149話 黒竜討伐作戦会議
用語説明w
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
メイル:1991小隊の経理と庶務担当、獣人の女性隊員
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
エレン:獣人の女性整備隊員。冒険者ギルドの受付も兼務
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
セフィリア:龍神皇国騎士団に所属、B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性
出勤すると、実家の銘菓ミドリせんべいを配る
新隊舎になって隊員用の待機事務室ができ、隊員の席が集約されたのでお土産配りにも便利になったな
「おう、ラーズ、帰省はどうだったよ? ラウンドシールドを直しておいたからMEBハンガーに来いよ」
「シリントゥ整備長、助かります」
MEBハンガー内の作業スペースで、シリントゥ整備長がラウンドシールドを渡してくれた
デーモンベアの一撃をまともに受けてしまい、変形してしまった盾の修理をお願いしていたのだ
「希望通りに、盾の裏側にナイフホルダーを付けておいたぞ。どうだ?」
確認して見ると、ラウンドシールドの裏側にナイフホルダーが取り付けられるベルトが取り付けられていた
俺はダマスカスナイフを鞘ごと取り付ける
「ピッタリですね、ありがとうございます」
俺は、属性装備の鎧にラウンドシールドを取り付ける
整備長に属性装備を見せてくれ! とお願いされ、ハンガー内に置いていたのだ
「あ、整備長、見てもらいたいものが…」
俺は、ターレスから譲ってもらった大剣星砕きを倉デバイスからだした
「うおっ、ゴツい大剣だな。お前、こんなの使えるのか?」
「ナノマシンシステム2.0を発動すれば振れるとは思いますけど、練習しないと実戦は無理ですね。いい大剣らしいんですけど…」
「どうやって手に入れたんだ? ま、後で見ておいてやるからそこに置いておきな」
俺は、シリントゥ整備長に大剣星砕きを預けて小隊長室に向かった
これから黒竜の討伐計画の会議なのだ
階段を上がると、ちょうどゼヌ小隊長が小隊長室から出てきたところだった
「あら、ラーズ。もう、みんな会議室に行ったわよ」
「今日は会議室なんですか?」
「黒竜の件はしっかり決めないといけないからね」
俺達は三階の会議室に向かった
会議室には、サイモン分隊長とジード、デモトス先生、カヤノ、メイル、エレンが座っていた
「では、さっそく始めましょう。ラーズ、帰省の状況を話してくれるかしら」
「はい」
俺は、
・セフィ姉から聞いた不可逆の竜呪のこと
・セフィ姉がフォウルを連れてシグノイアに入国してくれること
・セフィ姉は龍神皇国騎士団の幹部なのだがお忍びで来てくれること
を話した
「それなら、後は黒竜にその子竜を会わせるだけか?」
サイモン分隊長が腕を組む
「討伐が失敗した場合は、黒竜の強さを裏付けられるだけだから生きて帰れさえすれば問題は無いわ。問題は、討伐に成功してしまった時なのよね」
ゼヌ小隊長が悩ましい顔をする
俺達は黒竜の危険性を説明して調査を止めている
それなのに俺達が黒竜を討伐してしまうと、嘘の報告だったことになってしまう
「黒竜の素材はかなりの金にもなるしね。どうするか考えないと」
メイルが言う
「ラーズ。君のお姉さんは龍神皇国の幹部なのだろう? 龍神皇国で素材を内密に買い取ってはくれないのかね」
デモトス先生が俺に聞いてきた
そうか、黒竜の死体の処理を考えてなかった
強力な竜の体は、貴重な素材の宝庫なのだ
だが、今回は秘密裏に討伐を行うので素材を金に変えられない
かといって、放置や保管も難しい
