガー内にあった陸戦銃を分解して機構の説明をしてくれた
隊舎の中庭では、サイモン分隊長とリロ、ロゼッタがデモトス先生と組手を行っている
近接戦闘のアドバイスを受けているらしい
たまには、隊舎でゆっくりと自己研鑽に励むのもいいものだ