159話 劣等感
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
その後、通報を受けた警察がアジトに突入した
中は荒らされており、三人の男が縛られていた
この内二人が銃を持っており、アジト内からも武器が見つかった
これにより、三人ともが銃刀法違反で警察に逮捕された
俺達は、後をオズマに任せてさっさと撤収する
オズマが、「今回の証拠品を囮に、警察内部のバックアップ組織の関与者を何人か割り出す」と言っていた
ジードが事前に用意していた追跡用魔玉とGPSがつけられたタワー型のダミーコンピューターをわざとアジトに置いていったのだ
警察内部にバックアップ組織の関与者がいれば、このダミーコンピューターの証拠隠滅を謀るはずだ
罠を仕掛けて待つ作戦らしい
「ラーズ、いい手際だった。うまく戦力の分散ができていたから各個制圧がスムーズだった」
デモトス先生が誉めてくれた
「はい、ありがとうございます」
俺には、リィ、データ2、そして竜牙兵の三体がいる
この数の利点を考えなければいけない
実際に、今回一ヶ所のドアから全員で突入していたら、もっと激しい抵抗に遭っていただろう
俺は、今回の戦利品である情報媒体をジードに預けた
電磁波や霊力、魔力を完全遮断しないと、万が一GPSや魔導感知機能が仕込まれていると場所を特定されてしまう
完全遮断の環境を作ってから解析を始めることになる
「ラーズ、明日は休みを貰っておいた。ゆっくり休みなさい」
嬉しいデモトス先生の言葉だ
この手の仕事は、精神的に本当に疲れるんだ…
・・・・・・
せっかくの休みなのでフィーナとお昼を食べに行く
気を使わない時間って、それだけで癒されるな…
「なんか疲れてるね。黒竜の件が終わったのに、まだ忙しいの?」
フィーナが俺の顔を見て言う
「風の道化師のせいだよ。Bランク戦闘員に襲われるなんて、とんでもないことだからさ。調査とかいろいろとね」
もう裏仕事はやだよ
ストレスで胃が穴だらけになりそうだ
「せっかく私の方に時間できてきたのに、ラーズが忙しいからつまんない。もっと遊べると思ったのにな」
「特別クエストがあと一回で終わる予定だから、そのあとは時間ができると思うよ。俺も、自分の訓練とか武器を考えたいからね」
「ふーん…」
フィーナは何かを言いたそうだったが、何も言わなかった
俺達は美味しい蕎麦を食べ、満足して店を出た
今日は、二人でゆっくりすると決めた
カフェに行き、フィーナはミルクティーにクリームがどっさり乗って中にタピオカが入った飲み物、俺はチャイラテ、後はドーナツとスコーンをいくつか買い、近くの植物園に行った
ここは、温室の植物や野外のガーデニングが見られるが、広い原っぱもある
ここでシートを広げ、お茶をするのが目的だ
「ヒャンヒャーン!」
「待ってよリィ!」
早速データ2とリィが走り回っている
「データ、お前は遊んでいることになっているのか?」
俺はPITの方のデータのアバターに聞いてみる
「今は同期しているから、どっちも僕だよ!」
データは俺と会話をしながら、同時に外部稼働ユニットのデータ2でリィと遊んでるってことか
体が二つあるってどういう感覚なんだろう
いや、体どころか脳が二つあって、同期しているとはいえそれぞれが考えてるってどんな感じなんだ?
「何考えてるの?」
「うわっ」
気がつくと、フィーナが俺の顔を覗き込んでいた
「急にビックリさせるなって」
「ラーズがボーッとしてるからじゃん」
フィーナはそう言って、チャイラテを取ってくれた
「ありがと」
フィーナは頷いて、自分の甘そうなタピオカミルクティーを開けた
タピオカって、俺は邪道だと思うけどな…
「ね、大ニュースがあるんだけど」
クリームを食べながらフィーナがこっちを向いた
「何?」
「ミィ姉とヤマトが付き合ったんだって」
「なにぃ…!?」
ボリュガ・バウド騎士学園の同級生で、同じパーティを組んでいたミィとヤマト
そういえば、ボリュガ・バウド騎士学園時代にヤマトがミィを気になってるとか言っていたな
結局、今まで付き合ってなかったのに、急に付き合うとは…
「私はお似合いだと思うよ」
フィーナがチラッとこっちを見る
「うん、いいんじゃいか? ヤマトは前からミィが気になってたみたいだしな」
「ふーん、ラーズは別にいいの?」
何だ?
