156話 竜牙兵と新武器構想
用語説明w
ヴァヴェル:魔属性装備である外骨格型ウェアラブルアーマー。身体の状態チェックと内部触手による接骨機能、聖・風属性軽減効果、魔属性による認識阻害効果を持つ
竜牙兵:黒竜の牙に竜と魔属性魔力を封入し、幽界から骸骨戦士を構成する。爪と牙を武器とするアンデッド
リロ:MEBパイロットの魚人隊員。十歳程度の容姿をしている
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
エレン:獣人の女性整備隊員。冒険者ギルドの受付も兼務
長い戦いが終わった
黒竜の件にやっとけりがついたのだ
黒竜は納得できたのだろうか?
あれでよかったのだろうか?
今となっては分からないが、黒竜が望んだ
あれでよかったと思うしかないだろう
俺達、1991小隊は黒竜洞窟周辺を調査中に正体不明のBランク以上の戦闘員同士の戦闘に巻き込まれるというトラブルにあった
だが、幸い被害は少なかったため調査を続行し、黒竜の洞窟の入り口を発見した
中に生体反応は検知できず、黒竜の存在も確認出来なかった
魔昌石の件も含めて追加調査の必要性を認める
…という報告書をエレンが作り、本部へ提出した
近いうちに魔昌石の調査が行われることになるだろう
セフィ姉から連絡があり、黒竜の素材はかなりの高値で買い取ってくれたそうだ
小隊の隠し資産として、メイルが管理するそうだ
ま、小隊の運営的な話はゼヌ小隊長がうまくやってくれるだろう
俺は自分のやるべきこと、つまり検証に集中しよう
「ほえー、すげえな。この骨はどこから持ってきているんだ?」
シリントゥ整備長が興味深く観察している
「恐らく幽界でしょう。大気中の魔力を溜めて、幽界の素材で竜牙兵の体を構成しているのではないかと…」
ジードが考察する
俺は黒竜がくれた牙で、「ドラゴントゥースウォーリアー」、竜牙兵を呼び出したのだ
俺の、リィとデータ2に続く第三の別動隊メンバーだ
今は竜牙兵の能力や理解力を検証中だ
竜牙兵は骸骨の戦士だ
その骨格は、頭蓋骨が肉食恐竜のような形状をしおり、人間よりも腕が長く四足歩行ができる
腕の先には鋭利な爪を持っており、戦闘時は二足歩行で爪と牙を使い、走るときは四足歩行になる
熊に近い動きなのだろう
この骨の素材は、幽界と呼ばれるこの世界と半分重なっている次元から呼び出しているようで、黒竜の牙を起動すると目の前に竜牙兵の体が構成される
この呼び出しに魔力を消費してしまうので、一度呼び出せば黒竜の牙に魔力が貯まるまでは再度の呼び出しは出来ない
竜牙兵の維持時間、再呼び出しまでの時間は検証中だ
「けっこぉ動き早いよぉ。攻撃も捌くし、アンデッドだから囮にも良さそうだねぇ」
ロゼッタが、移動速度や近接戦闘の検証をしてくれた
距離が開けば四足歩行高速移動を行い、近接戦闘も爪と牙でロゼッタと打ち合った
ロゼッタが誉めたということは、それなりに戦えるということだろう
しかも、あくまで本体は黒竜の牙なので、竜牙兵が壊されても時間がたてば復活させられる
「力も結構強いぞ。大型モンスターを少しの時間なら押さえ込めそうだな」
サイモン分隊長はパワーの検証だ
大盾で押し合うと、サイモン分隊長の力と拮抗した
アンデッドは、その体の全ての力を出しきれるのでパワーがある
だが、パワーを出しすぎて自らの体を壊してしまうことがある
この竜牙兵もサイモン分隊長との押し合いで腕の骨にひびが入ってしまった
竜牙兵の弱点として、防御力が低いことが分かった
だが、体が壊れても動き続けるので、継戦能力はありそうだ
だが、聖属性の攻撃を喰らったら一発で戦闘不納になってしまいそうだな
「なんかラーズって、もう一人で部隊作れちゃいそうだよね。一人部隊、アローントゥループなんてどうかな?」
リロが、リィ、データ2、竜牙兵を見て新しい通り名を考え始める
「止めてよ、なんかボッチみたいじゃん…。一人で作戦行動なんて考えたくないしね」
一人で戦場に出る
誰にも相談できない状況、助けも期待できない状況だ
俺はデモトス先生に裏仕事で何度かやらされたが、毎回怖すぎる
二度とやりたくないし、これが戦場ならなおさらだ
「体の維持が出来なくなったら、このスイッチを押して教えてくれるか?」
俺が竜牙兵に命じると竜牙兵は頷いた
うん、理解力はある
竜牙兵の維持時間を検証するため、このまま竜牙兵を出し続けてみるのだ
「エレン、後はお願いしていい?」
「はい、センサーが鳴ったら発現維持の限界時間と竜牙兵の体の変化を記録しておきますね」