「聞いてみます」
「…分かっていると思うけど、国内の貴重な素材を無許可で龍神皇国という国外への横流し、これは立派な国家への反逆行為よ。絶対に秘密を厳守、黒竜の素材は一つたりとも持ち帰ることは禁止、いいわね?」
全員で頷く
頭では分かっていたが、予想以上に大事になっている
小隊を巻き込んでしまい申し訳ないな…
「一応、フォウルのブレスで黒竜を殺せなかった場合は、セフィ姉が力を貸してくれることになっています。黒竜の討伐は実現すると思ってもらって大丈夫です」
「そのセフィリアさんはそんなに凄い人なの?」
カヤノが聞いてきたので、俺は頷いた
「詳しくは知りませんが、龍神皇国の最高戦力に近い人です。戦闘力についての心配はいりません」
俺が知っているのは、ボリュガ・バウド騎士学園時代に連れていったもらった岩竜討伐の時の戦闘だ
あの時も圧倒的だったが、あれから五年以上たってるし、どれだけ実力を伸ばしているのか想像もつかない
「じゃあ、黒竜の素材はセフィリアさんになんとかしてもらうとして、その買い取り金はどうしますか?」
メイルが経理らしい質問をする
「…しばらくは寝かすしかないわね。秘密口座を作っておいてくれる?」
「分かりました」
流れるように準備が進んでいく
だから、この小隊って悪いことに慣れてる奴多くないか!?
俺はさっそくセフィ姉電話をかける
「…もしもし、ラーズ? どうしたの」
「あ、セフィ姉。ちょっとお願いがあってさ…」
黒竜の素材の買い取りの説明をする
「…なるほど。ええ、問題ないわよ。黒竜の件が終わったら、回収部隊をないしょで派遣するからうまく協力してね」
「ないしょで」ってかわいく言っているけど、シグノイアに不法に侵入するってことだよな?
それを簡単に了承してもらえてしまった…、怖い
皆に結果を皆に伝える
「これで黒竜の素材の処理問題は大丈夫そうね。討伐成功した場合は、黒竜がいなくなっていたので調査を進言したって流れにしましょう」
ゼヌ小隊長が皆を見渡す
「やるなら早い方がいいですよね? ラーズに問題がなければ、セフィリアさんが到着次第すぐにでも…」
カヤノが言うがゼヌ小隊長が残念そうな顔になる
「それが、ラーズに一つ特別クエストが入っちゃってるのよ。それが終わってからになるわね」
「了解です」
「エレン、終わったら報告書をしっかり作らなければいけないわ。黒竜討伐の成功と失敗バージョンを作っておいてくれる?」
「分かりました」
こうして、今日の会議は終わった
・・・・・・
午後はデモトス先生と訓練だ
「ラーズ、黒竜の生き方と死に方をどう思ったかね?」
「え…、えーと、凄いというか、その、尊敬に近い感情を持ちました。うまく言えないけど、かっこいいというか…」
デモトス先生は微笑む
「恐らく、黒竜の、目的のためには苦痛も命も厭わない、その意思の強さに憧れたのではないかね? 」
「…はい、そうだと思います」
そうだ、意思の強さだ
誰に知られるでもなく、目的のために死んでいく
その、高潔さは意思の強さによるものだ
「意思の強さとは、妥協を跳ね除ける力だ。全ての妥協、そして言い訳を否定した姿、私もその高潔さは尊敬に値すると思っているよ」
デモトス先生が力強く続ける
「黒竜に無様な病での死など許されるべきではない。黒竜の望む戦いでの終わりを与え、看取ってやってくれ」
「はい!」
俺は大きく頷いた
痛みや辛さからくる妥協、それを全て否定し続ける意志の強さ
俺に必要なのは黒竜のような高潔さなのかもしれない
だからこそ、黒竜に憧れたのかもしれないな
とりあえず、今日の訓練を妥協しないことから始めよう
「さ、今日の訓練ははこの岩を持ちたまえ」
「ぐはぁっ!? ちょっ、ちょっと大きすぎませんか!」
…意志の強さがそう簡単に変わるわけない
うん、知ってた