158話 またまた裏仕事
用語説明w
ヴァヴェル:魔属性装備である外骨格型ウェアラブルアーマー。身体の状態チェックと内部触手による接骨機能、聖・風属性軽減効果、魔属性による認識阻害効果を持つ
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
竜牙兵:黒竜の牙に魔属性と竜の魔力を封入し、幽界から骸骨戦士を構成する爪と牙を武器とするアンデッド
クルスとホンがトウク大港まで車で送ってくれたが、俺の様子を見て何も聞いてこなかった
実は理不尽なことが行われているんですよ?
今回の訓練内容は「指揮」だ
「部下にある程度の自由や裁量を与えることが重要だ。だが、全体の流れを把握して、軌道修正はしていかなければいけないよ」
デモトス先生からアドバイスを貰う
今回は俺が指揮官だ
事前の意思統一と作戦構築を行い、更に作戦行動中も指揮を出し続ける
これがなかなか難しい
目的は、風の道化師のアジトの潜入、中にいる人間の拘束、必要な情報媒体の奪取だ
実行者は俺一人、ただしリィ、データ2、竜牙兵の使用を認められている
俺は、ヴァヴェルを纏い、ナイフと魔石装填型の小型杖、そして普段は使わないハンドガンを装備している
ちなみに、ヴァヴェルはスサノヲにメンテナンスを頼んでいたのだが、デモトス先生が受け取って来てくれていた
準備よすぎだよ…
「ここ数日の見張りの結果、出入りしている人間は三人だ。管理人と思われる男とマフィアっぽい男が二人だ」
オズマが、アジトへの出入り情報をくれた
「そいつらの名前は特定できているんですか?」
ちゃんと聞いておかないと、情報ゼロで賞金首と戦わされるからな
「いや、特定はできていない」
オズマは首を振った
こいつらの戦闘能力は不明か
もうごちゃごちゃ言っていても仕方がない
俺達は、風の道化師のアジトに向かった
作戦は、宅配業者のふりしてチャイムを押し、ドアを開けさせる
三人の男を拘束し、その後に必要なものを探す
…いや、ざっくり過ぎだから!
「ラーズ、今回は部下が三体だ。数の生かし方が分かるかね?」
デモトス先生がリィとデータ2を見る
「えー…、数の暴力というか、手数を出すとかでしょうか?」
「単純な戦いならそれも正解だ。だが、侵入と制圧が目的の場合は、相手を分散させるために使うべきだ」
拠点を攻める場合、相手は攻められている場所を集中して守る
だが、あらかじめ攻める箇所を増やして、相手に守らせる場所を増やしたらどうだろうか?
余計な場所に戦力を割かせることができ、こちらの攻めたい場所は手薄にならざるを得ず、侵入の難易度が下がるのだ
拠点責めのセオリーだ
・・・・・・
日が落ち、午後八時頃になった
作戦開始だ
今回は、デモトス先生もジードも現場を遠巻きに監視している
…本当に俺一人だ
アジトの倉庫は入り口が二つ
最初に、データ2が裏のもう一つの入り口のガラスを叩く
「裏のドアに人影を確認、マフィア風の男だよ!」
データの報告
データ2が窓を叩いた音を不審に思った1人を誘き寄せられた
よし、このタイミングだ
俺は正面の入り口でインターホンを押す
俺はヴァヴェルの上に、バイク便のブルゾンを着ている
インターホンのライトがついた
「はい?」
「お届け物です」
俺はインターホン越しに挨拶をしながら、さりげなく小包を見せる
中から、スーツを着た管理人らしき男がドアを開けた
入口の敵は多くてもあと二人
データ2に裏のもう一人を引き付けてもらい、俺は入口から出てきた管理人に集中する
「こちらにサインをお願いします」
小包を渡し、伝票にサインを求める
管理人は小包を受け取り、小包の上の伝票にサインをする
管理人の両腕が塞がった
コッ!
左のこめかみ、そして右から顎へ同時に打撃を叩き込む
ダメージよりも、より大きく脳を振るためだ
ガクッ…ドサッ
管理人の体が弛緩し、俺は管理人の体を受け止める
よし、きれいに脳震盪を起こすことができた
入り口を入ってドアを閉め、管理人の体を静かに寝かせる
ジードからの通信はないので目撃はされていない
中は通路になっている
見取り図によると、右が倉庫内への通路、左が小さいキッチンだ
左のキッチンから換気扇の音が聞こえる
俺はリィと竜牙兵を呼び出す
リィは右、竜牙兵は左、俺は管理人の拘束だ
それぞれが散る
俺は結束バンドで管理人を拘束、まず一人目の確保
小型杖で睡眠弾を当てておく
ガッシャァァァン!
