152話 黒竜討伐1
用語説明w
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
セフィリア:龍神皇国騎士団に所属、B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
魔属性環境となってしまった森の入口
ここでゼヌ小隊長、サイモン分隊長とカヤノ、エマ、俺
そして、セフィ姉とフィーナが、観測拠点で出発の準備中だ
「ラーズって時々バカよねー…。何で合コンなんて話しちゃうのよ?」
カヤノが残念な子を見る目をする
「お前、素直に言えばいいって訳じゃないだろうが」
サイモン分隊長も同じだ
アイアンヴァルキリーのヘザーに言われた合コンの件をフィーナに話したことを言ったら、こんなことを言われたのだ
「いや、合コンに行くって言ったわけじゃなくてですね? こういう話があったと…」
「付き合う付き合わないの話をしている男女で、わざわざ合コンの話をしなくてもいいでしょ? 人の合コンよりフィーナちゃんとの関係をハッキリしてあげなさいよ」
「バカだよな」
「うぅ…」
完全に論破されてしまった
俺が軽率だったのか…
魔属性環境の境界線となった場所に設置された簡易な小屋
ここが観測拠点となっている
ジードがセフィ姉とフィーナを駅まで迎えに行き、この場所での集合となった
今は、ゼヌ小隊長がセフィ姉と話している
シグノイア防衛軍第1991小隊の小隊長と龍神皇国の幹部の秘密の会話
密約ってやつだ
「グルル…」
俺の肩には、セフィ姉が連れて来たフォウルが乗っている
「この子竜がフォウルか? 思った以上に小さいな」
サイモン分隊長がフォウルを見て言う
フォウルは典型的な西洋型の小竜で、俺の肩に乗る全長三十センチメートル程
西洋竜とは、胴体と尻尾の太さが違う、いわゆるトカゲ型のドラゴンだ
リィは東洋型で、胴体と尻尾の太さの違いが少ない、いわゆる蛇型ドラゴンだ
ドラゴンは体と尻尾の特徴から東洋と西洋に分類され、体の構造が通常種と違う場合は、足の構造などで震竜、水竜、獣竜、飛竜などに分類される
フォウルはトカゲ型の体で背中に一対の翼が生えている典型的な西洋竜なので、西洋型通常種、又は単に西洋竜と呼ばれる
「この小さいフォウルが黒竜を殺せると思いますか? 」
「いや、無理じゃねえか? 大きさ全然違うじゃねえかよ」
フォウル、全長三十センチメートル
VS
黒竜、全長三十メートル
とてもじゃないが勝負になるとは思えない
「ガルル…」
俺達の会話を聞いてフォウルが唸る
「怒るなよフォウル。大きさが違いすぎるんだから、そう思うのもしょうがないだろ」
「なんだ、俺達の会話が分かってるのか?」
サイモン分隊長が驚く
フォウルは頭がいい
人間の言葉をしっかり理解しているのだ
「ただ、フォウルは一回だけサンダーブレスを吐けるんですよ。その時に一瞬巨大化するんですけど、これを話したら黒竜が連れてきてくれって言い出したんですよね」
「その巨大化ってのは何なんだ?」
「出会った頃からそうだったので、そういうものだと思っていたんですよね。実は珍しい、不可逆の竜呪というものだったらしいんですが…」
フォウルは、一瞬だけ巨大化し全長十メートル程の竜になることができる
この状態の時は、その全長に相応しい強力なサンダーブレスを吐くことが出来る
ただ、巨大化の時間は十秒ほどしか維持できず、ブレスを一回だけ吐く時間しかない
エネルギー消費が大きく、一度使うと数日間は巨大化は出来ない
ちなみに質量も相応に増えるので、肩に乗った状態で巨大化されると俺は潰されることになる
ボリュガ・バウド騎士学園時代の、俺のパーティーの最後の手段としてフォウルは大活躍だった
ゼヌ小隊長がセフィ姉との話を終えてこっちに来る
「ラーズ、当初の予定通りセフィリアさんと黒竜の所に行って貰うわ」
「はい、分かりました」
今回は黒竜の存在を完全に秘して、1991小隊により魔属性環境の調査を行う建前になっている
調査はエマ、その護衛にサイモン分隊長とカヤノだ
黒竜の洞窟へは、俺、セフィ姉フィーナ、そしてジードが補助として入る計画になっている
ゼヌ小隊長は、俺を真剣な顔で見る
「ラーズ、あなたが黒竜に対して特別な感情を持っていることは理解で出来るわ」
「はい」
「私もこの地を守ってくれていた黒竜に敬意と感謝の気持ちは持っている。でも、この小隊の長としての今日の目的は、黒竜に感謝を伝えることじゃないわ」
ゼヌ小隊長が続ける
「単純に利益のためよ」
「…はい」
ゼヌ小隊長は、堂々と言い切った
「黒竜の素材は、小隊の隠し資産となるわ。そして、黒竜がいなくなったことを突き止められれば、うちの小隊の発言力は増す。私の目的はあくまでも小隊の強化よ」
「はい、分かっています」
金は力だ
そして、発言力を増せるチャンスは逃せない
社会人である以上、考えて当たり前のことだ
そして、並行して俺の「黒竜の願いを叶えたい」という望みも叶えてくれている
俺には何の不満もない
「ただ、一つ不安があるのは…」
ゼヌ小隊長は俺の目をしっかりと見つめる
「小隊の力で一番必要なのは、資金でも発言力でもないってことをあなたが分かっているかってことよ?」
「…え?」
どういうこと?