フィーナは何でそんなことを聞くんだ?
「いいどころか、応援するするだろ。俺の数少ない高校時代の友達だぞ? むしろ付き合うの遅いくらいだろ」
フィーナは、ちょっとホッとした顔をする
「ヤマトに聞くように頼まれたんだよ。ラーズが、実はミィのことが好きなんじゃないかって。ミィ姉と仲良かったでしょ?」
「ま、まぁ、ミィとは気が合うとは思うけど、お互いに付き合うとかそういう感じじゃないよ。ヤマトも直接聞けばいいのにな」
「気を使って、本当のこと言わないと思ったんじゃない?」
そう言って、フィーナはタピオカを食べる
そうか、ヤマトとミィが…
俺らも社会人だし、結婚とか考えるのかな?
さすがに、まだ早いか
「…」
ふと、気がつくと、フィーナがこっちを見ていた
「どうした?」
「別に。ただ、ミィ姉達いいなーって思ってさ」
「…」
いいなー、か
フィーナを俺はどう思っている?
好きと大切って何が違う?
答えが出ない
でも、答えを出さないで付き合いたくない
中途半端な気持ちで、兄妹をやめたくない
「フィーナ。俺、強くなるからさ、そうしたら…」
「…そうしたら?」
フィーナと目が合う
強くなれたらどうするんだろう?
俺は、自分の強さに自信を持てたらどうしたいんだ?
「…」 「…」
お互いに無言になってお茶を飲む
無言になるあたり、お互いに言いたいことは分かっている気がする
いやいや、もし勘違いだったら…
楽観視はやめろ、俺
また、フィーナが俺の顔を見る
「ね、前にも言っていたけど、その強くなるって何なの?」
「え?」
「だって、私は別にラーズに強くなってほしいなんて思ってないよ?」
フィーナがリィとデータ2に目を戻しながら続ける
「子供の頃から、私のために出来ることをしてくれた。闘氣や魔法が無くたって、言い訳しないで出来る努力をしてきた。私からすれば充分強いと思う」
「子供の頃って、何かしたっけ?」
「覚えてないの?」
フィーナはちょっとへそを曲げた顔をする
「…いや、その」
いや、全然覚えていない
だいたい、子供の頃って八歳からだぞ?
長すぎるだろ!
「…別にいいけど。でも、私は別にラーズのそれ以上の強さなんか要らないよ」
…フィーナが言っている強さって何だろう?
だが、Bランクのフィーナ達を見ている俺の気持ちがフィーナには分からないんだろうな
「フィーナってさ、ボリュガ・バウド騎士学園に俺がどれだけお前達に劣等感を感じていたか知らないだろ」
「え?」
学園時代、皆が出来ることが俺にはできない
やっと出来たと思ったら、フィーナ達はもっと高威力だったり、新しい魔法を覚えたりしている
いつも嫉妬や卑屈さを感じてしまう自分が嫌だった
「俺には何もなかった。結局、自信を持てた重属剣だって、その場しのぎにしかならない技だった。それが分かったときの絶望が分かるか?」
「そ、それは…」
「お前やミィやヤマトを羨んでばかりいる自分が本当に嫌になるんだ。だからこそ、Bランクには無い俺だけの強さを探すために防衛軍に入ったんだよ」
俺はフィーナを見る
言っていて、また自分が嫌になってきた
劣等感を感じる自分が嫌だ
そして、その劣等感で悩んでいる自分を分かって貰えない不満
そんな不満を持つ自分がまた嫌になる
俺って、本当に糞みたいな人間だ
だが、言葉が止まらない
「フィーナ達に劣等感を持ってるくせに、一緒に戦えるようになるなんて夢だけは持ってるんだ。笑っちゃうよな…。」
「別に、そんなこと…」
フィーナが困った顔をしている
こんなことフィーナに言ったって仕方ないのに
「ごめん、フィーナが悪い訳じゃないんだけどさ」
「ううん、いいよ」
フィーナは首を振ってくれる
強くなれたら、劣等感を叩き潰せる自信がついたら、少しは何か変わるのかな?
デモトス先生の訓練
ナノマシン集積統合システム2.0
サイキック:サードハンド
AI制御倉デバイス術
属性装備ヴァヴェル
いろいろと手応えは感じているけど、Bランクには全然届かないな…