竜牙兵にセンサーのスイッチを押させて、魔力が切れたときの運動能力の変化の観察をエレンにお願いした
この後、俺はデモトス先生とスサノヲの店に行く約束をしたのだ
・・・・・・
スサノヲの店であるジャンク屋に着くと、既にデモトス先生が来ていた
「こんにちはー」
「やあ、ラーズ」 「お、来たか」
デモトス先生とスサノヲが地下の工房でお茶を飲んでいた
「黒竜の鎧は持ってきたか?」
「ああ、持ってきたかよ。この鎧、黒竜の名前をもらってヴァヴェルにしたんだ」
「へー、黒竜の名前をつけたのかよ、いいじゃん。着心地や性能はどうだった?」
「まだそんなに使う機会が来てないんだけど、違和感が無さすぎて凄いよ」
俺は倉デバイスからヴァヴェルを取り出す
メンテナンスと調整をしてもらうことになっていたのだ
「凄いじゃわかんねぇよ。いい部分と改善点、要望を具体的に出せって」
相変わらず、見た目が少女であるにもかかわらず、スサノヲの口から汚い言葉が飛び出してくる
「何言ってるんだよ。新しい鎧を身に付けたのに違和感がないんだぞ? 自分の体の一部というか、フェムトゥ時代と違和感が無いというのか、その調整の腕が凄いって言ってるんだよ。こっちも伊達にフェムトゥ着続けたわけじゃないんだから」
「そ、そ、そうか?」
スサノヲは恥ずかしがりながらも嬉しそうだった
良くも悪くも素直なんだよな
調整をスサノヲに任せて、俺はデモトス先生に黒竜の最期と風の道化師との戦闘の状況を話した
「そうか…、黒竜は納得して逝ったか」
「納得…、というとよくわかりません。黒竜の望みを叶えただけですからね」
「黒竜に対して敬意を持った、だから出来ることをした。黒竜のために行動しただけで充分だろう。それ以上は悩んでも仕方がない無いことだからね」
葛藤と割り切り
これが大人になるってことなのかな…
「その後、風の道化師に襲われました」
「うん、ゼヌからも聞いたが、風の道化師との戦闘は厳しかったそうだね?」
「はい、特に火力の不足を感じました。アサルトライフルは闘氣の防御に完全に止められました。ロケットハンマーやスナイパーライフルの徹甲弾は試せなかったのですが、果たして闘氣を破れるかどうか…」
Bランクモンスター、爆炎獣テスノトリウの時はロケットハンマーではダメージを与えられなかった
この時は考えられなかったが、今後、風の道化師やバックアップ組織と敵対する可能性を考えると、火力不足は改善が必要だ
「ふむ、ではスサノヲに武器を発注するのはどうだね? 一度アイデアを出してもらうとしよう」
そう言って、デモトス先生はスサノヲを呼んだ
「………なるほどなぁ、火力武器か。だが、闘氣をぶち抜くとなると、コストを度外視した高い破壊力を持つ弾丸をレールガンとかで加速射出するとかか?」
「弾丸は一発勝負過ぎるんだよな。そう何発も撃てない弾丸で、狙撃も出来ないし、近距離からだと攻撃を避けながら狙うのもきついし…」
遠距離からの狙撃には、蜃気楼魔法で存在場所の認知を阻害したり、範囲外からの物体の運動エネルギーを奪ったり、電磁力で軌道を逸らしたりと魔法による対策が多い
かといって、近距離で戦うとしても闘氣を使うBランクの方が力や速度が上で攻撃方法も豊富、とてもじゃないが狙えるとは思えない
少ない弾数で、運に賭けて一発勝負を挑むしか方法がないのだ
「うーん、難しいな。ラーズの要望はないのか? こういう武器が欲しいとか、こういう状況で使いたいとか」
「あ、それなら大型武器がほしいんだ。大剣の刃の真ん中に持ち手がついている武器を見てさ、大型の敵の攻撃を受け止める防御にも使える武器で使い所多そうだなって」
「ふーん、大型の武器か。他には?」
「後は…、パイルバンカーとか憧れるけど。前にBランクモンスターを倒したBランク戦闘員にも言われたことがあるし」
「大型武器で、攻撃を受け止めやすい形状で、パイルバンカー、更に闘氣を突破する火力か、難しいな…」
「いや、一つの武器にしなくていいから!」
大剣とパイルバンカーが一つになるわけないだろ!
それぞれ、状況によって使い分けさせてくれ
「…形状としての条件が……持ち手の…」
スサノヲがぶつぶつ言い出した
これ、もしかして職人モードに入った?
「ま、武器は追々考えていこう。今日は帰ろうか」
デモトス先生もスサノヲの職人モードを見て諦めたようだ
「…はい」
ヴァヴェルをスサノヲに預けて、俺達は退散したのだった
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