ゼヌ小隊長がため息をつく
「…あなたの、たまに自己評価が低くなるクセは何なのかしらね? 私が言いたいのは、人間、つまり隊員であるあなたがが一番大事ってこと。あなたは1991小隊にとって必要な人材ということを理解しなさい」
「は、はい!」
「黒竜はAランク以上の戦闘力だから、私達の戦力じゃ力不足。Bランク以上であるセフィリアさんやフィーナさんの戦力を当てにするしかないわ。現場での判断はお願いしてあるから指揮に従ってね」
前回、黒竜がバンパイアを叩き潰す様を垣間見たが、小隊の戦力でどうこう出来るレベルじゃなかった
万が一戦いになったら、Bランク以上のセフィ姉やフィーナに戦いをお願いするしかないのは理解できる
能力差って不公平だ…
だが、正直そこまで心配していない
黒竜が暴れる理由が無いからだ
前回、理解してしまったんだ
黒竜にとって、俺なんか一匹の子犬みたいなものだ
取るに足らない存在にすぎない
そして死を迎えるに当たって、その子犬ごときに最期の願いを託したのだ
「ラーズ、よろしくね」
「うん、セフィ姉ありがとう」
セフィ姉は、美しい深紅の甲冑に純白の双剣を腰に携えている
セフィ姉の愛用の装備で、その美しい輝きがセフィ姉自身の美しさを更に彩っている
セフィ姉を表現する時に美しいしか言えなくなるんだけど、語彙力乏しすぎないか、俺?
「こらっ!」
ボゴッ
「ぐはっ!?」
フック軌道の衝撃で一瞬視界がぐらついた
フィーナが新装備である羽衣で殴ったようだ
「な…、その布硬い、じゃなくて何で殴る!? 」
「久しぶりにパーティ組むのにセフィ姉ばっかり見てるからだよ」
フィーナが分かりやすくむくれる
「いやいやいや、挨拶しただけだろ! それよりその布が一億ゴルドの新装備なのか?」
フィーナの羽衣は、腕の前から脇を通って背中がわに通り、背中側で頭上を弧を描くように通って反対の脇を通るように腕に巻き付いている
どうやら、この羽衣は自動でフィーナの体に巻き付いているらしい
片方の端には、杖の魔玉のような宝石が取り付けられている
「うん、宝貝の羽衣だよ。動きも固さも自在で、各種耐性も備えてて攻撃も防御も出来るんだよ」
フィーナが羽衣を操って腕に巻き付ける
腕にはドリルのように羽衣が巻き付き、強力なパンチを打てそうな形になった
凄いな…、自由自在に動かせて、固さも変えられるのか
攻撃に防御と何でも出来るんだな
さすが、Bランクの使う武器だ
「頼りにしてるよ。今日はよろしくな」
こうして、俺達は黒竜の洞窟へ出発するのだった
「セフィリアさん、フィーナさん、ラーズをよろしくお願いします」
ゼヌ小隊長が、セフィ姉達に頭を下げる
「気をつけてな」 「フィーナちゃんお願いね」 「頑張って…」
サイモン分隊長とカヤノ、エマも声をかけてくれた
「はい」 「行ってきますね」 「行ってきます!」
こうして、俺達は出発した
「ラーズと一緒に冒険に出られるなんて嬉しいわ」
セフィ姉は機嫌がいい
だが、ここはアンデッドが跋扈する魔属性環境だぞ?
「ボリュガ・バウド騎士学園時代を思い出すね。ラーズとパーティ組むなんて懐かしいなー」
フィーナも明るく言う
ピクニック気分か?
ここはアンデッドが…以下略
こっちはドキドキしてるのに、Bランクの騎士様は余裕綽々だ
「ガウ…」
フォウルが眠そうに、俺の肩で目を閉じる
「いや、待てフォウル! お前がこの作戦の要だから! 起きてろよ!」
「グルル…」
不機嫌そうに目を開けるフォウル
黒竜の洞窟までは三十分ほどで着いた
黒竜の洞窟の入り口は開いていた
その前にジードが立っている
「ジード、お待たせしました」
「ラーズ、今のところ洞窟周辺に変化はないぞ」
洞窟は前と変わっていないように見える
「強力な竜ね、強い力を感じるわ。でも衰弱してる、命が弱々しい…」
セフィ姉が黒竜の力を感じ取った
「じゃ、最初は私とジードで降りましょう。セフィ姉とフィーナは黒竜に見つからない場所で待機でいいかな?」
「分かったわ」
セフィ姉とフィーナが頷く
さ、黒竜との再会だ
俺はジードと、フォウルを肩に乗せ、リィと共に洞窟を下っていった
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