「うわあぁぁ!」
左のキッチンから悲鳴が聞こえてきた
竜牙兵が戦闘を始めたのだろう
俺も加勢に動く
キッチンの中を除くと、一人の若いマフィアっぽい男が竜牙兵に組伏せられていた
竜牙兵が首に牙を添えて、抵抗を封じている
ガゴッ!
俺は無言で若い男の顎を蹴り上げて意識を飛ばす
「あっちで倒れている管理人をキッチンに連れてきて、ここで二人を監視してくれ」
竜牙兵が頷いたのを見て、俺は倒れている若い男を拘束する
これで二人だ
俺は通路を戻る
もう一人の男を確保するためだ
キッチンの音を聞かれた可能性が高い
データから、
「裏の窓から外を見ていた男が中に戻っていったよ!」
と報告を受けた
データ2は正面入口に回らせ、中に入るように指示する
通路の先に倉庫内部に入れるであろうドアがあった
ここから入れそうだ
「中に一名の生体反応を確認だよ!」
データがアバターのセンサーで確認する
『俺がドアを叩く。中の対象がドアの近づいたら後ろから襲撃開始だ』
俺はリィにテレパスで指示をする
リィの了解を確認し、行動開始だ
俺はドアをノックする
コンコン
「誰だ?」
中から警戒するような声が聞こえた
俺はゆっくりとドアを開けると、中にはマフィア風の男がいた
俺は小包を差し出す
「あの、宅配便です。入口が開いていたので中に入ってしまったのですが…」
「あ? 今、スーツのおっさんが出てこなかったのか?」
「は、はい、誰も出てきていませんでした。サインを頂いても…」
男が俺に近づこうとする
その時、霊体化していたリィが天井を通り抜けて男の後ろに実体化する
尻尾を振るい、男の後頭部を狙った
狙いは良かったが、実体化したために天井の蛍光灯で影ができてしまい男がリィに気がついてしまった
バシッ!
「くっ! 何だこいつは!」
マフィアは尻尾を腕でガードした
俺は、マフィアの足元に小包を放り投げる
そして静かに男に忍び寄った
「うん? 宅配便、どこ行きやがった!?」
マフィアがキョロキョロと部屋を見渡すが、リィの姿しか見つけられないらしい
俺は、マフィアを中心にリィの真反対の位置に静かに立っていた
凄いな、これがヴァヴェルの認識阻害効果か
一度認識されたにもかかわらず、俺を見失って見つけることが出来ていない
マフィアが俺を探すことを諦めて、リィに向かって懐から銃を抜こうとした
俺は左手でその手を優しく押さえる
「…な!?」
マフィアはしばらく俺を見つめた後、俺をやっと認識して目を見開いた
ゴッ!
マフィアの無防備な顎に右ストレートをぶち込む
男は昏倒して床に倒れた
・・・・・・
アジト内には、情報の通り三人しかいなかった
マフィアも拘束し、竜牙兵に見張りをさせる
俺が制圧完了を連絡すると、デモトス先生とジードが入ってきてくれた
三人でアジト内を探索し、ハードディスク、半導体メモリ、魔玉メモリ、霊子情報用の巻物等を無作為に集めていく
「ヒャン!」
リィが鳴いた壁を調べると、隠し金庫を見つけた
霊体化して壁の中を潜って見つけ出したらしい
「リィ、よくやった」
俺はリィを撫でて、近くにいたジードを呼んだ
「ジード、隠し金庫を見つけました」
「開けられそうか?」
「無理です。壁に埋め込まれているので、取り出しも出来ません」
一度諦めて、そろそろ脱出するか?
後はタイミングを見てオズマが警察を呼ぶ手筈になっている
「この金庫は私とデモトスさんで何とかする。ラーズはここから持ち出した物を全部持って、一度外に出てオズマと合流してくれ」
「分かりました」
今回のアジト制圧は呆気なく成功した
だが、これが一人だったら、二対一、下手すると三対一の状況になりかねない
見張りがいないと、拘束した人間に逃げられる可能性もある
戦力は武器だけじゃない
数の確保が大切だ、出来ることが劇的に増える
リィ、データ2、竜牙兵、この三体との連携が出来れば、俺の戦闘能力は一気に上がるのではないか?
リィ達との連携訓練
対Bランク用の火力武器
対大型用の武器
ナノマシン集積統合システム2.1の構想
俺のサイキック、サードハンドの練度向上
出来ることがあるのは嬉しいが、やることが多すぎるな